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第二一話

  ――ヤ



「やだなー、神様が押入の中で寝てるはずないじゃないですか」

 神々しい登場から一転、下町の看板娘みたいな笑顔で手をパタパタとさせる女神。

「……ゲームしてたろ?」

――ピクっ

「や、やだなー、神様が押入の中でゲームしてるはずないじゃないですかー……」

「ふーん?」

 目をそらす女神。

――タラタラタラタラタラ

「……セーブデータだって、残ってるはずないじゃないですかぁ……」

 やっと白状――え!?

「消したのか!?」

「男が女キャラつかってるからですよ!」

「故意に消したのか!?」

「でも、ごめんなさい!」

「許さねーよ!?」


 果たしてゲームを起動してみれば、俺の相棒はいなかった……。

 上書きするなんて……セカンド、サードがいてるじゃねえか……。


「おま、お前…… 俺のエリザがッ……」

 ひどい……これが人間のすることか? ああでも、こいつは神様だった。ひどい! 神様ってひどい!

 女神が俺の隣に座って背中をさすった。見ると哀れんだ目をしている。

「でもタナカさん? 現実のエリザは口うるさいおばさんですよ。現実を見ましょう?」

「どこのエリザだよ? そんな現実見たくねえよ、ああ……」

 どんななぐさめだ。

 そういえば……俺の隣にいるのは神様である。困ったときには神頼み。と言うか、その神様に困らされているのだが……。

 神様だったら時間を巻き戻せる風呂敷やタイムスリップ機能が付いた学習机を持っていてもおかしくはない。

「神様なんだよな。文字通り元に戻す方法はないのか?」

「うーん。――できるにはできます」

「おお!」

 すごい。本当にできるとは! さすがは神様だ。

「それなら――」

「原材料名に書かれているような素材にまでさかのぼると思いますがよろしいですか?」

「いいわけないだろ!?」

 樹脂や金属のかたまりを持って、なにをどうしろと?

「そうだ! 現実のエリザを紹介しましょう」

 名案を思いつきましたーとばかりに手を合わせる女神。

「それ口うるさいおばさんだろ!?」

 会ってどうするの? そこのどこに「そうだ!」って思える要素があった?

 女神は「はあ」と溜め息をつくと、困った子どもをさとすように「いいですか?」と前置きをした。

「タナカさん。一度やってしまったあやまちは神と言えど取り消すことはできないのです。振り返ることはやめて前を向きましょう。きっとエリザさんだってそう願っているはずです。――ね?」

「ぐうう……! そうか……そうかもな……。――いや……?」

 ちょっと待て。なんで俺がさとされているのか?

 そして女神、おまえに言われることだけは間違っている。それはもう腹立たしいほどにな。

「まずはおまえが反省するべきだ!」


 俺はゲームを操作する。

 女神が上書きしたプレイヤーのデータ。


【削除しますか?】


 女神がひょいとのぞきこんだ。俺はすでにボタンへ取り消し不可能な圧をかけている。

「な!? 待ッ――」

【はい】

【データを削除しています】

【削除を完了しました】


――。




「たぁ、うぐッ、ダナカざん……ごめんなさい……」

 ゲーム機をもって泣き崩れる女神がいた。


 俺より愛が深かった……。

 このゲームに登場する主人公は高度なAIが内蔵されている。プレイする自分と会話ができたりして、それが醍醐味だったり、愛着がわいたり。ハマる人はけっこうハマる。

 それに、女神にどこまで進んでいたのかと聞けば、ラスボス戦手前だったそうな。プレイ時間やばいとか思ったけど……。

「いや、その……わるかったな」

 ふるふると震える女神のつむじを見ていたら、つい謝ってしまった。

「火葬しますね……」

「それはやめろ」


 ◇ ◆ ◇


 すこし落ち着こうと休戦協定を女神と結んだ。


 女神はおしとやかにお茶をすする。目尻がほんのりと赤い。

 俺たちはコタツに向かい合わせであったまっているのだが……。

 いまさらながらに神様かどうか疑わしくなってきた。


 いかにも紅茶みたいな顔をした女神は、

「あ~、このお茶はなかなかですね。おいしいです」

 そう言って、微笑ほほえみ緑茶をすすった。

 詩織さんからもらったお茶だ。わるい気はしない。

「え……ケーキ残ってないんですか……!」

――……。

 不満そうな顔でぐちった。


 お茶菓子がないとわかった女神。収納ボックスの上に立つと天井裏からネコのクッキーを取り出した。

――おいおい。

「うんうん」

 うんうんじゃねえ。よく見ると天井がたわんでるじゃねえか!

 いや、我慢だ。これじゃあいつまでたっても本題に入れない。

「食べる?」

 いただきます。

 女神は黒ネコクッキーを俺に渡すと、自分は白ネコクッキーをとる。

「女神さま?」

「うん?」

 女神はさくっとネコの頭をぱくつきながら首をかしげた。

「俺に用があったんでしょう? なんですか?」

「はい?」

 いや、そこで首をかしげられたら俺が困る。

 だが、すぐに思い出したのだろう。

「はい、【鑑定】スキルを返してもらいます」

 女神のあっさりとした答え。

「そうですか」

 俺もあっさりと返した。

「あれ? あっさりとしてますね。――いえ、このクッキーの味ではなくタナカさんの反応のことですが。ところでタナカさん、お隣になにか気配を感じませんか?」

「いや?」

 隣を見てもなにもない。隣室のことだろうか?

「そっかー」

 と女神は寂しそうな顔でクッキーを口にいれる。

――ん? ま、いいか。あ、そういえば……。

「もう一枚いいか?」

「いいですよ」

 白ネコクッキーをもらった。

 幽霊へのお供えにおいておく。


 女神が訪ねて――いや、居た理由を考えてみた。思いつくのは【鑑定】スキルしかない。

だから驚きはそんなにない。

 もうひとつの可能性、境界の記憶がどうとか言うんだったら、もう一ヶ月も放置されているんだ。今さらだろう。

そう考えるとスキルの方も今さらだが、境界にもなにか面倒な手続きとかあるのかもしれない。

【鑑定】スキル……異世界ならともかく、この世界では他人のプライバシーをのぞけるから問題になるのかも……でも待てよ――異世界でも同じか。


「なんでスキルを取りに来たのか聞いてもいいか?」

「ん、いいですよ。最初から説明はするつもりでいましたし……」

 二枚目の袋をやぶるやぶらないと繰り返していた女神、箱に戻すと俺に向き直った。


「では、ご説明しますね」

 ようやっと本題に戻った。

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