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245  作者: Nora_
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04

 六月、雨ばかりのせいで読書が捗りすぎていて困っていた。

 どうしてこんなにも雨音は落ち着くのか、まあ少しはいいところもないと雨が嫌いな人にとっては地獄か。


「ふぅ――え、いたんですか?」


 本を閉じたらそこまで近くはなくても多胡先輩がいて意識を持っていかれた。

 どれぐらいに来てどれぐらいの時間を黙って見ていることに使ったのだろうか。

 時間を無駄にしたくないのであれば相手に任せたりなんかはせずに声をかけるべきだと思う。


「ははは、集中しすぎだよ史果ちゃん」

「すみません」

「謝らなくていいけど気を付けないと自由にやられてしまうかもしれないよ」

「そうですね、多胡先輩から自由にされないように気を付けます」

「あ、あれ……」


 最近は相手を不快にさせずに(多分)友達のようなやり取りができていていい。

 これも神原先輩や彼のおかげだ。


「さ、読書も終わったようだから雨も降っているけどどこかに寄り道をしてから帰ろう」

「それなら本屋さんにいきたいです」

「はは、本当に好きだねえ。だけどいこうか、史果ちゃんと一緒にいられればそれでいいんだからね」


 なるほど、こうやって重ねていくから神原先輩に響かなかったのか。

 大事なのは続けて攻撃することではなくてここだという場面で一撃でやることなのだ。

 だから私に対しての新次郎君の行動は効果的だったという話、私みたいな人ばかりではないから当てはまらない人もいるかとここで捨てた。


「ねえねえ、この人久里子ちゃんに似ていない?」

「似ているとすれば神原先輩がこの人に似ているんですね」

「こ、細かいな。あ~……なんでこうなったのかなあ」


 なんでかはなにも決まっていないからだ。

 でも、最初から絶対に無理だったわけではないからチャンスは貰えていたはずだ。


「会計を済ませてきますね」

「あ、いってらっしゃい」


 会計を済ませつつ、振られたのにここまで気にせずにいられている自分の方がおかしいのではないかと考えることになった。

 だけど私がうだうだ弱音を吐いたところでそもそも誰も聞いてくれない。

 人それぞれに合った態度や行動というのがあるから正解か不正解かは――やめよう。


「付いてきてくれてありがとうございます」

「え、ちょちょ、解散にしようとしているの? 僕、解散はまだ寂しいなあ……? そうだっ、僕の家に来ない? お菓子ぐらいならあげるからさ」

「わかりました」


 家を知っていても上がらせてもらうのは初めてだった。

 男の子の家と言えば新次郎君の家にしか上がらせてもらったことがなかったから結構新鮮だった……かな?


「はい、約束のお菓子――あれ、誰だろう、え、めっちゃ連打してきているんだけど……」

「あ、神原先輩です、私が呼びました」

「あ、そうなの? それなら早く出ないと怒られるよね」


 振られた後も安定して一緒にいられてしまうから好意も捨てられない的なことを考えた私だけど彼の場合はいられなければいられないで駄目だとわかったから神原先輩を呼んだのだ。

 求めているのは確実に私ではないからあのまま二人でいるのは無理だったのもある。


「隼人、私の分もあるわよね?」

「あるよ、久里子ちゃんはいまでも家に来るから好きなお菓子をストックしてあるんだ」

「そ、そこまでしなくていいけどラッキーだわ、史果も呼んでくれてありがとね」

「はい」


 盛り上がっている二人を見ていられる時間が本に触れられている時間の次にいまは好きかもしれない。


「それで誘えたの?」

「それが駄目だったのよね、こう……言葉が出てこないのよ」

「えー久里子ちゃんらしくもない」

「私も驚いているわよ、あんたのときと違ってこうも言葉が出ないんだとね」

「あ、いちいち比べるのはやめていただきたい」


 悪くなりそうになる前に待ったをかけられるのも強いな。

 新次郎君は好きな人との話を全くしてくれないけどされてもなにもしてあげられないからこのままでいい。


「別に馬鹿にしているわけじゃないわよね、寧ろ褒めているつもりだけど」

「それだけ特別ってことでしょ? じゃあやっぱり比べられているよね」

「複雑な男心ってやつなの? 史果を見習いなさいよ」

「史果ちゃんは新次郎君になにも言わなさすぎなんだよ、あと本が恋人すぎる」


 何故かこちらにも飛んできた。

 自分だけが責められたくないのはわかるけど彼女ももう少し気を付けてほしいところだ。

 もう対象はこちらになってしまっているから勇気が出ないだけだということにしておく。

 それなら好きだった相手に正直なところをぶつけられる自分がすごいとなって落ち着いてくれないだろうか――と狙っていたのに余計に酷くなった。


「酷いことを言う子にはこうだ、ダブルデートをしよう!」

「は? あんたなに言ってんの?」

「僕らがいれば情けないところを見せないように頑張れるかもしれないでしょ? だからダブルデートだよ」

「いや無理でしょそんなの。大体、私が嫌よそんなの」


 私も似たようなものだ、そんなことをしたら邪魔にしかならないから遠慮したい。


「史果ちゃんはっ?」

「流石にデートとなれば無理ですね」


 まだそういうことをできる関係でもない。

 幼馴染とただ出かけるのとは訳が違うのだ、ここはしっかり止めておきたい。

 ただのお出かけなら、うん、私でもいいなら付いていくけど。


「うぐはあ!? なんて冗談だけどさ、出かけるぐらいならいいでしょ?」

「それなら多胡先輩と二人きりでいいです、邪魔をするべきではないですよ」

「おお!」

「ま、待ってっ、それだとこっちが心配になるからダブルデートでいいわよ!」

「きたーっ、それなら決定ね」


 何故そうなるのか。

 神原先輩もよくわからない人だった。




「よう史果」

「あれ、新次郎君?」


 知らない人と挨拶をしなければならない前提で来ていたから驚いた。

 きょろきょろと周りを見てみても神原先輩の好きな人はいない、それなら日にちを間違ってしまっただろうかと考えたところで「私が呼んだのよ」と答え合わせをしてくれた。


「もしかして久里子ちゃん……」

「ま、まだ早いじゃない? 流石にいまの状態じゃ見せられないわよ」


 ということらしい。

 彼も出かけられればいいのか「いちゃいちゃを見たくはなかったからこれでいいのかもね」と納得している様子だった。

 まあ、文句を言ったところで変わらないから諦めたとも見える。


「久しぶりに史果と出かけられるからいまワクワクしているんだ」

「はは、大袈裟だよ」


 好きな人ができる前もこれが普通だったけど新次郎君ってもしかしたらたらしさんなのかもしれない。

 恋愛関連の話はしてくれなかったからわからなかったもののこれまで何度も好意を抱かれては振っていたらどうしよう、って、どうしようもないか。


「いや、本当のことだからな、ほら」

「んー普通だね?」

「あれ、そうか?」


 少しも速く感じることもなく至って普通だった。

 だけどそれも当然でやっぱりここに好きな人がいるわけではないから。


「ね、ねえ隼人、あの二人って距離感がバグってない?」

「うん、史果ちゃんも全く抵抗せずに受け入れていて僕、気になるよ」

「おかしいですかね? これが俺らの普通でしたけど」

「これまではそうだったとしてもあんたは好きな人がいるんだからもうしちゃ駄目よ」

「あー確かに、それとこれとは別とはいきませんからね」


 一瞬、こちらの頭を撫でそうになってからやめて「というわけでもうやめるな」と言ってきたので頷いた。


「さ、お喋りもこれぐらいにしていきましょうか」

「そうだね、まずはどこにいく?」

「四人でカラオケとか?」

「それなら二人ずつにしようか」

「は? それじゃあ意味がないでしょ――あ、ちょっと!」


 最低でも一曲は歌いたいだけで積極的にやりたいわけではないから二人でも四人でもよかった。

 というか、もうこちらのことが意識になくてずんずんといってしまったから二人で入るしかなくなった形になる。


「これも久しぶりだな」

「うん」

「史果から歌えよ、久しぶりに聴きたい」

「わかった」


 最低限ができたらあとはジュースなんかを飲んで過ごしていればいい。

 彼が歌っている間、じっと見ていたけど気づかれることもなく、というか多分だけど気づかなかったふりをしてくれていたからいい時間だった。


「ふぅ、ちょっと喉が痛いわ」

「飴食べる? レモン味だから新次郎君も好きだよね?」

「お、おう」

「うん?」

「なんでもない、貰うわ」


 あ、これから時間的に昼ご飯を食べにいくのに長引くかもしれない飴を渡してきたからか、これは考えなしだった。


「まだ出てこないな」

「本屋さんがあるからいってもいい?」

「そうだな、連絡をしておけば大丈夫だろ」


 今日はまだ気になっている本がないからただ見るだけだけどそれがまた楽しいのだ。


「お、漫画の新巻が出ている……けどこれから飲食店にいったりするからな、どうしようかな」

「お金、貸そうか?」

「い、いや、流石にそれはな」

「そっか、だけど欲しかったら言ってね、お世話になってきたからお礼をしたいところだったし」


 カラオケ屋さん代に飲食店代が加わっても千円ぐらいは貸せるだけの余裕はある。

 お世話になったきたから云々はこれまで言おうとして言っていなかったことだけど、なにかきっかけがあった方が借りやすいだろうから出させてもらったのだ。


「お礼か、だけどなにか返してほしくて史果といたわけじゃないからな」

「それならなんでいてくれたの? 幼馴染だから?」


 どうして重ねてしまうのか、これまで我慢していた反動がここで出てきてしまった。


「それは大きい、だけどそれだけじゃないよ。俺が史果といたかったから一緒にいたんだ」

「そ、そうなんだ」

「ん? 顔が赤いぞ、大丈夫か?」


 一瞬、多胡先輩の気持ちがわかりかけてすぐに駄目だと捨てておいた。

 これに比べたら神原先輩なんて考えてくれている方だった。


「お待たせー」

「神原先輩っ」

「ん? ちょっと佐々木、私の史果になにかしたの?」

「していませんけど」


 そう、彼が原因だけど彼が悪いわけではない。

 離れたかっただけだとしても大袈裟にやりすぎたてしまったのかもしれなかった。


「そうなの? だったら史果のこの反応はなに?」

「さ、さあ? あ、顔が赤かったので調子が悪いのかもしれませんね、つまり神原先輩はいま柱替わりにされている……のかもしれません」

「え、マジ? 調子悪いなら外で遊ぶのはやめにして休ませてあげないといけないわよね」


 柱替わりにしているわけではないけどそれについて「なんでよ」とツッコミを入れてくれた方がマシだった。


「き、気にしなくて大丈夫ですから」

「そう? でも、無理そうなら早く言ってよ?」


 頷いて離れる。

 六月でも地味に温かくてありがたかったから少し物寂しい気持ちになったのだった。




「今日だけで財布に大ダメージだ、また貯めなきゃな」

「そうね、デートのときに困るだろうから貯めなきゃいけないわよね」

「あ、今度出かけるんですよね、最悪の場合は前借りですかね」

「癖になると危険よ、無理をしない方がいいわ」

「確かに、奢ればいいわけじゃないですからね」


 飲食店に移動してからはずっとこの感じだ。

 それでも多胡先輩は文句を言わずにジュースを飲み続けている、聞こえないふりをして他のことをすることでなんとかしようとしているのなら上手くいっていると言っていいのかわからないけど。


「史果ちゃん、ポテトでも注文して食べようか」

「はい、半分払います」

「いいよ、今日は付き合ってもらっているんだから僕が出すよ」

「そうですか、それならいただきます」


 正直、新次郎君ともここまで仲良さそうに話せるとは思っていなかった。

 好きな人がいなければ彼女相手に真剣になる新次郎君を見ることができたのかもしれない。

 ただ、それだと彼が頑張って大人の対応を続けなければならなくなるからこれでよかったのかもしれない。


「はいあーん」

「多胡先輩がどうぞ」

「え、それを食べろって?」

「はい」

「あ、あーん……」


 手はちゃんと洗ったから大丈夫だ。

 緊張して手汗をかいたとかでもないしスマホなんかも触っていないから奇麗だと言える。


「この二人おかしいわ」

「そうですね、こんなこと俺もしたことないですよ」

「えーこれまであれだけ盛り上がっておいてそれなの?」

「いや、隼人がおかしいんじゃなくて史果がおかしいのね」


 私がおかしいらしい。


「でも、意外とお似合いね」

「え、そう? 史果ちゃんが大丈夫ならいいかもね」

「そういうことについてはなにもわかりませんが多胡先輩といるのは嫌じゃないです」


 興味を持って彼女が自然と来てくれるのも上手くやれている理由なのかもしれなかった。

 これが最初から二人きりとかだったりしたら私はすぐに本ばかりの生活に戻っていたと思う。


「こういうタイプがハマるとやばくなるのよねえ」

「え、滅茶苦茶積極的になるってことですか? 史果が……?」


 抑えようとしすぎてというか実際に抑えすぎた結果が今回のここに繋がっているから一生懸命に頑張る私は想像しづらい。

 彼に好意を持っても同じような結果になるだけではないだろうか。


「この子だってわからないんだから他人のあんたが知らなくてもなにもおかしくはないわよ」

「いやそうじゃなくて……俺としては史果が本気になっているところを――いや、なんでもないです」

「なーに? 他の男の子に一生懸命になってほしくないとか?」


 その可能性はかなり低い。

 仮に少しあったとしてもレアな私を目撃することになったらなんとも言えない気持ちになるからだろう。


「久里子ちゃん、あんまり意地悪をしちゃ可哀想だよ」

「そうね、悪かったわ」

「別に意地悪とは思わないですけどまあずっと聞かれるのは辛いので終わりにしてもらいたいです」

「わかったわかった。さ、これ以上は迷惑にしかならないから出ましょうか」

「そうだね、久里子ちゃんの家にいこう」


 さあ、次はどこにいくのかと考えていたところでそんな話が出てきた。

 お金があっても毎回使えばいいわけではないから家にいけるならありがたい。


「え、まあいいけどさ」

「よし、レッツゴー」


 とにかく、彼はハイテンションだった。

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