【日記の外の話6】300年後の歴史研究家と観察日記
【珊瑚の月某日 ある歴史学者語る】
英雄リエトは今やダータリア国では知らぬ者がいない英雄譚の主人公だ。
それは、宮廷詩人のアルディスが歌った英雄の詩や、作家ジルが記した英雄リエトを主役とした本が今だに愛されていることからも明らかだろう。
彼らの作品は、演劇の題材や新たな物語の元となり、英雄リエトの話は色々な形で私達の目にいれる機会にあふれている。それほど親しまれた歴史上の英雄がリエト=マレンツィオという存在だった。
歴史研究家としては、アルディスやジルの作品はリエトが生きた時代を研究する歴史資料の一つだ。
アルディスと言えば、歌ではないが英雄譚の大本となったと言われる彼の残した日記がある。それは、我々研究者から当時の状況を読み取れる、非常に重要な物として扱われている。
彼の日記は淡々としているが、その時あった出来事を細く書き記しており、リエトだけでなくその時代の周りの人間達の状況や環境等を調べる歴史資料としてよく利用されている。
ところでこれは眉唾物の話だが、アルディスの記した日記は実は二冊あるという逸話がある。
今世に出ている日記はそのもう一冊の書き写しで、原本とも言える幻の日記帳が他にあるという説だ。
どうして、二冊あるのか?
何故一冊しか世に出回っていないのか?
二冊の日記説を支持する歴史学者も、その謎に対する答えは様々だ。
ある人は、国家の重要機密が記されているため世に出せず、機密事項を削除して書き写した日記が今あるアルディスの日記なのだと言う。
ある人は、日記にはリエトと冒険している道中、巨大な怪物を封印したため使えなくなった。というとんでもな持論を上げる人もいる。
確かに、アルディスの残した歌の数々や親しい者へ送った手紙等と比べ、彼の日記はあまりにも淡泊だ。
意図的に自分の考えを入れないように書いているのでは? という、推測は歴史学者だけでなく、彼の歌の研究者達からもよく言われる話だ。
ちなみに彼の子孫であるメリスルーン家の子孫は、二冊目の存在について否定している。
アルディスが生きた時代から現代にいたっても健在な大魔女オルカなら何か知っているかもしれない。そう考えて聞きに行った者もいたが、彼女の答えは「そんなプライベートな話あたしが知る訳ないって」と、短い物だった。
そうは言っても、大魔女が隠しているのでは? と考える人もいるだろう。
ただし、大魔女の逆鱗に触れた者が羊に変えられて、今も家畜としてどこかの牧場で鳴いている。という伝説があるため、彼女の言葉を表立って疑う恐れ知らずは今の所いないはずだ。
いまだ、存在を見つけられずにいる幻の日記。
もし本当にそんな物が世間に出てきたら、書いてある物によっては歴史が変わってしまうかもしれない。 そんな浪漫を求めて、幻の日記を探す人は少なくはない。
私個人としては、もし幻の観察日記があるのなら、今世に出ている観察日記と見比べてみたいものだ。
あの時代、あの騒動の時、彼は一体何を考えていたのか?
きっと、それが分かる事は未来に生きる我々にとって彼の人となりを観察できる唯一の手段だからだ。




