表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

期限切れの神様

掲載日:2026/01/10

「初詣行かない?」


 年越しの瞬間を共に過ごし、酒に飲まれるようにして眠りについた。初日の出はすでに頂点を回った頃。先に起きていた彼女が、僕に向かって、開口一番に言ったのは、その言葉だった。


「今日は人やばいだろ。」


 眠け眼を擦りながら、起き上がる。

 根っからインドア系の僕。


「え~。せっかくだから行こうよ。」


 反対にアウトドアな彼女。


「何万人の願い事のなかで、僕らのが選ばれるわけないじゃん。」


「ん~。」といった表情。それもそうかと彼女は考える。


 そして、口を開いた。


「じゃあさ、私たちが出会った廃村の神社行かない?あそこなら人もいないし願い聞いてもらえるかもよ。」


 新年早々かと思ったが、それは心が高鳴った。

 あの場所は、正反対な僕たちが付き合うことになった理由でもあった。




「こっちの方向だったと思ったけど……。」


 車を走らせる。あの廃村は元々、目的地ではなかった。別の心霊スポットに行った帰りに、たまたま通りかかった場所だったからだ。


「次、右ね。」


 彼女は、よく覚えているようで的確に指示を出してくれる。


 前は、こんなにかからなかったような気もするが、なんとか日が落ちる前に、それらしき場所に辿り着いた。




 車を降りて、木々の間を縫って行くように彼女の後ろを歩く。廃屋、小さな廃校の奥に鳥居が見えた。大層立派なものであったが、手入れはされておらず、いつ傾いてもおかしくなさそうな状態。

 真ん中をズケズケと進んでいく彼女。僕は軽く礼をしてから石段を上がる。

 長い石段の中腹から、徐々に霧がかかりだす。日没までは、まだ時間があると思っていた空も、階段を上りきる頃には薄紫色に染まり始めていた。木々は妙なほど静かで、風一つ吹いていない。

 ボロボロの参道を、二人でゆっくりと歩く。途中で狛犬に手を添える彼女。なぜか、一瞬だけ笑ったように見えた。

 お賽銭箱は朽ち果てかけていたが、拝殿のほうは思ったよりも綺麗な佇まいだった。


 ――ここで、彼女と出会ったんだ。


 同じことを思っていたのか、こちらを向いて小さく笑う。

 貧乏大学生のなけなしの500円玉を賽銭箱に投げ入れる。


 ――ずっと、あなたの隣にいれますように。


 礼を終えて顔を上げると、すでに彼女は石段の手前まで戻っていた。


 残り、3段。


 鳥居の真下に小さな紙切れを見つける。行きには、なかったような気がするが。


 ――おみくじ。


「おみくじ落ちてるじゃん。」


 彼女を追い抜き、右手で拾い上げる。


「開けてみてよ。」


 少しだけ寂しそうに笑う彼女。


「縁起、悪くないか?」


「いいんだよ。」


 どこか説得力のある言葉に僕は指先を動かした。




 ――大吉


 ――恋愛:新しい恋を探すべし。


 ――待ち人:すぐに去る。


 


「来てくれてありがとう。狐に化かされるなよ!」


「え?」


 突然の彼女の声に顔を上げる。


 石段の霧は晴れ、空は青い、さっきまでの静寂は嘘だったかのように木々は語り出す。


 そして、彼女もいなかった。


 全てが、日常に戻っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ