表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/2

第1話:流星と少女の日常

広大な移動ギルドベース**《ビックコメット》** の艦橋。本来なら大勢のクルーで賑わうはずのその場所は、今は沈黙し、メイン操縦席にはランスロット・スターマインが一人座っていた。彼の視線の先には、コンソールに映るまばらな星の光と、点滅する故障警告灯。

「ちっ、今月もギリギリか…」ランスロットは舌打ちした。目の前のメインスクリーンには、残りわずかな燃料と資材の残量が表示されている。この広大な《ビックコメット》を維持するには途方もない資材が必要だが、バウンティハンターとしての稼ぎはいつも自転車操業だ。彼は、この巨艦を手に入れた時のことをぼんやりと思い浮かべる。流星のように現れた少女と、その時かすかに触れた不可思議な装置の感触。

艦橋の片隅、巨大なメインコンソールの陰で、アルテミス・スターゲイザーが古いデータパッドを熱心に見つめている。幼い手で複雑な数式や星図をなぞる彼女の横顔は、この荒廃した宇宙にあって、ランスロットにとって唯一の安らぎであり、守るべき光だった。彼女は多くを語らないが、その瞳の奥には、幼い外見からは想像できないほどの深遠な輝きが宿っている。彼が資材のことで頭を抱える時、アルテミスが指差した先には、必ず珍しい資材の反応がある。ランスロットはそれを**「たまたま、運が良い」** と思い込もうとしていた。

時折、《ビックコメット》の艦内が、まるで生き物のように微かに振動したり、古いはずの計器が勝手に最適なルートを表示したりする。ランスロットは「老朽化のせいか」「アルテミスの手が触れたからか」と合理的な理由をつけようとするが、拭いきれない違和感が彼の中に燻っている。彼はまだ知らない。アルテミスこそが、この《ビックコメット》の**「星々の記憶を宿す存在」** であることを。

《ビックコメット》の船内。ドックに停泊中の巨大な船体の中には、バウンティハンターや運び屋、ジャンク屋など、宇宙の荒くれ者たちが集う活気あるエリアがあった。その中心にあるのが、酒場**《スターダスト・ゲイン》** だ。薄暗い照明の中、安酒の匂いと喧騒が渦巻いている。

ランスロットは、カウンターの隅で安物の酒をちびちびやりながら、耳を澄ませる。最近はまともな依頼がなく、皆が口にするのは悪徳ギルド《スカル・クロウ》 の横暴ばかりだ。彼らの影響力は、《ビックコメット》が停泊する《ノヴァ・ポート》全体に及び、港を訪れる者たちは皆、彼らの影に怯えている。酒場での会話も、彼らの理不尽な徴収や、新たな縄張り争いの噂で持ちきりだ。ランスロットの熱血漢な性格は、彼らへの静かな怒りを燃え上がらせるが、今はまだ耐える時だった。

その時、カウンターの奥で煙草を燻らせていた、顔馴染みの情報屋がランスロットに目配せをした。彼の元へ向かうと、情報屋は声を潜め、「厄介だが、金になる話がある」と囁く。内容は、《スカル・クロウ》の支配宙域の奥にある、危険なデブリ帯に紛れた特殊な積荷の回収というものだ。積荷は希少鉱石である可能性が高く、大金になる。しかし、《スカル・クロウ》の巡回も厳しく、リスクは非常に高い。

ランスロットは眉をひそめた。本来ならこんな危ない橋は、他のハンターに振るか、あるいは仲間を募って挑むべき依頼だ。だが、今の自分には、そんな余裕も、頼れる仲間もいない。《ビックコメット》を維持するためには、もはや選り好みしている場合ではなかった。アルテミスの顔が脳裏をよぎる。「ここで躊躇してたら、この子を養っていけねぇ…」彼は依頼を引き受けることを決意する。彼の心には、金のためだけでなく、密かに《スカル・クロウ》への反抗心が芽生え始めていた。「いつまでも奴らの好きにはさせねぇさ」

ランスロットは艦橋を後にし、アルテミスに依頼の内容を簡潔に話す。アルテミスは、いつもと変わらぬ表情で頷くが、彼の目には、どこか彼を心配しているような、あるいは何かを予期しているような、深い色が宿っているように見えた。

彼は《ビックコメット》内部の自身の小型機格納庫へ向かった。そこは、彼の愛機**《ヴァリアント》** の定位置であり、整備や換装を行うための簡素なワークスペースでもある。古びた工具箱からレンチを取り出し、ランスロットは《ヴァリアント》の最終チェックを開始する。

今回の任務は危険度が高い。回収する積荷の強度や、遭遇する可能性のある敵を考慮し、手持ちの資材でできる限りの換装を行う。彼は**《ヴァリアント》の機体後方に連結された「アームベース」** の接続部を確認し、「回収用グラップルアーム」 を組み付ける。さらに、デブリ帯での視認性を高めるため、アームベースの補助「オプションスロット」 に、古い**「広域スキャンモジュール」** を組み込んだ。錆び付いたボルトを叩き込み、配線を繋ぐ。彼の汗が、古びた機体にポツポツと落ちる。

「これで、何とか…」

彼は整備を終えた《ヴァリアント》を見上げ、深く息を吐いた。

「行ってくる。留守番、頼んだぞ、アルテミス」

「はい、ランスロット。気をつけて」

別れの言葉を交わすと、ランスロットは**《ヴァリアント》のコックピット**に乗り込んだ。

《ビックコメット》の巨大な格納庫ハッチがゆっくりと開き、その腹から小型機**《ヴァリアント》** が静かに滑り出す。荒廃した《ノヴァ・ポート》の灯りが、遠くで小さく瞬いている。

宙域207へと向かう道中、無数のデブリや朽ちた残骸が漂う宇宙の寂寥感が広がる。この宇宙の厳しさと、ランスロットが生きる世界の絶望感が漂う。その中を、頼りになるが小さな《ヴァリアント》は孤独に進んでいく。

目的地であるデブリ帯へ接近する《ヴァリアント》。ランスロットは操縦桿を握り締め、前方を見据える。彼の脳裏には、先ほど《ビックコメット》の艦橋で見たアルテミスの静かな横顔が浮かんでいた。二人の旅が、やがて宇宙の運命を左右する壮大な戦いへと繋がることとなる。次の危機への予感がランスロットの胸に宿る。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ