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デモンストレーション

 放課後、僕は学校と家の途中にある商店街に来ていた。正直、あまり期待はしていないのだけれど、今は藁をも掴む思いなので、贅沢は言っていられない。相手は、あの池沢くんで心もとないが、騙された気で運んでみるぐらいがちょうどいいと思った。

 今日は平日だというのに、商店街は閑散としている。近くの駅前にショッピングモールがあるせいだった。周りの店のほとんどがシャッターを下ろしたまま、閉店の知らせを書いたポスターが貼られている。まるで、ゴーストタウンと呼んでもいいだろう。

 こんなところに呼び出して、池沢くんが推薦する人はいるのかな? 指定する本屋を見つかった。僕は恐る恐る店内に足を踏み入れた。

 あまり広くない店内では本棚が並び、狭い通路の先にはカウンターがあるだけだった。僕の他には客、地元の中学生が二人、小学生のショートヘアの眼鏡女子、腰の曲がった髪の長いお婆さんが一人だった。シャッター商店街の中では、ソコソコ繁盛しているみたいだ。

 本棚から適当に本を探すふりをしつつ、他の客を観察していく。池沢くんが紹介するという“彼女”が同年代だとすると、目下のところ、ショートの女の子が怪しい。彼女は二人の中学生を眺めていた。その不安げな目は警戒しているようにも映る。

 僕も、中学生に目を映した途端、彼らが漫画本をカバンに入れるのを目撃した。万引きだ。恐ろしくて声が出ない。店長らしきおじいさんはカウンターに座り、首を傾げている。中学生に気づいている様子もなかった。

 このままではいけない。止めておけ。どうせ、関わっていい事なんかあるものか。頭の中でささやく自分の声を振りほどき、僕は我知らず彼らに近づいた。

「何か用?」

「あの……さっき入れましたよね」

「何が?」

 茶髪の厳つそうな一人が言った。あの竜田と同じ人種だと思った。あいつも中学生になったら、こんな風になるに違いない。そして、僕をいじめるのだ。もっとも、その頃には引きこもりに逆戻りだろうが……。

「本、返した方がいいですよ」

「なんだ、お前、俺らがパクったって言いたい訳?」

 乱暴な物言いに、僕は泣きそうになった。

 ホラ、数十秒前の自分の言ったのが正しかった。知らないふりをしておけばよかった。いつもこうだ。関係のない問題に首を突っ込んで、最後は自分一人が貧乏くじを引く。三年の時もそうだった。

「何か言えよ。俺らが泥棒したって言うなら証拠出せよ、コラッ!」

「お兄さんは忙しいんだから、喧嘩を売ったら怪我するよ。だから、おとなしく、うわぁ、何だ!」

 中学生がいきなり叫んだ。僕も呆然とした。突然、店内になだれ込んできた警官達が二人を取り押さえたのだ。

「容疑者確保! 通報通り未成年です」

「何すんだよ! 俺らは何もしてないっすよ」

「そうっすよ。俺らはただ本を万引きしてただけっす」

「嘘をつけ! ここで未成年に扮したテロリストが仲間を募る求人票を張り出している情報があったんだ。お前達がそうだな? 署まで来てもらうぞ」

 警官の一人が中学生のカバンを開けると、マンガ本に混じって、一枚のポスターが出てきた。

『戦闘員募集。資格:特になし。喧嘩したい人。昇給:努力次第』

 さらには……。

「なんだこれは、ピストルに白い粉じゃないか。言い訳できないぞ。青春の大半を少年院で過ごすんだな、来い!」

 中学生のカバンから、ドラマで見るような拳銃、それに白い粉の入った透明の袋が出てきた。哀れな中学生たち、否、テロリストたちは警察官に連行されていった。

 床に落ちていた本を、老婆が拾い上げて、本棚に直した。

 僕はまたも驚いた。老婆が自分の髪を掴み上げると、長い髪の毛が簡単に外れた。カツラだったのだ。さらに顔のしわになっていた皮をはがすと、まったく別の顔が現れた。

「作戦は成功ね」

 老婆の変装を解いたのは、僕と同じぐらいの年を女の子だった。魔女をイメージさせる黒一色の地味な服に、襟元で揃えたおかっぱに、前髪を左右に分けている。顔は平均的だが、その鋭い目つきはそこら辺にはいなさそうだ。

 彼女が僕の気配に気づいた。つかつかと歩み寄り、身構える僕の襟元を掴む。

「さっきの言い触らさない方がいいよ。誰かに言いふらしでもしたら、君も共犯に仕立て上げてあげるから」

「さっきのは、君がやったのか?」

「万引きでは警察は動かない。ましてや、こんな小さな本屋さんが相手だもの。警察が頑張るのは、大きな事件の時だから、あいつらにはテロリストになってもらったの」

 少女は自慢げに説明する。

「この本屋さんでテロリストがリクルートしてるっていう嘘の噂を無数に流す。嘘のチラシを本屋に張っておく。警察にも同じように垂れ込む。そして、大捕り物のどさくさに、彼らのカバンに証拠を入れるだけ。知ってる? 大袈裟な嘘の方がだましやすいんだよ」

「じゃあ、あの拳銃と粉は?」

「もちろん偽物。原色の警官も騙しおおせるぐらいの出来栄えってところかな」

 さっき、“彼女”だと思っていた別の女の子が頭を下げた。

「ありがとう、安西さん。これはお礼です」

 女の子は封筒を差し出した。うっすらと紙幣の模様が見えた。安西という名の女の子は、それをつき返した。

「お金はいらないから、ここの本を一冊だけちょうだい」

「ど、どうぞ!」

 黒服の少女は書棚から厚い本を一冊抜きだした。『六法全書』とある。弁護士が持っていそうなやつだ。

「この子はここの店長の孫なの。どうせそのお金だって、店のレジから抜き取ったのでしょうね。ここは新書よりも古書を扱う方が価値が出るよ」

 少女が大きな笑みを湛えていたが、急に怖い顔に変貌する。

「新しい依頼人には、私達の手際を見てもらう決まりなの。次は君の番だよ。池沢くん仲介の依頼者、五年一組の宮地京介くん」

「君は誰なの?」

「初めまして、私は安西といいます。あなたの複雑で深刻な悩みを、本当に取り除けるかもしれない、数少ない人間です」

 そして、安西さんは僕と握手した。普通の握手ではなく、まるで政治家はするように両手で包みこんでくる。暖かく柔らかい手触り。女子にそうされた事がなかったせいか、僕は意味もなくドキマギした。

 彼女は不敵な笑みを湛え、長い前髪から覗くのは二重瞼に黒い瞳を向ける。そこからは聡明さとも狡猾さとも表現するのが難しい鋭さを宿していた。

「とりあえず、宮地くんの話を聞かせてくれる?」

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