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彼女は化物

 この村では百年に一度、化物が産まれるとされている。

 その(かいな)は全てを壊し、その(あぎと)は全てを砕く。

 その目に見えぬものはなく、その声は誰も彼も魅了する。

 化物と人との違いはたった一つ。

 化物は産声をあげないという。

 ゆえに村の住人は、百年に一度、言い伝え通り産まれる、産声をあげない赤子をバラバラに解体して弔っている。


 そうして千年が過ぎた。

 千年。十人目の、泣かない赤子。

 報告を受けた彼らは慣例通りにバラバラにした。

 バラバラに、バラバラに、バラバラに。

 もうバラせる所がなくなった。

 その時だった。


 赤子が赤子らしく、笑ったのは。


 なにもかもをバラバラにされて、頭だけになった赤子は、笑った。

 赤子は――化物だった。


「その赤子というのが、わしじゃ」

 頭をうってひとしきり唸っていた彼女は、不意に、そんな話を始めた。

 自分は化物で、そのせいで体をバラバラにされてしまったと。


「どうしてわしが化物として産まれたのかは知らん。もしかしたら今までの九人の赤子の怨念がわしを化物に仕立て上げたのかもしれん。が、わしはオカルトというものが好かんから違うということにするのじゃ」


「……」

 お前自身オカルトだろう。とは釘貫はツッコまなかった。

 釘貫睦(くぎぬきむつ)にしか見えない彼女――彼女の目にしか見えない彼女。


「その後、わしを恐れた村のものは、わしを川に捨てた。もちろん、バラバラにした体もじゃ」

 釘貫はこめかみと目の間を指でなぞった。

 頭から目を抉りだすなんて手間暇をかけてまで、彼女はバラバラにされた。


 それはきっと、それだけ彼女が恐れられていた。ということなのだろう。

 実際、頭だけになっても――目だけになっても、彼女は生きている。


 ――これ、考えてみたら寄生ってやつだよな。

 今更ながら自分の置かれている状況に気づいて、冷や汗を流す。


 この目になってから見えないものが見えるようになった。

 化物の言い伝えにも、そんな話があったはずだ。

 どうやら少しダウングレードしているようだけれど。


「捨てられたが、結局わしは生きていた。我ながら化物じみた生命力じゃな。じゃから、捨てられたのだがのう」

 彼女は声に出しながら笑った。

 そこには悲壮感なんてものはなく、むしろ可哀想がったら怒られそうな気配さえあった。


「しかし体のパーツは方々に散ってしまっての。どこにあるのかさっぱり分からなくなってしもうた。やっと見つけた目玉は、ここらに落ちていたのじゃろ?」

 彼女は車イスの車輪から手を離して、地面を指さした。のだろう。

 釘貫は無言で頷く。

 しかし眼球のない――つまり見えていないはずなのに、それを感じさせない動きをする子である。

 それを言うなら体のパーツがないのに、どうやって車イスを動かしているのかも謎だけれど。

 腕のパーツはあるのだろうか。

 いろいろ謎のある少女である――赤子である。


「わしは元の姿に戻りたい」

 彼女は、はっきりと言った。

 はっきりと、信念を持って。


「人の体に寄生するということは、全てのパーツを手に入れて元の姿に戻ることも可能じゃろう」

 パーツ同士が寄生しあって、一つの体をつくりだす――一つの体に戻る。

 それが彼女の願い。

 彼女は車イスを動かして、釘貫の前に移動する。

 車輪から手を離して、釘貫の顔を――目を指さす。


「じゃから、その目玉を返してはくれんかのう?」

「嫌だ」

「なぜじゃっ!?」

 口をへの字に曲げて、否定を全面にだす釘貫に、彼女は驚きの声をあげる。


「いやだって、この眼球が寄生してきた時、僕の眼球は落ちて、潰れてるんだよ。だから、この眼球を返すと僕が困る」

「返してもらわんと、わしも困る!」

「僕も困る」

「わしの目玉じゃぞ!?」

「今は僕のだ」

「いつものことだったんだ」

「ん?」


 唐突に。

 勝手に割り込んできたその声に、釘貫は眉をひそめる。

 声がした方を向く。

 そこにいたのは、初鹿(はじか)戸室(とむろ)だった。

 寝癖をなおしていないのか、髪はわさわさと動いている。


 釘貫は首を傾げる。

 彼は早退をしているが、今の時間は学校にいるべきな時間であるはずである。

 同じように早退をしたのだろうか。


「いつもみたいに俺はイジメられていて、茂みの中に蹴飛ばされたんだ」

 そんな釘貫の疑問をまるで意に介さず、初鹿は口を動かす。


「そしたらさ、その茂みの中に髪の束があったんだ。神でも紙でもないよ。黒色の髪だ」

「……それって」

 昨日までの釘貫ならば、気持ち悪い話もあるものだ。程度で済ましていたかもしれない。

 しかし今日の釘貫は――化物の断片なんてものを知ってしまった今なら違う。


「俺の指は髪の束に触れていたんだ。そうしたら――」

「わしの髪かっ!」

 と、彼女が叫んだのと。

 初鹿の髪がズオッ――と伸びたのは、ほぼ同時のことだった。

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