アレキサンドライトの心
4話の続きです。
カリカリ。カリカリ。
テストまであと1日。
私たちは1週間前から図書室でテスト勉強をしていた。
「先輩!私一人じゃサボっちゃうので一緒にやってください!」
と手を合わせられてしまったからだ。
うるうるとした目で見つめられてしまったら断ることも出来ない。
「と、図書室で良ければ……。」
ほんとですか!と言った彼女は可愛い笑顔をしていた。
初めて連れていった時の村瀬先生の驚いた顔は忘れられない。
「し、失礼しまーす。」
緊張した様子で彼女が入ると
「まぁっ!」と村瀬先生が声を上げた。
「あなた初めてかしら?」
「は、はい!」
「あら!黒原さんも来たの?!ここに人が来るなんてめずらしいのにねぇ。」
「あの、この間話してた友達……です……。」
「「え!」」
2人とも驚いたように声を上げて私を見る。
村瀬先生はわかるけどなぜ怜奈ちゃんまで……?
視線が一気に2つも集まって顔に熱が集まる。
「黒原さんが話してたお友達ね!まぁまぁまぁまぁ!嬉しいわぁ!ささっ入って!」
村瀬先生の嬉しそうな声が響いて私たちは言われるまま図書室へ入っていった。
最初の日だけかなぁとか思っていたらなんとここまで来ていた。
怜奈ちゃんも根は真面目だから黙々と勉強して分からないところがあると私や村瀬先生に聞くという感じだ。
たまに休憩がてら3人で喋ることもあるくらい。
テストの自信は?とか課題の進捗とか終わったらしたいこととか。
でもすぐに勉強に戻るから私も切り替えなきゃっていつもよりもしっかり勉強出来ている気がする。
なんかいつもよりもいい点数とれるかも。
既に3周したワークを見ながら思う。
「ついに明日ですね……。」
閉館時間になり片付けをしながら怜奈ちゃんが言った。
「だ、大丈夫だよ!多分……。」
2人で頑張ったじゃんとか言えば良かったかな……。
「黒原さんが言うように大丈夫よぉ。2人ともこの1週間みっちり頑張ってたじゃない!リラックスして臨めば怖いものなしよ!」
村瀬先生が優しく言ってくれる。
「はい!」「が、頑張ります……。」
緊張でガチガチの怜奈ちゃんと喋りながら帰る。
「大丈夫だよ怜奈ちゃんなら。すごいちゃんと頑張っててすごいなぁって思ってたし!」
「ほんとですかぁ?寝れる気がしない……徹夜とかしようかな……。」
「徹夜はダメだよ!徹夜したら余計に集中出来なくなるから横になって休んで!」
思わず大きい声が出て自分でびっくりしてしまう。
「ご、ごめんね。」
「いえ!確かに明日集中出来ない方がまずいですもんね!先輩ってやっぱり頭良いですよね!」
ひまわりみたいな笑顔で言われて、たじっとしてしまう。
「頭……良くないよ。」
また卑下した発言。
「なんていうんでしょう勉強の面でも頭いいんですけど細かい教養?みたいなのもちゃんとあるなぁってずっと思ってて!」
「当たり前のことしてるだけだよ?」
「その当たり前ができない人なんてこの世にごまんといますよ!」
「そう……かな。」
「はい!だから胸張ってくださいよ!胸張って笑ってたらまじで今より先輩可愛くなれますよ!今も可愛いんだから!」
「そ、そんな訳「ありますよ。」」
真剣な目で被せられて思わず目をそらす。
救いかのように目の前は家。
「ま、またね!お互いがんばろ!」
逃げるように家に入った。
胸張って笑う……。
ずっと猫背で生きてきた私には難しいな……。
それに可愛くないし、元も悪いから可愛くなれないよ。
玄関のドアにもたれてそう思った。
次の日。
いつも通りの起床。いつも通りのご飯。
いつも通りを重ねて家を出る。
ここで特別なことをしたってなかなかいい方向には転ばないから。
教室に入るとテストらしくザワザワしている。
課題提出の準備をして1時間目のコミュ英のために単語帳を開く。
集中モードに入って周りの声はシャットダウン。
友達なんていないから話しかけてくる人もいないし。
「教科書しまってこいよー。課題は先集めるからなー。」
いつの間にかテストの時間になっていた。
阿鼻叫喚のクラスメイトを尻目にロッカーに教科書やらをしまいに行く。
頭の中では単語の反復練習。
よしやれる。
課題を前に送り、テスト用紙を後ろにまわす。
「それでははじめ!」
その合図でとりあえず名前を書く。
そして問題文に目を移す。
やったとこ!
スラスラと解いていく。
応用問題は流石に難しいけどなんとか答えを絞り出した。
時計を見るとあと10分。
応用問題は考えてもこれ以上でる気がしないから最初あたりの問題を見直す。
多分いけてるはず!名前もちゃんと書いたし。
「やめ!」
ちょうどその瞬間にチャイムが鳴る。
回収されていくテスト用紙に祈りを込めながら次の数学の準備をした。
その後の数B、化学基礎もなんとかこなして1日目は無事に終わった。
ただ文系だから数学、理科は死に気味。
当社比マシって感じ。
テストの日は特別教室が開放されないので大人しく家に帰る。
1年生は2科目だったようで怜奈ちゃんは既に帰っていた。
2日目は現国と生物と日本史。
日本史が1部危ない気がしたけど意外に覚えてたからどうにかなってて欲しい。願望。
3日目は古文、数2、論表。
数2が難しくて爆死。平均まで下がったら御の字。
最終日は情報と世界史。
情報は正直簡単だから世界史に全部力を注げた。
元々得意なこともあって結構自信ある。
なんとか中間乗り切った……。
世界史終わりに椅子にもたれ掛かる。
クラスメイトはもう帰ってしまっているから1人でのびのびする。
図書室での勉強のおかげで今回はいつもよりいけた気がするな〜!怜奈ちゃんはどうだったんだろ?
帰っちゃったかな?とかと思いながらのろのろと帰る準備をしていると
「先輩!一緒に帰りましょ!」
教室の入口で怜奈ちゃんが呼んでくる。
「今行くね。」
カバンを持って立ち上がった。
「もう帰ったかと思ったよ。」
「先輩と帰りたくて探してたんです!最初行ったらまだホームルームやっててちょっと他のとこいってたらこんな時間になってました!先輩こそ帰ったかと思いました!」
そういう事だったんだ。ちょっと嬉しい。
「なんか周りが帰ってからにしようかなと思ってさ〜。」
「じゃあちょうど良かったですね!」
2人で校門を出る。
「どうだった?初めてのテスト。」
「めっちゃ疲れましたよ〜。数学系が終わってました……。」
「まあまあ。とりあえず赤点取らなければ大丈夫だからね。私も数2がやばかったかな〜。」
「テスト返ってくるの怖すぎます……。」
確かに。なんて笑いながら歩いていく。
「そういえばテスト終わったので……。」
彼女がなんか恥ずかしそうに言う。
「……?」
私の頭の中にははてなが沢山浮かぶ。
テスト終わり……テスト終わり……なんか約束してたっけ?
「ごめんなさい!なんでもないです!」
彼女の姿に余計に焦る。
なんだっけ、なんだっけ!
その時彼女のバッグについている石に気がついた。
緑っぽい石だけど光の当たり具合によってオレンジっぽく見える……。不思議な石だ。2色あるなんて。
宝石。宝石!
「部活!」
めっちゃ大きい声でた。
怜奈ちゃんは目をすごい丸くしている。
「もちろん進めるよ。一緒にね!」
「ほんと……ですか?」
「うん。」
力強く頷くと彼女はぱあっと顔を輝かせた。
その後恥ずかしそうにはにかみながら彼女は言葉を紡いだ。
「私、実はこの間すごい嬉しかったんです。」
「え?」
「私が図書室に初めて行った時。」
「うん?」
「村瀬先生がこの間言ってた友達ねって言ってたじゃないですか?」
「そうだね。」
「友達って言ってくれてたんだと思ってすごい嬉しくて。」
彼女の顔は真っ赤だった。
「そう、だったんだ。すごい驚いた顔してたからもしかしたら嫌だったかなってちょっと心配してたんだよね。」
「嫌なわけないですよ!すごい嬉しくてびっくりしちゃっただけです!」
「よかったよ……。」
嫌な思いさせてなくて良かった。
「だから」
彼女は私の方を向いて言った。
「だからこれからも仲良くして欲しいんです。」
その目は少し不安の色を帯びている。
「もちろんだよ!私こそこれからも仲良くしてほしい!」
私の精一杯の笑顔で応える。
彼女も綺麗な笑顔をした。
「どうやるかわかんないけど頑張って部活作ろうね。」
「はい!一緒に!」
またお会いできて光栄です。
名前は出てこないですが怜奈がつけていたのがアレキサンドライトです。石言葉が気になる方は良かったら調べてみてください。
それではまたお会い致しましょう。