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「昨夜『異常因子』を捕捉した。早々に始末して貰おうか」

「場所は?」

「所沢」

「名前は?」

「大月ミナミ。性別は女。年齢は二四。写真はここに置いておく」

「ふ〜ん」

「どうした?」

「いやね、せっかくだし楓ちゃんの教材になって貰おうかなって」

「成る程。北沢楓に『追捕使』を見せるか」

「そんなところかな」

「―――順調か?」

「うん。順風満帆。いざとなったら強攻策をとるつもりだったんだけど、予想外だよ。やっぱり楓ちゃんはお師匠様の生まれ変わりだけあるよ。天才だ。すぐに『紫衣』を纏えるようになっちゃうし、直接的なヒント与えなくても『飛べる』ようになっちゃったし、成長が速いよ。あの様子じゃオレに手が届く日も近いかもね」

「結構なこと。ようやく貴様もお役御免だな」

「その件なんだけどね、オレは楓ちゃんに殺されるつもりはないから」

「な、に?」

「意味はそのままだって。オレは死なない。誰が何と言おうとオレは死なないよ。オレがもし死んじゃったらさ、楓ちゃんと永遠の世を『追捕使』として渡るのがダメになっちゃうだろ?」

「貴様、まだそんな妄言を―――」

「『押領使』の分際でさ、オレに意見しないでよ。『押領使』はただオレに従っていればいいの」

「しかしだな、」

「うるさいな〜。ホントは『押領使』も分かってるでしょ? オレが楓ちゃんを愛しているように、楓ちゃんだってオレのことを愛してるんだ。愛し合う二人がいっしょになることの何処が悪いわけ?」

「ほう。北沢楓はお前を好いているのか」

「そうだよ。それ以上の理由があるの?」

「確証は得たのか?」

「確証? そんなのに何の意味があるの? 楓ちゃんがお師匠様の生まれ変わり。だからにオレを想ってくれてるに決まってるじゃん」

「生まれ変わり、か」

「お師匠様は俺を愛してくれた。あの時は自分のことで精一杯だったから気付けなかったけどさ、オレもお師匠様のことが大好きだった。だからオレが楓ちゃんを愛しているように、楓ちゃんだってオレのことを愛してるんだよ。楓ちゃんはオレを殺すコトなんて望まないよ。オレだって楓ちゃんを殺すことなんてできない。知ってるだろ、それくらい?」

「……、」

「いい? オレと楓ちゃんは結ばれる運命にあるの。楓ちゃんはオレにとって運命の人。『追捕使』になって、オレは楓ちゃんを、楓ちゃんはオレを永遠に守り、そして生き続ける。例えどんなことが起ころうとも絶対オレたちの絆に愛は壊せない。そして二人はさ、永遠の絆と愛を持って、この世を永遠に渡り、踊るんだ」

「……それは、誠か?」

「本当さ。オレの想いを楓ちゃんは受け止めてくれる。絶対ね。楓ちゃんがまだ素っ気ないのは自分の本当の気持ちに気付いていないだけ。オレの想い全部をまだ知らないだけさ」

「しかしな、北沢楓の一族を手にかけたのは他ならぬお前だぞ? 一族の仇であるお前に愛なんて抱けるものか?」

「そんなの知らないよ。楓ちゃんの家族の生死とか誰が殺したとか殺さなかったこととかホントどうでもいい。そんなことでオレたちの愛と絆は壊れない。大体ね、楓ちゃんはそんな家族を殺されたくらいじゃオレのことを嫌いになったりはしないよ。楓ちゃんはオレがいるだけで幸せなんだ。相思相愛なの! 寧ろ感謝してるんじゃないかな。オレの愛を、俺に対する楓ちゃんの愛に気付かせてくれた、それは家族が死んだおかげだって」

「―――そこまで言うのなら、お前に一任しよう」

「へへ。ありがと!」

「ところで、だ」

「?」

「あのような出費をして良かったのか?」

「出費? ―――ああ、テレビのこと?」

「貴様が受け継いできた金をどのように使うかは勝手だが、そろそろ残金を考えることだな」

「確かに。……そろそろマズイかな。楓ちゃんの生活費もオレが出してるし」

「補充するのか?」

「そうだね。二〇〇万くらいでいいや。手配して―――、あ。そうだ」

「どうした?」

「良いこと思い付いちゃった」

「何をしでかすつもりだ?」

「お金の補填の仕方を教えて上げようと思ってさ」

「確かにそれは重要なことだが、今は『異常因子』追討が最優先だ」

「そんなこと言うなよ」

「『追捕使』の使命は『異常因子』の抹殺だ」

「まあ確かにそうだけど、後進の指導も大切だと思わない?」



     ◇◆


 

 異常とは、果たして誰が決めるモノだろうか。

 異常とは、何だろうか。

 異常。

 正常と異なるもの。

 では、果たして正常とは?

 正常と異常。

 この二つ、果たして差はあるのだろうか。

 あったとしたら、どんな差なのだろう。

 もし、この二つに差があったとして、一体誰がその『差』を分かつのだろうか。

 一人の少年と一人の少女は動き始めた。

 正常な方向へか、はたまた異常な方向へか。

 決めるのは、一体誰なのだろうか。

現実逃避はもう終わり。

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