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第十四話

 半沢〇樹、水戸〇門、必〇仕事人。悪役にはざまあみろな展開がつきものだ。

 だが、現実はそうはいかない。悪役ってやつは図太い。悪賢い。

なかなか、この展開がやってこない。

 俺のいる病室にもこの展開のやってこない悪役がいた。

 看護婦の間では妖怪『尻なで』、もしくはクソなんたらと呼ばれている。

 エロ爺のことだ。


 この間、看護婦さんが「クソ……」と言いかけたのを聞いた。

クソジジイの略なんじゃないかと思う。


 外が暗くなった。病室の窓は真っ黒になり室内の様子を写す鏡になっていた。


 病室の前、廊下で立ち止まる気配がした。

 戸を引く音。

 俺は軽く目だけを動かし確認した。


 ………………。


 明らかに尋常ではないサイズの何かがかがむように入ってくるところだった。

 2mはあるだろうか。ナース服を着て、ツインテール、目も覚めるような真紅の口紅が目を引いた。


 盛りに盛った筋肉の輪郭。

ナース服の縫い目が悲鳴を上げるかのように引っ張られている。

服の丈があっていないせいで、スカートからかなりきわどくさらされた生足。――ウッ……。

顔面はいかつい。青ヒゲの残る肌。鈍く鋭い眼光。

目の端には荒々しい切り傷の跡。


 そっち系の一言では言い表せない。そっち系の人であっち系の人だろうか? まず人だろうか?


 顔を上げた晴くんが「わぁ」と素直に驚いた顔をしている。

 雷爺さんは色鉛筆を落っことしてギョッとした顔のまま注視している。

 エロ爺はベッドの下に手を突っ込んだまま、こちらも同じくギョッとした顔をしていた。


 誠に遺憾なことに『鑑定』を使ったら股間に表示されたステータス……。

 ――ウッゲェ……。見たくない。気になるけど見たくない……。


種族:人間

状態:激怒

HP:431+22/459

MP:0

攻撃:162

防御:32

――


 ちょっとだけ見た。

 なんだかぶっ壊れなHPと攻撃だったような……? だが――。

 ――激怒?

 奴の口は笑っている。口紅が半円を描いて笑っていた。


 奴はナース服を着ている。

 まさかのまさかなのだろうか?

 この成りで面接にどう受かったのだろうか?


 奴はエロ爺のベッドを向いた。

 ホッとした。こちらを向いたらどうしようかと思った。

 熊に遭遇したらこんな心境なのだろうか…。

 エロ爺、ドンマイ。今のうちに逃げようか。


「ア・ナ・タ、が、茂蔵ちゃんね~? こんばんわ~」


 サブイボがたった……。

 口調がオネエ。声がすげえ野太い。


 エロ爺は首をふったが、ネームプレートにはエロ爺の名前、茂蔵しげぞうと書かれている。


「今日から、ワ・タ・シ、が! 茂蔵ちゃんのリハビリを担当することになったのー。よろしくね~」


 エロ爺は『マジか』と言う顔をして口を開けた。


 リハビリは意外にもいつも通りの手順で、大きな問題はなかった。

 エロ爺は痛がる素振りを見せない。

 手を胸の前で組み、神に祈るかのようなポーズをしていただけだ。

 筋肉オネエは時折、エロ爺に具合を尋ねた。だが、リハビリも終盤になった頃。


「茂蔵ちゃん? あなたー、いつも看護婦さんのお尻をさわるそうじゃな~い? ワタシのお尻はさわらないの~?」

「遠慮しとくかのぉ……」


 筋肉オネエのあまりにも無茶な問いかけ。

 エロ爺は即座に尻すぼみな声で断りを入れる。

 これでさわれば、エロ爺の【尻フェチ】の称号も伊達ではないと褒めたのに。

 他人事である俺は少し慣れてきた。


「――――そうか…………」


 筋肉オネエの短い言葉。オネエ言葉じゃない。

 その言葉を皮切りに部屋の温度が下がった気がした。

 ちょっと尿意をもよおしてきた……。


「――ふぅー。なあ? おめえさん…………。俺の嫁の尻、手ぇ出したんだってな?」


 ………………。


 病室が静かだ。


 よくよく見ると筋肉オネエは先程までニタニタと笑っていたのに、今は無表情でエロ爺をじっと見ていた。

 エロ爺は半開きの口のまま驚いたように彼を見ていた。

 『激怒』していたんだ。『鑑定』は間違ってはいなかった。

 エロ爺は震えた。いや、首をふったのかもしれない。


 無言の沈黙が続く。空気が痛い! 部屋を出ていきたいが、物音一つ立てる気がしない。


「――気持ちよかったか?」


 筋肉オネエはそう言いながらエロ爺の股間に手をやりナニかを掴む。


 エロ爺の口が梅干を突っ込んだみたいにすぼまった。

 エロ爺は今度はわかりやすく首をふる。

 俺も何故か首をふっていた。

 ふと気が付くと、エロ爺に無意識で鑑定を使っていたのだが、ステータスの文字が何やらうごめいている。


HP:115+10/128

HP:111+10/124

HP:107+10/120


 …………おぉう? 減ってる? 減ってる!? 最大値もろとも減ってるよ!

 待て! それ以上見つめてやるな! それとも握ってるほうか? 力込めてんのか!?

 お灸をすえるどころか、お線香あげることになっちまうぞ!


 筋肉オネエはさらにエロ爺に顔を近づける。


「――どうだったんだ?」

「……す……すまんかった……」


 筋肉オネエは、いや、男はエロ爺のナニから手を離した。

 彼はエロ爺からゆっくりと体を離すと、何も言わずにそのまま部屋をあとにした。

 直後、廊下から女性の悲鳴が聞こえた。


  ◇  ◆  ◇


「旦那さんはどんなひとじゃ?」

「私の旦那ですか? たくましい自慢の夫ですよ」


「旦那さんはどんなひとじゃ?」

「私の夫は体を鍛えることが趣味なんですよ」


「旦那さんはどんなひとじゃ?」

「私の夫はムキムキなんですよ。紹介しましょうか?」

「いや、いい……」


 筋肉オネエは嫁の名前を言っていない。

 次の日からエロ爺は看護婦の尻をさわれなくなった。

 まず、旦那の事を聞くのだが、看護婦の誰もが口を揃えて同じようなことを言う。

 ざまあみろである。


 ちなみに、エロ爺のHPはその後、最大値も含めて回復した。

 だが、完全に元には戻っていない。これは寿命が縮んだのだろうか?


 また、エロ爺の称号【セクハラジジイ】に変化があった。

説明書きの〈減点-3,600〉が〈減点-3,575〉になっている。

 罪の償いになったということだろうか? とはいえ、まだまだ減点は大きい。

 エロ爺よ、この機会に罪を意識しろ! 看護婦さんの旦那をいちいち確認するな!

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