第9話 平穏に暮らしたい魔王に妹が出来る。
街に遊びに行った帰りに乗った馬車を襲った盗賊団を倒して、偶然にも魔王の家来だったヴァンパイアの娘である赤ん坊を救出して育てることを決めた。
「オギャ〜!オギャ〜!」
すると家に帰ってきてすぐに泣き出した。
「はいはい、どうしたのかな。」
「またションベンかフンでもしたんじゃないか?」
「かなと思ったんですが違いますね、オムツは汚れてません?」
「ということはお腹空いたんじゃないっすかね?」
「あっ、そうかもしれませんね!」
「村の者から人間の赤ん坊の食事は乳だと聞いたが、ヴァンパイアの赤ん坊はどうなのだ?」
「同じだと思います。乳は血液で出来てますから。」
「そうか、ヴァンパイアは血を飲むことでお腹を満たせる種族だったな、ならリリアン、乳を飲ませてやれ。」
「でっでっ出ませんよ!」
リリアンは顔を真っ赤にした。
「女は出るもんじゃないのか?」
「普通は子供が出来ないと出ませんから!魔王様だって出ないでしょう!」
「我のは擬態だからな。」
「ほら!それが出来るのはチズさんぐらいです!」
「チズ、きさまは出るのか?」
「なっなっなっ何のことだか!」
「隠しても駄目です!私、見たんですから部屋で乳を搾ってる所!」
「へっ変態っす!!」
「誰が変態ですか!」
「オギャ〜!」
赤ん坊はさらに泣き出した。
「お願いです!乳をあげてください!」
「チズ、我からも頼む!乳が出るならあげてくれ!」
「わかったっすよ…」
チズは服を脱ぎ下着を外して乳房を出すと合言葉を唱えた。
「乳腺解放…」
そして赤ん坊に吸わせた。
「チュプ、チュパ…」
「んっ…変な感覚っす…」
「ほう、本当に出たんだな?赤ん坊が喜んで飲んでおる。」
「あんまりジロジロ見ないでくださいっす…」
「なんでだ?」
「魔王様は本当に女の裸とかをなんとも思わない方ですよね、私の裸にすら興味を示さないし。」
「意味がさっぱりわからんな?」
「ハァ。」
リリアンは呆れた表情をした。
「それよりチズはなんで乳が出るのだ?赤ん坊でもいるのか?」
「魔王様はご存知なかったみたいっすけど、ミノタウロス族の女は成人になると自然と乳が出るようになるんっす…」
「そうだったのだな。」
「でも普段は出てないですよね?」
「そっそれは乳腺止めの魔法で乳が出ないようにしてるからっす。」
「だからさっき解放と唱えたんですね。」
「んでどうして隠しておったのだ?」
「それは…」
「シュークリームを作るのに使ってた生乳はチズさんの乳だったからですよ。」
「なっ!そこまで!」
「そうだったのか?」
「はい…」
「それで謎が解けたぞ、魔界には牛がいないのにシュークリームを作れたわけが、しかしそれと隠してたのと何が関係があるのだ?」
「あたいから出た乳を使ってるって言ったら、魔王様が嫌がるかなって…?そしたらショックっすから…」
「嫌がるわけなかろう、チズの乳はシュークリームやソフトクリームみたいな美味しい食べ物が作れるのだぞ。今後もいっぱい使って美味しいのを作ってくれ。」
魔王は純粋な笑顔を見せた。
「よっ喜んでっす♡」
「ぷはぁ。」
「どうやらお腹いっぱいになったみたいですね。」
「マッマ。」
「えっ?」
赤ん坊はチズを見て言った。
「こいつ少しだが言葉が話せるみたいだな?」
「チズさんのことママですって。」
「あたいはママって柄じゃ…?」
「乳をくれたから赤ん坊の本能的にそう認識したのかもしれんな。」
「赤ん坊の本能的にすか…?」
「マッマ、マッマ。」
「かっかっ可愛い♡」
チズは母性本能がうずいたのか、赤ん坊を抱きしめた!
「きゃはは。」
「決めたっす!あたいがママになってこの子の面倒をすべてみるっす!育てるっす!」
〈えっ!〉
「きさま一人で育児は大変だろう?」
「そうですよ、仕事もあるじゃないですか?」
「両立してみせるっす!」
「どうやら本気のようだな、わかった。我らはできる限りサポートに徹することにしよう。」
「ですね、困ったら手助けします。」
「お願いするっす。」
「あう…」
「今度は眠くなったみたいですね?」
「そのようだな。」
「寝かしつけるっす。」
眠った赤ん坊をチズのベッドに寝かせた。
「一段落だな。」
「魔王様、重要なことを一つ忘れてますよ?」
「なんだ?」
「赤ちゃんに名前をつけてあげてないじゃないですか?」
「名前か、チズ、きさまがつけてやったらどうだ?」
「なるほど、ママですもんね。」
「あたいは魔王様につけて欲しいっす。」
「我がか?」
「それがいいと思うっす。あたい達の主でこの家で一番偉いんっすから。」
「私も大賛成です。」
「ふっふん、そこまで言われたら仕方ない、我が名前を考えてやるか。」
「頼むっす。」
「いい名前にしてあげてくださいね?」
「リリアンめ、変なプレッシャーをかけるな…?」
魔王は頭を捻った。
「思いつきましたか?」
「どうっす?」
「"リズ"はどうだ?」
〈リズ。〉
「全員の名前からとったんですね!リリアン、リリィのリとチズのズ!」
「まっまぁな。」
「素晴らしい名前だと思います。」
「あたいも気に入ったっす。」
「ならば決まりだな、赤ん坊よ、今日からきさまはリズだ。」
「よろしくね、リズちゃん。」
「リズ。」
魔王は言わなかったがリズという名前にはもう一つの意味があった、本当の親であるヴァンパイアのメアリーのリである。
「赤ん坊用のベッドも必要だな。」
「明日、村で買ってきましょう。」
「あたいの部屋に置いてほしいっす。」
「うむ、それがいいだろう。」
それからというもの魔王達の生活はリズの育児が中心になった。とはいってもほとんどはチズから懐かれて本人も母になりきっているチズが不慣れながらもおんぶ紐を使い付きっきりで育児を担当して、それを困った時や手が空いた時に助ける形だった。もちろん魔王も子守をした。
「いないない、ばぁ。」
「きゃはは。」
「わっ笑ってくれた。」
「まっお、まっお。」
「もしかして我の名前を言ってくれているのか?」
「まっお。」
「呼び捨てとはいい度胸だな。だが嬉しいぞ、可愛い奴め。」
魔王は笑みを浮かべ、チズの頬を優しくツンツンした。
「きゃはは。」
「このまま元気に育てよ。」
「微笑ましい♡」
「なっなんだよ。」
「魔王様に妹が出来たみたいですね。」
「ふっふん、魔王である我に妹など要らぬわ。」
「素直じゃないですね。」
ヴァンパイアの赤ん坊ということもあって育てるには苦労も沢山あった。弱点である陽の光に当てないように気をつけたり、苦手な十字架は見せないようにしたり、ニンニクも控えるようになった。そんなみんなの努力の結果…
‐三年後‐
「ママ!リリアン!」
「はーい。ご飯、もう少しで出来るっすからね。」
「魔王様と遊んでてね。」
「だって!まおしゃま、あそぼ!」
「よいぞ、何して遊ぶ?」
「つみき!」
「わかった。」
リズはスクスクと元気に育ち、明るく活発な三歳児の女の子になった。そして魔王はリズと一緒にいると無邪気な少女になっていて、すっかり姉妹になっていた。




