第6話 平穏に暮らしたい魔王、ダブルワークする。
「いらっしゃいませ〜、出来立ての美味しいシュークリームはいかがですか〜?」
「おねえさん、一つください!」
「100エミールです。」
「はい!」
「ちょうどですね。落とさないように気をつけてね。」
「わぁーい。」
「ありがとうございました。」
シュークリームを受け取った女の子は母親と帰る際に笑顔で手を振って、魔王(少女姿)もそれに応えた。
「ふぅ。これで合計50個あったうちの30個は売れたぞ、残り20個か。」
「おや、ポーションだけじゃなくてシュークリームも売るようになったのかい?」
「こんにちわ、お隣さん。そうなんですよ、今度から午後からはチズさんが作るシュークリームを販売することになりました。」
「そうなのね。午後もお手伝いしてて偉いわね。」
「それほどでも…」
魔王の幹部であるミノタウロスのチズはちゃんと角と尻尾を消して人間の姿になり、家に住むことになった親戚として村長やご近所の方々に挨拶を済ませていた。多少、ヤンキーっぽい服装に唖然としてたが。
「今度、おすそ分けに来る時に買うわね。頑張って。」
「その時はサービスしますね!へへっ、また褒められてしまったな、って!違うー!なんで我は午後も働くことになってるんだ!?」
それは遡ること2日前の夜、魔王の幹部クラスの家来だったミノタウロス娘のチズが同居人にとして新たに加わり、余っていた空き部屋を使わせることになった時だった。
「やっほー!久しぶりにベッドで寝られるっす!」
「今まではどうしてたのだ?」
「森で野宿したり、雨とか雪の時は洞窟で寝泊まりしてたっす。」
「グスンッ、苦労をかけたな。」
「それは言わない約束っすよ、魔王様。」
二人は涙目で手を握り合い見つめ合った。
「オッホン、しかし、幹部だった人がただ住むだけなんていいんですかね?」
「ほう、何が言いたいっすか?」
「私は日々、魔王様のためにポーション屋の亭主としてポーション作りをして生活費を稼いだり、家事に食事の用意からおはようからおやすみまでお世話して奉仕してますからね、これでも魔王様の役に立っていると自負してますよ。」
「売り子として働かされてるけどな、我…?」
「なのに幹部であるチズさんは何の役にも立たずに同居だけするなんて、いいんですかね?」
「言ってくれるっすね、あたいより階級が下の下っ端風情が?」
「この家での魔王様との同居人としては先輩ですよ?」
普段は大人しいのに今日は真逆に強気なリリアンと喧嘩をふっかけられてキレる寸前のヤンキー気質のチズが火花が散っているように見えるくらい睨み合った!
「おっおい、二人とも落ち着け…?」
〈魔王様は黙っててください!〉
「ひゃひゃい!」
二人の迫力に思わず魔王もビビってしまった。
「いいっすよ、あたいも魔王様の役に立ってやるっす。家事でも料理でも何でもやるっすよ。」
「そこは後で分担を決めるために話し合いましょう、問題は仕事ですよ?働いて私みたいに魔王様を養わないと。」
「きさまに養われてたのか…?我…?」
魔王は目が点になった。
「いちいち役に立ってるマウントしてうざいっすね、だったらあたいもお店をやってお金を稼ぐだけっすよ。」
「ほう、お店ですか?」
「一体、何の店をやるつもりだ?」
「そりゃ決まってるっす、あたいの得意なシュークリームを売るっす。」
「確かにチズの作るシュークリームならお金を取れるレベルだとは思うな。」
「そうっすよね、魔王様のお墨付きもらったっす。」
「ふっ、甘いですね、その考えはシュークリームより甘いです。」
どこからか眼鏡を取り出して光らせた。
「なんすか!いちゃもんつけて!」
「なんだ、そのたとえは…?というかなんで眼鏡をかけたんだ…?」
「食べ物系は数を多く売らないと利益になりませんよ?そんなにシュークリームを作るのに必要な材料を用意出来ますか?」
「生クリームに使う生乳なら無限に用意出来るっすよ。」
「どうやって?」
「きっ企業秘密っす!」
彼女は顔を少し赤くした。
「まっまぁいいでしょう、ほかの材料は?」
「村から調達するっす。」
「わかりました、やれるものならやってみてください?」
「いちいち上から目線で腹立つっすね…?けど、その態度もシュークリームが売れまくって、あんたの売るポーションより利益を上回って吠え面に変えてやるっすから。」
「望む所ですよ。」
「どんどん話がわけのわからんことになってるな… ?」
「魔王様!頼みがあるっす!」
「なっなんだ?」
「あたいがやるシュークリーム屋でも売り子をお願いするっす!」
「我、また仕事が増えるのか!?」
そんなこんなで、なし崩し的に魔王はミノタウロス娘のチズの作るシュークリームを売り子として売ることになったのだ。
「ほええ、50個売り切ったぞ、これで休める…」
「追加のシュークリーム50個持ってきたっす!」
「ドテーン!まだ作っておったのか…?」
「まだまだ序の口っすよ!それよりどうです?売れてますか?」
「ちょうど今、50個全部売れた。」
「やったっす!」
「はぁ。」
「なんでため息を?」
「そりゃそうだろ、こっちとらポーション屋も含めて午前から今まで売り子として頑張ってるんだぞ、疲れるに決まってるだろう…」
「そんな顔しないでください、三時になったら休憩にしておやつにソフトクリームを作ってあげるっすから。」
「ソフトクリーム、知ってるぞ!街に買い物に行った時に屋台で食べた!美味しかったのを覚えている!」
「やる気出たっすか?」
「仕方ない、頑張ってやる…」
魔王は三時の休憩まで頑張り、言われてた通りソフトクリームを食べた。
「甘くてひんやりしてて美味しい〜。」
「確かに味も濃厚で美味しいですね…」
「ふふん、そうっしょ。」
「でっでもシュークリームの方は売れてます?」
「200個売れたっす。」
「たった二時間でそんなに売れたとは、やりますね…?」
「最初は購入客が子供や甘い物好きの女子とかだったんっすけど、その後に森から村に戻ってきた冒険者達がぞろぞろ来て、糖分は疲労回復になるからって買って行っていってくれたみたいっす。」
「明日売るポーション作りに夢中で気づきませんでした…?」
「どうっすか?あんたのポーションより売れてるっすよね?」
「それは数としてはです!売り上げなら私の方が上ですから!」
「何を!」
「何です!」
また二人は睨み合った。
「少しは仲良く出来んのか。」
その原因が自分であることを全然理解していない魔王、それから休憩ののち日が暮れるまでチズの作るシュークリームを売り続けて、一日で300個売った。
「材料費を除いて儲けが26500エミール、最初にしては上々っす。」
「何が上々だ、我をポーションの売り子より長く働かせよって…」
「お礼はしますから。これならリリアン、あんたのポーションより売り上げあるんじゃないっすか?」
「今日の私の売り上げは270000エミールです。」
「私の10倍っすか!負けたっす!」
チズは机を叩いて本気で悔しがっていた。
「ふふん、まだまだですね。」
逆にリリアンは胸を張っていた。
「きさまのはポーション一個の値段が元々高いからだろう…?」
「そうっす!ずるいっすよ!」
「何とでも言ってください。」
「こうなったらシュークリーム以外のスイーツも売るしかない!次は負けないっすからね!」
「望む所です。」
二人は完全にライバル関係になっていた。
「おまえら、本当に我を養うためにやってるのか…?」
それから担当の振り分けでその日の晩御飯はチズが作り、チーズたっぷりのグラタンが出て魔王は美味しいと食べて、リリアンは悔しそうに食べていた。そして寝る前のお風呂にて。
「何できさまが一緒に入っているのだ…?」
「いいじゃないですか。」
湯船に一緒に入っているのはリリアン。
「言い訳あるか、狭いんじゃ。」
「だって聞きたいことがあって…」
「なんだ、改まって?」
「魔王様、チズさんと暮らすってなってからとても嬉しそうで、私との二人ぐらしはつまらなかったのかなって…」
「なわけないだろう。」
「えっ?」
「そもそもきさまがいなければ我はこの世に存在すらしていないし、この村に来てからも世話になっている、少なからず感謝しているぞ。」
「魔王様、珍しく優しい言葉を…」
「まっまぁ、きさまの回復魔法が完璧じゃないせいで奪われた魔力を全回復するまで100年間もかかるハメになったわけだがな。」
「もう、せっかく感動してたのに…?」
だが魔王の優しさにリリアンは胸が温かくなった。
「しかし、不思議に思ってたんだが?チズは300個もシュークリームを作っていたが、あれだけの量を作るには大量の生乳が必要だよな?どこから手に入れてきたのだ?」
「そっそれはご自分の部屋でバケツに…」
「バケツ?」
「はっ!いやなんでも!本当にどうしたんでしょうね!」
「変なやつだな?」
リリアンはポーション作りの合間にチズのシュークリーム作りをこっそり見ていて、大量の生乳の秘密も知っていた。でも魔王には話さなかった。




