女子高生の大謀略!
早倉ちゃんは笑みを浮かべたまま、私の方に歩み寄ってくる。
「こんなにも簡単。
かつてのライバルがこれじゃあ面白くないなぁ」
今まで接していた早倉ちゃんとは、まるで別人のよう。
笑い方や無邪気な話し方は一緒だけれど、雰囲気というか、存在感…
「お、お前...誰なんだ?」
メガネ部長も様子がおかしい。
白目をむいて、痙攣しているのか、たまにびくっと体が動く。
「ごめんなさい、アンナ先輩。
その『左腕』、落させて下さい」
にっこり、と笑う顔なのに、冷ややか。
――本能的な恐怖を感じた。
後ずさりしようとしても、がちりと背中は固められている。
早倉ちゃんの華奢な右手が、私の左肩に伸ばされた。
…危機感。
私の声より、
声帯が震える前に、
早倉ちゃんは突き飛ばされた。
「きゃっ」
振りかえると、立っているのは無表情のイリタ。
「イリタ!?」
そのままメガネ部長を殴る。
私の腕を放し、壁にぶち当たる彼は、そのまま動かない。
「…ナニシテンノ?」
面倒くさそうに呟くイリタ。
おもわず駆け寄る私の足は止まる。
この話し方…イリタじゃない。
「…モウヤンナインジャナカッタノ、コウイウノハ」
そう言って振り向いたイリタの眼は、紫色になっていた。
「誰…、イリタじゃない!」
「…ダレデモイイデショ」
イリタはその紫の眼で、私を睨みつける。
突き飛ばされた早倉ちゃんは上半身を起こし、軽く頭を振っている。
「っいたぁ…『闇闇乃』…!
あなたは槌御神の味方なの?!」
ふんと鼻を鳴らすイリタ。
「ヤミヤミノですって...?!
じゃあ、あなたも...?」
つい声をあげて驚いてしまった。
この高校には、いないと思っていたのに。
昔の...『あいつら』の名前を、
こんな時にこんな所で聞くことになるとは。
「まさか、こんな所で会えるとは思わなかったなぁ。
ねー、アンナ せ・ん・ぱ・い」
絶句している私に、早倉ちゃんはあははと笑う。
ぱんぱんとスカートの埃を払いながら、
「とりま、ここまできた以上、こっちもその気でやるから。
次に会った時はよろでーす」
と言って、無邪気な笑顔とともに一年校舎の階段に向かっていった。
残されたイリタと私。
どうやらリエちゃんは気付かずに行ってしまった様子。
イリタの眼は、いまだ紫色だ。
「困ッタコトニナッタネ。
私ダッテ君ニ会イタクハナカッタ。
放課後ニ、生徒会室ニ来ルトイイ。
今度ハ…コノ体ヲ通シテデナク、
私自身ノ言葉デ説明シテアゲルヨ」
にやりっと笑うイリタ。
そのまま、すっと目の色が元に戻る。
「……あれ、アンナ?」
ふにゃっとした、いつものイリタの声。
…安心感。
私はその場に座り込んでしまった。
「ど・どうした。大丈夫か?」
大丈夫、なんかじゃない。
私は元神様。
いざござがあったから人間に転生したのに、
その元神様たちが、まさかあんなに近くにいたなんて。
それに、なんだか知らないけど
狙われている。
こっちは普通の人間なんですけど。
なんなんだ。
転生前みたいな力を使ってたけど、そんなことどうやってできるの?
混乱して放心状態の私に、イリタは優しく声をかけてくれている。
「保健室行くか?
俺も先生に会いたいし」
お前はサボリかよ。
とりあえず、教室に戻ろう。
多分そっちの方が安全だろう。
さっきもあえて人の少ないこの廊下で事件を起こしたのだから。
イリタの腕につかまって、体を起こす。
…大丈夫。
とにかく授業受けて放課後まで待とう。
教室の前まで送ってくれたイリタは、メガネ部長を保健室に連れていくという口実を使って保健室へサボリに行った。
教室に入ると当然授業は始まっている。
だが幸いにも、グループの席移動をしている最中だったので、そのままさりげなくまじった。
授業は淡々と行われ、放課後までは平和な時間が保たれる。
いつもの日常に、昼休みの異常な時間を忘れてしまうほど。
でも下校する早倉ちゃんの姿を見て、思い出してしまった。
「ご、ごめん。ちょっと顧問に呼ばれてるんだった。
先帰ってて」
友人たちと別れ、1F職員室の真向かい…生徒会役員だけが入れる部屋のドアをノックする。
「…どうぞ」
優しいが、低い女子の声。
「…ようこそ、よく来たね」
中央の机には、にやり、と笑う女子生徒。
きっちりと編みこまれた三つあみが、清楚な雰囲気をかもしだしている。
生徒会長、雨宮まみや。
ここの生徒ならだれでも知っている、武蔵野高校初の女生徒会長。
でも改めて、彼女の雰囲気に気づく。
...この感じ。
ぬめーっとした地下の空気みたいな、
このまとわりつく感じ。
「…副生徒会長のイスに座るといいよ。
あいにく、そこしか椅子が無くてね。
…さて、私の事は分かってくれたかな」
副生徒会長の席は、生徒会長の真横だった。
席といってもパイプイスのみ。
私はそこに座りながら、うなづく。
「…私はヤミヤミノ。
転生して普通の女子高生になった。
誰も私のことを知っている者などいないと思ってたんだけど。
まさか校内に『お仲間』が揃っているとはね」
真剣そうな口調とは裏腹に、彼女は頬杖をつきながら、
メモ用紙に落書きを書き始めた。
おやおや?
ネコちゃんとか描き始めちゃったんですけど?




