29 改心
29 改心
そこまで言うと小さな男の子は、ふっとテレビの画面を見つめる。六十インチの大型受像液晶の中には、なんでもたべちゃうゴンの姿が映っている。
自分が食べてしまったビルやタワーの破片、それに夢の島のスクラップなどを材料に、彼がいうところの芸術的才能を遺憾なく発揮したビルやタワーを再建造しているシーンが映されていたのだ。それは、お腹が異常に減るという不健康状態を改善され、彼が改心したための行為だ。
世紀の宇宙大怪獣が熱心に働くそのそばで、例の小学生を含めた小学生の集団が、
「もっと、カッコよくつくろうよ!」
とか、
「あ、そのとんがりかたは、オーケイだ!」
とか叫び、なんでもたべちゃうゴンを応援する。
一方、別のチャンネルでは、国際世論がグチャグチャ状態になっていることをニュースキャスターが報じている。全世界の核保有国は、望むと望まずにかかわらず、すべての核兵器を失っている。また非核三原則を唱える国家に核ミサイルを発射してしまったのだから言い訳が難しい。
「もっとも核兵器がなくなり、通常兵器による戦争がしやすくなった――軍需兵器の生産により軍事産業が活性化する――と考えている輩も大勢いるわけじゃが……」
大乗寺啓之助が世界情勢の裏を突いて悲しそうに呟く。
「そういった軍人的発想による非平和思想の核廃絶運動も、このところ盛んだったわけじゃしな」
「どうしてみんな、戦争なんかしたがるんだろう?」
と小さな男の子が大乗寺啓之助の発言に首を捻り、考え込む。
「みんな、平和に暮らしたいとは思わないのかな? ボクには地球人がそんなにバカだとは思えないんだけど……」
「むろん、そうじゃよ」
と大乗寺啓之助が小さな男の子に同意する。
「もちろん、わしもそう思うし、そう信じたい」
その言葉に弘左衛門とシュレーディンガーの二匹も重々しくうなずく。弘左衛門は口をへの字に曲げ、シュレーディンガーは両目をカッと見開いている。
「ウン、ボクもそう信じているよ!」
腕組みをして首をわずかに左に傾げると、小さな男の子が静かに言う。
「遠い宇宙からやってきた大怪獣さんだって、悪い心を捨てたんだもの、地球人にそれができないわけがないよね」
沈黙。
「あとの心配は、宇宙に飛び出していったミニ・ブラックホールだけじゃな」
大乗寺啓之助が最後にそうポツリと呟いたとき、シュレーデインガーが天文台の電波通信を捉えて報告する。
「どうやらミニ・ブラックホールは蒸発した模様です。たった今、その信号が観測されました!」
「えっ、でも、ブラックホールの量子崩壊が起こるには条件が……」
男の子が首を捻る。すると、それまでぽーとしていた空飛ぶセントバーナード犬=弘左衛門が、
「きっと核ミサイルをお腹いっぱい食べて満腹したせいじゃろう」
と自分の考えを述べる。
「違いないな」
すると弘左衛門の発言にシュレーディンガーがすばやく同意を示す。
「たぶん、それが人生というものなのさ」
なんでもたべちゃうゴンの口調そっくりにシュレーディンガーがそう呟く。(了)
これで終了です。
読んでくださった方々、ありがとうございます。
実はこの後、「小さな男の子とお菓子な仲間」に続くのですが、しばらくお休みします。




