俺の覚悟
この話を読む前に、「あじさい。」という作品を読んでください。
所属するサークルで書いたものですが、それがこの話の前話ですので。
「あじさい。」→「http://ncode.syosetu.com/n5087by/6/」
中学の頃、俺は余命を告げられた。
「貴方の寿命は、10年というところでしょう」
正直、驚くことはなかった。
横でおふくろが号泣をして泣き喚いたが、
俺はなんとなく、その事実に気が付いていた。
産まれた時には既に、心臓が悪かった俺。
それに関しての手術も含め、
俺はこれまで、何度か手術を受けてきた。
だからこそ、同年代の奴になら、
手術数で圧倒的大差を付けて勝つ自信がある。
だが、そんな勝負に勝ったところで仕方がない。
おふくろが泣く事実を消すことはできないのだから。
しかし、俺はこれといって死に恐怖を感じたことはない。
むしろ、やりたいことも、やってみたいこともない俺からすれば、
生きている意味なんてないのだから、死すら受け入れてやる勢い。
だが、おふくろが……、
それに、一応、おやじが泣く姿は見たくはない。
誰かを苦しませるなんて、俺は嫌だ……。
だが、俺は医者に宣言された。
「お前の寿命は長くない」っと。
なんとなく気付いてはいたが、少しだけ現実を見せられた。
それからしばらくして、俺は始めて人を好きになった。
今まで、『どうせ死ぬんだから、他人とは深く付き合わない』
『深く付き合ったとしても意味がない』という精神で生きてきた。
だからこそ、俺は他人に対して笑いかけたことはなかった。
出来るだけ、必要以上に他人と接する機会を避け、
出来るだけ、相手に興味を持たれないように生きてきた。
しかし、お前に出逢い、そんな俺の中での常識は覆る。
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少し前の話で、小学生の時の話。
心臓は弱かったけど、手術で随分と良くなり、
体力をつけるために、空手を習うことになった俺。
余命を宣告されてからは、一度も道場には行っていないが、
それまでは週3,4くらいのペースで道場に通っていた。
そんな風に体を鍛え、
そして、他人との関係を極力避けていたからだろうか?
俺はさほど力の加減をしないまま、
雨の日に出逢った女の子を痛めつけてしまった。
個人的には、軽く手を捻っただけの話。
だが、相手にとっては、そうでもなかったようで、
俺は連絡先を無理やり聞き出され、詫びをすることになった。
俺はその連絡を待っている間、そいつのことを考えた。
最初はムカついただけ。
だが、しばらく考えていると、あいつの照れている姿とか、
あいつの「カシにしておくから」と言った時の口角の上がり方とか、
そんな細かな仕草とかが気になり始めて、頭から離れなくなった。
『そういえば、朝の占いで、運命の人に出逢うと言われたな……』
そんなことを、ふと思った。
だからか、俺はあいつのことを好きに思えてきた。
考えれば考えるほど、あいつの顔が頭にしつこく残る。
はっきりと、好きと思えたわけじゃない。
ただ、なんとなく、運命に思えた気がしたんだ。
だから、俺は返信し終えた後、
おふくろがおやじから結婚の申し出を受けたという、
大人の雰囲気溢れるレストランの予約を取った。
だが、そんなとこに行ける大金、俺にはない。
バイトをしたくても、持病のせいで出来ない。
学校だって、その日の体調で休んだりするのに、
そんな軽い気持ちでバイトができるはずがなかった。
だから、俺は今まで貯めてきた小遣いと、
それだけじゃ足りないと思ったから、親に頭を下げた。
だが、しかし、理由を言うと、二人とも反対。
「中途半端な気持ちで、しかも、出逢ってすぐ行くところじゃない」
っと、おふくろは猛反対し、 おやじは静かに頷いた。
けれど、俺は本気そのものだった。
それは好きとかそういった気持ちじゃなくて、どちらかと言えば、
“俺と言う人間を知って欲しいという”訴えの表れだったのかもしれない。
言い換えれば、
俺という人間を家族以外の誰かに覚えておいて欲しかったのかもしれない。
だから、俺は真剣な気持ちで、もう一度土下座をした。
「俺は誰かを喜ばせたことがない」
「そりゃあ、俺の寿命が延びれば、二人は喜ぶだろうけど、
俺にだって普通の暮らしを味わう権利が少しくらいあってもいいだろ?」
「恋をすれば、寿命は縮むかもしれない」
「けど、もしかしたら、そいつのためにと思って延びるかもしれない」
「わからないだろ?どっちに転ぶか……」
「確かに、無理に外を出歩けば、体を痛めるかもしれない」
「だけど、今日も俺は元気だ!」
「朝は送ってもらったから、別に傘はいらなかったけど、
おふくろが急用で来れなくなったから、俺は傘なしでバス停に行った」
「ずぶ濡れで、風邪引くかとも思った」
「体壊すかとも思った」
「だけど、それはあいつも同じで、ずぶ濡れだった」
「けど、きっとあいつも俺も、風邪を引いちゃいない」
「俺は、無理をしなければ、普通の奴と何も変わらない」
「だったら、俺にだって、普通の生活がしてみたい」
「確かに、出逢ってすぐの奴と行く店じゃないのは認める」
「けど、思った時に行動しないと、手遅れになるかもしれない」
「だったら、俺の思うようにさせてくれないか?」
「初めて、家族以外の誰かを喜ばせたいと思ったんだよ」
「ダメかな?」
それを言い終えた頃、俺は必死さからか、泣いていた。
しかし、その必死さが伝わったのだろうか、
おやじがずっと閉ざしていた口を開いた。
「そんなに大切に思える相手だとしたら、
いやっ、まだよく知らないのだから、可能性の話だが、
とにかく、そう思えそうな相手なのだとしたら、行って来い」
「金は気にするな」
「あと、お前は普通だよ」
「別に、病気があって、少し激しい運動ができないだけだ」
「それ以外は、お前は普通の奴と何も変わらない」
「そんなこと、お前に言われずとも、俺達が一番わかってる」
「だから、自分のやりたいことがあるのなら、好きにするといい」
「俺は、 いやっ、母さんも、応援するから」
「だから、頑張れよ」
そう言って、おやじは泣いている俺の背中を摩った。
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正直、うまくいった自信なんてなかった。
クレープ屋で、“カップル限定”という表示を見たときは驚いた。
まさか、お前も俺のことが好きなのか?っとか考えたりした。
それに、デートの最後に、キスをしたことを、自分でも驚いた。
女の子との接し方が、あれで良かったはずがないのはわかっている。
うまくいったのが偶然の賜物だったということは、十分わかっている。
けれど、それでも、俺はあいつと付き合うことに成功した。
少し成り行きな感じもあるし、偶然が重なりすぎている面もある。
けれど、俺は無事、高校を卒業して、大学も一緒のところに通った。
そして、俺らの初デートの日、
あの記念日が、あと1月後に迫っている。
俺はその日、あのレストランで告白をしようと思う。
俺の病気をまだ告げていないから、そのことを告げようと思う。
そして、はっきりと結婚出来ないことを言おうと思う。
あいつと幸せになりたいのはやまやまだが、
あいつの第2の人生を考えると、俺は結婚なんてできない。
やっぱり、すぐ死ぬ奴と結婚なんてしたくないだろうし、
何よりも、バツ1というのは印象が悪いと思うから。
だから、俺は結婚を諦める。
けれど、もし、あいつが許してくれるのなら、
俺は同棲したい。 結婚生活的なものを味わいたい。
欲深かもしれないけれど、
俺だって、そのくらいの幸せは欲しい。
あいつがもし、望むのなら、
他の望みはなんだって叶えるから。
だから、俺にもう少し夢を見させてくれないか??




