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第3話 平穏に暮らしたい魔王、家来の大事さに気づく。

徹夜してたった一個だが手作りのポーションを作った魔王が起きたのはお昼過ぎだった。


「ふわぁ、リリアンの奴はどこに行ったのだ…?」


お茶の間のテーブルにリリアンの置き手紙があった。


[魔王様、ポーション作りで疲れたと思います。なので今日はポーション屋をお休みにしました。

 私は明日やるはずだった素材採集に森に行ってきますね。

 起きたらお腹も空いてると思います。サンドイッチを用意しておきました。食べて英気を養ってください。

  魔王様を慕う家来のリリアンより。]


魔王は手紙を読み終わると頬を赤らめた。


「あいつめ、これでは主として見栄を張ろうとした我がカッコ悪いではないか。」


だが内心嬉しそうにも見える魔王は布がかぶせてあるバケットからそのサンドイッチを一つ取り出して口に入れようとした、その時だった!


「村の皆、大変だー!!」


森から戻ってきた者達が大声で叫んでいた。


「なっ何事だ?」


気になった魔王(少女姿)が外に出るとすでに村の真ん中で人だかりができていて最後尾から覗いた。するとただ事ではない事態を感じとったのか村長が代表して話を聞いていた。


「一体、どうしたというのじゃ?」

「森にC級クラスの魔物、ジャイアントが出たんだ!!」

〈えっ!?〉

「C級魔物のジャイアントがあの森に!?」

「見間違いじゃないのか!?」

「間違えるわけないだろう!」

「あれは確かにジャイアントだった!」

〈そっ村長!〉

「うむ、これは村始まって以来の危機じゃ…」


村の人達が慌てるのも無理もない、なぜならC級魔物は一体だけでも村の一つぐらいなら簡単に壊滅させられるほどの強い魔物を意味していて、そんなC級魔物の中でもかなり上位にいるのがジャイアントなのだ。


「あんた達、冒険者でしょう!戦って村を守ってよ!」

「そうだ!戦ってくれ!」

「無茶言うな!」

「とてもじゃないがこの場にいる冒険者は精々、ランクFからE、C級クラスの魔物を退治出来る実力の奴はいないんだ…」

「じゃあ、狩人の皆は…?」

「冒険者が勝てないのに勝てるわけないだろ…?」

「申し訳ないが俺もだ…」

「すまない…」

〈そんな…〉

「皆よ、村の狩人が狩れるのは普通の野生動物だけ、ましてや冒険者達はよその人間じゃ、無理強いしてはならぬ。」

「でっですが!」

「このままだと村が!」

「生まれ育った土地を見捨てるのは心苦しいじゃろう、じゃが、命には代えることできぬ、すぐに村から避難するんじゃ。」

〈村長…〉

「それがいい!」

「早く避難しないとジャイアントが来て手遅れになるぞ!」

「それしかないか…」

「悔しいけど、私達じゃどうにも出来ないものね…」


肩を落とす村人達、その様子を最後尾から覗いていた魔王はというと家に戻り、ため息をついた。


「まさか村の近くの森にジャイアントが出るとはな、奴は魔界の魔物じゃないから従わせる事もできんし、ましてや今の魔力の少ない我では退治も出来ん…引っ越すしかないか…悪くない村だったし、この村なら魔力が全回復する残り99年まで平穏に暮らせると思ったんだが…なぁ、リリアン?あれっ、リリアン?はっ!忘れとった!それこそあいつはジャイアントが出現した森に出掛けているんだったな!くぅ、あいつめ、なんて間の悪い!」


魔王は頭を掻きながら家の中をグルグルした。


「リリアンを探しに森に行くべきか、それともこのまま我だけでも村から避難するべきか、まっまぁでも元はといえば森に一人で出掛けた奴が悪いのだ。それに魔王である我が家来の心配などすることなどない、あいつなどべつに居なくても我は困りなど…」


言葉とは裏腹に頭にリリアンの置き手紙の言葉が浮かんだ。


"魔王様を慕う家来のリリアンより"


「あいつ、魔力が無くて魔界に帰れない我とは違っていつでも魔界に帰れたんだ、なのにずっと側に…」


それと並行してこの村で暮らしたこれまでの日々まで思い出した。


『魔王様♡』

『魔王様!』

『魔王様。』


すると魔王(少女姿)の目から自然と涙が出た。


「あっあんな奴、居なくても、居なくたって、寂しくなんか…ぐっ!」


家を飛び出した魔王は村を出て森に入り家来のリリアンを探した!


「リリアンー!!リリアンー!!どこだー!!居たら返事をしろー!!してくれー!!」


魔王(少女姿)は必死だった!茂みをかき分けてその際に枝で頬や腕を切ってしまっても、下の木の根っこに足を引っ掛けて派手に転んで膝に擦り傷が出来ても、家来のリリアンの名前をひたすら叫び探した!


「リリアンー!!」


その頃、当の本人であるバフォメットのリリアンはポーション生成に使う薬草や木の実を大方採り終わっていて村に戻ろうと歩いてきた道のりを引き返していた。


「魔王様、もう起きてるはずよね。帰ったらまた大好物の餡子入りお饅頭作ってあげよう。」

‹リリアンー!!›

「えっ?今、魔王様の声がしたような、きっと気のせいよね。」

‹頼むから、返事をしてくれー!!›

「やっぱり気のせいじゃない!遠くで魔王様が呼んでる!まお!えっ!?」

【ホホウッ!!】


返事をしようとしたリリアンの前に例のC級魔物ジャイアントが現れた!


‹キャァァッ!!›

「はっ!今の悲鳴は間違いない!リリアンだ!」


魔王は急いで向かった!すると腰を抜かしたのか尻餅をついたリリアンにジャイアントが両手を広げて近づこうとしているのが見えた!


【ホホホウッ!!】

「きゃあー!!」

「やめろー!!」

「魔王様!」

「デーモン・キング・キック!!」

【ホゴッ!?】


魔王(少女姿)の黒い炎を纏ったキックがジャイアントの頬に見事にヒット!ジャイアントは勢いよく横転した!


「大丈夫だったか、リリアン!」

「もしかして私を心配して探しに来てくれたんですか。」

「かっかっ勘違いするなよ!たまたまだ、たまたま!ちょっとお昼を食べた腹ごしらえに森に入ったらこんな場面に出くわしたから食後の運動にちょうどいいと思って助けただけだからな!」

「そういうことにしておきますね。」


リリアンはあまりの嬉しさに泣いていた。


「とにかく今は逃げるぞ!今の我ではあの不意打ちの一撃が精一杯だ!」

「はっはい!」

【ホホホウッ!!】


しかし、ジャイアントが起き上がり逃さなかった!


「チッ、やはりそう簡単には逃がしてくれないか…」

「どうしましょう!魔王様!」

【ホホホウッ!!ホホホウッ!!】

「えっ?ひどいじゃないか、頬を蹴るなんて?」

「魔王様、この魔物の言葉がわかるんですか?」

「まっまあな、我、魔王だし、何、何?」

【ホウホウッ!!ホホホウッ!!】

「ボクはただ可愛い彼女にプロポーズしようとしただけなのに?はっ!?」

「プップロポーズですか!?」


魔王はジャイアントから詳しく話を聞いた。どうやらジャイアントは種族の性質上、時期的に発情期でお嫁さんを探して子作りに励むらしいのだが、このジャイアントは恋愛に奥手なタイプらしく、住んでいた森では気がつけばカップルだらけでお嫁さんを見つけられなかったらしい、なので少し離れたこの森にまでわざわざやって来てお嫁さんを探しに来たらしい。

 

「そしたらこの森でリリアンを見つけてあまりの好みど真ん中の女性だったから、先走ってプロポーズしようとしてしまったようだ。」

【ホホウッ!!】

「お願いだ!お嫁さんになってくれ!だとよ…?」

「魔王様、私の言葉を翻訳して伝えてもらえますか?」

「あっああ、言ってみろ?」

「お気持ちは有り難いのですが、私はあなたのお嫁さんにはなれません。」

「ホホウッ、ホホウウッ。」

【ガーンッ!ホホウッ!?】

「なぜだ!理由を教えてくれ!だって…?」

「ほかに好きな人がいるからです。」

「ホホッ、ホホウ。」

【ホホウ、ホウ…】

「魔物はなんと?」

「それじゃ仕方ないね、諦める、だそうだ。」

「よかった。」

【ホホウッ、ホホウッ。】

「そうか、ホホウッ。」


ジャイアントはその場を去って行った。


「どうなったんですか…?」

「フラレて落ち込んだし、自分のいた森に帰るよ、って言ったから、我は元気出せよと返してやったまでだ。」

「なんか可哀想に思えてきましたね…」

「じゃあ、嫁になってやればよかったではないか。」

「あっいや、それとこれとは話がべつというか。」

「冗談だ、ほかに好きな奴がおるのだろう?」

「えっ!ええ、まぁ…」

「まぁよい、我は魔王だからな、恋愛などというものには興味はない、深くは聞かないでおいてやる。」

「助かります…」


リリアンは言えなかった。彼女の好きな人、それは魔王のことだとは。


「動いたら余計お腹空いたな、帰ったらサンドイッチ食べるか。」

「あれれ?お昼ご飯のサンドイッチを食べて食後の運動に森に入ったんじゃなかったでしたっけ?」

「ぐっ、またきさまは揚げ足を取りよって…?」

「ふふ、許してください。おやつに餡子入りお饅頭作ってあげますから。」

「仕方ないな…許してやる…」

「ありがとうございます。」


魔王はリリアンの満面の笑みを見てあらためて感じた。自分にとって一年一緒に暮らしてきたリリアンは家来だけでなく家族のような存在になっているのだと、だがそれを魔王も言わなかった。


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