表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/22

弱気で強気ないじめられっ子

 数日後。

 木曜日。

 昼食時。

 教室の自分の席に座っている釘貫は、あいも変わらず情報量が多すぎる視界に辟易していた。

 ガンガンと痛む頭に、釘貫は眉間にシワを寄せる。

 そんな彼の前で、きいきいと車輪を軋ませながら車イスに乗っている彼女は、取り返してから幾日が過ぎたというのに、未だに髪の毛をいじっている。

 どれだけ嬉しいのだろうか。


「なあ」

 と釘貫は周りに聞こえないような声で言う。

 ひそひそと。


「お前はいつまで、僕に取り憑いているつもりだよ……」

「無論、ぬしがわしに目玉を返すまで」

「一生かよ」

「まさか一生返さぬつもりなのか!?」

「当然だろ……」

 釘貫は自身の机に突っ伏す。

 ひんやりとした感覚が額に広がる。


「あー、気持ちいい。情報も入ってこないし、気楽でいいや」

「現実逃避をするでない。したいのはこっちの方じゃ」

「というかさ」

 釘貫は机に突っ伏したまま、彼女に尋ねる。


「お前、返せ返せばかり言ってるけどさ、力ずくで奪おうとかは考えないのか? 髪が動かせなくても、それぐらいならできるだろ」

 それは決して力ずくで奪えと提案しているわけではない。

 もし仮にそういったことができるのならば、今以上に警戒しないといけないから、その確認のためである。

 果たして、彼女の答えはノーだった。

 首を横に振って、否定する。


「それはムリじゃな。はっきりしとる」

「どうしてだ?」

「わしは人間よりも弱い。ぬしよりも弱い。そんなものが、人から奪うなんてだいそれたこと。できるはずがないからの」

 人よりも弱い化物なんぞ、笑い話にもならんわ。と彼女は自嘲気味に笑った。のだろう。

 別に化物は人よりも強くないといけない。というルールはないのだが。

 ともかく、奪われることはないらしく、釘貫は少し安堵の息をもらす。


「ん、でもちょっと待て。だったら初鹿から髪を奪ったのは」

「あの時はあやつが気絶しておったからの。無抵抗の相手ならば、奪うことは赤子の手をひねるよりも簡単じゃ」

 と、存在があいまいな赤ん坊は言った。

 こいつの前で気絶とかしないよう気をつけよう。そう釘貫が思ったところで。


「おい」

 そいつは釘貫は話しかけてきた。

 その声色は少し怒っているようだった。

 釘貫は突っ伏していた頭を持ちあげる。

 顔よりも先に内心が視えた。

 声色の通り、内心は怒っているようだったが、まるで目立つのを恐れているかのように、周りの視線を気にしているようだった。

 視線を上げる。

 そこにいたのは、室内にも関わらず野球帽(赤色で真ん中にCと刺繍されている)をかぶっている男子だった。

 帽子のつばで目が隠れるぐらい深く被っているけれど、見えないものが見えるようになる眼球を持っている釘貫には、その程度の目隠しは隠しにすらならない。

 初鹿(はじか)戸室(とむろ)

 化物の断片。その髪を持っていた少年である。


「おい」

 初鹿は言う。

 強気な物言いではあったけれど、やはり内心の方は周りの視線を気にしているようだった。

 はじめの方は目立つことにあまり慣れていないから、周りの視線が気になるのだと推察していた釘貫だけれど、それが違うことにすぐ気づいた。


「……ハゲたの気にしているのか?」

「誰のせいだと思ってやがる。誰の……っ!」

「少なくとも僕ではないな」

「てめえだよっ!」

 声を荒げてから、初鹿はすぐ身を隠すように体をかがめた。そこらあたりは気の弱い感じはする。

 しかし思いの外口調が荒い。釘貫は少し驚いてみせる。


「……お前、本当にいじめられっ子か?」

 口調の乱雑さに、釘貫は思わずそんなことを口にしてしまった。

 初鹿は自嘲的に鼻をならす。


「人は誰でもステレオタイプに生きているわけじゃあねえんだよ。お前だってその性格のくせに、一人称『僕』だろ。もっと大人しく生きてみろよ」

「なるほど」

 釘貫はいかにもステレオタイプに生きている彼女を見た。

 髪の毛の毛先をくるくる指でいじってる。ようだった。

 どれだけ嬉しいのだろうか。


「分かったらさっさと俺の髪を返せ。あれがねえと俺はまたあいつらに」

「返せたら返してもいいけど、残念ながら僕は持っていないんだ」

「誰が持ってんだよ」

「元々の髪と目の持ち主。化物だよ」

 釘貫は初鹿に情報を話せるだけ話した。

 あの髪は、この目は一体何なのか。

 化物の望みや、それに自分たちは巻き込まれているらしいということを。その状態から被害少なく脱することができた初鹿に話した。

 すべてを聞き終えた初鹿は何度か頷く。


「つまり、俺たちはその化物が復活するための人柱になっていた。ということか?」

「そうだよ。負けてラッキーだったよお前は。あのまま集め続けてたら、お前はお前じゃあなくなっていたかもしれない」

 釘貫が軽く言うと、初鹿はぶるりと体を震わせた。

 釘貫は初鹿の目を見る。


「今度はこっちから質問だ。いいか?」

「……いいぜ。なにが聞きたい?」

「どうしてお前は、僕が『化物の断片』を持ってるって分かったんだ?」

「化物の断片?」

 初鹿は眉をひそめる。

 釘貫は慌てて補填する。


「化物の体のことだよ。髪とか目とか。僕が勝手に名付けた」

「なるほど。お前が持ってるって分かったのは、お前が早退した時、共振・・がおさまったからだよ」

「……?」

 次は釘貫が首を傾げる番だった。

 初鹿は釘貫の目を指さし、釘貫は思わずのけぞる。


「危ねえな」

「お前、この眼になってからズキズキ痛むようになったとか、そういうことはないか?」

「……ある」

「だろうな」

「どういう意味だよ」

「化物の断片だっけか? それが近くにいるとな、ざわめきだすんだ。こいつらは」

 まるで居場所を教え合うように。

 復活するためのパーツを集めるために。


「詳しいな」

「髪が教えてくれた」

「僕は知らない」

「お前はどうせあれだろ。眼からの呼びかけを無視してる」

「…………」

 黙る程度には図星だった。

 そんな折。

 教室のスピーカーから音楽が流れ始めた。

 女子一人の声だった。

 何十人の女子・・の合唱が人気を博している今、少し物珍しく感じた釘貫は、その音楽を聞いてみた。


 綺麗な声だと思った。

 綺麗で、澄んでいて、それでいてカラオケではない。

 まだ若いのか少し幼さも感じられるが、それがまた個性になっている。

 音楽というのをあまり聞かない釘貫でも理解できるほど、その声は綺麗だった。

 クラスメイトたちもそれに聞き入っていて、さっきまでプリントをボール状にして遊んでいた輩も、その手を止めて聞き入っている。


「……これ、誰が歌ってるんだ?」

「え、なに。釘貫くん。十乃(とうの)(そら)知らないの!?」

 驚くことに釘貫の疑問に答えたのは、初鹿ではなかった。

 笹竹(ささたけ)(ねこ)

 クラスの男子の視線を集めることに定評のある子だ。

 今日も茶色い髪を後頭部で二つの団子にまとめている。


 席が前と後ろで並んでいる。ということもあり、話すこともままあるクラスメイトではあるけれど、こうしていきなり話しかけられると普通に驚く相手である。

 現に初鹿は驚いて彼女の視界に入らないように逃げていた。

 ビビり過ぎである。


 しかし十乃(とうの)(そら)

 聞いたことのない名前である。

 釘貫が首を傾げると、笹竹は信じられない。という風に言葉を続ける。


「じゃあじゃあ、MMA96は?」

「それは知ってる」

 名前だけだけれど。

 MMA96。

 それがなんの略称なのかは釘貫は知らないけれど、国民的アイドルグループの名前である。

 その最大の特徴はたくさんの女子が在籍していることで、現在の在籍人数は112人。

 96とは一体何なのか、という話によく発展する。


「十乃天はそこに所属してる子で、最近ソロデビューもしたんだよ!」

 笹竹はまるで友達のことを話すかのように嬉しそうに語りながら、十乃天のブロマイドを見せてくれた。

 声の感じの想像通り、まだ若い女子だった。

 もしかしたら釘貫たちと同い年なのかもしれない。


 茶髪の髪を耳より少し下ぐらいで短く切りそろえていて、ぱっちりとした目は快活としたイメージがある。

 女子の好感度も高そうな感じの女子である。


「ふうん」

 釘貫はあいまいに頷きつつ、内心少し驚いていた。

 アイドルは歌なんて下手でも構わないと思っていたからである。

 しかしこの歌唱力はなかなかのものだ。

 帰り道とかにCDを買ってもいいかもしれない。

 そんなことを考えながら、釘貫は別のことも考えていた。

 どうして、今、目がズキズキと痛むのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ