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8 弘左衛門の好物

 8 弘左衛門の好物


 そう叫んで、男の子がポケットから紙袋を取り出す。ガサガサと音をたてて袋を開ける。たちまち、あたりに一面に弘左衛門が大好きな甘い香りが広がっていく。

「ほーら、一緒に行ってくれたら、これをあげるよ」

「ジャ、ジャムパじゃ!」

 弘左衛門が本当に嬉しそうに叫ぶ。甘い香りで包まれた気品ある味のキムラ屋のジャムパンは弘左衛門の大好物なのだ。

「しかたがないなあ」

 鼻をクンクンさせると弘左衛門が答える。

「今回だけじゃよ」

「オーケイ!」

 男の子が弘左衛門にジャムパンを渡す。弘左衛門は、まるで食べ終わってはなるものかとでもいうように、ゆっくりゆっくりとジャムパンを味わいつくしている。

「まったく、しょうがないな」

 と肩を竦めながらその光景を眺めていたシュレーディンガーがそっと呟く。

「弘じいさんも、あのハラペコ怪獣と大差ないな……」

 大乗寺啓之助が苦笑している。

「さ、行こうか!」

 十分ほどかけて、やっとのことで弘左衛門がジャムパンを食べ終えると男の子が言う。

「出発だ!」

 元気よくそう叫ぶと男の子が、いまだに渋い顔をしている弘左衛門の広い背中に、よいしょ、とまたがる。いつのまにか、ふっとテレポーテーションをして、自在猫のシュレーディンガーも弘左衛門の背中に乗っている。瞬間移動能力はシュレーディンガーの特殊能力のひとつだ。

「気をつけて行くんじゃぞ! 危ないと思ったら、すぐに引き返してくるんじゃ」

 すいと空に飛び出し、瞬く間に見えなくなっていく男の子たちに向かい、大乗寺啓之助が大声で叫ぶ。テレビの中の、いまやトキオタワーをほとんど食べ尽くさんとする宇宙大怪獣をじっと見つめ、考え深げにこう呟く。

「あの怪獣の腹の減り方は尋常ではない。きっと秘密があるはずじゃ!」


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