悪魔との取引で異世界転生した男
大体作者が書きたい事を書きなぐった物です。
「神様だと思った!?残念!悪魔だよ!」
「クソがっ!!」
目の前の胡散臭い爺がクソウザい口調で話しかけてくる。
今居る場所は、河原。
何だ。白い部屋とか、図書館とかじゃないのか。
河原って事はアレか。賽の河原的な…
「YES!!そう!日本人だと聞いて馴染み深いと思われる場所を用意しました!俺ってば超親切!」
爺はハイテンションで聞いてもいない事を話してくる。
というか、コイツ…ナチュラルに俺の思考読みやがったな。日本人的に考えると…サトリか?
「いやー。そこは神様と考えるべき所じゃね?」
「思考を読むな。プライバシーって言葉知ってるか?」
「オー、ワタシ、アメリカジンヤカラ、ニホンゴワカラナイアルネ」
「色々混ざってるし、そもそもプライバシーは英語だ」
「それな」
「…はぁ…で?その悪魔さんが俺に何の用なんだ?」
「うん?悪魔が人間の前に出てくるのは勿論取引のためだろう?」
知らないの?といった疑問顔で聞いてくる爺。少し愛想笑いしてるのが気に食わない。殴りたい。その笑顔。
「残念ながら日本人なんでな。悪魔の取引なんぞ分からん。日本に来るなら九尾あたりにするべきだったな」
「九尾は中国が原産地の筈ですが」
「…まぁ、ところで何の用なんだ」
「それはそうと、貴方に何か心当たりあります?」
「何だよ藪からスティックに…心当たりね…俺が死んだとか?」
「そうです。よく分かりましたね。いやぁ、昨今は多いんですよ。特に理由もなくトラックにはねられたり、通り魔に刺されたりで事故で死ぬ人間…特に日本人が!流行りなんですかね?」
「いや、理由もなくって…あるだろ。普通に。トラックに轢かれそうになってる人助けたりで、大体人助けしてソイツは死ぬパティーンが」
「そう!まぁ、主人公が死ぬのは避けられないですよね。それに転生させるには、徳を積ませなきゃならない。なら、人助けして殺せばいいか的な感じで死んじゃうんですよね」
全く嘆かわしいといった風体で首を振る爺。縦に。
「ところで何の話なんだ一体」
「あ、すみません。ま、貴方も他人事じゃないんですよ。貴方は死にました。んで、このまま死ぬのが嫌なら俺と契約して魔法少女になってよ」
「あ"?」
おっと。人殺しのような声が出た。その声怖いからヤメロとアイツによく言われたが、この相手なら出てしまったのは許されると思う。
「間違えました。まぁ、とりあえず、やらないか?」
「断る」
「あっ。勿論転生ボーナスもありますよ!チート物がお好き?結構。馬力が違いますよ」
「俺が特に気に入ってるのは…チーレム無しの苦労・絶望物だ。フィクションの」
ノンフィクションはお腹一杯だからな。
ノンフィクションは楽しめない。そんな物、そこらを歩けば転がってるし、それの感想文なんて目も当てられない。
やはり、人間の想像から生まれた産物に限る。
「…あれ?幻聴かな?断るって聞こえたような…」
「勿論、幻聴じゃあない。断ると言った」
「嘘だよッ!!」
「何で嘘吐かなきゃならねぇんだ」
「いや、そこ普通は頷く所でしょう。何で首横に振ってるんですか?そこは、主人公らしく縦に振りなさいよ。アレか?俺がこの見た目だからか?流行りに乗って女神とかにすれば良かったのか?クソが!たかが凡人の分際で神に直接会えると思うなよ!何で温情とか貰えたり、死ぬ予定じゃなかったとか言われてるんだよ!?阿呆か!一命を賭しての人命救助とか偽善者野郎が偉ぶるなよ!ところで何で話蹴るんですか教えて下さい何でもしますから!」
「ん?今何でもって言ったよね?…まぁ、まずお前が胡散臭い。何だその容姿でその口調。もっと老人言葉で喋れ」
「何でもするとは言ったけど、何でもするとは言ってない。…何馬鹿な事言ってるんですか。老人の一人称がワシとか語尾にじゃとかが着くのは都市伝説ですよ。あと、孫が居るとかで夢を壊したくないとかの理由でやってるだけで、小説に出てくるようなテンプレ老人は居ません」
「あと、自称悪魔という点。普通に神とか名乗っておけよ。何だよ悪魔って馬鹿か」
「いやいや、ただの人が神に会える訳ないでしょ。それとも件の神に会える程、徳を積んだとお思いで?」
「いや、全く思わないが。ところで、俺の死因って何なの?俺には全く記憶が無いんだけど」
「え?普通に飛行機ジャックからの政府の主要機関に突っ込みの爆死系ですけど?」
「…想像以上に重かった」
「アレですよ。今流行りのISISとかの新興宗教に引っ掛かって、止せばいいのに何百人も巻き込んでの自爆特攻系です」
「…しかも、やった側かよ…」
「でも、幸か不幸か死傷者は一名でした」
「…は?今爆死って」
「勿論、未遂で御用となっての爆死です。因みに死因は心臓発作によるものです。ね?神に会える訳ないでしょう?」
「そっちの爆死かよ…」
目の前の老人?は底意地の悪い顔で笑った。
「…で?アンタと取引したらどうなる?魂でも取られるのか?」
「勿論勿論。悪魔といったら魂です。魂といったら悪魔って置き換えてもいいですね。まぁ、細かい事はこちらの契約者に書いたので、御一読をば」
そう言って悪魔は一枚のペラ紙を差し出してくる。
そこには、名前枠と押印欄が紙の中央にあり、創角ポップ体で《けいやくしょ》と書かれていた。
「…ん?これだけ?」
「そうですけど?」
なんだろうこの悪魔。馬鹿にしているのだろうか。
「ところでコイツを見てくれ。コイツをどう思う?」
「…凄く…白いです…いえ、契約文はですね?魂に刻むんですよ。だから、必要最低事項しか書かれてないんです」
「何で創角ポップ体でひらがななんだ?」
やや青筋立てながら詰問する。
「もしかしたら、契約相手がょぅι"ょとかだったら困るじゃないですか。だから、親しみやすい文字で、日本人なら誰でも読めるようにですね」
「何でA4コピー用紙なんだ?しかも普通紙」
「え?この時代でそれ言っちゃう?貴方も経験あるでしょう?こういったものは、プリントした方が早いし安いのは当然の事ですよ」
「…とりあえず、お前に取引の説明をする気がないのは分かった。それに俺に選択の自由が無いって事も。お前に魂を差し出せば…お前の言う通りにすれば、俺は転生…第二の人生を歩めるんだな…?」
「その通りです。貴方の現世の魂と引き換えのギブ アンド テイクですよ。ささっ、お早くここに署名捺印をね?」
「だが断る」
「なっ!?」
「俺が最も好きな事のひとつは、これしかないって位に追い詰めた奴にはっきり『NO』と断ってやる事だ」
「それって只単に、性格がひねくれてるだけなんじゃないですか?」
「そうかもしれない」
「まぁ、説明といってもですね。私が現世での貴方の魂を頂く代わりに、貴方を異世界に送るって訳です」
「ちょっと待て。色々飛び過ぎだろ。俺を異世界に送るメリットは何だ?」
「いやぁ、向こうの神様がですね、『最近暇だから何か面白い奴でも送って』って頼まれた訳ですよ」
何してんだ異世界の神。
「面白いっていったらですよ?そんじょそこらのテンプレは要らない訳ですよ。どうしたもんかと思っていたらの貴方です。ハイジャックを試みての爆死とか面白いってレベルじゃないですよ。その時ピーンと来ましたね。コイツだ。コイツを送ればとりあえずあのクソ神の無茶ぶりはクリア出来るってうぐッ!!」
言いたい事は色々あったが、とりあえず腹パンした。
「しかしアレだな。神に会うには徳を積まなきゃならないんじゃないのか?何で悪魔が異世界とはいえ、神と親交があるんだよ」
「徳を積まなきゃならないのは人間だけですよ。それに俺は結構徳が高い方ですよ。正直だし」
「正直?何処がだ」
「ま、お察しの通り貴方に選択の自由はありません。精々、俺と取引して異世界へ行くか、取引せずに行くかのどちらかです」
「取引するしないの違いは?」
「取引した場合、俺からのギフトとしてチートと前世…つまり、今世の記憶が引き継げます。しない場合は何もないです」
「魂を渡す事によるデメリットは何だ」
「特にありません。本来はあるんですが、貴方の場合は死んでるのでね。生きているのなら話はまた違うんですが」
「どういう事だ?」
「本来、悪魔は生者に取引を持ちかけます。お前の願いを叶える代わりに魂を寄越せっ…てね。相手の願い叶えた所で背後からブシャーやって魂を頂く訳ですね。あぁ、ここでいう魂はその人の残りの人生…寿命の事です。その分、悪魔の寿命が増えますから。しかし、貴方は死者だ。寿命を頂く事にはならない。故にデメリットは特にありません」
「…それに対するお前のメリットは?」
「異世界のクソ神の無茶ぶりを回避出来る…いやぁ、生殺与奪を握られてるって生きた心地しませんよね。あ、既に死んでましたね!」
「…殴るぞ」
「サーセン」
爺は腹を押さえながら後退さる。
殴って早々に会話に復帰したから効いてないのかと思ったが、割と痛かったようだ。
「…チートも記憶もなくていい。転生するんだろ?記憶は邪魔だし、チートは嫌いだ。…ところで、転生先は人間か?」
「勿論、人間です。ハイ」
「獣人とかエルフとかの亜人じゃないよな?」
「人間です。ホモサピエンスです。もっとも、向こうでは学名なんてありませんが」
「なんと言うか…異世界転生物でのテンプレ的に魔法とかいうファンタジーな物はあるのか?」
「勿論。奇跡も、魔法も、あるんだよ」
「ところで、何で獣人とかドワーフとかエルフを亜人って言うんだろうな?」
「さあ?人間本位で考えてるからじゃないですか?」
「何でエルフ視点なのに、自分の事を亜人って自称するんだろうな?」
「さあ?作者が人間至上主義のクソ野郎だからじゃないですか?」
どうやら、俺が転生するのは変わらず人間らしい。流石に物語でよく見るエルフとかだったら笑える。恐らく人生観が違いすぎて、発狂する可能性も否めないだろう。記憶があったらの話だが。
「えー、チート無し、記憶引き継ぎ無し…これ聞くべきではないと思いますが、取引する意味とは?」
「お前が言うな…まぁ、アレだ。これも何かの縁だし、取引に応じるのも有りかな…って思ってな」
「成程…あ、じゃあここにサインお願いしまーす。東京さんって言うんですか。適当なイジメられそうな名前ですね。これもキラキラネームっていうんですかね」
「からかう奴は物理的に黙らせたから問題ない」
「わあ。清々しいまでの危険思考。あ、俺の名前はありません。何なら名前の無い悪魔さんって呼んでもいいですよ?」
「名前の無い悪魔(笑)さん」
「卸すぞ」
「俺を異世界へ飛ばすってのはどうするんだ?お前に超常現象を起こせる力でもあるのか?」
「あ、そのへんは既に済んでますんで。この川渡ったら、異世界着くのでそれでお願いします」
「は?じゃあここは既に異世界って訳か?」
「いえ、ここはまだ現世界です。まぁ、狭間ですが。とりあえず、渡し舟に乗って向こう側に行くって感じですね」
「…まんま三途の川じゃねえか…」
「話は早い方がいい。あっ、来ましたよ。アレです」
悪魔が指差す先には確かに舟があった。しかし、その舟は想像していた物と違う。
「何で屋形船なんだ?」
「…………まぁ、広くていいですね!」
「おい目を逸らすな」
「ま、まぁ、東さん。これを」
そう言って、奴は何かを手渡してくる。
「餞別です」
手渡されたのは硬貨。額にして166円。
「え?日本の葬式では百円玉までのお金を入れるんでしょう?」
「燃え残るから止めろ」
そんなこんなで船頭らしき人物…鬼っぽい人に硬貨を渡すが、足りなかったらしく舌打ちされた。
「ん?兄ちゃん分かるだろ?この世はカネ、暴力、S●Xって言葉は知ってるだろ?まさかこれしか、持ってない訳じゃねぇだろ?ちょっと跳んでみ?」
カツアゲされた。
仕方ない。うん。これは仕方のない犠牲なんだよ。俺が異世界へ渡るための対価なんだ。恨むんだったらそこの悪魔を恨んでくれ。仕方のない事なんだ。そうだ、こうして俺にボコられるのは仕方のない事なんだ。決して貴方のせいじゃない。避けては通れない道なんだ。本当に仕方のない事なんだ。ね?わかるだろ?って鬼の人を説得したらガクガクと何度も頷いてくれた。
分かり合えるって素晴らしい!
「いやぁ、これは普通にヤバイ人でしたね。まぁ、俺には関係ないですけど」
悪魔が遠い目をしていた。
「じゃあな。もう二度と会う事はないだろうし、会わない事を祈るが」
「そうですね。もう二度と会わないでしょうし。東さん、お達者で」
「ああ、死に際にアンタと喋れて少しは楽しかったよ」
「…………東さん……………男のツンデレはキモいですよ」
「……俺はお前が残念だよ…」
お互いに憎まれ口を叩き、俺は舟に乗った。
頭を抱えながら震えている鬼を蹴り飛ばし、さっさと舟を出すように伝える。しかし、あの鬼、船酔いか?そんな奴が船頭とは…人手不足なのか?異世界ってのは。
川の中程を過ぎた当りから霧が出始め、次第に俺の頭にも靄が掛かり始めた。これは、異世界に渡る兆候なのか?と思った辺りで意識が途絶えた。
**********
ふと思い出す事がある。
それは今世の記憶ではなく、前世と呼べる記憶。今はひどく懐かしい。
誰かと何処か…水の流れる場所で他愛もない事を言い争っていた。
今、俺の隣には絶世の美女が居る。
「全く、魔族というのはこんなにも臭くて、下劣でたまりませんわ!何でこんなゴミがまだ生きているのか不思議でなりませんわ!ケイ様もそう思いませんか?」
「…ああ、そうだな……」
あの悪魔はくそったれな形で俺の願いを叶えやがった。というか、俺の意向はまるっきり無視された。
舟の上で意識を失った後、目覚める俺。小さい身体。明らかに俺より大きい人、はっきりしていく意識。
転生して初めに思った事は、『あの悪魔に嵌められた』という事だ。
どういう訳か、前世の記憶がある事が一点。チートについてはまだ分かっていなかったが、間違いなくあるだろうと思った。事実その通りだったが。
そのチートでもって、俺は勇者へと担ぎ上げられた。俺の意思とは関係なく。
普通、両親とかはそういう理不尽に対して反対するものだろう。前世の両親は今にして思えば、かなり出来た人だった。
今世の両親?諸手を挙げて俺を売り付けやがりましたよ。今頃、俺を売った金で豪遊してるんじゃないですかね?
救国の勇者を輩出した名家って建前で一代限りではあるが貴族待遇になったらしい。
お前ら、俺に感謝しろ。
しかも、俺が救国の勇者?笑わせる。
大体、救国とか言ってるけど、ここ百年程は何もないといえる程の平和だろうが。何から救ったというんだ俺は。
そんな俺は今現在、魔王と呼ばれる者が居る場所へ、仲間(笑)と一緒に進軍している。
イカれたメンバーを紹介するぜ!
異世界転生した俺!
人間至上主義者で人間以外をゴミと見なす、俺の一応の母国であるファラーレン皇国の第三皇女であるミスカティエル!
皇国の宮廷魔導師であるヤエハの一番弟子、リリーナ!勿論人間至上主義者だ!
皇国近衛団出身、比較的良心的な存在、ノーチス!勿論人間至上主義者だ!
と、その他の皆さん(凡そ1500人)。勿論人間至上主義者だ!寧ろ、それしか居ねえ!
まぁ、早い話。
この勇者御一行様の目的は、魔王を倒して魔族と呼ばれる人類を名実共に奴隷階級にしましょうって旅だ。涙が出るぜ。
しかし、人間ってのはどこの世界でも同じだな。前世でも、とある時代まで"黒人"は奴隷ってのが欧州の認識だったし。いや、寧ろ自国民以外は奴隷って認識だったんだろうな。
「ケイ様!そらそろ魔王が潜むといわれる場所に着くようです!」
あー、ハイハイ。皇女様が何か言ってますね。魔王?知ってる。あの場所には居ない。
が、言う必要もない。
俺の気のない返事を緊張してるからと思ったのだろうか、俺を励ます文句を並べ立てる。
ハイハイソウデスネー。オレ、マオウ、タオスー。
この皇女、人間至上主義という点に目を瞑れば、そこそこいい女だ。器量も中々良く、鈴を転がすような声であり、しかも魔法の腕も立つ。リリーナ程ではないが。それと、人間限定ではあるが、優しい。まぁ、あの国自体が人間至上主義だったから、思想については仕方のない事なのだろう。
子供の頃から洗脳してれば、大人になった時に良いコマになるだろうしな。前世の隣国みたいに。
魔導の使い手であるリリーナ。
はっきり言おう。地味だ。本人の性質もあるんだろうが、地味だ。
ただし、残虐性という点では他に勝るだろう。
今までも数多くの魔物や魔族と戦ってきたのだが、彼女の相手は悲惨だった。毎回毎回非道な魔導で凄惨極まりなく処刑されるのだ。しかも、それが他の奴等から称賛される始末。駄目だコイツら。
最後に、ノーチス。近衛騎士団出身の男(28)独身。一応、護衛という名の占領部隊の隊長を兼任している。
一応、他との軋轢のないように腐心しているらしいが、ストレスの捌け口として魔族の子供奴隷を砂袋にするのはどうかと思います。
良心とはなんだったのか。
それと、お付きの皆様(約1500人)。今はこの人数だが、以前はもっと多かった。それもそのはずで、俺達が進軍しているのは魔族が住まう地域。今まで通った地域はファラーレン皇国の占領下になった。故に、兵士達をそこに残していっているのだ。
正しく進軍である。凄いね(棒)。
俺達の旅という名の魔族領への蹂躙劇は約3カ月続いた。
俺達は魔王城と呼ばれる魔王が座する城へと辿り着いた。
その城は荘厳という以外になく、また街並も美しかった。過去形なのは、お付きの皆様がやらかしたからだ。
今は最初に見た美しい光景は見る影もなく、正しく地獄の様相を表していた。
まず、リリーナの広範囲殲滅魔法がいけなかった。あれ一発で街の半分が瓦礫となった。何だろうね?コイツはここを占領するって事聞いてるの?壊しちゃったら利用出来ないじゃん?馬鹿なの?
それを契機に、お付きの皆様が突撃。魔王軍…街の自警団と魔王の配下数人を蹴散らし街へと雪崩込む。
弾ける肉塊、飛び散る脳漿、血と汗と涙とそれ以外の諸々の液体が大地に染み込み、当り一面血の海に染まった。
あれ?捕虜は?あと、奴隷にするなら殺したら駄目だよな?馬鹿なの?
凄惨な光景に辟易としながら魔王城へと入城。入場料とかは無かった。この城は無闇に壊さないように他の奴等に厳命する。
流石勇者様!と皇女が目を輝かせていたが、何にときめいたのかは知らない。
「よく来たな人間の勇者よ!」
最奥へと進むと魔王っぽい人が魔王の椅子っぽい物に座って待っていた。
入城してから、ここまでの道中には誰にも会わなかった。魔王が人払いでもしたのかね?
魔王は精一杯悪役を演じているが、はっきり言って聞くに耐えない。何言ってるんだコイツ…明らかに悪いのこっちじゃん。
魔族としての矜持を守ろうとしたのか、俺には彼女が今世の中で最も輝いた人に見えた。
「…行くぞ勇者よ!」
魔王は決意した顔で此方へ駆けてくる。若干涙を浮かべているのは気のせいか。
ノーチスが俺の前に出ようとするが、俺はそれを制する。せめて最後くらいは俺が相手してやろう。
コイツらに任せると、俺にとって嫌な結末になるのは想像に難くない。
来るなら来い。せめて人としての矜持を保たせてやる。
「下劣なゴミ如きが勇者様に触れられると思うなよ!死ね!!」
魔王が魔炎に焼かれた。アレはヤバイ。確か禁呪に指定されてるものだ。一度火が欠片でも点いたら最後、その生物を燃やし尽くすまで消えない。その炎は生命力に反応し、対象として指定された生物が死ぬまで燃え続けるという禁呪。余りにも残虐過ぎるというという理由で使用するのも会得するのも禁じられた物だ。
「ケイ様!お怪我は御座いませんか!?」
しかも、それを使ったのは、リリーナではなくミスカティエル皇女だという事だ。
何この女怖い。
怪我なんぞ勿論無い。そもそも魔王と俺の間には、未だに5m以上の開きがある。しかも魔法を使うような素振りも見せなかったし、魔力放出の兆しもなかった。
彼女は純粋に剣技で向かってきたのだろう。
それをこの女が邪魔した訳だ。嫌悪を通り越して唯呆れるしかない。
こんな女に、今世の中で最も活きた人を汚された。
燃え尽きた魔王は白い小さな珠を残してこの世から消滅した。
そう、この珠こそが魔王の証であり、魂殻の神器と呼ばれる物。
膨大な魔力を秘めており、これを取り込めば、誰でも即席魔王になれるというチートアイテムだ。即席ラーメンと違って3分も掛からない。
まぁ、大抵の奴はその力の強大さに発狂するらしいが。
この力を御せない奴は直ぐに器に自らの魂を吸いとられる。だが、征する事が出来た場合、溢れる魂の力を奮えるという事だ。
勿論、魂のない俺にはそれは当てはまらないが。
「ケイ様?それは魔族に盗まれたといわれる我が国の神器ですね!取り返してくれるとは流石、勇者様です!」
いやー。大変でしたね。これやったの君だけどね。寧ろ、俺何もしてません。
しかも、盗まれたって…これは元々魔族の物だ。これの存在を知ったファラーレン皇国がついでに手に入れようとしただけの事。取り返すも何もない。
さて、これを、どうするか。
まぁ、言うまでもない。
「…ケイ様?何をしようとしているのですか?」
勿論、これを取り込もうとしてますが、何か?
珠を胸に押し付ける。何の抵抗もなく、胸に入る。
ドクン
無い筈の心臓が跳ねた気がした。
気が付くと俺は朝焼けを独り眺めていた。傍らには、いつも居た皇女…の首とその他の皆さん約300人分の耳。流石に首は多すぎたらしい。
さて、これからどうするか。
俺的にはこの国も、ファラーレン皇国もどうでもいい。敵討ちって奴でもないし。
まぁ、魔王になっちまった訳だし、何処かに城でも構えて勇者が来るのを待つのでもいいかもしれない。
「待て!魔王!まさか勇者が魔王になるとはな!私としても誤算だったよ!しかし、お前の悪行もここまでだ。貴様を殺し、俺が新しく勇者となる!死ねェ!!」
長い台詞と共に斬りかかってきたのは、元近衛騎士団のノーチス。コイツまだ生きてたのか。気が付かなかった。片耳ないし、俺の確認不足だったか。
はいはい。あのまま死んだふりしてればまだ生きられたのにねー。
何の気負いもなく剣を一閃。ノーチスの身体はぐらりと揺れ、崩れ落ちる。
瞬時に首を落とす。これで苦しまずに逝った筈だ。俺の監視のためとはいえ、一応は数ヶ月一緒に旅した奴だ。苦しませるのは本意ではない。コイツらと違って。
さて、本格的に始めるかね?この世界の掃除を。
因みに、俺が悪魔から押し付けられたチートのひとつに、"神託"という物がある。
神様に電話を掛ける気分で連絡出来るものだ。使いようによっては、かなりヤバイものだと思う。
そんな神託だが、これを確認後一回使ってみた事がある。
繋がった相手はこの世界の神。
何というか、お前本当に神様なの?と聞きたくなる軽さだった。
そこで、俺は神様からちょっとした依頼を受けた。内容はゴミ掃除。 増えすぎた人間を殺して掃除するのが任務だ。
因みにこれを達成すれば元の世界での死をなかった事にしてくれるらしい。俺は一も二もなく承諾した。
あの腐れ悪魔との邂逅が亡きものになるのだ。
胸が高鳴る。
その折に軽くチートを更に貰った。
つーか、俺にそんな事頼むんだったら自分でやればいいんじゃね?と思ったが、何でも人間の事は人間同士で決着を付けてほしいとの事だ。
まぁ、確かに俺は人間だけど、異世界人よ?そこはこの世界の奴らに頼むもんなんじゃないの?と聞いたところ『この世界の人間は魂の器が小さすぎて君が言う所のチート、もしくは神の加護を詰め込めない。それに比べて、異世界人は器が大きい。業が深いとも言うのかな?』
業が深い…ね。そういう意味では、あの悪魔の人選は正しかったのかもな。