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第十九話

 地球へやってきましたー!

――やっちゃった! ぶわーっと大光量の光を放ちながら登場してしまいました。

 ついうっかり。ひとに見られていたら、めっちゃこの世界に干渉してました。あぶねー。

 幸いにも、目撃者は死霊しりょうさんおひとりのようです。セーフッ!


 ここはタナカさんの寝起きしている部屋です。

 ようやっと一塁を踏みました。私の冒険はここからです。

 一塁、『野球』というものが好きな地球の神様と話す機会がありまして、知ったことです。

すこしだけなら私も地球のことを聞いています。

 空気を吸い込むと稲穂いなほの匂い。記憶通りの部屋です。

 彼は死の間際、無意識の中で『パソコンッ』と『削除ッ』なる言葉を思い浮かべました。そのパソコンもあります。

 部屋を見渡してみると、それだけじゃない、初めて見るものがいっぱい。ほおー。


 さてさて、タナカさんを探さねばなりません。

 魔法? 確かに魔法を使って探せます。

でも、でもですよ? ここは初めての地球です。なにが起こるかわかりません。


――まずは身近なところから、タナカさんに関わる情報を集めませんか?

――おお! グッ、アイディアです、私!


 ◆ ◆ ◆


「このパソコンというもの。パスワードを教えてもらえませんか?」

『でてって』


 物色する私に、死霊さんは『でてって』としか言いません。質問の答えもやっぱり『でてって』です。


「サッちゃん、ぼくは君のことが好きなんだ!」

『でてって』

「お願いだ。やり直したいんだ!」

『でてって』


――ふう。会話が成立して満足です。作業を再開しましょう。

 死霊さん。今は怖い顔で私を睨んでおりますが、笑ったらきっとかわいいお顔をしています。

 くせっ毛な黒髪がふわりと肩にのっていて素敵です。


 いろいろと触っておりましたら、地図を見つけました。二種類あります。

 けっこうな広範囲が載っていると思われる本。もうひとつは、その土地での遊び方などが書かれた案内本みたいです。

 言語は境界にてある程度学んできましたが、それでも知らない単語が多くてわかりません。現在地もさっぱりです。誰かに聞いたほうがよさそうです。うーむ。


 門番の言葉がよみがえります。

「ひととあまり触れ合うな」他に「余計なことはするな」「ドジはするなよ」「困ったことがあれば他の女神と連絡をとれ」「心配だー」

 私をなんだと思っているんでしょうか? もう三百二十五年は存在しているんですよ。三百年くらいは寝ていましたが。


「ひとには、聞かないほうがいい、よね……」

『でてって』


 死霊さん。元、人間さんがいます。

 地球の死霊にも、魔術のようなポルターガイストを起こしたり、会話できる者、果ては生前の姿で、ある時ポッと生きている頃のように現れる者がいるそうです。ふむ、決めた。


「死霊さん、ご教授願います!」

『で――』

「私はほっする――」


 ◆ ◆ ◆


「うさぎのアイス?」

 今は外をぶらついてます。店の前のメニューボードを見ていました。

『違う。うさぎのお饅頭まんじゅう……』

 お腹いっぱいの夕暮れ時です。明日、またここに来よう。


 私は手に、大きなサブレ缶のはいった紙袋、ちりめんと言うもので造られたストラップ、蜘蛛くもみたいに足がぞろぞろと生えた大きな猫のぬいぐるみを抱えています。

 猫のぬいぐるみは死霊、愛花あいかちゃんのリクエストです。店の前から動かないんですもん。

 でも、ぬいぐるみを買ったら愛花ちゃん、態度が軟化しました。結果オーライです。


「今日のところは一度、タナカ家に帰りましょう」

『田中さん……』

「一ヶ月の辛抱です! 仕方ありません。私も目的がすぐに達成できないことが歯痒はがゆいです! トホホ……」


 私が猫のぬいぐるみに顔をうずめると愛花ちゃんがジト目を向けました。

 だって仕方ないもん。まさか、タナカさんがいる大鋸おおが総合病院に、あの雷神様が入院してるなんて思わなかったもん。ご隠居いんきょされたと聞いて喜んでたのに。

 あの人の説教だけは勘弁です。以前に私、あの雷神様の商売道具を壊してしまってから最後、会ってませんからねー。あの時は、怒られるだろーなーって覚悟で待っていたのに来なかったんです。今はもうその覚悟がありません。


 ◆ ◆ ◆


――地球に来てから、そろそろ一ヶ月が経ちました。


 私はいま充実した日々を送っております。

 話し相手が死霊の愛花ちゃんひとりと言うのは寂しいものですが、――あ、愛花ちゃんが私をにらんでいます。愛花ちゃんがいてくれて良かったと思っていますよ? I LOVE YOU! 表情そのままですか、そうですか。

 愛花ちゃんはタナカさんLOVEです。嫉妬しっとしてしまいます。

 死霊として、タナカ家に縛り付けられた死霊から自由意思を思い出した死霊へとランクアップしてしまいましたが、タナカさん、愛花ちゃんの愛に無事でいられるでしょうか? 楽しみです。


 時々タナカ家にタナカさんじゃない男の人が上がり込みます。

 あの男、私が買ったサブレをパクりやがりました。激怒げきおこです。

 次に来た時に、チッって舌打ちしたら面白いほどビビっていました。

「おおおおお俺はビビってないぃ!」

 滅茶苦茶びびってます。あれ? 歌いだしましたよ? イタズラ心をビシバシ刺激する男です。

 でも、万が一私の存在がバレては大変です。ここは死霊、愛花ちゃんの出番です!

「いけ! 私は愛花を召喚した!」――とか、やりたかったのですが、

『田中さんの数少ない友達です……』と、愛花ちゃんがしょんぼりつぶやくのでやめました。


 そんなこんなで私はタナカさんのことを忘れ、遊びに遊び……あッ、仕方なくッ! 真っこと仕方のないことにタナカさんの退院を待ち望み、日々、この機会ですから地球の知識を貪欲どんよくに吸収しておりましたー。

 楽しッ……大変です。しみじみしますね。

 愛花ちゃん、またジト目ですか? それともノーマルがジト目ですか?


――!


 この部屋を目的に近づいてくる者。またあの男でしょう。

 私は部屋の空気を風の魔法にて外の空気と交換します。もう手馴れたものです。私ほど痕跡こんせきを消す技術にけた神様もそうはいまい!

 押入を開け布団にくるまります。

 さあ、さっさと予定をすませなさい。神は見たいアニメがつっかえていますよ?


 あの男だと思いますが、今回はすぐでした。

 しかし謎です。

 今回は荷袋を玄関に放置。床に白い粉をまいていきました。

 うわー、これでは私の歩いた跡が残ってしまうではありませんか! 私への挑戦ですね? 受けて立つ!

 飛んだら解決しました。

 証拠は何も残さない。私ってばプロの鏡ですな。わっはっはっはっは!

――あ! ダメですよぉ、愛花ちゃん!

 愛花ちゃんが平然と白い粉を踏みつけています。幸い白い粉はそのままです。ふう……。


 ◆ ◆ ◆


――?


 今日はやけに多い来客。我がタナカ家に何用があるというのでしょう。

 私はこのミッションをクリアできるかできないかの瀬戸際なのに!

 私は今、地球のゲーム機を実地体験しているところでした。そんな私のいる部屋を、複数の人間が目指しています。

 私はそそくさと痕跡を消し、押入に避難します。

 布団にくるまり、息を潜めます。

 布団にくるまり、思い出しました。

――あれ? 私、寝て、ないや……徹夜で、フワァ~、ゲームで……すぅ……。


「ただいま」

『おかえり!』


 愛花ちゃんの明るい声、初めて聞きました……。

 あれ? ……この「ただいま」………………ぐぅ……。

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