第08話 プリンセス・リリーは××が欲しい
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今回はリリー視点です。
ゆっくりと、湯船に浸かる。
「ん……むむむ……!」
足を目いっぱいに伸ばすと端についてしまうから、少しだけ折り曲げて。
王宮の大浴場だとこんなことには絶対ならない。それが少しだけ面白くて、寂しい。
(ワタシ、本当に人間界に来たんだなぁ……)
ようやく一息つけたからなのか、いまさらになって実感が湧いてきた。
知り合いなんて誰一人としていない未知の世界。
そんな場所に今、ワタシはいる。
「御伽守陸人、ね……」
ぽかぽかと温まっていく体を自覚しながら、ワタシは今こうして寛げるよう取り計らってくれた人のことを思う。
「我ながらあれだけのことをしたっていうのに“ここに住んでいい”だなんて……お人好しってああいう人を言うのね」
あの提案をされたとき、ワタシ本当に、心の底からびっくりした。
いったい何がどうしてその結論に至ったのかとか、そういうのが全然わからなくて。
そして、それはきっと。
あの場所にいた、あの人の知り合いたちも同じ気持ちだったはずで。
「詰め寄る二人に向かってスパパーッて答えていって……なんていうか、すごかったわね」
自分の家には人を泊める用の部屋がある。
短期とはいえ実際にホームステイを受け入れた経験もある。
王家の試練が円滑に進むことはおそらく人間界や魔法界双方にとって有益。
事情を知り広く対策が取れる自分の家であれば、対応もしやすい。
まさしく正論って感じに理路整然と言うものだから、気づけばみんな納得させられてたのよね。
「そのくせ、キミの気持ちを聞かせて欲しいって……最後はワタシに選ばせてくれたし。こーんな至れり尽くせりな状況、断れるワケないと思うのよ」
正直に言うと、ちょっと怖い。
あまりにも自分に都合が良すぎる展開すぎて、裏がないか考えてしまう。
人間の中には、魔法の力を悪しき欲望を叶えるために利用する人もいるらしいし。
(でも……)
彼がそうだとは、思えない。
(あんなに物を大事にしてる人なんだもの……あくどいことに手を染める暇なんてなさそう)
観葉植物に、ゲーム機。
よくよく見れば普段使いの道具はどれも手入れがされていて、使い古されていた。
どれも丁寧に扱われてたってわかる、良い古ぼけ方をしてて。
これらが魔法の杖だったら、精霊が宿って前より性能をあげててもおかしくない状態で。
「……変な人」
考えれば考えるほどに、よくわからなくなってくる。
(顔を合わせてすぐの時は、あんなにワタシを警戒してたのに)
今じゃすっかりお客様扱い。
甲斐甲斐しく世話を焼いてきて、道具の使い方とかを親切に教えてくれたりして。
「さっきなんて“着替えも寝床も準備完了してるから、お風呂から上がったら籠の中の服を着て、壁に貼ったテープの順路通りに進んで部屋に行ってね”……だもの! 手際がいいにも程があるわよっ! もう! …………もぅ」
正直……悪い気はしない。
人間界に行くにあたって、ワタシはもうプリンセス扱いされないって耳にタコができるくらい口酸っぱく聞かされてたから。
ただの人間のフリをして、人間界の一員として過ごさなきゃいけないって言われて、実はちょっぴり、怖かった。
(これまでとは何もかもが違う、そんな場所で一人、どうしたらいいんだろうって思ってた)
けど。
結果としてそれは杞憂に終わって、どころか想像以上にいいスタートができそうで。
「………」
でもそれは、一人のとってもお人好しな人が、ワタシにすごく良くしてくれたからで。
「……お兄様、かぁ」
あの瞬間、流されるままに口にした言葉を思い出す。
結構な勢いで投げた言葉だったけど、今口にし直しても、思ったよりも耳心地いい。
「家族、家族……」
ワタシって一人娘だったから、兄弟姉妹の感覚ってよくわからないのよね。
それどころか、家族らしいことっていうのも、よくわからない。
けれど……それを持っている人たちを、少しだけ、羨んでいる。
『すまない、リリー。お前の誕生日だというのに急な用事が入ってな』
『リリー、ごめんなさいね。王族が務めを果たさなければ、巡り巡ってこの国のみんなが困ってしまうの』
『姫様、ここは我慢を。爺めには、王と王妃の苦悩、痛いほどわかりまする……って、ギャー! 何をなさホホゥホーゥッ!!』
パパもママも、側近のみんなも。
いくらワタシが望んでも、ずっと傍には居てくれなかったから。
それが必要だってことはわかってたけど、それでもワタシは、もっと近くに居て欲しかった。
『いいかい? 王とは絶対的な力を持つ存在だ。特にこの国ではそうなんだ。キミはそういうものになるべく未来を約束された、生まれついての支配者たれと望まれた者だ。孤独は常にキミに付きまとう……だから、うんっと強くなるんだよ?』
そう教えてきた家庭教師はどこまでも胡散臭くて、だからこそ説得力があって。
ワタシは孤独だから、そういう生き方をする者だから、そういうのって望んでも決して手に入らないって思ってた……のに。
「……寄りかかっても、いいのかしら」
あの人は、御伽守陸人という人は……たくさんの人と深く繋がっている。
つむぎって子は、事あるごとに気遣われて、守られてた。
みはりって子は、目と目で通じ合っていた。
葉子なんて観葉植物なのに、あんなに強くぎゅーってされて……。
みんなあの人に、大事にされてて。
(……なにかしら。こう、なにかこう……こう!)
言葉にできないモヤモヤしたものが、胸の奥でぎゅーっと締めつけてくる感覚がある。
苦しいような、切ないような、腹立たしいけど、心が外じゃなくて内向きになってるような。
私の知らない何かが、芽生えてる。
『このままウチに住むか?』
「!?!?!?」
刹那。
あの人がこっちを見つめた瞬間を思い出し、カッと頬が熱くなって。
ザバァッ!
「……んもうっ! わからないっ! 考えてもしかたない!」
勢いよく浴槽の中で立ち上がり、むんっとこぶしを握って気合を入れる。
「そんなことより、チャンスなのよ、チャンス! せっかくここに住んでいいって言われたんだもの、最大限活用してみせるわっ! あの人とのことだって、ワタシのあり余る魅力で骨抜きにして、フニャンフニャンのフニャ太郎にしてやるんだからっ!」
いわゆるひとつの結果オーライってやつなのよ、これは!
王家の試練はまだ始まったばかりで、答えも何もわからなくたっていいはず!
「ワタシは人間界で“本当に大切な物”を見つけて、魔法の国に持ち帰るのよ!」
そう!
ワタシこそは魔法の国の次期女王候補リリーネイア・デカルマーニ・エターネーヴァ!
ちょ~っと躓いちゃったけど、こんな程度じゃへこたれないわ!
「パパ、ママ。みんな……ワタシはきっと、試練を乗り越えてみせるわ! だから、大成功したワタシの凱旋を、楽しみに待っててね!!」
ワタシはワタシ。
自分らしく、前向きに!
人間界なんてちょちょいのちょいよっ!
コンコンッ。
「わひゃうっ!? なに!? 誰!?」
「俺だ。陸人だ。度々ごめんな、リリー。湯上がりの飲み物はジュースとミルクどれがいい?」
「飲み物……コーヒー牛乳っ! コーヒー牛乳はある!? お風呂上がりはそれだって書物で読んだわ!」
「……了解。ダイニングに用意するから、順路の途中で立ち寄ってくれ」
「わかったわ! …………行った、わね?」
チャプン。
耳を澄まして、あの人が立ち去ったのを確認してからもう一度、湯船に浸かる。
1秒、2秒……。
「……っ」
なんだかとってもむず痒くて、なんだかとてもこそばゆくて。
いてもたってもいられない気持ちを、どうにかこうにか熱いお湯の中に溶かしていく。
「~~~~~~っ!!」
どういうワケかはわからない、けど。
今のなんてことのない、《《距離の近い》》やり取りが。
「え、へっ。ふへっ。え、えへぇー?」
ワタシの知らない心のどこかにクリティカルヒットしちゃってて。
(なになになになになによこれーーーー!?)
顔が自然とニヤニヤしちゃうの、止められなくなっていた。
お姫様の中に目覚めた何か。
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