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前編

恋愛小説って難しい…。

 「薄利多売の男」「エセフェミニスト」「歩く光源氏」「公害レベルの好色男」エトセトラエトセトラetc……。


 そんな浮名を流す学園の有名人、高峰先輩に恋した私は周りが引くぐらい「先輩好きです!愛してます!!」と先輩を押して押して押して押し倒して、

 先輩にひっついて引っ付いて引っ付いてひっつきまわして、もう先輩のパンツになれるんじゃないのってぐらい引っ付いて……


 「そうだね、僕も好きだよ」と先輩が折れたのか根負けしたのか、はたまた嬉しいことに本当の愛に目覚めちゃったのかその辺は謎だが、私たちが嬉し恥ずかし公認カップル、彼氏彼女、恋人同士になったのはつい先日のこと。


 そう……本当につい先日、二人の思いは通じ合い先輩の愛は私へと一直線!今までの恋の安売りはスパッとやめて私だけに特急便でラブズッキュン!!


 先輩に甘える私のことを「僕の可愛い子猫ちゃん」なんて思わずトリハダがたっちゃうくらいさぶい台詞を、今日も昨日も一昨日も先一昨日もそのずーーーーーーーーっと前も、メールでだって言ってはばからないらぶらぶイチャイチャ幸せ絶頂の二人がここにいるって感じだ!!!!


 そう!!!!


 いる!!!!!!







 …いる。



 いるはずだ。なのに……




 「どうかその麗しい顔をあげておくれ子ウサギちゃん。これ以上君の瞳に僕が映らないのなら、僕はさびしくて死んでしまいそうだ」


 切なそうに瞳を潤ませる先輩に……思わずトリハダガたった。


 私は思った。何故です!?そのトリハダもののくそ寒い台詞は私のものですよね先輩!!


 昼休みの中庭で実に生き生きとした先輩と先輩を囲む色とりどりの女子女子女子…まれに購買のおばちゃん。

 

 私たちがお付き合いを初めて一週間、先輩が薄利多売、エセフェミニスト、恋の安売りをやめることは悲しいかななかった。


 



 「……せんぱい」

私は涙した。私の愛は先輩へ届いてないのだと…。



***********************************************




 だかここであきらめるほど私は柔じゃなかった。なんたって先輩を愛しちゃってるもんね私は。


 う~んう~ん、とない知恵を絞って考える。こうなってしまった敗因は何だろうか。

 昼食も三時のおやつも夕食も返上して考える。そこでふと、今までの自分の行動を思い返してみた。


 お付き合い前、「好きだ」と押して押して押しまくったこと。

 お付き合い後、「好きだ」と押して押して押しまくったこと。


はっとした。頭の中にキラーンと星がきらめいた。 これだ!と思った。

 思えば私は先輩に出会ってから一方的に押しまくっていた。先輩が好きだから、振り向いてほしくてひっつき虫と化して押しまくった。

 

 その結果、先輩は私のほうから愛をささやく関係に慣れてしまったのだ。消極的受動的な恋愛関係……なんてことだ!!わたし…恐ろしい子。完全な失敗だった。 

 先人も言っていたのに気付かないなんて私はなんてバカだったんだろう。ほら、恋愛の初歩テクニックで言うではないか「押してダメなら引いてみろ」と。

 

 押すのではない!引くのだ!!


 まるで天啓に打たれたかのよう。あたかも「ウォーターーー!」と叫んだヘレンケラーのような心持とでも言うのだろうか。

 そのときにはそれが私にはとても素晴らしい思いつきに思えたのだった。


 「やるわ!やってやるわよ!!」

恋する乙女は強い。私はやる気に満ち溢れていた。




***********************************************


 先輩への私からの接触を断つ、という苦渋の選択。何度血の涙を流したことか……。


 一週間目、毎時休みの先輩への愛の訪問を朝昼晩の三回にしてみた。

「っ先輩、好きですっ」 「うん、僕も好きだよ可愛い子猫ちゃん」

先輩と会う時間が減った。

ちょっとへこんだ。

 二週間目、毎晩の愛の30分間テレフォンを3分にしてみた。

「っ先輩、好きですっ。お休みなさいっ」 「お休み子猫ちゃん」

先輩と話す時間が減った。

結構へこんだ。

 三週間目、たくさんの愛のメールを一言、一通だけにした。

「好きです」 「僕もだよ」

携帯が静かになった。

だいぶへこんだ。


一ヶ月目、先輩と合わなくなった。

泣いた。

一ヶ月と一週間、電話をやめた。

痩せた。

一ヶ月と二週間、メールをやめた。

キレそうになった。


……二ヶ月目先輩との接点が何もなくなった。


 私の意志は固かった。引いた。引いて引いて引きまくった。へこんでもめげても馬鹿で一直線の恋する乙女は自分を信じて引きまくった。先輩を思いながら…。


 





 引いて引いて、涙も枯れたころ先輩はついに私への恋をぶつけてきた……












 わけがなかった。


 ついに先輩は押しも引きもせず〝私が〝引いた。


 正直に言おう、どん引きだ。


 先輩にも。


 …自分にも。




 まだ最初のほうはよかったのだ。先輩との接触が減っても希望があった。期待があった。ところが私との接触が減るに従って反比例に他の女との接触が増えた。だがしかし仏の顔も三度までという。ぐっとこらえた私は偉い。どんな悪行でもその広ーーーーいお心で仏だって三度は許すのだ。一度くらい二度くらい三度くらい…いやいや私は仏よりも心が広いからね~五度くらい、七度くらい十度くらい……。耐え忍ぶは女がひとり。


 その数が増えるたびに「私は仏…私は仏…」と唱え続けた。余談だがそれを毎日耳にしていた前の席の子は、毎晩延々とお経にうなされるという悪夢を見たらしい。申し訳ない。


 しかし日に日に仏の免罪符も焼き切れ、だんだんと心の奥のほうにたまっていたドロドロとした感情が浮かんできては私の至上の恋心を蝕んでいくのだった。

 

 先輩が好き。薄利多売男。先輩が好き。エセフェミニスト。先輩が好き。歩く光源氏。先輩が好き。発情期の雄。先輩が好き。恋の安売り。先輩が好き。好色。先輩が好き。節操なし。ゴミ屑最低最悪ミジンコ変態ぺド野郎!!!!


 好きと嫌いが混じり合ってごちゃごちゃでぐちゃぐちゃでパンパンに膨れ上がって


 ぱんっ


 と弾けたように


 三ヶ月目の朝今までのことがウソのようなさわやかな目覚め。胸につまったものも取れたようで、まるで悟りきったお坊さんのように澄みきっていた。一つの心理にたどりついたような気持ちだった。


 するとどうだろう、あれだけ愛してるなんて思ってた高峰先輩が最低最悪の無節操野郎で、そんな奴にあれだけもう心的に熱をあげていた昨日までの自分がとてつもない阿呆に思えた。

次で完結する予定です。もうこんな男捨てちゃえよと私も思うのですかね。読んでくれた方に感謝!!!

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