色なしアオとあかいろさん
ボクの名前はアオ。
色なしのアオ。
色なしの世界に住んでるの。
色なしって知ってる?
色なしって言うのはね、その名の通り色がないの。
色なしの世界は全部まっしろけ。
お空も地面もまっしろけ。
いつもいつも雪が降っているんだよ。
そんなまっしろけな世界だから、ボクたち色なしはお互いに見えなくなっちゃうの。
だからね、皆鈴を鳴らすの。
ボクはここにいるよって言ってるんだよ。
だけどボクには鈴がない。
持ってないの。
だってボクは鈴を鳴らさなくても、すぐに見つけられるから。
ボクの名前はアオ。
色なしなのに目が青いんだ。
あかいろさんが教えてくれた。
空と同じ色だって。
空の青を映した目だって。
空が青いのは色持ちさんの世界。
あかいろさんの世界。
あかいろさんは色持ちさんなの。
冬の時期になるとね、空から夜が降ってくるんだよ。
まるで雪が降るみたいに。
だけど雪みたいには積もらないの。
そのまま空になって、空を夜にするの。
色持ちさんの世界には真っ白な雪が降って、ボクたち色なしの世界みたいにまっしろになるんだって。
そうすると、色なしと色持ちさんの世界の境目が無くなっちゃうんだって。
境目が無くなると、色持ちさんの世界のものが夜と一緒に降ってくる時があるの。
ホントにたまに、色持ちさん自体も降ってきちゃうときもあるんだ。
あかいろさんもね、降ってきたんだよ。
ボクが最初に見つけたの。
初めて見る色持ちさんは、その時あちこちが真っ赤になってたの。
だから、あかいろさんって呼ぶことにしたんだ。
色持ちさんの世界から降ってきたものは、鐘打ちの所に持っていかなきゃいけないの。
だからあかいろさんを鐘打ちの所に運んだよ。
鐘打ちは緑色の帽子に緑色のポンチョを着てるの。
帽子もポンチョも色持ちさんの世界から降ってきたんだって。
鐘打ちはあかいろさんが怪我をしているって言ってた。
色持ちさんは怪我をすると真っ赤になるんだね。
ボクたち色なしは、怪我をしても全部まっしろけだからあんまり気付かない。
放っておいてもその内消えちゃうから誰も気にしない。
だけど色持ちさんはすぐに分かるから、ちっちゃな怪我でも大騒ぎとかするのかな?
あかいろさんが、色なしはイタミに鈍感なんだなって言ってたの。
イタミってよく分からない。
イタミって何色?
鐘打ちは鐘を鳴らすんだよ。
色持ちさんが降ってきた時に皆に知らせる為に鳴らすんだ。
色持ちさんは恐がりだから、ボクたち色なしが驚かしちゃいけないから。
だから皆が近寄って怖がらせないように、鐘を鳴らして知らせるんだよ。
二回鳴らすの。
一回の時は色なしが消えるとき。
色なしは周りに溶けるようにいつの間にか消えてるの。
あかいろさんがそれはシンダのかって言ってたけど、シンダって何かな?
何色ってあかいろさんに聞いたら、黒じゃないかなって言ってた。
黒ってイロオチしたの?
色なしが色持ちさんの世界にいくと、イロオチしちゃうんだって。
イロオチすると、まっしろけだった色なしは段々色に染まってゆくんだって。
そして、最後にはまっくろけになって、夜に溶けて消えちゃうんだって。
結局どちらにしろ最後には消えちゃうんだなって、あかいろさん小さく笑ったの。
色持ちさんのあかいろさんは、いろんな笑い方をする。
ボクとかくれんぼした時の笑い方は何かキラキラしてたけど、今の笑い方は何かどんよりしてる。
色持ちさんの笑い方には色があるんだね。すごいな。
色なしはまっしろけだから、笑い方もまっしろけ。
代わりにいっぱい鈴を鳴らすんだけどね。
ボクは鈴がないからおめめをキュッと細めるの。
怒ったときも驚いたときも同じだろって、あかいろさんがまた笑った。
今度はもやっとしてた。
ある日ボクの髪が黄色になった。
あかいろさんといっぱい遊んだから。
あかいろさんが色持ちさんだから。
だからボクはイロオチしちゃったのかな。
そしたら鐘打ちが言ったの。
これはイロオチじゃなくてヌリカエだって。
ボクは色なしと色持ちさんのアイノコなんだって。
だからこれは、イロオチじゃなくてボクの本来の色になっただけなんだって。
イロオチじゃなくてよかった。
でも、アイノコって何かな。
あかいろさんが、ボクの頭を見てタンポポみたいだなって言ったの。
タンポポって何って聞いたら、ボクの髪みたいな黄色い色した花だって。
花かぁ。
色なしの世界にも花はあるよ。
でも、透明な氷で出来た花なの。
色なしの上も下もまっしろけな中だと、どこにあるのか全く分からない。
氷で出来てるけど、冷たくないし柔らかいから手探りで探しても見つからない。
でも、夜が降ってくる今の時期だけその花がどこにあるのか分かるようになるの。
その氷の花は夜の闇に照らされて光るんだよ。
あかいろさんにこの前その花を見せたの。
そしたら、この花は色持ちさんの世界で幻の花って呼ばれてるんだって。
物凄くコウカな薬草なんだって。
そういえば、鐘打ちがあかいろさんの怪我に、この花を手でギュって潰して塗ってたや。
その事でもあかいろさん驚いてた。
この花って少しでも熱を加えると溶けて無くなっちゃうんだって。
色なしは熱くも冷たくもないから大丈夫だよ。
ボクは花をいっぱい摘んであかいろさんに渡したの。
でも、あかいろさんが触った途端溶けて消えちゃった。
色持ちさんの手って熱いんだね。
もうすぐ春になるよ。
春になると夜が止んでまたまっしろけな色なしの世界に戻るの。
そうなる前に、夜と一緒に降ってきた色持ちさんはお家に帰らなきゃいけないんだって。
色持ちさんはまっしろけな世界では生きていけなけないから。
帰るときは鐘打ちのお家の裏の丘を越えてゆけばいい。
あの丘のてっぺんを越えたら色持ちさんの世界。
空が青くて黄色いタンポポが咲いてる世界。
いいなぁって言ったら、あかいろさんが一緒に来るかって言ったの。
だけど色なしが色持ちさんの世界に行ったらイロオチしちゃうよ。
そしたら鐘打ちがボクはアイノコだから大丈夫だって。
それにヌリカエしたアイノコは、これからもヌリカエが起こって色持ちさんに近づくんだって。
だから行きなさいって鐘打ちは言ったの。
ボクはあかいろさんと丘を登ったよ。
周りからリンリンって鈴の音がする。
色なしの皆が見送ってくれてる。
鐘打ちが言ったの。
皆ボクのことが羨ましくて仕方がなかったんだって。
少しでも近寄りたくて、だからボクの周りから鈴の音が止まない日はなかったんだって。
色なしは色持ちに少なからずセンボウとイフを持っているものだって鐘打ちが言ってたの。
センボウは羨むことだってあかいろさんは言った。
イフは怖がることだってあかいろさんは教えてくれた。
ボクって怖いの?
色持ちって怖いの?
そしたら鐘打ちが、白に色が混じればもう元には戻れないからだって言ったの。
混じって混じって、混じりすぎて最後には黒に近くなっていく。
それがイロオチなんだって。
それでも色なしは色に憧れる。手に入らないものだから。
色なしとはそういう存在なのだよ、と鐘打ちが言ってたの。
ボクは丘のてっぺんで振り返る。
夜だった空は白に近づいて、地面は見渡す限りにまっしろけ。
どこに何があるのか分からない。
だけど色なしはそこにいる。
ここだよって鈴を鳴らしてる。
ボクはこんな時、何て言えばいいのかな。
そしたらあかいろさんが教えてくれたよ。
別れの挨拶をするんだって。
でもボク別れの挨拶知らない。
そしたら、あかいろさんが別れの挨拶を皆に言ったの。
ボクもそれを真似して言ったよ。
「さようなら!」
丘を越えたら鈴はすっかり聞こえなくなったの。
振り返ったらもうそこはまっしろけじゃなかったの。
いろんな色があって目がチカチカする。
なんだか胸がもやもやする。
そしたら目の前がぼやけたの。
あかいろさんが教えてくれた。
悲しい気持ちと寂しい気持ち。
それが溢れて涙になるんだって。
ボクは今泣いてるよ。
寂しくて悲しくて泣いてるよ。
別れってそういうものなんだって。
ボクの名前はアオ。
色なしのアオ。
空を映したような青色の目に、タンポポみたいな色の髪。
色持ちの世界はボクが思っていたよりも色に溢れていたよ。
あかいろさんは全然赤色じゃないし、空は青だけじゃなくてピンクやオレンジ、金色になる時もある。
タンポポも花びら一枚一枚微妙に色が違うんだよ。
いろんな人がいて、いろんな思いがあって、感情にも色があるんだって知ったの。
もちろん綺麗な色ばかりじゃないのも知ってるよ。
でも、一日一日全部違くて飽きる事なんて無かったんだ。
だから毎朝、太陽が上るときに挨拶するの。
あかいろさんが別れの挨拶とは別に教えてくれた出会いの挨拶。
新しい今日に挨拶するの。
「はじめまして! ボクはアオです!」
ボクはこれからどんな色と出会うんだろう。
すごくすごく楽しみだな。




