第01話 同期(見た目ギャルの研究家)
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今にして思えば。
今日という日は最初からどこか、普通じゃなかった気がする。
「どうした助手くん。さっきからてんで、会話に身が入ってないぞ?」
昼の大学サークル棟。
所属している歴史研究サークル『不思議ノ伝承研究室』――通称『ふでん研』の部室で。
「何か考え事かい? よければこの私に言ってみたまえ」
俺こと御伽守陸人は、白衣を着たギャルに言い寄られていた。
「しかるに今日は、最初の挨拶の時から様子がおかしかった。キミといったら挨拶のハグにも一切反応してくれないどころか、コーヒーの味だっていつもより少し苦かった。実にキミらしくない」
目と鼻の先と数歩先を行ったり来たりでオーバーリアクションを決める彼女、調部つむぎは俺の同期だ。
大学に入ってからの知り合いで、かれこれひと月程度の付き合いになる。知り合って間もないが、ウマが合うのか彼女と過ごす時間はとても楽しく有意義に感じている。
これぞ学友、同期、趣味友って言える対等な関係だ。
「悪い。確かに今日は集中しきれてないな」
「大問題だよそれは! いいかい、助手くん? 私はね、キミの淹れてくれるあの謎ブレンドなコーヒーがないともう頭が回らないんだ。あの絶妙な苦みと甘みのハーモニーが程よく脳をシェイクして……ということでコレはキミにあげるから、新しく淹れなおしてくれたまえ。さぁ、さぁ!」
「わかった、わかったから!」
ぐいぐいと押しつけられる彼女の飲みかけのカップを受け取り、味を確かめる。
なるほど確かに、コーヒーはいつも彼女にふるまう物より少しだけ苦みが強かった。
思ったより、気もそぞろだったらしい。
「お、おう。助手くん。平然とそういうことするのはちょっとズルいぞ」
「味を見ないと直しようがないんだが」
「それはそうなのだがね! もういいから、早く淹れなおすんだ!」
「はいはい」
強引だったり照れたり忙しい同期をよそに、俺は部室内に持ち込んだ自前の道具で、コーヒーを淹れなおす。
それを待つあいだ暇なのか、つむぎは白衣を無駄にはためかせ、謎に格好つけたポーズを決めた。
「日々の研究には糖分とカフェインは欠かせない! そして大人の研究者たるもの、白衣と眼鏡もマストだ! そうだろう、助手くん!?」
もう一度言うが、ギャルである。肌は焼かないタイプの。
あくまで見た目だけ、だが。
「ふっふっふ。見たまえ! 今日も私はカンペキに大人だ!」
ネイルもバッチリ、整った顔立ちにオレンジ色のサイドポニーが揺れている。
調部つむぎは見た目こそ背も高めな完全無欠のギャル美人だが、その中身は典型的な研究家気質のオタクだった。
雑誌のモデルでもやってそうな見た目からお出しされる学者肌丸出しの言動は、詐欺レベルに違和感がすごいと他の同期たちからもお墨付きをいただいている。
そんな面白……個性的な彼女とは、ちょっとした縁で繋がった仲だ。
おかげで俺の大学生活は、退屈とは無縁なものになっていた。
ただそれはあくまでも、常識的な範囲で。
そこに不思議は、ないはずだった。
※ ※ ※
「ん、ん。ふぅー……これこれ、この一杯こそが幸せの味だ♡」
淹れなおしたコーヒーに舌鼓を打つつむぎを見ながら、俺も自分のカップに口をつける。
ぬるくなって苦みが強くなっていたが、気にせず喉に押し込んだ。
「そ・れ・で、何を考えていたのかね?」
「んぐぐっ! あー……えっと」
興味津々といった様子で見つめてくるつむぎに、どうしたものかと考える。
そこまでぐいぐい来られても、大した話じゃないんだが……。
「今朝、占い好きのご近所さんに言われたんだよ。今日のさそり座の運勢は混沌だって」
「ケイ? ……ああ、混沌のことかい?」
「そうそれ。今日の俺の運勢は良いとか悪いとかじゃなくそれなんだと。何が起こるかわからないから、気をつけてくださいねって言われたんだ」
「ふむふむ、なるほどー」
「……話したんだから離れてくれ! 近い近い近い!」
「おっと、これは失礼♡」
話してる間にずいずい寄られて目と鼻の先。
最後の方は体も密着し、スタイル抜群なつむぎの柔らかいところもぐにっと圧しつけられていた。
悪戯っぽくペロッと舌を出しながら離れる様子からも、確信犯の振る舞いだった。
やたらと俺に対するスキンシップが激しいのが、ここ最近の彼女のトレンドらしい。
それも日に日に増加傾向で、こっちはドキマギさせられっぱなしだ。
「まったく……」
「あっはっは。すまない。助手くん相手になるとついつい自分を抑えきれなく……もごもご」
乱れた衣服を整えながら反省する様子がまるでない同期から目を逸らし、改めて今朝の占いについて考える。
(それが原因で気もそぞろになってた俺が言えたことじゃないけども、所詮は占い。良いも悪いもないなんて、当たるも八卦当たらぬも八卦と何が違うのかって話だ)
実際今朝から今まで、特に変わったことは起きてない。
大なり小なり気にかかることはあっても、それもあくまで常識の範囲内だ。
「でも、そうか。混沌か……」
スラリと長い足を組み、椅子に腰かけ深く考えるようなポーズを取る同期。
「つむぎ? 何か気になることでも?」
「いやなに……その占い師さんは、実に“らしい”と思っただけだよ。助手くん」
「確かに、ケイオスなんて言い方は占い師らしいかもな」
「そうとも。星占いはギリシャ神話と関わりが深い。そこに来てケイオスは同じギリシャ神話由来の言葉だから、まさにといったところだ」
俺でも知ってる混沌の言い方としては“カオス”の方が有名な気がする。
そう言われればそうかも程度の、らしい雰囲気ってやつをそこに感じた気がした。
俺としてはその程度のこと、だったんだが。
「うむ。興味深い。実にワンダフルだ」
「お」
つむぎの“ワンダフル”という単語に反応する。
これは彼女の口癖のようなもので、いい意味でテンションが上がってる時に出る言葉だ。
どうやらご近所さんの見せた“らしさ”は、彼女の琴線に触れたらしい。
「良くも悪くもない助手くんの混沌な運勢。これはぜひとも最大限見届けたい!」
席を立ち、再び白衣をバッと広げてポーズを決めたつむぎが言う。
自然と期待感を持たせる所作に、俺も居住まいを正し向きあって――。
「であれば今日は! キミの行く末を見届けよう! 具体的にはお宅訪問だ!」
「……うん?」
――気がつけば、つむぎと一緒に帰ることになっていた。初めてのことだった。
ギャルが白衣を着てるみたいなギャップ好き。
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