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エルフの棲む農園  作者: (さ)くま


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1/1

さつまいもの収穫(8月下旬〜9月初旬)

8月の終わり。

朝の空気が、ほんの少しだけ乾いてきた。

夏の匂いと、秋の気配がまざり合う時期だ。


畑に出ると、師匠がもう作業を始めていた。

前日に切り落としたさつまいもの葉が、地面に薄く散っている。


「今日、芋を全部掘ってしまおうか。

 稲の消毒も、冬野菜の種まきも迫ってるしねえ」


師匠はそう言って、スコップを土に差し込んだ。

この時期は本当に忙しい。

早稲の収穫も近いし、畑の段取りを間違えると、

あとが全部ずれてしまう。


私は隣にしゃがみ、土をそっと掘り起こす。

さつまいもは、傷つけないように慎重に。

土の中から、大小の芋が交互に顔を出す。


「大きいのは、茎がよう茂っとるやろ」


師匠が笑う。

確かに、葉が濃いところほど、太い芋がついている。


一本掘るたびに、腕が重くなる。

さつまいもの収穫は、見た目よりずっと力がいる。

汗が背中を伝って落ちる。


「せっせと掘らんと、終わらんよ」


師匠は軽く言うけれど、

その声の奥に、長年の経験の重みがある。


「…ほんまに、ジャイアンとのび太みたいや」


よく育った大きな蔓には、

ラグビーボールの子分のような芋がどっさりついている。

これがジャイアン。

その隣に、細い蔓で、

芋も細いものがいくつかついているのがのび太。


なぜジャイアンとのび太になるのか?

条件はさほど違わないのに…。

さつまいもは栄養を嫌うから、

他の野菜でよくある、“肥の入り方の差”ではないと思う。


手を動かしながら考える。しかし答えは浮かばない。


「何で、こんなに差が出るんやろう…」


私はまたのび太を掘る。


「苗の時点で違うんかもなあ。

 立派な苗は、ジャイアンになるんかもなあ」


師匠が答えてくれた。な、なるほど。

それは確かに差が出る要素だ。かなり重要そうだ。

苗選びのときの、真剣そうな師匠の表情が思い浮かんだ。


ようやく全部掘り終えると、

芋と茎を切り離す作業に移る。

切り口から白い汁がじわりと滲む。

放っておくと黒ずんで固まってしまうから、

師匠が手早く土をまぶしていく。


「こうすると止まるんよ。

 黒ずんだら、味が落ちるからねえ」


私はうなずきながら、

土の匂いと、芋の甘い匂いが混ざる空気を吸い込んだ。


全部の芋に土をまぶし終えると、

天日干しにするために並べていく。

二時間か三時間ほど、太陽に当てる。

そのあいだに、切り口が落ち着く。


「芋はね、すぐ食べたらあかんのよ」

師匠が段ボール箱を広げながら言う。

「二、三か月寝かせたら、甘みがよう出るんよ。

 秋の終わりに食べるのがいちばんおいしい」


私は箱に芋を並べながら、

その言葉の意味をゆっくり噛みしめた。

待つことも、農業の一部なんだ。


作業がひと段落したころ、

師匠が「朝ごはんにしよか」と声をかけてくれた。


家に戻ると、

簡素な朝食がテーブルに並んでいた。


最後のトマトがひとつ。

オクラを軽くゆでたもの。

ゆで卵とハム。

頂き物のオレンジ。

そして、トースト。

忙しい時期の朝ごはんは、これくらいでいい。


「今日はこれでええやろ。

 昼も忙しいしねえ」


師匠が笑う。

私はトマトをかじりながら、

さつまいもの箱が台所の隅に置かれているのを見た。


まだ食べられない芋。

でも、秋の終わりにはきっと甘くなる。


その“少し足りない感じ”が、

なんだか心地よかった。


外では、

風が少しだけ秋の匂いを運んでいた。


「今年の天気はどうなるやろねえ…。

 今こんなに雨が少ないと、稲刈り時に雨降るんちゃうやろか」


ミルクコーヒーを飲みながら、

師匠が心配そうにつぶやいた。


「稲刈り時に晴れるように、祈っとくね」


「ほんまやわ」


良い天気が続かないと、稲刈りはできない。

毎年毎年の、心配の種。

同じくらい、毎年毎年なんとなくやり過ごしているけど。


「けど、稲刈りの前に

 今年は早い品種のキャベツとブロッコリーを植えるし?」


「そやねえ。もう、いつ

 畝立てはじめてもろてもかめへんよ」


――畝立て。


畑の土を盛り上げて作物のための高い場所、“畝”を作る作業。

肥料を入れて、耕うん機で田んぼを耕して、

畝立て機で畝を作っていく。


作業の途中に雨が降ると台無しになる、

天気をよく見定めてしないといけない1日仕事。


「今週の天気は…」


ウェザーニュースで今週の天気を確認する。

10日後くらいから雨が降りそう、か…

この雨が本当に降って、その前に定植できたら、

水やりが楽になるなあ。


(ってことは…)


私は日取りを逆算する。…ん、

もう、明日明後日にでもやるのがよさそうだな。


「今日の夕方にでも、石灰やっちゃうね。

 で、明後日畝立てするつもり」


今日夕方に石灰、明日肥料、明後日畝立て。

これだ。



秋が始まってきた。


本当に雨が降りまくっております。

おかげで、まだ稲刈りができていません。

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