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街になんか来た

前回書いていたものの加筆修正版です

「……死ぬかと思った」

 結局四枚撮った。意外と長かった。もっとこう、パシャパシャ撮って終わるものだとばかり思っていた。しかもこの後、まだやることがあるらしい。時間がかかるものだ。

 釘貫はへろへろの体でのれんを潜って筐体の外に出た。

 筐体の外に出て。

「釘貫じゃあねえか」

「皿更」

 はた、と人と出くわした。皿更と出くわした。まあ街の中で数少ない遊び場であるゲームセンターである。クラスメイトと出くわすことも多々ある場所だ。皿更は釘貫の後ろにあるプリクラの筐体を見てからからかうように笑ってみせた。

「なんだよお前、男子がひとりでプリクラとか悲しいことうえねえぞ?」

「そ、そうだな。ははは」

 一人だと勘違いしているらしい。まあそっちの方がありがたいので、勘違いしていてもらおう。そう釘貫が思ったところで。

「ん」

 と、皿更が視線をさげて眉をひそめた。

「なんだ、誰かと一緒に撮ってんじゃあねえか」

「は?」

 釘貫は振り向いて、しまった。と釘貫は顔を引きつらせる。

 のれんの長さは膝の高さぐらいまでしかなく、中に誰かいるのかどうか分かるようになっていたのだ。膝下しか見えないのだが、そのすらりと伸びた細い脚は少なくとも男子のものではないことだけは明白だった。

「……女子か、もしかして」

「な、なんのことかな?」

 釘貫はとぼけながらこれからどうしようかと思案する。十乃はサングラスをかけている。だが、さすがにこの距離で見られたら十乃天だとすぐにばれてしまうだろう。

 さすがにそれはまずい。

 また十乃のノドを使うか? と釘貫は思案しつつのれんの向こうを視た。壁の向こうを視ることができるこの眼球にとって、布一枚ぐらい目隠しにすらならない。

 十乃は今まさにのれんに手をかけて外にでようとしていた。

 釘貫は慌ててのれんを握って開けないようにする。

「い、いやあ。彼女人見知りだからさー、あんまり人と面を向かって話せないんだよなー」

 そしてわざとらしく、のれんの向こうにも聞こえるように少し大声で言った。どうやら十乃の方も現在の状況に気づいたようで、のれんから手を離した。釘貫は安堵の息をもらす。

「彼女ー? やっぱお前、女子連れてんのかよー」

 皿更は口を尖らせながら言う。どうやら釘貫に先を越されたと思っているらしい。本当は全然違うのだけれども、勘違いしているのならそのまま話を進めておこう。

 釘貫は顔をひきつらせたまま、勘違いに話を合わせる。

「そ、そうなんだよ。悪いな、あんまり人に吹聴することでもないし」

「なんだよ、お前だけはまだ独り身だと思ったのによー」

「ふふん、羨ましいか」

「ああ羨ましいともさっさと別れちまえ」

「酷いことを言うな」

「本音だよ」

 その割にはケラケラと笑う皿更。彼がそこまで人の不幸を本気で願うタイプではないことを知っている釘貫はそこまで追求はしない。

「それで、これからどうするんだお前は?」

「友達のデートを邪魔するほど野暮でもねえよ」

 そう言うと皿更はプリクラの前を後にした。釘貫は皿更の背中を追ってから、のれんから手を離した。

 のれんを持ち上げて筐体から外にでた十乃は、じとーと釘貫の顔を見ながらからかうように笑った。

「いつのまに私は釘貫くんの彼女になったのかなー?」

「し、仕方ないだろ。そう言わないと誤魔化せれそうもなかったんだからさ」

 からかうように笑う彼女に、釘貫はたじたじと目線を逸らしながら言い返す。

 十乃はにひー、と意地悪く笑う。

「へー、釘貫くんはアイドルが彼女なんだスゴイなー」

「悪かったな、気分を害して」

「ん。別に嫌じゃあないよ?」

「は?」

 十乃は少し恥ずかしそうに頬を赤らめながら、頬を指で掻く。

「釘貫くんが彼氏になったら、私は嬉しいかなー。なんて?」

「え、あ、えっと……」

 思わぬ告白に、釘貫は顔を真っ赤にしながら天井に向けて目を泳がせる。

「釘貫くんはさ、私が彼女になったら。嬉しい?」

 くてん、と首を傾げながら十乃は尋ねてくる。釘貫はそんな彼女と目を合わせることすらできない。

 そんな釘貫の顔を両手で挟むようにして、十乃は彼の顔を自分の方に向ける。

「ほら、こっち見てよ」

「ぬぐ……」

 釘貫は十乃の方を視た。

 その顔は恥ずかしそうに赤らんでいて、その内心はおかしそうに笑い転げていた。

「からかったな!?」

「あはははははははははっ!!」

 釘貫が声を荒げると、十乃は今まで耐えてきたものを吹きだすように瞳に涙を滲ませながら腹を抱えて笑いだした。

 そんな彼女に釘貫はなにか言い返そうとしたのだが、それは肩にぽんとのせられた手のひらによって遮られる。

指の細い手だった。女子だろうか。釘貫は眉をひそめながら振り返った。

 そこにいたのは、黒い髪を後ろで二つの団子にしている少女――笹竹猫だった。背中には大きなバックを背負っている。

「あれー、釘貫じゃん。偶然だねー」

「……そうだな」

 その口調からして偶然、なんかではないだろう。釘貫はにっこりと笑っている笹竹に対して、口元をひくつかせながら返す。

「猫ちゃん。どうしてここに!?」

 十乃は普通に驚いて口に手を添えながら言った。だからなんのために変装をしているんだ、と釘貫は内心つっこみたい衝動に追われたが、肩にある痛みにそれは呑みこんだ。

 笹竹は釘貫の肩を強く握りながら、十乃に屈託のない笑顔を向けた。

「いやあ、久しぶりにゲーセンでゲームしたくなってさ。そうしたら二人がいるんだもの、驚いたよー」

「嘘つけ」

「ん、なにか言った?」

「……なんにも」

 肩を掴む力が増した。

 しかし釘貫は知っている。見えないものが見える眼球を持っている釘貫は知っている。彼女が背負っている大きなバックの中身は、たくさんの着替えだということを知っている。

 ――つけてきたのか……。

 なんというか、よく分からない執念である。

「フラグたてるなって言ったよね?」

「たててないたててない」

 釘貫は若干呆れながら肩にのった手をはらった。


「なあぬしよ」

「なんだよ、人前で話しかけてくるなよ」

 背後から話しかけてきた苗切に、釘貫は少し感情的に返す。


「なんじゃ、せっかくいい話を教えてやろうと思ったのにのう」

 苗切は少し残念そうに言う。口があったら口を尖らせていたかもしれない。 

「いいことってなんだよ。僕に関係あることか?」

「あるわあるわ、おおありじゃわい」

 苗切はぐるりと釘貫の体の周りを回った。

 その時十乃の体を透けて通り抜けたけれど、ノドをとったりはしなかった。やはり奪い取ることはできないらしい。


「ぬしら意外に、パーツを持っているやつが、この街におるぞ」

 と、苗切は言った。

 少し嬉しそうに。

 そのノイズ混じりの声では、判断しづらいものではあったけれど。


「なっ!?」

 逆に、体のパーツがバラバラになっていて、ノドがないわけでもない普通の人間である釘貫は、分かりやすく驚きの声をあげた。

 目――釘貫睦くぎぬきむつ

 喉――十乃天とうのそら

 頭――苗切白里なえぎりしらさと

 それ以外にもう一人、この街にパーツ――化物の断片を持っている者がいる。

 元を含めてもいいのならば、初鹿戸室はじかとむろもいるのだが、苗切の言い方からして、彼ではないのだろう。

 新たな断片持ち――新たな敵。

 ここでまた、十乃天のような友好的なタイプが現れると考えられるほど、釘貫は楽観的な性格ではなかった。

 釘貫は己の眼を触る。

 痛みはなかった。

 いや、あるにはあるのだけれど、これは十乃天のものだ。

 それはなんとなくの感覚なのだけれども、間違いではないだろう。

 この痛みが共振みたいなものなのだと理解できた。


「ホントにいるのか? 痛みは十乃以外ないぞ」

「ぬしはパーツを一つしか持っていないからのう」

「二つパーツを持ってると感度があがるのか?」

「センサーを二つ持っているようなものじゃな」

「お前のキャラ設定的にセンサーとか横文字を使うのはどうなんだ?」

「せんさーとやらを二つ持っているようなものじゃな」

「ひらがなにすればいいってものじゃあねえよ」

「それか、わし自身感度がいいだけかもしれぬな」

 恐らく後者だろう。

 産まれたばかりでバラバラにされたとはいえ、一応は彼女自身の体なのだ。

 自分のことは自分が一番よく知っている。

 分かっていることを、分かっている。

 分かっていないことも、分かっている。


「して、どうする?」

「……どうするって?」

 少し思考に耽っていた――沈みこんでいた釘貫は、苗切に話しかけられ、その思考を一旦とめる。


「決まっておろう。そいつに会いに行くか?」

「イヤだよ」

 目があったならば、片眉をあげて見ながら言ってきたであろうその意見に、釘貫ははやくに否定する。

 苗切は意外そうに驚いてみせた。いや、見えないのだけど。


「どうしてじゃ。会いに行かんのか?」

 苗切白里は化物であり、バラバラ死体である。

 既に死んでいるのか、それとも生きているのか――それともどちらでもないのかは、釘貫には判断がつかない。

 彼女の言うところのパーツは、つまり彼女の体である。

 だからこそ自分のパーツを探していて、パーツを持っている人間がいるのならば、それに会いに行こうとする節がある。

 初めて彼女と遭遇したときだって、眼球を探してやってきた時だったのだから。

 対して釘貫は、パーツ集めに対して行動的ではない。

 当然だ。

 釘貫にとってパーツ――化物の断片を集めることにメリットなんてないのだから。

 他の断片保持者と遭遇しても、闘いになる可能性が高いのだから、むしろデメリットしかない。

 できれば他の保持者と出会いたくない。というのが釘貫の本心であった。


「ねえ、なに。どうしたの?」

 と。

 釘貫が心底嫌そうな顔をしていたら、十乃が不安そうに話しかけてきた。

 一瞬、どういうことか分からなかった釘貫だったが、苗切の姿をみれるのは、彼女の声を聞くことができるのは、認識することができるのは自分だけなのだということを思いだした。

 十乃のほうを向く。

 顔を近づけて、小さな声で言う。

 この騒がしいゲームセンターで誰かの耳を心配する必要などないのだろうけれども、一応の配慮である。

「近くに化物の断片を持っているやつがいるらしい」

「はえっ!?」

 十乃は、わざとらしいと思えるまでわざとらしく驚いてみせた。


「ど、どういうこと? 喉は別に痛くないよ?」

「苗切が教えてくれた。あいつは僕らよりも感度がいいらしい。この街のどこかに、敵はいる」

「……大丈夫なの、それ」

「分からん。けど今は逃げたほうがいいと思う」

「ねえ、二人ともなにくっついてるのかな。ねえ、釘貫。レギュレーション違反だよ?」

 後ろのほうから、笹竹に頭を掴まれた。

 女子の小さな手だというのに、妙に握力が強い。

 ミシリミシリという音が頭の中から聞こえてきた。

 あれよあれよと十乃から引っぺがされる。

 ばっちいものを触ったみたいに顔をひそめながら手のひらを振るう彼女に、釘貫はげんなりとした表情を向ける。

 笹竹は釘貫を睨む。

「この子はアイドルなの。過度な接触は十乃のアイドル生命を断つ恐れすらあるんだからね」

 と、理由をつけてきたけれど、頭を掴まれた釘貫にはどう考えても別の理由があるとしか思えなかった。

 思いっきり私情な理由があるとしか思えなかった。

「猫ちゃん。猫ちゃん。そこまで気にしなくてもいいんだよ?」

「十乃が気にしなくても私が気にするの!」

「そ、そうなの……?」

 拳を握り、熱く語る笹竹に、十乃は少し首を傾げた。

「久々に故郷で遊びたいからって、昨日今日会ったばかりの、年頃の、近い歳の男子と、二人っきりで遊ぼうとするなんて警戒心なさすぎ!」

「う、ご、ごめん……」

「遊ぶんだったら、私が協力するのに!」

「私情含んでないかそれ?」

「シャアラップ!!」

 なんだかテンションが高かった。

 釘貫と十乃は、少しだけ彼女から距離をとった。

 物理的にも、あと精神的にも。


「と、ともかくだ」

 脱線気味になっていた話を、どうにか元に戻す。

「敵がこの街にいるらしい。今はとりあえず逃げよう」

「敵? あんたじゃなくて?」

「お前にとって僕は敵なのか……」

「害虫」

「敵ですらなかったのか……十乃のノド関係のやつだよ」

 げんなりとした表情でそう言うと、笹竹はさっきまでの勢いを一気に失い、ビクリと体を震わせた。

 不安げに、まゆを八の字に曲げている。


「大丈夫なの?」

「分からない」

 釘貫は返す。

「そもそも僕自身、どこにいるのか皆目検討はついていないからな」

 苗切、と釘貫は声をかける。

「どっちの方向に逃げればいい」

「あっちじゃな」

「こっちだ」

 釘貫は苗切が指さした――のだと思われる――方向とは反対に進んだ。

 後ろのほうで、苗切が憎たらしそうに舌打ちをした。

 ――口がなければ舌もないのに、器用なマネをする。

 ゲームセンターを後にしながら、釘貫は心中で独りごちた。

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