名護屋城、ヌエバ・エスパーニャ副王領(メキシコ)へ ★
城には島津義弘の他、主だった武将が集まって来ていた。
船出が中止された事を聞きつけ、また、天変地異が起きた事に気づいた者らが情報を得る為に集合したらしい。
そんな中で義弘は一際皆の注目を集めている。
「この者らだ」
捕らえた者達を披露した。
その者らは後ろ手に縛られ、ぐったりとしている。
「南蛮人なのか?」
秀家が言った。
確かに見た目は南蛮人に思える。
貿易で日本にやって来ていた商人らと非常に似ていた。
「どういった経緯で捕縛を?」
秀家が義弘に尋ねた。
「何、雷の後に甥の豊久と陣の周りを見回っていた所、種子島(火縄銃)を持って歩くこやつらを見つけたのだ。何事かと思って尋ねようとした所、種子島を撃ってくるので何人かぶち殺し、捕まえたという次第」
「さ、流石は島津公……」
顔色一つ変えずに言い放つ義弘に秀家の顔も引きつる。
気を取り直して捕縛された者らに向き合った。
「お前達は何者だ?」
秀家が尋ねた。
ぐったりとしていた彼らはその質問が聞こえなかったのか、答えない。
義弘がしゃんとさせた所、ようやく今の状況を把握した様だ。
急にキョロキョロとし始め、名護屋城を見て口をあんぐりと開けている。
秀家には気づいていない様子で、互いに話し始めた。
「¿Hasta cuándo hizo este tipo de edificio?(いつの間にこの様な建物が?)」
「¡No había tal edificio en el mes pasado!(こんな建物、先月には無かったぞ!)」
「¿Quiénes son estos chicos?(この者らは一体何者だ?)」
勢い込んで会話をしている。
「何を言っているのだ?」
「まるで理解出来ん!」
彼らが何を話しているのか誰も理解出来なかったが、行長にはフロイスらの言葉に思えた。
「秀家様、彼らの言葉が分かる者に心当たりがあります」
「何? 今すぐその者を呼ぶのだ!」
「心得ました。暫しお待ちを」
行長はフロイスを探しに城を出た。
どこにいるのか当てはなかったが、目立つので聞いて回れば分かるだろう。
案の定、直ぐに見つかった。
「フロイス神父、今すぐ城に来て欲しい!」
「ソレハ構イマセンガ、一体何ガ起キテイルノデス? ドウシテ夜ニ?」
フロイスも訳が分からず困惑していた。
「その質問の答えを知っているやもしれぬ者達がいるのだが、言葉が分からず難儀しておる!」
「何デスト? 分カリマシタ」
フロイスに同行していた、もう一人の宣教師ヴァリニャーノと共に城に向かった。
「あの者らだ」
行長は捕縛された者らを示した。
彼らは与えられたのであろうか、瓢箪の水を必死に飲んでいる。
「フロイス神父は彼らが分かるであろうか?」
行長に言われ、フロイスがヴァリニャーノと話し合う。
答えが出たのか行長に答えた。
「イスパニア人デスネ」
「イスパニア? あの?」
「ソウデス。私ノ故郷ポルトガルノ、隣デス」
「おぉ、やはりか! では、ここがどこだか聞いて欲しい!」
「分カリマシタ」
ポルトガル語とイスパニア(スペイン)語は兄弟語の様なモノで、似通っている。
そうでなくとも宣教師は言語のスペシャリストと言える。
フロイスが彼らに話しかけた。
『皆さんこんにちは』
『お?!』
『宣教師なのか?!』
フロイスの恰好を見て即座に理解した様だ。
『私はイエズス会のルイス・フロイスです』
『イエズス会士なら話は早い! 彼らは何者だ?』
『この建物は一体何だ? いつ建てた?』
話の通じるフロイスの登場に質問が殺到した。
『その質問には後でお答えしますので、今はここがどこなのか教えて頂けませんか?』
『何を言っている?』
『ここは』
その答えにフロイスは驚愕した。
驚いた顔のまま、フロイスが行長の元へと戻った。
呆然としていたが、遂に決意を固めたのかその口を開く。
「行長様、ココハ、ヌエバ・エスパーニャ副王領、ベラクルス、デス……」
「ぬえばえすぱーにゃ?」
行長は聞いた事の無い地名に戸惑った。
フロイスは持っていた世界地図を取り出す。
世界中を飛び回る宣教師なので、説明の為に地図は常備している。
「ココデス」
そしてヌエバ・エスパーニャ副王領、つまりメキシコの位置を指さした。
「ば、馬鹿な!」
信じれない答えに行長は素っ頓狂な声を出した。
その声に諸侯が集まる。
フロイスの示す地を見て、誰もが行長と同じ反応をした。
あまり僻地だと面倒なので、都合の良い場所にさせて頂きました。