08
「今年もあっついわねー」
「はい」
今日も課題をやってから本を読んでいたら久里子がやって来た。
昨日、買い物にいってお菓子なんかを買ってきておいてよかったと思う。
「あ、聞いたわよ、隼人相手には敬語をやめたんだって? だったら私にもできるわよね?」
「できますけど隼人相手にも戻していくつもりだったんですけどね」
少なくとも学校が再開になったときには敬語の状態がいいかな。
本人が許可してくれていても耳にした他者がどう感じるかはわからないからね。
「戻さなくていいから、はい」
な、何故ここでそんなに圧をかけてくるのか。
「……彼氏さんとはどうなの?」
そして私も矛盾したようなことばかりをしている。
「あー駄目ね」
「あえ、え? 駄目なの?」
私としては「あんたといないときは彼氏とラブラブよ」ぐらいは言ってもらいたいところだった。
「はは、あんたのその反応最高っ。ま、うん、多分お祭り前には終わるでしょうね」
「笑っている場合じゃないよ、それじゃあ隼人が複雑な気持ちになると思う」
「と言われてもね、やっぱり無理なものは無理よ」
いまは切り替えて妥協的なことをしているのに彼女がフリーになったらまた不安定になってしまう。
ただ隼人のことを考えてばかりで彼女が我慢をしてしまうのも問題だ。
だから危うい状態になってしまった時点で詰んでしまっているようなものかもしれない。
「あ」
「だからって隼人のところに戻ったりしないけどね、都合のいい存在扱いみたいで最低でしょ」
「まだ全部言っていないけど……」
「はは、あんたは隼人とくっつけようとしていたからわかるのよー」
仕方がないか、自分だけがよければいいという話ではないから。
気になるだろうからお菓子でも食べて少しでも発散してもらうことにした。
私はその間、本を読むことで出てきた複雑なソレをなんとかしようとする。
「だーめ」
「それなら隼人を連れてきてもいい?」
「んーまあもういいかもね」
よし、連絡せずに直接家までいって連れてこよう。
外にいられている時間が多いほどいまの私にはいい。
家にいったけどいませんでしたとかでもいい、まあ、
「はい――お、史果、こんにちは」
こうしてなにも知らない隼人は普通に出てきて柔らかい笑みを浮かべてしまうけど。
「時間があるなら家に来てほしい、いま家に久里子がいるんだ」
「いくけどそれなら連絡をしてくれたら僕の方からいったのに」
「運動がしたかったんだよ、大丈夫そうだしいこっか」
「うん、いこう」
なんとなく久里子は大人しく教えないような気がした。
まあ、まだ付き合い続けている状態だから数日経過してからなにかが起きて仲を深めて夏休みが終わっても続いていく可能性があるからそれでも悪いわけではないか。
「ただいま」
「おかえりー」
「お邪魔します。はは、久里子ちゃんは人の家でもマイペースだね」
「まあね。それより先に言っておくけど私、無理そうなのよ」
とかなんとか考えていたらあっという間に話して固まった。
「そうなんだ、まあ、無理なのに我慢をし続けるのも違うからね」
「うん、あんたに迷惑はかけないから安心しなさい」
「だけど友達だからね、困っているときに支えるのは普通のことじゃないかな」
彼がこの調子でいてくれれば久里子だって意地を張ってしまうようなこともないだろう。
私よりも遥かに彼女のことを知っている彼がいてくれてよかった。
「それより二人はどうなったの?」
「僕らは特に変化はないかな」
「そうだよ、一緒に課題を頑張っているぐらい」
「ふーん……って、私なんてまだ課題に全く手をつけていないんだけど。ちょっと取ってくるから待ってて」
出ていってしまったから一旦鍵を閉めようとしたところで「史果、いってあげて」と言われて思わず見つめる。
「いまは史果が一緒にいた方がいい気がするから」
「わかった」
「うん、僕は本を借りてから客間で待たせてもらうね」
「うん、いってくるね」
特に慌てずに追っていたのにすぐに追いついてすれ違いになることもなかった。
「本を読んでいるならちょっと待たせてもいいか、家に上がってよ」
「いいよ、それでも三十分ぐらいまでにしよう」
「わかっているわ」
今日はリビングでも客間でもなく彼女の部屋に入らせてもらうことになった。
部屋に入るなりすぐにベッドに寝転んで「最近よく寝られていなかったのよね」と彼女は言う。
「それもやっぱり上手くいっていないから?」
「それもあるし暑すぎるのもあるわね」
「そっか」
「もうこれから夏休みが終わるまであんたの家に泊まろうかな」
「いいよ、ご飯ぐらいなら作ってあげられるよ、暇な時間は本だって貸してあげられるし」
久里子がいれば隼人だっていま以上に来るだろうからその点でも大きいと思う。
少しでも役に立てるのなら嬉しい、まあ本当は新次郎君相手にしていかなければならないことだけど彼女さんがいるからやりづらい。
「はは、頼んでも普通に受け入れてくれそうね」
「久里子と隼人から頼まれてできそうならことなら受け入れるよ」
「よし、落ち着けたから戻りましょ、ちゃんと課題も忘れずにね」
「うん」
課題の方は無理をしなくてもいいもののやりたいと言うのなら止めることでもない。
あとはなにをしにいったのか聞かれないために――もないか、隼人が付いていくように言ってくれたぐらいだから。
「おかえり」
「あんた寛ぎすぎね」
「誰もいなかったからね」
やっぱり私はこの二人が楽しそうに会話しているところを見られればそれでよかった。
だからまだ諦めてはいなかった。
「よ、母さんがこれ持っていけって言うから持ってきたわ」
「あ、美味しそう、ありがとう」
「ちょっと家の前で話さないか?」
「うん、いいよ」
もう暗いけど遠くまでいかないならそれこそ寝る時間までゆっくりしたっていい。
入浴はもう済ませた状態だったから生ぬるいはずの夜風も気持ちがよかった。
「多胡先輩とはどうだ?」
「普通に仲良くできているよ、また久里子との時間が増えたのも嬉しいかな。新次郎君の方はどうなの?」
隼人と話したことが影響したのかもう別れることを選択してしまったのが久里子だ。
いまの言い方だと私が久里子との時間が増えて嬉しいと言っているように見えて、あ、それは嬉しいけど伝わっていないと思う。
ただ、そういう人の大事な情報をぺちゃくちゃ話すのは最低だから彼がわからないままでもいいか。
「俺らの方も仲良くできてて夏祭りに一緒にいく約束をしているな」
「それを聞けて安心したよ」
「でも、史果との時間が減ったのは少し寂しいな」
顔を見てしまったのが不味かった、あまりに真面目な顔で言うものだから固まりそうになってしまった。
「あ、浮気だ」
それでも黙れば変な雰囲気になるから冗談を重ねていくことにする。
「ち、違うよ、というかそんなことを言うタイプだったか?」
「はは、冗談だよ。私はいまあの二人を見ることで忙しいんだ」
「ん? 彼氏がいるのに前みたいな距離感でいるのは不味くね?」
「んー私達もそうだよね……彼女さんに知られたら私、どうなっちゃうんだろう?」
「だ、だから俺達のこれは――あんまり違わないか、あーやりづれえ」
彼は頭をガシガシと掻きむしってから「悪い、これで帰るわ」と残して歩いていった。
見えていないところだからこそ気を付けべきだと思うからこれでいい。
もう少しぐらい夜風に当たるか戻るかで悩んでいる間に「史果ー」と久里子が来た件でどこかにいったけど。
「夜に一人で歩いたら危ないでしょ」
「そう言うあんたは?」
「いま新次郎君が来て話していたんだよ、だから夜に出歩く危機感のない女の子と私は違うよ」
「な、なかなか煽ってくるじゃない、はいいとして私の家に来なさい、夏休みを利用して隼人との時間を増やさないとね」
ということはいま彼女の家には隼人がいるのか。
それなのにわざわざ私のところに来たのはこっちのことを考えてくれたからか。
でも、私のことなら気にする必要はない。
「それは久里子がね」
「あ、まだ諦めていないの? だからアピールをしたりしないって」
「つまらない、恥なんか捨てて頼ればいいのに」
「あんたにだったらするわよ」
今日は急な言葉に咄嗟に反応できない日のようだった。
「おーい?」
「あ……私と隼人の違いは?」
「あんたは私に好意を持っていたわけではないでしょ? だから振られた後にアピールをしたところで全く問題ないじゃない。何度も言うけど、好きだと言われたのに他の人間を選んでおきながら上手くいかなかったからって隼人を選んだりはできないわ」
いこうか、それこそここで長く話していたら隼人を待たせてしまう。
友達がどこかにいっていてもマイペースでいられる人だけど友達と話すために彼女の家にいっているのだから一人の時間は少ない方がいい。
「なるほど。まあ、無駄に抵抗しても私の理想の時間が減るだけだからいこっか」
「はは、いきましょ」
課題をすることで話しかけづらい状態にするのが一番ということで持ってきた。
祭りの前には終わらせておきたかったから丁度いい、頑張らなくても終わるぐらいにはやっていたことがいい方に繋がっている。
「隼人、この子がこそこそと佐々木と話していたんだけどそれについてはどう思う?」
「幼馴染だから話すのは普通だと思うよ」
だけどそのせいで新次郎君はやりづらい状態になってしまっているから微妙だ。
私が女ではなければ隼人と久里子の応援だけをできていればよかったのに。
「ふーん、なんかつまらないわね」
「僕も久里子ちゃんもそこに関しては特に言えることはないからね。まあ、特別な関係だとしても制限なんかできないけど」
「うわ、あんたなんかちゃっかりしているわね」
「そうかな」
ちゃっかりしているのは食べてもらうためとはいえ家から持ってきたお菓子を既にむしゃむしゃと食べている彼女の方だった。
責めるつもりもないけど返ってきてそのまま突き刺さることがあるから気を付けるべきだった。
「うーん、久里子ちゃんは反応してくれないね」
「そっか、じゃあ二人でいく?」
「そうだね、お祭りにはいきたかったから史果がいてくれるだけでありがたいよ」
「そういうのいいから、私は隼人がいてくれるからいけるんだからね」
浴衣なんかはないけど少しぐらいは私の中でマシな服装に着替えてから家をあとにした。
十七時だと張り切りすぎだし疲れてしまうというのと久里子と連絡が取れたら一緒にいきたかったから十八時まで粘っていたのもあって丁度いいぐらいの時間だった。
有名どころの祭りとは違ってローカルな感じだから人が沢山いすぎてゆっくり買えないということもない、なんならちゃんと座れる場所もあるから買ってからも困らない。
とはいえ、二千円しか持ってきていないからそこまで余裕がないのも確かだった。
あとは私が意識しているのは屋台で売っている食べ物ではなくて花火ってところかな。
「あ、やっと反応したと思ったら今日に限って熱が出ちゃったんだって」
「最近寝られないって言っていたからそれが影響しちゃったのかもしれない。隼人、いってあげてほしい」
「え、だけど僕は来るなって、ほら」
「もう、なんで久里子っていつもこうなんだろう」
いまの状態ならそれこそ隼人に対して微妙なことをしているとわかっていない。
「気になる?」
「それは気になるよ、いってなにができるというわけじゃないけどさ」
この時間ならご両親のどちらも帰宅していなくてなにも食べていないなんてこともありえるからお腹が空いているならなにか買っていってあげたい。
花火を楽しみに出てきていてもこういう情報が出てきたら優先順位は変わっていく。
元気になったときに手持ち花火でも三人でやればいいのだ。
「それなら前のときみたいにいってあげてほしいな」
「この前は破る直前までいったけど隼人と約束をして出てきているんだから駄目だよ」
「いや、僕のことはいいからいってあげてほしい」
「それなら隼人も一緒がいい」
「駄目だよ」
いや、一応これは彼の方から誘ってきたのにどうしてなのか。
激しくというわけではなくてもこうして躱されるとその点で微妙な気持ちになる。
「ずーん、私は石になったから隼人が運んでくれなければずっとここに留まるだけだよ」
「はは、せめて表情を変えて冗談を言ってよ」
「このままだと一緒にいたくないみたいで嫌だから」
彼はこちらの手を掴んで移動を始めてから「別にそういうつもりは全くなかったんだけどね」と。
今日は賑やかな場所にいるから聞こえづらいしどういう顔をしているのかわからないから不安になる、手と手が繋がっていても先程のそれで不安定になっているから尚更悪くなる。
「一緒に楽しむのは無理でもすぐにいって戻ってくれば見たかった花火は見られるよね? 戻ってきてくれれば僕はそれでいいんだよ、合計で三十分ぐらいしかいられなくても十分なんだよ」
昼ぐらいしから一緒にいたからか、長く一緒にいられるのも場合によってはマイナスなことになるとは。
「も、もう暗くなるでしょ? 一人で行動したら危ないかも」
そう、私は久里子に対して夜に出歩くな云々と偉そうに言ったのだからブーメランにならないように気を付けなければいけない立場なのだ。
実際は誰からも興味を持たれないといても自衛の精神は大切だ。
あとはやっぱり一緒に出てきたのに別行動とかおかしいからとこの前別行動をしたことを棚に上げて考えている私がいる。
「なるほど、確かにそれはそうだね。なら久里子ちゃんの家には上がらないけど付いていくことはするよ」
「うん、それなら安心だよ、ちょっと時間がかかっても勝手に帰ったりしたら駄目だからね?」
「大丈夫、だから久里子ちゃんのところにいってあげて」
よし、食べられそうなら屋台で買ってきたこれらの食べ物を食べてもらおう。
飲み物なんかも途中で帰って家へ、チャイムを鳴らすとすぐに――出てくるはずもない。
だから連絡をしてみたら開けてくれるみたいだったから待っていると今度はすぐに現れた、近くにいた隼人に対しては不満気な顔をしていたけどね。
「久里子大丈夫?」
「沢山寝たからだいぶよくなったわ。だけど隼人、史果が来ないように一緒にお祭り会場にいっているあんたに来るなって連絡をしたんだけど?」
「僕も一人で待っていようとしたんだけど史果に説得されてね」
「はぁ、これなら史果も含めておくべきだったわ」
「それでも私か隼人が絶対にいっていたけどね」
時間はずれていたかもしれないけどそういうことになる。
「これは勝手に弱った私が悪いだけじゃない」
「弱ったときぐらい頼ってよ」
「いやだから前にも言ったけどあんたには頼ってばかりよね?」
「嘘つき」
「私は嘘を――ごほっ……今日はやめておくわ」
確かにこの話は元気になってからでいいか。
「これ食べられるなら食べて、飲み物もちゃんとあるからね」
「まあ……ありがと」
「うん」
「……来てくれただけでありがたいから花火を見るために戻りなさいよ」
あれ、花火の件を久里子は知っているのか。
彼女に対しても隼人が動いていたからただ誘われただけなのかと思っていたけどね。
「花火は十九時四十五分からだからね、久里子が大丈夫そうならここにいたい」
「なら……お母さんが帰ってくるまではいればいいわ、部屋に戻らせてもらうけどね」
「うん」
そうだ、いってしまったばかりに病人が休めなかったら困る。
ベッドに寝転んでいたら沢山寝ていても寝られるだろうからこちらとしてもその方がよかった。




