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人間外より中

 人は外見ではない。中身が大事なんだ。

 なんていう言葉が代表するように、とかく人間というのは内面(なかみ)が――見えないものが好きだ。


 神様だったり幽霊だったり妖怪だったり情だったり心だったり、そういうものが大好きだ。


 それがどうしてかと尋ねられれば、見えないから。以外に理由は他ならない。

 分からないからこそ、知りえないからこそ、理解しきれないからこそ、人間はそれがスゴいものだと錯覚して、勘違いしてしまう。


「……」

 自分の眼球が潰れたのち、学校での釘貫(くぎぬき)(むつ)は不機嫌そうだった。


 反骨精神あふれた性格をしている釘貫が不機嫌そうな顔をしているのは、まあよくある事ではある。


 しかし、今日はいつも以上に不機嫌そうだった。

 まるで頭痛か何かを耐えているような。


「どうしたよ釘貫。いつも以上に不機嫌そうな顔してるけどよ」

「……ちょっと頭が痛くてな」

 自身の席にあごをのせてうんざりとしていると、いつものように皿更(さらざら)が話しかけてきた。


 釘貫はいつものように適当に返す。

 嘘はついていない。

 目から入ってくる情報量に目が眩んで、頭が痛くなっているのは事実だ。


「ふうん、お前でも頭が痛くなることがあるんだな」

「どういう意味だよ」

「そういう意味だ。お前に頭痛のイメージは似合わない」

「お前の中で僕は一体どんな鉄人なんだよ」

 皿更の顔と内心・・は同じように笑っている。


 嘘はついていないのはよく分かった。

 そもそも皿更に嘘をつくような知能があるとは思えないけれど。


 いつもなら腹立しいこの上ない性格ではあるけれど、今の状態だとむしろありがたかった。


「……なあ」

「ん。なんだ?」

「僕の前の席のやつ……名前は、えっと」

笹竹猫(ささたけねこ)

「そうだ、笹竹。あいつさ、肩が重いとか言ってないか?」

「んー。そういや最近よく言ってるな。あれ? お前って、笹竹と交流あったっけ?」

 皿更の不思議がる目から逃げつつ、釘貫はため息をつく。

 もし仮に笹竹の肩に幽霊がしがみついているのが見えている。と言ったところで信じてはもらえないだろうし。


 釘貫睦は、見えないものが見えるようになっている。


 見えないからこそ素晴らしいものだと勘違いされているそれが見える今、裏表のないやつというのは、処理限界をゆうに越えていた脳に優しい存在だった。

 素晴らしい物が見えるようになった。

 見えないものが見えるようになった。


 心情とか感情とかオーラとか幽霊とか、とにかく『視認できないもの』が見えるようになった。


 理由ははっきりしないけれど、原因ははっきりしている。


 自分の眼球が落ちて、新たな眼球が生えてきた――否、あの手から這入り、釘貫の眼球をのしのけて眼窩に這入りこんだ眼球。

 それが原因とみて、まず間違いないだろう。


 体の中に沈み込んでくるような眼球だ。普通ではないのは確かだ。


 そのおかげで目から飛び込んでくる情報量は数倍に増え、釘貫は絶えず頭痛に襲われている。


 ――誰が取り憑かれていて、誰が誰を意識しているかとか別に知りたくねえよ……。

 釘貫は視界に人がはいらないように窓の外を見た。

 それだけで情報量はかなり減るし、なにより自然を見るのは目に優しい。

 そう思って釘貫は窓の方を向いたのだが、その視線は窓の外を見ることはなかった。


「ん?」

 窓の内側――窓と釘貫の間。

 そこに座っている男子。

 名前は思いだせない。

 内心を見るまでもなく怯えている様子ではあったけれど、決して釘貫はそれが気になったわけではない。


 釘貫が気になったのは、その男子の髪。

 頭髪。黒髪。

 風も吹いていないのに少し揺れているようにも見えるその髪が気になった。

 まるであまり合っていないカツラみたいに、別々のものであるかのように、見えた(・・・)

 そんなはずがないのに。

 ズキリ――と。

 眼球がうずいた。

 軽い痛みに、釘貫は目を手で覆う。


「釘貫、お前ホントに大丈夫か?」

「……なあ、皿更。あいつの名前、なんて言ったっけ?」

「クラスメイトの名前ぐらい覚えていろよ。初鹿(はじか)戸室(とむろ)。それがどうかしたのか?」

「ああ、いや。お前の言うとおり今日は体の調子がすこぶる悪い」

「跳び箱十一段を手を使わずに、余裕綽々に飛んでみせた化物も、頭痛には弱いか」

「余裕綽々じゃねえよ。体を捻ってムリヤリ避けたんだ」

 十一段。

 一六五センチメートル。

 本来ならば存在しないそれを、わざわざ他の跳び箱から十段目を拝借してまで用意した体育教師の『できるわけがない』という態度にムカついた釘貫は、それを飛び越えてみせたのだが、今考えてみても短絡的な行動である。

 相手の手のひらの上にいるのが気に食わない。

 手中に収まるのはムカつく。

 西遊記の孫悟空のような状態を何よりも嫌うその性格を自覚している釘貫ではあるけれど、自覚しているからとはいえ、それをなおせるとは限らない。


「充分だろ。まあとりあえず保健室行ってこいよ。ノートはとっておくからさ」

「期待はしないでおくよ」

 釘貫は教室の後ろのドアから廊下にでた。


「ん?」

 そう言えば。

 今日の教室は少し静かだった。

 見返してみると、いつも騒がしい奴らが揃いも揃って休んでいた。

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