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後のGirls!

 

「逢坂さーん。早く」


「はーい」


 たった今、そんな声を掛け合って、最近一番注目を集めているカップルが教室を出ていった。その後ろ姿を見て、野崎華はため息をつく。


「なーに、ハナカナの片割れ。嫉妬? かっちょわるいぞー」


 クラスメートの一人が声をかけてきたので、華は「違うよぉ」といつものように返す。


「ただちょっと悔しいだけ」


 今、可奈は輝くような笑顔で教室を出ていった。心底嬉しそうに。クールでドライじゃなかったのかい。本人に突っ込みたいけど、不在ゆえ、脳内補完。

 本当の可奈はあんなんだったんだなぁ……。なんで今まで知らなかったんだろう。あんな笑顔見たことないもんなぁ。


「ま、ドンマイ。あんたもモテモテなんだから、男の一人でもつくりゃあいーじゃん。ダブデーとかすれば?」


「うーん。考えとく」


 結構前に可奈にも同じことを聞かれた。その時は確かに必要ないと思ってた。実際あのまま馬鹿騒ぎしてたほうが楽しかったから。でも、もう戻れない。可奈は行ってしまった。自分も前に進まねばなるまい。


「……でもやっぱまだいーや」


 そんな気はさらさらないことを吐露した。

 クラスメートはわかっていたようで、にやっと笑うと部活に出ていってしまった。あーあ、孤独。華は手持ちぶたさに髪をいじり始めた。

 くるくるくるーなんてしていると、小さな待ち人来たる。片手をシュバッ。


「よっ」


「よ」


 挨拶を交わし、佳梓菜はトコトコと近づいてきた。赤くなり始めた空を見ながら、口を開いてくる。


「部活、行く?」


「んー」


 部活とは勿論鉄棒部のことだ。余談だが、あれから我らが鉄棒部はその名の通り、部活動に繰り上げとなった。それもこれも部員数が急増したためである。主に恋する乙女達。なんでも可奈が告白を成功させた話に尾がついて、伝説化したらしい話に食いついたって。意中の人の前で回れたら、成功するなんて俗説が生まれたらしい。

 おかげで大規模な部になっちまった。まったくいい迷惑、と副部長はごねた。


「今日はいーや」


「今日も、でしょう」


「うーむ」 


 何かやる気が出ない。それは勿論、自分の下から(ちょっと誇張)可奈がいなくなってしまったことが主な原因だ。他にもいろいろとモヤモヤして。

 なんで自分はあんなに頑張っていたんだっけ。そもそもなんで回ろうなんて思ったんだっけ。大体回ろうと思わなければ、今も自分達は馬鹿騒ぎ出来ていたんじゃないのか。いや、そうすると別のなにかを頑張る頑張らないの話になり、……もうわかんね。

 とりあえず自分がなんで頑張れていたかだけは放って置けそうにない。気になり、相変わらずの無表情でそこにいる佳梓菜に尋ねてみた。


「ねー佳梓菜」


「何?」


「佳梓菜はなんで回ってたの?」


 佳梓菜はもともと緩慢だったその動きを止めた。考えるように、沈黙。しばらく置いて、


「多分」


と返ってきた。


「華と一緒」


「ほーう」


 つまりはただなんとなくで一生懸命だったんですか。


「頑張れる自分を見たかったから、かな。うーん。変えたかったから?」


 佳梓菜らしくなく、要領を得ない返答。それほどこの問いの難易度は高いってことかな。


「でも、私は変われたと思う」


 そして、ニマーと笑う。いつも無表情だったくせに、心底幸せそうに笑う。不意をつかれた華が呆然とその表情を見つめ続けると、決まりが悪くなったのか、顔を赤らめ、背けた。


「とりあえず、私はもう少し頑張ろうと思う。男の子、ゲット」


 可奈に感化されたのか、佳梓菜までそんなことを言う。さっきみたいな笑顔をちらつかせていれば、あっという間に釣れそうだけどなぁ、華は思ったが、心の中に押し止めた。なんか言いたくなかった。


「佳梓菜」


「うん?」


「部活。あたしも行く」


 まだよくわからないけど、頑張っているうちにわかってくるのだろうか。まあ、ぼーっとしてるよりは、マシかな。似合わないけど、新人いびりでもすっかー。


 副部長二人は並んで教室を後にした。




   ◇




「ああ、あれは姉ちゃんだよ」

 

 最悪の事態を想定しながら、結構勇気を振り絞って出した質問の答えはそれだった。正直、拍子抜け。可奈はボー然とする。


「お、お姉さま……?」


「うん。一つ上で陸上部のマネやってるんだ。……ああ、だからあの時帰っちゃったのか。目的の鉄棒の前にいなくなるからどうしたのかと思ってたんだよ」


 いや。目的はあなただったため、一応完遂してます。とは、奥手な可奈は言えなかった。

 二人して下校している途中、可奈は以前からずっと気にしていた、陸上大会での抱き着いていた女の子について尋ねたのだが、答えは簡単明瞭。親族の方でした。ちゃんちゃん。

 なーんだ、と胸を撫で下ろす。それだけを懸念していた可奈は本っ当に安堵した。これで障害は一つもナッシング。……でもそれが虚言だったら? なんていう一抹の不安も浮かんではこない。浮かんでくるのは幸福おんりーです、すいません。

 ニコッとして、二人を繋ぐ手を見る。まだ手の平の傷は癒えていない。けど、こうしている間に、いつの間にか治っているのだろう。彼は引くことなく、自身の手を握ってくれた。素直に、嬉しいっすなぁ。


「へっへっへー」


 脳天気な親友のような声を出し、可奈は青空を見上げる。

 頑張ったから、今の自分がいる。未来をつくるのは、運命でも、他人でもなく、自分自身。己の努力。それが未来を切り開くのだ。例えそれが望んだものでなくとも、自分で生み出した明日なんだ、後悔するはずもない。

 なんて、散々きれいごとを抜かしましたが、ま、結局。


「グッジョブ、私」


 そんな自分が好きになれた。

 それだけで十分じゃないかな。



 可奈は幸せを握った右手を、大きく振った。



 回れ、人々。

 廻れ、世界ー!

 なんつってー。


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