03
「こっちこっち」
「はい」
珍しくもなんともないけど今日は多胡先輩と二人きりだ。
まだ習得できていないから母が作ってくれたお弁当箱を広げて食べ始める。
「今回はマジみたい」
「新次郎君もそうです」
意識して見ていなくてもこっちに連れてくるから勝手に知ることができてしまう。
神原先輩に似ているような子でいつも落ち着いている、でも、明るいところもあるからそういうギャップに惹かれたのかもしれない。
「史果ちゃんはどうか知らないけど僕は捨てられていないんだよね」
「それだけ強い気持ちがあったということだと思います」
自分勝手な告白をしてスッキリしている私がおかしいのではないだろうか。
私と多胡先輩――彼の間に差があるとすれば気持ちの強さとなんとか時間を埋めてくれる趣味の差だと思う。
「いや、いいことじゃないよね、久里子ちゃんからしたら気持ちが悪いだけなんだしさ」
「神原先輩とは一緒にいられていますよね?」
「まあ、ずっと好きな人といるわけじゃないからね」
それなら気持ちが悪いと自らマイナスに考えてしまっているだけだ。
これ以上は踏み込まずに言いたいことを言わないようにして食べていたらあっという間に終わってしまった。
一緒のときに本は読まれたくないだろうから今回は持ってきていない、そのため違うところを見て過ごすことになった。
「ねえ、どうすれば捨てられるかな?」
「誰か他の人に興味を持つのはどうですか?」
すぐには無理でも彼なら卒業式の日まで時間をかけていい。
学生時代中は無理でも死ぬまで沢山の時間がある。
「なるほど、つまり史果ちゃんは相手が欲しいってことだね?」
「え?」
「はは、素直になった方がいいよ、やっぱり史果ちゃんだって振られたのまだ気にしているんでしょ?」
「私は――」
「大丈夫だから、そういう点でもお互いの存在が心強いんじゃないかな」
そういうことにされてしまった。
仲間が欲しかったのだとしたら力になれずにごめんなさいと最初から謝って終わらせておくべきかもしれない。
「すみません、私では力になれません」
「これからも話し相手になってくれればいいんだよ」
「誰か他の人に頼んでください、これで失礼します」
全く知らないけどいまの彼の笑顔を見たくないのもあった。
あとはもう少し緩くしてくれないと本を読めなくなるのも大きかった。
どちらかと言えば本に触れられている時間が減る方が気になっているかもしれない。
「あ、隼人見なかった?」
「多胡先輩ならあそこの空き教室にいます」
「ありがと、またね」
捨てられない原因はこれかもしれない。
好きな人がいちいち探して来てしまうから同じところを延々と歩く羽目になる。
だからやっぱり捨てられた私とのそれは少しの差でしかない。
すごいと褒められたわけでもないものの別に私がなにか他よりいいわけでもない。
「お、どこにいっていたんだ?」
「多胡先輩とお弁当を食べていたの」
「仲良くできているんだな」
「そうだね」
実際は全く違うけど。
でも、間違っているとは思わなかった。
話し相手が欲しいのだとしても敢えて私を選らぶ必要はないのだ。
それこそ神原先輩のお友達さんとかどうだろうか? 同じように明るい人が集まるだろうし好きな人のことをよく知っているだろうから共通の話題で盛り上がれるはずだ。
私も新次郎君のことでお友達さんと盛り上がったことがあるぐらいだ。
「の割には怒っているように見えるな」
「全く怒っていないけど」
「そうか、ただ怖そうな顔に見えただけか」
表情が変わりにくいと何回かマイナス寄りに見られることがある。
相手にも悪いから家では表情筋を動かすトレーニングをしているぐらいだけどどうやら効果は出ていないみたいだ。
今回は外れていても彼が簡単に見破ってくるのも原因だったりする。
「午後も頑張るか」
「うん」
最低限必要なことをしているだけでいいから体力もそう消費しない。
そういうのもあってついつい脱線しそうになる点で私は頑張らなければならなかった。
もし内側でなにを考えているのかわかる先生だったら何度注意されているかわからない。
休み時間は騒がしくしなければどれだけ内で騒いでいても問題はないから落ち着く。
とはいえ、あまりに盛り上がりすぎると本に集中できなくなるのが難点だったりする。
「史果ちゃん」
集中したり緩くなったりを繰り返して放課後、今日も少し読んでから帰ろうとしたところで彼がやって来た。
「それでも僕は史果ちゃんに相手を――痛い痛い……」
「いきなり距離感がやばすぎ、ちゃんと話を聞いておいてよかったわ。史果も困ったら言えって言ったでしょ?」
「私としては終わった話でしたので」
それでもと言ってくれるのであればいいのかもしれない。
新次郎君以外とはいたくないとか彼が嫌いとかでもないからね。
「でもね、世の中には諦めの悪い人だっているのよ?」
「その点でだけは褒められたことがあるからね」
「笑っている場合じゃないわよ、一歩間違えれば嫌われるどころか警察署いきよ」
変なことをすれば嫌われてしまう可能性は普通にある。
「そこまではしないよ、流石に久里子ちゃんからでも言ってほしくないことだってある」
「きゅ、急にマジになるじゃない」
「当たり前だよ、だってそれは問題を起こすような人間だと思われているということなんだからね」
あれ、雰囲気が悪くなってきてしまった。
耐えられなくなったのかこちらの腕を掴んで教室からどんどんと距離を作る彼女がいる。
「なによあいつっ、余裕がなさすぎよ!」
「落ち着いてください」
「……ごめん、だけど一人だとどうにかなりそうでね」
どのような距離感でいればいいのか困っているのは彼女も同じなのかもしれない。
「嫌じゃないのよね?」
「はい、ただ力になれそうになかったので終わりにさせてもらったんです。でも、それでも来てくれるなら抵抗する意味もないですから変えてみようかなと考えているところです」
「そう、あんたがそう決めたならそれでいいと思うわ」
「はい。でも、いまはそれよりもおふたりに仲直りをしてほしいです」
「喧嘩……じゃなくない?」
似たようなことをしたときにどちらかが謝罪をすることでなんとかしてきた。
嫌でこのままでいいならこれ以上は言わない、だけどこのままが嫌なら謝罪は効果的のはず。
「あ、あんたもいてくれる?」
「はい、私は荷物を取りにいかないといけないので」
「あっ、なんかもう本当にごめん……余裕がなかったのは私よね」
余裕があるのかどうかは正直に言うとどちらでもいい。
これからも多胡先輩が来るなら彼女が来ることも増えるわけで、そのときに雰囲気が悪くなるようなら嫌だというだけなのだ。
「は、隼人っ」
「……さっきはごめん」
「わ、私の方こそ悪かったわよ、ごめんなさい」
唐突に始まってすぐに終わった。
私的にはいい雰囲気に見えたから邪魔をしないために違う場所で本を読もうとしてできなかった形になる。
「さ、帰るわよ、史果には迷惑をかけたからなにか買ってあげるわ」
そんなことになったらこちらがお金的なそれで迷惑をかけることになってしまうからなんとか避けたいところだ。
「僕も出すよ、僕の場合はお詫びと言うよりこれからお世話になるからだけど」
「あんた気を付けながらやりなさいよ?」
「大丈夫だよ。もっとも、史果ちゃんが受け入れてくれるかどうかはわからないけど」
「構いません」
「お、いいの?」
頷くと「やったっ」と今度は気持ちのいい笑みを浮かべていた。
「はは、そこまで気に入っているのねえ」
「でも、久里子ちゃんに対する気持ちは本物だったからね」
「いちいち言わんでいい」
「だけどちゃんと捨てるよ」
「ふーん」
凄く大人に見えた。
私も少しは真似をしたいところだけどできるだろうか?




