戦国武将の開拓記 ★
帰還した行長らの話を聞く為、武将らが集まった。
官兵衛らも測量作業を中断し、城へと来ている。
前回と同じ様に隆景が進めていく。
「首尾はどうであった?」
行長に問うた。
「我らの要求は概ね通った。開拓も漁も問題なく、野菜の種などもここにある」
「そうか!」
行長は持ち帰った種などを見せた。
まずは朗報と言えよう。
「しかし、町が大きくないので余分な食料は無いとの事だ」
「方便ではないのか?」
「町の周囲に田畑は殆ど見えなかった。余分が無いという言葉は正しいと思う」
「私もそう思いますね」
「そうか……。それは残念だ……」
となると3ヵ月で米は尽きる。
それまでには何としても生き残る手段を見つけねばならない。
「その事だが、この辺りの野草に詳しい者に来てもらっている。その者が途中で見つけたのだが、この果物は油分が多く食べ応えが良いそうだ。名をアグアカテ(アボカド)という」
「ほう? 皮が堅いな」
行長は野原で見つけたアボカドを披露した。
町で見つけたアステカ族の生き残りに付いてきてもらい、教えてもらったのだ。
脂肪分の多いアボカドはメキシコから中米にかけての地域が原産で、アステカ族も広く栽培してきた作物である。
彼らが流行り病で壊滅した今、半野生化したのだろう。
「この果物は探せばいくらでもあるそうだ。食料の足しに広く探すべきであろう」
「成る程、早速そうするとしよう」
隆景は頷いた。
「船に関しては我らの数が数なので、この地を統括する者に聞いて欲しいとの事だ。その者はシウダ・デ・メヒコという町にいる」
手に入れたメキシコの地図を広げ、行長は説明した。
「ここがベラクルスで反対側がアカプルコ、ここがシウダ・デ・メヒコだ」
「成る程。どのくらいだ?」
「馬で十日だそうだ」
武将達は地図を覗き込み、この国の大まかな形を頭に刻む。
「ベラクルスからも船が出ており、ハバナを経由してイスパニアに行く。今回我らに起こった事をスペインの王に説明し、帰国の支援を求めた方が良いと助言された」
「ふむ、そうだな」
その土地を支配する者への挨拶は必要かもしれない。
「して、その航海にはどれくらいかかりそうなのだ?」
「およそ2カ月」
「マニラまでの半分程か……」
アカプルコ・マニラ間の4ヵ月の航海に比べれば短いと言える。
「向こうには伴天連の総本山がある。幸い我らには伴天連の宣教師がいるので、先にそちらに行って助力の確約を得れば、イスパニア王との交渉も有利になると思う」
「成る程」
味方は多い方が良い。
秀吉が伴天連追放令を出しているが、禁教になった訳ではないので問題はない筈だ。
「それはそうと開墾の見通しは?」
行長が目下の懸念事項について尋ねた。
「官兵衛殿、そちらはどの様な具合になっている?」
隆景が官兵衛に発言を促す。
二人は知人であり、互いを尊敬していた様だ。
「いつでも始められると言っておこう」
「流石だな」
水利から田畑の区割りに至るまで、その計画は全て頭の中に出来上がっていた。
「この地は二本の川に挟まれており、地味も肥えているので作物の栽培に適している。開発すれば相当な収量を得られよう」
「孝高殿が言うならば確かだ。早速手を付けて欲しい」
「ならば今から始めよう」
言うなりその場を去った。
こうして官兵衛指揮の下、20万近くの人員による開墾が始まる。
彼らは名護屋城も建造している。
道具も経験も豊富に揃っていた。
「これはあの町で見た事なのだが……」
「何だ?」
大まかな事は話し終えた。
土産話として行長が口を開く。
「沢山の奴隷が荷揚げされていたのだ」
「ほう?」
忠興と共に見た光景を披露する。
そして銀貨にも言及した。
「この国では銀が採れる様だ」
「何だと?!」
「それも大量に、ですね」
「真か?!」
その報告に場はざわめく。
「その銀山を支配すれば、船の建造費用を賄えるのではないか?」
「足りない米は銀を使って買えばいい!」
「交渉の材料にもなるぞ!」
武将達は途端に色めき立った。
弱肉強食の世界を生き抜いてきた戦国武将達を、押し留める論理など存在しない。
「して、その場所は?」
「いや、そこまでは知らぬ」
期待を込めて尋ねた者に行長が答えた。
がっかりした顔であったが、重ねて問うた。
「連れて来た者は知らないのか?」
「シウダ・デ・メヒコの方とだけ」
その答えに満足する。
「それで十分だ!」
「そうだ! その町に行くついでに調べれば良い!」
「何を悠長な! 先手必勝、軍を進めて攻め落すべきだ!」
加熱するばかりの論調に行長が待ったをかけた。
「相手の兵力も分からぬ内に、攻めるなどと軽々しく口にすべきでないと考える」
それに清正が嚙み付いた。
「我らの兵力は20万、誰が押し留められよう!」
「そ、それはそうだが……」
清正の言う事も確かである。
「兵糧は僅か3ヵ月! 今から開墾しても間に合わぬ! ならば、食い物のある所から奪う以外にあるまい!」
「それはそうだが攻める名目が立たぬ! 交渉もせぬ内に、その様な強引な手段を取るべきではない!」
唐入りでの兵糧も朝鮮半島で調達する計画であった。
基本、行長も戦国武将であるので容赦はない。
「相手は伴天連だ! 追放令も出ている今、遠慮は要らぬ!」
「それは日の本での話! ここは彼らの国だ!」
「臆したか!」
「そういう問題ではない!」
次第に険悪な空気となっていった。
隆景が一喝する。
「双方落ち着け! ここで我らが争うて何になる?」
「うっ! 申し訳ない……」
「くっ! 承知した!」
隆景に咎められ、冷静さを取り戻した二人は大人しく引き下がった。
「兵糧に不安があるのは確かだが、今すぐ兵を出す必要はあるまい。どこにあるとも知れぬし、確実にあるとも知れぬからだ。今は大人しく周囲の開拓に専念し、飢えぬ道を探ろう」
一応の方針を述べる。
「併せてシウダ・デ・メヒコとやらに使いを出し、食べ物を融通してもらう道も取る。どの様な扱いを受けるかは分からぬが、我々の兵力を考えれば無下には扱わぬだろう。馬で十日の距離ならば、一月の間には返事が分かる」
その言葉に行長は頷いた。
「同時に周囲を調べておき、いざという時に備えるのだ」
「いざ、とは?」
清正が問うた。
「我らが動ける期限は3ヵ月だ。援助であれ何であれ、一月の間に今後の見通しが立たぬ様なら迷う事なく兵を進める! この国の中心地であれば、我らを満たす物があろう」
「おぉ!」
隆景の言葉に武闘派は喜ぶ。
「事を起こす時は徹底すべきだ。近いのならその銀山も手に入れてしまえば良い。そうすれば本気になって我らの帰国の方法を考えよう」
「流石は隆景殿!」
一同はその方針に賛同した。
「小西殿もそれで宜しいか?」
「不満はない」
行長もそれで納得した。




