第十八話
押入の暗がりに、真っ白な掛け布団が仕舞われている。
その下から覗いたものも同じく白いものだったが、部屋の明かりが差し込み反射したそれは白く怪しく光って見えた。
キュッと丸まった指。しなやかに弧を描くふともも。何故か足。どう見ても足。どうして足?
さっきまでの俺は夢見心地だった。今は現実味がない。同じような意味なのに、うしろと正面で温度差きっつい。
俺の頭の中も真っ白に染まるが、固まってもいられない。なんたって不法侵入者だ。
何者だ? うしろの二人になんて声を掛ける? 視線を奥へとすべらせた。
――ひえッ!
奥の方で、何か光が不気味に明滅している。
――ん?
不審者の豊富な髪の毛が見えた。黒髪ならばすわ「貞○出た!」と慄いたかもしれんが金髪だった。それも女性らしい。あれ、金髪?
――えぇ?
不気味な光の正体がわかった。携帯ゲーム機だ。その液晶から発せられる光が、不審者の顔を煌々と照らしている。何故ゲームをやっている? そして顔を見て、いよいよ訳がわからない。
――すやすや。
――えー……。
『私は――です』
ふふん。そんなちょっとだけ誇らしげに名乗った彼女。
一か月前に出会った彼女。
なぜか今、寝ている……。
それはもう、気持ちよさそうに。口をむにゃむにゃとさせ、眩しいのか布団に顔を埋めた。
――いや、まてぇぃ! どーゆうことだ!?
◆ 誰か視点 田中が退院する少し前 ◆
――私が誰かって?
――なぜ押入で寝ているのかって?
――お答えしましょう!
やっと私の出番がやってまいりました。
私は女神です。
生まれは境界。崇められたるトゥルティエ湖の女神、ルーリアと申します。
水と欲を司る、女神の中でも稀有な属性を持った女神です。ふふん。
押入に篭っている理由。それは、タナカさんが中途半端に境界に来てしまったものですから、その口封じの後始末に待ち伏せを――ちょっと、胸ぐら掴まないで? 冗談ですよ。貴方には説明したよね?
――ふう……。
改めまして……、その理由とは! タナカさんにあげてしまった『鑑定』スキルを返してもらうためなのです。
え、なんで壁に向かって説明してるのかって? 壁に説明しているからです。あ、ジト目からの呆れ顔! レア顔です!
あ、フスマを開けたら閉めてください。私はまだ惰眠を楽しみたいのです。
◆ 女神視点 田中が事故に遭う一ヶ月とすこし前 ◆
白い床に青い空。どんだけ想像力のない適当な世界なんでしょうか。
ここは境界と言います。ただ、境界とは表層の機能面から付けられた総称であり呼びやすいからと言うだけ。本質的には深淵と言った方が近いのかもしれません。
私は今、他の神から役目をもらったので境界に戻っています。
役目というのは、善行を為してきた者たちの中から一人を選定し、特別な恩恵を授けること。けっこうな大役です。私も偉くなったぜ!
私の前にはまさにそんな候補者たちの魂が寄り集まった塊が浮いていました。
どこかの地で芽吹くことでしょう命の根源。感慨深いです。愛おしいです。興味深いです。魂の塊とか初見です。ほー。へー。ほー。
ぐるりと回って見てみます。
ズブっと。
指で突っついてみましたがまるで雲のように感触がありません。ふかふかベッドにダイブみたいな真似をしていたら、今頃お鼻が曲がっています。セーフッ。
すくい上げる意志さえ持てば、自然と『創造神』のみぞ知る者が選ばれると聞いています。
なんて話は実は嘘で、創造神も「は? 適当だけど?」なんて言っていたという噂もあります。
今までの創造神の放任主義を見る限り、私は後者が正解だと睨んでいます。
さて、ちゃっちゃとすくいあげてしまいましょう。
私が意思を持ち手を差し入れると個々の魂がぼんやりと光り出しました。おお!
魂はふわりと幻想的に光り揺れています。とても綺麗です。いくつかの魂が私の手へと引き寄せられています。私は手を差し入れているだけ。けっこう楽ですね。
どの子が一着かな? そう思っていたら背中からドサりと何かが落ちる気配。
――え?
寄り集まっていた魂が私のもとへ来ることをやめていました。
どうやらお亡くなりになったばかりのほやほやの魂が来ていたようです。
それが、たまたま私の背中に当たって、選ばれてしまったと?
えー。手じゃなくても良かったなんて……。なんだか台無しです……。
◆ ◆ ◆
――生き返っちゃった……。
タナカさんが息を吹き返し、現世の地球へと戻ってしまいました。
せめて『鑑定』スキルだけは取り戻したかったのですが……。
タナカさんが生き返るスピードに、私の知る魔法ではどう足掻いても間に合わなかったのです。
取り返したほうがいいよね。面倒なことになりましたよ。ムムム。
仕方ありません。どうやら地球へ行かねばならないようです。
ふふふ。なんて言って、実を言うとメッチャ気にはなってます。地球。タナカさんの記憶を見る限り面白そうです。
でも、門番が許してくれるかな?
世界を白と青に分ける水平線、境界の床。
その私が立っている床に門が浮かび上がります。
門は床に寝そべるように現れました。
私は世界を90度傾けます。
扉をノックすると、門番が浮かび上がりました。
いかつい顔をした人型のフォルムです。
『何しに来た?』と言う目で私に問いかけます。
はやる気持ちを押しとどめます。
「善行に応じてスキルを渡した人間が生き返ってしまいました! つきましては地球へ遊びに行かせてください!」
「ダメだ!」
「えー!」




