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その日はなんだか地上が騒がしかった。思い返してみれば昨晩からなにやら物音が耐えなかったような気がする。

いつもなら必ず3食は持ってきてくれる兵士が、その日は朝昼どちらももってきてくれなかった。

そして夕方頃ようやく地上へ続く扉が開いたかと思うと、そこにいたのはいつもの兵士とは似ても似つかない、鎧を纏った屈強な男だった。

男は私を見るなり、後ろにいた兵士達に『もう一人の姫を見つけた。至急王に伝えよ。』と指示をしていた。そして兵士が去った後、私の顔をじっと見つめ、鼻で笑った。


「グライアに妹姫が幽閉されてるのは本当だったようだが、姉とは似ても似つかんな。」


「は…?」


「まあいい。この国は我々スパルイト王国が支配した。お前達には捕虜として一緒に来てもらうぞ。」


突然、しかも初対面で馬鹿にされ唖然としている私に気付いていないのか、ずかずかと牢の中に入りそのまま人を俵のように担いだ。

そして突然の出来事に驚いて声を上げることもできないまま、そして私はそのまま全く思い出のない母国を後にした。


道中に鎧の男が話してくれたことなのだが、どうやら私を幽閉してまで守ろうとした国は父の汚職や貴族の横領、他国にまで危害を及ぼすほどの犯罪を犯したことにより、いとも簡単に他国に滅ぼされてしまったらしい。

もう父は既に敵に首を取られ、私以外の王家貴族もほとんどが処刑された後のようで生き残ったのは私と姉だけだった。


姉とは粗末な作りの馬車の中で顔を合わせた。久しぶりに見た姉のアンジェリカは、大人びて何倍も綺麗になっていたが、私と目があった瞬間、睨めつけてくる。どうやらあの裏表のある性格は相変わらずのようだ。


「あのぅ、そちらのお強い騎士様。」


馬車が発車するや否や、姉はすぐに行動に出た。

姉が声をかけたのは私を運んできた鎧の男だった。

しかし男は自分に声をかけていることに気づいていないのだろう、分厚い書類をじっと見つめて考え込んでいたが、隣りにいた兵士が姉に気づき、男を小突きいた。


「団長、騎士団長!姉姫が呼んでいますよ!」


「ん?どうした。色仕掛けしたって逃しはしないぞ。」


「いいえ、そんな逃げようなど…。私達はこれからどうなるのでしょうか?」


姉が男に恐る恐る話しかける。その目は誰が見ても媚を売っているのに、周りの兵士達は姉の美しさにばかり気を取られていてその事実に気がついていない。


そしてこの男は、どうやら騎士団長らしい。確かに強そうだがこんなデリカシーのない男が騎士団長だなんて、敵国はどうも好きになれそうにない。


「お前達の処遇は王が決める。まぁ姉はともかく、妹の方は殺されるかもな。」


私に対して一層ふてぶてしい態度をとる男は、私を一瞥して馬鹿にしたように鼻で笑った。本日2度目の嘲笑いである。


「そんな…あぁ、嘘だと言ってアレシア…!」


そう言って鎖でつながれた両手で顔を隠し、涙を流すアンジェリカ。

それを見た馬鹿な兵士達は「嘆かわしい」「なんて素敵な姫君なのだ」と姉を讃えていた。


「せっかく久しぶりに会えたのに、殺されてしまうだなんて、なんて可哀想な子なの!あぁ神よ、どうか、どうか妹をお助けください…。」


姉は揺れる馬車の中で両手を組み、低い天井に向かってお祈りをした。

その姿は聖女のようだ。と、兵士が言っていた。しかし私には悪魔に私を差し出す儀式をしている魔女にしか見えない。

こんなこと言ったら私は確実に殺されてしまうので、心の内で悪態をつきながら、姉の1人演劇を見つめていた。


*******


その後、敵国スパルトイ王国には2日程で到着した。

この2日間で兵士達の間で姉の株はぐんぐん上昇していた。

一方私の株は姉とは反比例する形で下がっていた。

いわずもかな、姉のせいである。昔から私をダシにして自分の評価を上げるのは姉の得意技だった。

「姉をここまで悩ませる不幸の根源。」それが兵士達の認識であった。ここに来てまで不幸の根源と言われるなんて、さすがに自分には何かあるのではないかと一瞬だけ不安になってしまうのは仕方ないと思う。


好感度の差なのだろう、王の前に突き出される時も姉は何人もの兵士に付き添われ、丁寧に差し出されたにも関わらず、私はまた騎士団長に俵担ぎされ乱雑に王の目の前に降ろされた。乱暴に扱うな、とぼやいたところ、歩けないのに文句を言うなと睨まれた。まぁ確かにその通りなのだから仕方ないのだけれど。


あれ?

私、歩けないこと誰かに言ったっけ?



「…い、……おい、…おい!」


「ひゃい!」


「あいさつもできんのか。王の御前だぞ。」


「あっ申し訳ありません。グライア王国の第二王女アレシアでございます。」


いけない、考え事してた。

私が足が不自由なのはきっと姉や父から聞いたのだろう。とりあえずあの男が知っていたのはそういうことにしておいて、今は目の前の出来事に集中しておいた方がよさそうだ。


「第二王女、お前はグライアでは『不幸の根源』だったらしいな。」


「えっ…えっと…。」


「そうです!彼女は我が国に不幸をよぶ悪魔の子どもなのです。ですが、悪魔の子と言われても彼女は私の妹、どうか殺すことだけはやめてくださいませ!」


私が何かを言う間もなく、姉が澄んだブルーの瞳を潤ませて王に命乞いをする。その時の姉の瞳が先日騎士団長の男に見せたものと酷似していて、思わず眉をひそめる。


そして姉の視線の先にある王を見た。豪華な王座にふてぶてしく座っていたのは、金髪蒼眼というアンジェリカと同じ色合いの男性だった。釣り目がちな瞳も、その私を見つめる蔑んだ瞳も姉にそっくりである。


たしかに美しい容姿なのは認めるが、王というには若すぎるように思える。見た目から推測するに25歳くらいだろうか。


王はその青い瞳で、私をじっと見つめる。

あれ、なんか見過ぎじゃない?穴が開きそうなほど見られているが、そんなに私は変なのだろうか。

確かに顔は姉と比べると天と地の差である。

あまりにも見られていて、恐ろしくて王と視線を合わせることができない。

しばらく沈黙が続く。静寂を打ち破ったのも、やはり王だった。


「ふん、何も言えぬ妹とは違い、姉は実に心優しいようだな。姉の優しさに免じて殺すのはやめておこう。」


「あ、ありがとうございます!私達のような下の者の言葉にも耳を傾けてくださるなんて、国王様は立派な方ですわ。」


「アンジェリカ、といったな?気に入った、今日からこの城に住むといい。」


「まぁ!そんな、私なんかがよろしいのですか?よく思わない方がいるのでは…?」


「私が決めたことに逆らうものなどこの国にはいない。安心するといい。」


「ありがとうございます!本当なんて感謝申し上げたら…!」


「感謝などいらん。だが、しいて言うなら私のことはレオンハルト、と呼んでくれないか?」


「王様…いいえ、レオンハルト、様。」


ぽっ、っと頬を染めて上目遣いに王様を見る姉は恋する少女のようだ。

一方王様の方も満足そうに私達(というか姉)を見下ろしている。


なに、この茶番。

姉は捕虜、又は戦利品として連れてこられたのに、何故この数分の間に王のお気に入りとなっているのだろうか。

普通なら無体を働かれたりしてもおかしくないのに。やはり、美しさと語弊力を兼ね備えた姉だからなのか。


「お言葉ながら陛下。敵国の姫を客人として城の中に置くおつもりですか?」


「客人?アンジェリカには護衛をつけ、後宮で暮らしてもらう予定だ。…文句があるのか?」


「いえ、仰せのままに。妹姫の方はいかがなさいますか?」


「ふん、妹の方は後宮の一番奥に押し込んでおけ。不幸が訪れると悪いからな、結界も強固なものを張っておけ。」


「かしこまりました。」


えっ。私も後宮に入れられるの?

唖然としている私に向かって騎士団長は早く動けと言わんばかりに私を見下ろしてきた。


「ほら、もたもたするな。行くぞ。」


「はい…。」


いまいちわけのわからないまま、私は後宮の一番奥に押し込められた。

 

   

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