第十話
マサオが来たのは昨日のこと。今は午後七時。色々な手続きも一段落。あとは怪我を治すだけになった。夕食も終わり自由な時間だ。さて、なにをしますかという頃――。
スキル:
【鑑定Lv.1】
俺はこのスキルについて、時間を費やすことにした。
――91、92、93、94……95、96、97、98、99……100。
……。
くううぅー! 頭が痛くなっただけかよ。くっそー。はぁー……。
俺がなにをしているかって? 自分のギブスにステータスを出しては消して、出しては消してを繰り返していた。100回! 鑑定スキルのレベルアップが目的だ。
当初は『鑑定』を使うことにMPを消費しない。疲れない。これってエコじゃん! そう高をくくっていたのだが――。
あぁー。頭が痛い。勉強嫌いな俺が受験前の一週間、寝ずに勉強をし続けた二日目の後半、朝方の痛さだ。これから学校に行かなくてもいいのが救いである。
やっぱり回数ではダメだろうか? それとも200回? 300回? 1,000回とかやめてくれよ。あ、でも、毎日起きたら50回、夜寝る前に50回だったら、苦もなく10日で1,000回だ。
……。
不毛な気がしてきたなぁ……。
このスキル、今日の運勢でも占ってくれれば興味も引くが、もう見飽きたしなぁ。
もうひとつの候補がある。人数だ。こちらの方がレベルアップの可能性は高い気がする。
だが、先ほど部屋に入ってきた看護婦さんにて、めでたく10人目を達成。
――と、いうことは? 20人? 30人? この不自由な身では人数を稼ぐのは難しい。それに、読み取るにはそれなりの時間がかかるのだ。
うーん。まぁー、そんな一朝一夕に上がるものでもないか。別に締切迫った仕事ではないのだ。納期を急いで良かったためしなんて、社長のふところが肥えた程度にしか意味がない。もう少しゆっくりと考えてみよう。
まずは、今後の見通しを立てるためにも、今までのことを振り返るか。
1人目 俺 右腕のギブス
2人目 桐生さん (看護婦) 服の胸の部位
3人目 晴くん 顔
4人目 エロ爺さん 足の裏
5人目 鈴木さん 顔
6人目 マサオ ダメ夫Tシャツ
7人目 江成さん (晴くんの向かいのひと) 顔
8人目 雷爺さん 顔
9人目 小川名先生 医師 顔
10人目 看護婦Aさん 服の胸の部位
そうだなー。まずは、表示をされる部位に、法則性なんてものがあるのかな?
総じてステータスが表示をされる部位は顔が多い。次に……胸だ……。
……。
……もしかして……。うん、わからんね!
頭も疲れていることだし、休憩にしよう。
俺はマサオがお見舞いにくれたサブレを取り出す。神奈川県鎌倉名物のこのサブレ。なんと48枚入り! 彼がこれほどのものを買ってきたことに、俺は素直に驚いた。人生ゲームでは絶交してしまったが、リアルでの友達関係は末永く続けたい。
数枚がすでに食べられていたが、彼らしいご愛嬌だと思おう。
マサオはうなぎが好きだと言っていた。退院したらうな丼でも奢ろうか。もちろん上だ。特上があっても上だ。
「ふっ……くああぁーー『ゴキッ』――ほッ!」
エロ爺さんが伸びをしている。さっきまで、小難しい顔で数独をやっていた。
サブレのお裾わけをするときに少し話したのだが、懸賞付きの数独をやっているそうだ。この機会を利用して稼ぐと息巻いていた。コキコキと首を鳴らした爺さんは……。
「さぁってー、仕事終わりはエロ雑誌じゃな!」
「ぶッ!」
俺は口に含んでいた菓子を吹き出してしまう。「汚いのう」とエロ爺は俺を嫌そうに見る。
(誰のせいだ!)
「茂蔵! 子供がおるのがわからんか? 下品なことを言うでないわ!」
雷爺さんの注意が入った。エロ爺さんは口だけの謝罪を繰り返して布団の下から雑誌を取り出す。
エロ爺さんは、目だけは真剣の口半開きで雑誌を見始めた。――せめて、カーテンを閉めたらどうだ……?
俺はエロ爺さんの顔から視線を外した。ふと足の裏が目に入る。
………………待てよ?
俺は再び『鑑定』について考える。
俺は10人目を達成したと思っていたが、エロ爺さんのステータスは全く読み取れてはいない。文字が小さかったのと、すぐに隠れてしまったためだ。
わずかな期待が膨らむ。今は9人目?
俺は足の裏に『鑑定』をつかう。始めの頃よりは見やすくなった文字がエロ爺さんの足の裏に踊る。
文字はやはり小さいが、ゆっくりとなら読めそうだ。
種族:人間
状態:病気
HP:112+13/128
MP:6/6
攻撃:41
防御:14
魔法攻撃:5
魔法防御:2
素早さ:30
スキル:
【忍耐Lv.1 ※1】
称号:
【エロジジイ】【スケベジジイ】【セクハラジジイ】【最低】【恥】【前科者】【のぞき魔】【心は少年】【ハゲ】【生涯現役】【仕事はできる男】【残念な人】【ケチ】【尻フェチ】
………………わあぁ……。
すげぇ……。本当にすごいよ。これほどとは……。悪い意味ですごすぎる。
――スキルがあるの! とか驚きたいところだけど……。
称号の最初の方とか、同じような意味のがいくつあるんだよ!?
【前科者】のあとに【のぞき魔】って……。ご丁寧に犯行の内容まで明記されているじゃありませんか……。
【心は少年】……大人になれよぉ!
【ハゲ】って……禿げたら称号になるのか? 嫌だなあ。俺が禿げたら、鏡見なくても鑑定つかうたんびにハゲって書かれてんだろ? 嫌だなあ……。禿げたくねぇなぁ……。
【仕事はできる男】に【残念な人】意外だ……想像できん……。
【尻フェチ】……納得だ。このエロ爺さん、看護婦のお尻が手の届く範囲にあると、必ず触りにいく。
【忍耐Lv.1 ※1】
スキルがあるのって、俺だけじゃないんだな。俺、特別じゃーんって……思っていたんだが。スキルの項目自体がほかの人にはなかったからなぁ。……でも、医師の小川名先生にスキルはなかった。専門職ならありそうなものだけど……。
そして……。来たよ、来たよ、米印。そんなに焦らしてなにが楽しい? CMの多いクイズ番組は嫌われるぞ。
俺は投げやりな気持ちで、説明を求めた。
(――説明カモン!)
スキル:
【忍耐Lv.1 ※1】
〈気力の消費が抑えられる〉
〈※1:ある一定の事柄が絡んだ時にのみ有効〉
――!!
マジかよ!? 「説明カモン」が合言葉!? だっせー! なんてセンスがないんだ。
……て、そこじゃない! 表示された!?
元々の表示されていた文字の余白を押し上げて、説明書きのようなものが浮き出た。
今までだって、いろいろと念じたのに、今このタイミングで表示されたってことは――。
俺は自分のギブスを見た。
スキル:
【鑑定Lv.2】
キターーーー!
俺は無言の雄叫びを上げる。やりました! 俺はやりましたよ先生! 先生ってだれ?
レベル2は詳細表示ですか? 今の俺にとっては、地味だけど欲していた変化だ。ひとつひとつ確認していこう。RPGなら、お城のマスターキーを手に入れた気分だね。
スキル:
【鑑定Lv.2】――説明カモン!
〈女神印の鑑定Lv.2:所持者の特性、性質、求めに応じて変化する〉
女神印? 普通の鑑定とは違うってことか? なんだかきびだんごを連想する言葉だ。俺、異世界に逝っていたら、魔王退治のお供をさせられていたとか?
――求めに応じて変化する?
レベル2は始めから説明文がつく仕様ではなく、俺が説明を求めていたから説明文がつく仕様になったのか? へー。オーダーメイドのスキルなの。
称号:
【女神の微妙な祝福】――説明カモン!
〈条件を満たすことで全ステータスを上げる。効果は永続〉
――おお! なにこれ!? めっちゃ興奮する!
全ステータスを上げるって、……俗に言うチートか! 永続ってことは条件さえ満たせば上がったまんまってこと? なにげにすごい称号をくれたじゃない女神さま。
条件さえ満たせばね……。条件……。説明カモン! 説明カモン! 説明……。
そこが肝心だろうが……。大丈夫だよね? 地球上で達成可能な条件なんだろうねこれ?
順番に自分のステータスを確認していく。
状態:骨折
〈損傷した部位によって、攻撃・防御・素早さの表示された数値から実際の数値は下がっている状態〉
HP:111+65/220
表示なし
表示なし、表示なし、表示なし……。
称号:
【社畜】
〈家畜と化した会社員:気力の低下をごまかす〉
【社畜】にも効果があると知って驚く。
だが、――ごまかす? おいおい、なんだそりゃ。効果のほどがわからない。
そういえば、エロ爺さんのスキルにも『気力』と書かれていた気がする。
俺は再び、エロ爺さんの足の裏に目の焦点を合わせる。
やはり、小さい文字を見るのは苦労するな。
…………おや!?
俺はエロ爺さんのスキルだけを注視しようとしたのだが、始めは全文表示されたステータス。だが、スキルの欄がどんどんと大きくなり、他の文字は脇に押しやられて潰れて消えた。スキルだけが、でかでかと表示されている。
……!?
スキルが見やすい! レベルアップの恩恵はひとつではなかったのか! これは僥倖である。
エロ爺さんのスキルの説明には『気力の消費が抑えられる』とある。やはり曖昧な表現のままだ。うーん。『気力』の項目はないのだ。求めればレベルアップで表示されるようになるのだろうか? 説明文がついてもわからないことが多い。
今度はエロ爺さんの称号の効果について見ていきたいところだが、いかんせん、頭の痛みが明確な頭痛になってきている。
――ここまでにしておこうかな。
……寝たい時に寝られるって、いいね……。




