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第二二話

「さて」


 湯呑ゆのみを置いた女神は俺を真っ直ぐに見つめた。

 押入に隠れていた件や、ゲームのセーブデータを消されていた件を知らなかったなら、胸高鳴っていただろう容姿と慈愛じあいに満ちた表情。

 『大切なのは顔じゃない、心だ』なんて言葉、綺麗事だと思っていた。やっぱり美しい容姿をしていれば少しぐらい性格が悪くても……と、思っていたんだが、こうして今の俺の心境を見つめ直すと、一概いちがいに断定するのは危険だなあと、しみじみ思う。お茶をすする。


「境界で説明したことは覚えていますか?」

「貴方の善行に応じてってやつだろ?」

「そうです。だけど今のタナカさんにはもうひとつ重大な補足をお伝えせねばなりません」

「補足?」

 女神はそこで一拍いっぱくの間を空け、


――見返りのない、善行です。


 と言った。女神の説明は続く。

「感謝をされるような善行をした。ならば、感謝をされる。それが、人であれ、動物であれ、自然であろうとも。それが善行であれば、過去、未来を巡り見返りは発生します。ですが、見返りをそもそも求めていなかった。善行の度合いが大きかった。見返りをもくして受け取らなかった。あるいはお亡くなりになって受け取ることができなかった。誰かに横取りされてしまった。そのような善行に限り、神は見返りの不足に応じて、特典を与えます」

「…………」

――なるほど。なるほどなるほど。口に手を当て思い返す。

 事故から美緒ちゃんを助けた。だから、本来であれば松岡親子から助けたお礼をされていただろう。だが、俺はそこで死んだと判断された。そこで神から特典【鑑定】スキルを受け取った。しかし一転、生き返った俺。松岡親子からお礼をされた。

 二重取りをしているわけか。

なんなら、絶望視されていた有給休暇を消費できたという点で三重取りと言ってもいい。

「理解していただけましたか?」

「ああ」


これも最後なのか。【鑑定】スキルをつかいギブスを見る。

HP:167+42/220 あとの主な変化は見られない。


スキル:【鑑定Lv.2】


「この返還請求書に手を当ててください。一瞬で済みますから」

「わかった」

 女神は一枚の白紙の用紙をコタツに置いた。左手でいいのかと、女神に左の手のひらを見せるとうなずく。

 手を置いた。ひんやりとした天板。用紙はなんの変哲へんてつもないただの用紙だ。


「それでは【鑑定】スキル、返していただきますね」


 俺は今までの【鑑定】スキルで見たことを振り返った。思えばなかなか面白かったよ。

 ひとは誰しも見かけだけではわからないもんだな。いろいろなもんを抱えてる。

 気づかないまま抱えているものもある。俺は社畜だったしな……。そうだ、上司のステータスでも見て、なにか秘密でも握っていれば――……無しだな。握ったところで俺にどうこうできることもなし、嫌な奴になりそうだ。

 あ、でも、女神のステータスは見せてもらいたかったな。松岡親子は見ないように意識していたからか、忘れていた。

 ま、大した未練はないか。あばよ、【鑑定】! また普段の日常が続くことに変わりはない。


 …………。


「女神さま?」

 先程から黙ったままだが、いつまで手をのせていればいいんだ?

 女神は俺の左手を凝視している。


 俺も左手を見た。ふと試しに【鑑定】スキルを意識する。

 ギブスにステータスは表示されることはなく、左手の人差し指に


【鑑定――Lv.2】


 と表示された。しかし、

「うん? なんだこれ?」

 白紙の用紙の上に【鑑定――がり、俺の指から――Lv.2】ががれない。


「あれれ……」

 女神は歯切れ悪そうにして顔をしかめる。


――ボ

「「ぼ?」」


 女神の声と俺の声がシンクロした。


「「え?」」


 再びシンクロ。いつのまにか用紙が端から黒ずみ消えていく。

 そして、【鑑定――が俺の指に弾かれるように戻ってきたのが見えた。

「……これは、なにがどうなったんだろう?」

 知らず俺の声は懐疑かいぎ的なものになった。――うあっつ! 消え続ける用紙の端が手に触れたかと思うと、ジンとした熱を感じる。手を離してしまった。


 …………。

 呆然とした女神。女神の言葉を待つ俺。


「……さ、……さささあ、次は本番と行きましょう! それいけテイク2!」

「嘘だ!」

 明らかに挙動不審きょどうふしんな女神が手をグーにして突き上げた。

 一瞬で済むんじゃなかったのか? 絶対にこれは想定外のアクシデントだろう? テイク2とか言っちゃってるし!

「嘘じゃありませーん。――請求書と言いましたが、これはバンジーでく前に書かされる誓約書のようなものです。今度は私の魔法をご覧に入れます。安心しなさい。私を信じるのです」

 女神は大仏様のような手のポーズをとり、後光をぺかーっと出す。

――後光をここで使うなよ。神様の後光が後ろめたい時に使われているとか思っちゃったら信仰心もすたれるぞ!

「つか、どっちにしても安心できない!」

 失敗としても心配だし、誓約書って、魔法って、これから命の危険でもあるのか!?

「大丈夫です。私がついているじゃありませんか~」

「後光を引っ込めろ! あとそれ説得力ない!」

「今日の私の運勢は一番なのです!」

「そっち!?」

「タナカさんは最下位でしたね。ご愁傷しゅうしょう様です」

「!」

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