表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

GW。エメラルドとクンツァイトの季節

1話目の続きです。

「先輩!ゴールデンウィーク暇ですか!」

4月も中旬の昼休み。

1年生の時からの指定席であるピロティの端っこ。

2階にあるそのピロティには大きな窓がはまっている。

校庭に植えられている桜や紅葉が綺麗に見え、季節が感じられるお気に入りの場所。

特に友達も居ないから1人でのんびり過ごす時間が好きだった……。だったのに……。

「もう〜先輩!聞いてます?!」

「はいはい聞いてる聞いてる。」

隣から元気な声が聞こえる。

鼓膜吹っ飛びそうな勢いだ。

彼女は1年生の日野怜奈。

先週私がぶつかってしまいそれからよく声をかけられたり毎朝メッセージが飛んでくる。

何でも目がオニキス?に似ているらしい。

「先輩!ってば!」

「ごめんごめん。」

ゴールデンウィークかぁ。

人多いの苦手だから外でないんだよなぁ。

「ゴールデンウィークは暇だけど外でないかな。」

「え!なんでですか?新緑の季節最っ高じゃないですか!」

「人多いの苦手だからさ……。」

あははと言う。こんな陽キャみたいな子私に構わなくたって大丈夫なはずなのに。

「じゃあ人が居ないとこならいいんですね?!」

「えっ。いや、まぁ?」

「うーん……。あっ!先輩エメラルドって好きですか?」

「エ、エメラルド?」

エメラルドってなんだ……?色?グリーンみたいなやつだっけ。

だとしてエメラルドが好きってなんだ?緑が好きかってこと?

「エメラルド見に行きましょうよ!」

「ちょっと待って!エメラルドってそもそもどんなの……?」

はっ。と彼女から驚きの息が漏れる。

信じられないという顔だ。

地雷……踏んだかも。背中を汗が流れる。

「エメラルドはですね!透明感のある深い緑色をした宝石で石の組成としてはベリリウムを含む緑柱石、ベリルというものでアクアマリンやモルガナイトの仲間です!エジプトのクレオパトラが愛した宝石としても有名で現代でもアクセサリーとしてよく使われています!ベリルはレッドベリルのように名前にベリルが入るのが普通ですがエメラルドやアクアマリンは石の組成が明かされる前からこの名前で親しまれていたためベリルの名前が付けられずに元の名前が残ったんです!」

「す、すごい……。」

早口で話しきった彼女に対して出た感想はまぬけなものだった。

彼女は一息ついたあとかああっと顔を真っ赤にして慌てふためき始めた。

「ご、ごめんなさい!オ、オタク特有の早口みたいになっちゃって!」

そう言うと黙ってしまった。

「え、ええと……つまりエメラルドは緑色の宝石……ってこと?」

「そう!そうです!伝えたいことはまだあるけどとりあえずそれでいいです!」

「それを見に行くってことは……山?無理無理無理!山登りなんてできる体力ないよ!」

「山じゃないですよ!緑は山以外でも見れますからね!」

「でもそんなまだ……。」

仲良くない。口に出しそうで危なかった。

「じゃあ一緒に行って仲深めましょうよ!」

私の思考を見透かすように彼女が言う。

ダメですか?と言うような表情をされると弱い。

「い、いいけど……。」

ついつれない回答をしてしまう。けれど

「やった〜!!じゃあ5月4日とかどうですか?」

「暇です……。」

「よし決まりですね!また時間とかは決めましょ!」

そう言って彼女は階段をかけ降りていった。

嵐みたいな子だな本当に。

ピコンっと鳴った携帯には「5/4 10時佐倉駅集合!」と書かれている。

あと2週間ほどあるその日程。近くて遠い。なんだかむず痒い感じがした。



「5/4出かけてくるから。」

その言葉に両親は凄く驚いていた。

ど、どこの子?とか菓子折りいる?とか今まで見たことないぐらい。

まぁつまり私は今までぼっちでいたということだ。

2週間毎日母親の方がそわそわしていて逆に面白かった。

もちろん私もそわそわしていたが。

それからも彼女は毎日メッセージをくれたしお昼も過ごした。

1年と2年では日によって授業の時間が違うから今まで気づかなかったけれど家の方向が同じなこともわかって合う時は一緒に帰るようにもなった。

エメラルドの写真も見せてもらった。

絵の具では表現出来ないような透明だけども深い緑色をしている不思議なものでとても綺麗だった。

ゴールデンウィーク前ラストの平日に何を見に行くの?と聞いたけれど内緒です。と悪戯な笑みで言われてしまった。




前日の夜になると女子が直面する問題がある。

そう服決めである。

今までそんなに悩んだことは正直ないのだが今回は別だ。

ちょっとは歩くことを想定しなきゃいけないし、先輩ぽく大人びた服の方がいいし……キャラものとかはさすがにな……。

いつになってもご飯を食べに来る気配がないのを心配した母親が覗きに来るぐらいには悩んだ。

ご飯を食べている間も服装のこととか持ち物とか考えすぎてずっと上の空で全然ご飯の味とかわかんなかった。

寝る時も全然眠れなくて高校2年生なのに遠足前の小学生みたいだなと自分で笑ってしまった。


「おはようございます!」

「おはよう。早いね。ごめんね。」

9時55分。5分前行動が染み付いているからと行ったらすでに彼女は来ていた。

白いカットソーにデニムのワイドパンツに帽子。というカジュアルな格好に少し私は後悔を覚える。

黒いワンピースにカーディガンを羽織った私が横に並ぶと白黒でとても一緒に来た人には見えない。

あーあ。違ったかも……。

「先輩めっちゃその服似合いますね!黒曜石みたいな感じで!シャープな感じがすごい大人っぽい!」

「そ、そんな事ないよ……。」

「いやいや自信もってくださいよ!先輩可愛いですし!」

「可愛くなんて絶対ないし!」

やっちゃった完全否定。

「絶対それ直してあげますからね。」

真剣な目で言われて困惑する。

「行きますよ!」

そう言われて手を引かれる。

電車に乗り、着いたのは隣の市の植物園。

併設されている動物園は家族連れで賑わっていたがこちらはそうでもない。

これならそこまで人酔いはしなさそう。ほっとした。

「先輩!今日のメインの目的はこれです!」

じゃーん!とパンフレットを指さした所には藤の花祭りと書いてある。

「藤の花?」

「そうです!綺麗なエメラルドにクンツァイトが垂れ下がってるんです!めっちゃ綺麗ですよね!」

「クンツァイトも宝石なの?」

気になって聞いてみると

よくぞ聞いてくれました!というような顔をして饒舌に話し始めた。

「ええ!クンツァイトは宝石の名前でリシア輝石という鉱物でリチウムやアルミニウムが含まれています!クンツァイトは薄い紫やピンク色をしていて儚い感じが綺麗なんです!リシア輝石には他にも黄色や緑色の物もありますがそれぞれトリフェーン、ヒデナイトと呼ばれています!」

すごい速さで繰り出される言葉にたじろぎつつも素直に思ったことを口に出してみる。

「ほんとに宝石が好きなんだね。」

なんだか小さくつぶやく感じになってしまった。

聞こえてないかもと思って隣を見ると彼女は前みたいに顔を赤くしていた。

「……はい!大好きなんです!」

少し間を置いてからとびきりの笑顔で言った。

とても眩しかった。

なんでそんなに宝石が好きなの?と聞こうとした瞬間、彼女が突然手を引っ張った。

「先輩!ありましたよ!行きましょう!」

もうそんなところまで来ていたのか。

私はどれだけ下を向いて歩いていたのだろう。

自分に嫌気がさした。

引かれた先には大きな藤棚があった。

ちょうど見頃なのか薄紫の花がカーテンのように垂れ下がっている。

「すごいね……。」

普段から語彙力がない私の口からはそんな平凡な言葉しか出てこない。

隣の彼女は何も言わないままキラキラと目を輝かせて藤棚を見ている。

「美しい……。」

数分して口を開いた彼女はふわりと表情を綻ばせていた。

「これ!下通れますよ!」

「ほんとにカーテンみたいだね……。」

「こんなカーテン家にあったら幸せですよ〜ってわぁっ!」

突然彼女が背中を丸めた。

「どうしたの?」

「ハ、ハチが!」

ぶーんと大きい羽音とそれに劣らない大きな蜂が周りを飛んでいる。クマバチだ。

でもクマバチはほとんど刺さないはず。知らないのかな?

「大丈夫だよ。落ち着いて。クマバチは大きいけど温厚でほとんど人を刺すことはしないの。無理やり触ったりとか刺激しなければ大人しい子たちだよ。」

「そ、そうなんですかぁ。」

少し安心したような表情で彼女はクマバチを見つめた。

「持ってる花粉が琥珀みたいで綺麗ですねぇ。ハチも琥珀に閉じ込められられること多いですしハチと琥珀は一蓮托生なのかもしれないなぁ。」

よ、よく分からない!けど誤解(?)が解けて良かった。

「先輩って物知りですね!」

クルッと振り返った彼女が笑顔で言う。

「そ、そんな事ないよ。」

「誇った方がいいですよそれ。クマバチの誤解を解いたんですから。これで怖がることなく藤の花が見れますし!」

私はキラキラと笑う彼女から目を逸らしてしまった。

そこからお昼ご飯をカフェで食べたり熱帯エリアで食虫植物を見て驚いたりネモフィラも綺麗に咲いててタンザナイト(?)の絨毯みたいとか言ってあっという間に閉園時間になってしまった。

「っはぁ〜!どれも綺麗でしたね!」

「うん。ほんとに凄かった。」

感想を言い合いながら電車に乗る。

遥かに行きよりも早く感じるのはなんでだろう。

「今度はどこ行きましょうか?」

「え?」

「来月もどこか行きましょうよ!」

「え、でも来月は……テストだよ。」

「あ……。そんなぁ!」

「テスト終わりで体力残ってたらいいよ。」

「ほんとですか?!私初めてのテストめっちゃ頑張りますから!次の宝石も楽しみにしててくださいね!」

最寄り駅に着いて2人で歩く。

退屈な毎日だけれど今日が楽しかったからこの先が少し楽しみになっている。

「じゃあまたね。」

「はい!またゴールデンウィーク明けに!」



GW皆様何をしますか?

私は仕事です。

藤の花とネモフィラの見頃ももうすぐ終わってしまいますね。

良ければ予定のひとつに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ