女子高生は複雑です! 2
血の匂い。
見れば、天国先生は右拳から血がにじんでいた。
さすがに風倉御子の能力に圧倒されている。
「お前は闇闇乃の蟲ですか。
人の形では辛いだろうに、自愛するです」
風倉御子の嫌味に、天国先生は鼻で笑う。
「せめて犬って言ってほし~な~。
…主の命令に我らの身の無事を祈っている節はないから~
失敗するときは~、死ぬ時なんですわ」
ゆるい感じで言うと、左の人差し指を風倉御子に突き付ける。
口の中で言霊を唱える天国先生。
「…カグニイナ・クラニイナよ…
—鎖欲しくば、我が指先の想いを辿れ!」
風倉御子は弦を弾いて、三層のガラス壁を一瞬で構築する。
そのガラス層を、なにか二つのモノが順に貫いていく。
三層目のガラスを破った時――
風倉御子の指はもう一度弦を弾き、そのまま一歩下がる。
轟音。
目の前には下と上からコンクリートの岩が突き出していた。
「ふん、カグ・クラの使い手も大したものです。
この器の指に傷をつけるとは…」
岩が崩れると、なみっちの右人差指の爪が割れていた。
だが、今までガラスを突き破った何かの気配は消えていた。
「ん~…空間の圧縮まで行ったのか~…
カグ・クラ、空間精霊の弱点知ってたんか〜」
「我が力を見くびるなです。
これで、しばらくは動けないでしょう。
そこへ伏せるですよ」
「…やなこった~」
「要! やめとけ!」
無我夢中で突進していく天国先生に、風倉御子は涼しい顔でまた弦を弾く。
砕かれたガラスの破片の剣が、彼を切り裂く。
あたしは思わず目を覆った。
「要…」
神崎先生の悲しそうな声だけが、あたしの耳に響く。
なんだっていうのよ、この戦いは。
たかが親子の取り合いでこんな血を流すもんじゃないでしょ。
なんでこんなに、犠牲になる人が多いのよ…神様のくせに。
「ふん、蟲が死んだだけです。
悲しむのは勝手ですが、お前が悪いんですよ、槌御神。
…まだ、蟲を身代わりにするつもりですか?」
ギターを構えたまま、風倉御子は悠然と歩いてくる。
神崎先生は、ぎゅっとあたしを抱える腕に力を入れた。
「ふん、護り専門の片割れの蟲ですか。
―――退いた方が、身のためですよ?」
「はン!
…ただ守るだけの力じゃねェんだよ」
軽口を言った後、神崎先生は口の中で言霊を唱える。
「影、四方を囲め!」
足元の影から、黒い靄のようなものが立ち上がり、あたしと神崎先生を囲う。
「影、前より劈け!」
その靄が次々と剣のように先が鋭くなり、風倉御子に突進していく。
「ちいさな技です」
嘲り笑いながら弦を掻き鳴らし、割れたはずの蛍光灯に明かりを灯す。
あまりの眩しさに目を覆う。
それらは元々が影な為、神崎先生の足元にひっこんでしまった。
「お前らは元より影と虚無から生れし愚在。
器の身とはいえ…神に一矢報いようなどと、思いあがるのも大概にした方がいいです」
「うぐっ!」
「先生!?」
あたしを抱えたまま、前に倒れこむ先生。
神崎先生の背には、大きなガラスの破片が刺さっていた。
「先生!!!」
「ほら。
お前のせいでまた…平和なる世が乱されたですよ」
あたしの前にしゃがみこみ、冷たい瞳で睨みつける風倉御子。
「やっと二人きりになったですね」
その言葉を言われた時、なぜかあたしは全身総毛立った。




