01
「聞いてくれ史果!」
「ん……そんなに大きな声を出さなくても聞こえているよ」
「好きな人ができたんだ!」
それはあまりにも唐突すぎてすぐには付いていけなかった。
でも、普通の脳があれば少し経てばわかるのも確かなことだった。
「いいことだよなっ?」
「うん、おめでとう」
「おうっ、ありがとな!」
「新次郎君、一緒に」
佐々木新次郎君、彼は幼馴染で私の好きな相手だった。
理由はずっと優しくしてくれたからというありがちなそれだけど本当に助け続けてきてくれたからいつか勘違いをして深く求めるようになってしまった。
だけど……一緒に帰ろうなんて前とは違うから言うべきではないか。
というか、放課後で出ていったのにこうして戻ってきているということは帰っている途中でそういう人が現れたってことだよね。
「ん? 史果どうした?」
「ううん、もう帰るね」
「あ、俺も帰るよ」
「わかった」
急に現れるなんてそんな漫画みたいなことがあるんだな。
私は一緒に過ごした結果、好きになったからどうやったらそうなるのかがわからない。
それでもよかった、やっとこれを捨てられる。
「新次郎君」
「おう、あ、菓子でも買っていくか?」
「新次郎君のことが好きなの」
「え……?」
両親からはよく声が小さいと言われるから聞こえなかったときのためにもう一度好きだと言う。
「悪い、さっきも言ったけど好きな人ができたから」
「うん、聞いてくれてありがとう」
別に振られていますぐにどうこうはならないから走り帰ったりはしなかった。
そもそもしてはいけないことだ、だからって意識して笑う必要もないけど。
「ちなみにいつからだ?」
「中学二年生ぐらいからかな」
「そうなのか」
そのまま会話もなく今日は終わった。
そして私は家の扉を開けたところで本屋さんにいくつもりだったことを思い出してまた歩き出した。
走り逃げなくても卑怯なことをしてしまったから恥ずかしくて仕方がなかった。
よかった点は捨てられる点と涙が出そうではなかったことだ。
自由にやっておいて泣くなんて最低だから本当に助かった、やっぱり神様はいるのかもしれない。
「ありがとうございました」
これでよし。
あとはゆっくり読みつつ待っていれば両親が帰ってくるからいい。
「ちょっと待った」
「はい」
男の子……男の人? に声をかけられた。
知らない人に声をかけられたぐらいでぶるぶる震えたり慌てたりする人間ではないから黙って見ていると「これ、落としたみたいだから」とハンカチを渡してくれた。
「ありがとうございます」
「ところでさ、さっき振られていたよね?」
どうやら見られていたみたいだ。
「はい、幼馴染が好きな人に全力になる前に捨てたかったんです」
「それで告白か、受け入れられなくて普通かもね」
「はい」
当然ではなく普通か、知らない人にも優しくできる人みたいだ。
「でもさ、きみのそんな姿が自分のようにしか見えなくて困っていたんだ」
「あなたも?」
「そうっ、いやだって急に好きな人ができたとか言ってくるからさー」
「それが恋なんですよね」
これも神様のおかげなのだとしたらここまでは求めていないから終わりでいいと思う。
「うん、そうみたい、僕は二年ぐらい一緒に過ごしてから好きになったから喋ったこともない人のことを急に好きになる気持ちがわからないけどね」
「これ、ありがとうございました」
「あ、うん、今度は落とさないようにね」
いまは聞いていたくないとかではなくて新しく買った本を読みたいだけだった。
あと振られた後すぐにこういう人が現れるなんて自分にとって好都合すぎるから駄目だというのもある。
完全になくなるのかどうかはわからないけど私は私らしく過ごしていくしかない。
現在一年生の私にとっては高校生活はまだ始まったばかりなのだから。
「ただいま」
普通かもしれないけど制服ではないときの方が楽でいいからささっと着替えて戻ってきた。
本を読む際でもすぐに気づけるようにリビングで過ごすのがいつものことだ。
部屋で休むのは寝るときだけでいい、まあそれは特定の時間までは両親がいないからでもある。
「はい――あ、新次郎君」
「史果、上がってもいいか?」
「うん、上がっていいよ」
お茶を出してからソファに座ると何故か彼はコップを数秒見つめてから一気に中身を飲み干してしまった。
いつも通りではないみたい? って、好きな人ができたのだから当たり前か。
「お菓子でも出そうか? え、痛いよ、なんでぎゅっと掴むの?」
「あ、悪い……それよりさっきの人って誰だ?」
あ、こっちも見られていたらしい。
「わからないの、だけどハンカチを拾ってくれたんだよ」
「そうか、危ない奴とかじゃないならいいんだ」
「新次郎君は優しいね」
「普通だろ」
そうかな、好きな人ができた後でもこちらの心配をしてくれるなんて優しさの塊でしかないと思うけど。
「腹減った」
「ご飯は作れないからね」
「はは、知っているよ、だから俺が作ってもいいか?」
「うん」
「よしきた、任せておけ」
よくわからない時間のようでそうでもない時間となった。
彼が作ってくれたご飯はいつも通り美味しかった。
「来た来た、待っていたよ」
「こんにちは」
「うん、こんにちは。それで急だけど僕の好きな人――あ、好きだった人を見てもらいたいんだ」
「諦めるしかないですよね」
「そうだね、流石に邪魔はできないからね。時間があるなら付いてきてよ」
大袈裟でもなんでもなく初めて上の階に移動することになった。
歩いていると教室の前で足を止めて「ほら、あの子だよ」と言ってくれたけど女の人もそこそこいるからわからなかった。
「あれ、あんた早速後輩の友達なんて作ったの?」
「まあね、田村史果ちゃんだよ」
「へえ。ね、本当に友達になったの?」
「えっと」
友達ではないけどハンカチを拾ってくれるような優しい人だとはわかっている。
いま止まったのはすぐに否定するのもどこか違う気がしただけだ。
「あ、ごめん、近かったよね。私は神原久里子ね、よろしく」
「よろしくお願いします。あの」
「「うん?」」
「あ、どうして名字や名前を知っていたのか気になりまして」
自己紹介だってしていないしまだ五月だから見たことがあったり喋ったことだってなかった。
美少女とかならそれでも気にされていてもおかしくはないけど私は普通だ、だからどこから情報を得たのかが気になる。
「え、自己紹介とかしていないの?」
「昨日、ハンカチを拾ってもらっただけなんです」
「はあ? あんたそれなのに友達なんて言ってんの?」
「普通に喋れたら友達でよくない?」
はは、喋れたぐらいで友達なら友達同士ばかりということになるよね。
「いや駄目でしょ、特に異性相手なら慎重にやらないと」
「だから久里子ちゃん相手には気を付けたけど急に好きな人ができて無理になったからね」
「それは聞いたけどだからってこの子相手にいい加減にしていいわけじゃないわ」
「あ、もう言っていたんですね?」
「そう、だから田村ちゃんに自分の姿が重なるって言ったんだよ」
してもしなくても無理だとわかっていても黙っていられるときばかりではないということか。
基本的にわがままを言わないようにしている私でも出てしまったぐらいだから普段から積極的に動いている人ならすごいかもしれない。
「ね、あれを言ってもいい?」
「はい」
「この子も好きな子に急に好きな子ができた子なんだ」
「そうなんだ? そうなんだね」
なんと言っていいのかわからない顔をしていた。
私もそれについてなにかを言えるわけではなかったから進めてくれるのを待つしかなかった。




