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我が家に勇者御一行様がやってきた

作者: みちぇ子

視点◆ 場面・・・・ がコロコロ変わります。


※文字酔いにご注意ください。

◆中山紗奈


 今日から高校1年最後の春休みスタート!


 両親は学会で出張。ついさっき玄関で見送ったから2週間は帰ってこない。今回はオーストラリアに行ってくるらしい。2人共研究職で、元々職員用の寮があるから、基本はそこで寝泊まりしている。今回の学会とやらも何の研究発表なのか、さして興味はない。


 そんなことより、今日から家には私だけ!私の城!たいして課題も無いし自由だ!!


先月まで通いのお手伝いさんとしてヨネさん(御年75歳)が来てくれてたんだけど、脇見運転の自転車と接触事故を起こして入院していた。数日前に退院し、これを機に娘さん家族と一緒に暮らすらしい。ひ孫が多すぎて、これじゃぁ、ゆっくり隠居もできないわねって笑ってた。


私が幼稚園上がってからのお付き合いだった。共働きで家を空けがちな両親に代わり、いろんなことを教わった。案の定、私は鼻水垂らしながら大号泣した。


しかし、いつまでもヨネさんロスを嘆いていても仕方がない。見ててヨネさん!私も立派になったんだよ!そして、いそいそとキッチンへ向かう。


母のお気に入りのちょっとお高いブレンドハーブティーの香りをこれでもかと吸い込み…幸せ。


これは以前、ヨネさんと食器棚のお皿を片付けていた時に偶然発見した母の秘蔵中の秘蔵茶。


パッケージには美容関連の効能がいくつか書かれているの見てニヤニヤしながら一口含んでみる。熱っ… 


「フッフッフ、食器棚の一番上に隠せば見つからないとでも?まだまだ甘いわね。」


お隣さんの大きな桜の木を見ながら、気分はまるでどこかの悪役令嬢のような口調でセリフを吐き、ふーふーしてからズズズーっと啜った。


ピンポーン


「ん?誰だろう?」


普段、来客と言えば幼小中高とずーっと一緒の幼馴染の平太と麗美ぐらいなので、今日から春休みだし遊びに来たのかな?ぐらいの感覚でインターホンモニターまで向かう。

モニターにはあまりに近すぎて白い布地しか写っていなかったが、こんなの平太ぐらいじゃんって、通話ボタンを押して、「ちょっと待っててー」って声をかけた。返事も聞かず、サンダルを履いて玄関の鍵を開けドアを開いた。


誰?


そこには大所帯で、まるで仮装パーティーのような人達が居た。

しまった!とすぐ後悔した。全く知らない人間に対して無防備に玄関を開けてしまった。


「知らない人が来たら、玄関開けちゃだめですよ!」ってヨネさんの声が脳内で流れた気がした。


向こうも、誰も何も喋らないので、そ~っと玄関ドアを閉めようとしてみる。が、金髪のお兄さんにガッっとドアの端を掴み、「ヒッ!」と声が漏れてしまった。


「すまない、怖がらせるつもりはないんだ。教えてくれ、君は誰だい?」


人んちに尋ねてきて誰とは何だ?外の表札には【中山】と書いてあるのに。ご丁寧に【Nakayama】って添えてある。


「中山ですが、どちら様ですか?どんな御用で?」


不信感はあるものの、取り敢えず相手の用件を聞くことにした。


「我々はルードニア王国から要請された魔王討伐部隊だ。私はアッシュドルフ・ターザニア・ガルシュ・スヴェルトだ。」


「え?るーど?魔王?あっしゅ、たー?すー?」


追いつかん、私はって事は、一人の名前ってことで、名前長過ぎる。

てか魔王討伐?ちょっと意味わからん・・・


玄関の隙間からは他にも人が見える。セクシー魔女っ子コスプレのお姉さんと、2m近くあるワイルドな巨体のおじさん。あ、めっちゃかわいい淡いピンク髪サラッサラの女の子が、魔女っ子の後ろからこっち覗いてる。


アイドルオタクの平太が好きそう・・・。


かわいい女の子で現実逃避しそうになり、急いで話を戻す。


「で、そのご要件は?」


適当に話を合わせて、こんな得体のしれない人達にはさっさと帰ってもらおう。


「我々は、つい今しがた魔王を討伐し、隠された宝物庫の扉を発見したんだ。中に入ると、宝物と一緒にこの扉があった。なぜ君はここに居るんだ?魔王に囚われているのか?それとも・・・」


「は?魔王討伐?宝物庫?いや、ここは何の変哲もない住宅地ですが?」


私はどこをどう見たら宝物庫なんだ、と玄関を少し空けて外へ片足だけ踏み出した。


「え、ナニコレ・・・」


ワイルドなおじさんがあまりにも大きすぎて外がよく見えなかったが、明るいのは昼間だからじゃなかった。見える範囲、すべて金・金・金!中には宝石やらよくわからない巨大な金の像まである。部屋の壁に掛かっている松明に照らされ、光り輝いていたのだ。


眩しさと現実離れした現状に目眩を起こしそうになり、金髪のお兄さんに支えてもらった。


「一回タイム!ちょっと待って!少し整理させて!」


ビシッと右の掌を前に突き出し、左手てこめかみを押さえる。


あれか?ほら、麗美が好きなヤツ。異世界転生とかのアレだ!転生してないけど、異世界関係のアレ!麗美に勧められて最近読み始めた本がこんな感じだった気がする。麗美と私の中で悪役令嬢が最近のプチブームとなっていた。


あ、コレ私には手に負えないかも。


自分で考えるのを止めて、丸投げすることに決めた。


「あのー、ちょっとコレ私には解りかねるので、専門家呼んでもいいですか?」


一旦断りを入れて、部屋に戻らせてもらうことになった。金髪のお兄さんには2、3時間ほどしたら一回インターホン押してってお願いして、玄関を閉める。鍵も閉める。


戸締まりチェックして、リビングに戻る。リビングからは変わらず桜の木が見えるし、ハーブティーは温くなっていた。


スマホで麗美に電話した。出ない。鬼電しても出ない。

今日はお気に入りのアニメを一気見するって張り切ってたから、絶対家にいるのに出ない。


意を決して、玄関でサンダルを履き玄関を開ける。そこにはいつもの風景。お向かいの神田さんちがあり、右隣には桜の木が植わってある平太の家が、左隣に麗美の家がある。念の為鍵はしっかりかけて、左隣の家のインターホンを押す。


「はーい、あら、紗奈ちゃん。ちょっと待ってねー。」


ガチャ。


「いらっしゃーい。上がってってー、麗美なら2階の部屋にいるわよー。」


これもいつもの風景。お邪魔しますと言いながら2階に行くと大ボリュームで魔法少女の決め台詞が聞こえてくる。ノックもせずにドアを開けて、PC画面に釘付けの麗美の背中にへばり付いた。


「ギャーーーーーーーーーッ!!」


頭思いっきり殴られた。電話無視の意趣返しのつもりだったのだけれども、心底驚かしたことに土下座スタイルで謝り、異世界小説の専門家でもあらせられ麗美様に事の顛末を話した。結果、


「あんた寝ぼけてたんじゃないの?春の陽気に当てられて頭までお花畑なんじゃない?」


麗美様は毒舌だったのだ。


「お前ら何やってんの?」


ゲーミングチェアの上で足組した麗美、正座したまま低姿勢の私を前に、嫌なものでも見たような顔をした平太が立っていた。麗美に借りた漫画を返しに来たようだ。


「紗奈がなんか、変な奴らが家に来たって。それが異世界人だって言うの。玄関の外には金塊がわんさかあったんだっけ?」


ウンウンと首を縦に振って、無理やり2人を我が家まで引っ張っていく。

頭に?がいっぱいついている平太に改めて経緯を説明して、再び鳴るかもしれないチャイム音に備えることにした。


・・・・・・・・・・・・


◆聖女ユーリーン


私はルードニア王国聖教会所属の聖女ユーリーンです。今まで、数多くの人達が血を流し、命を散らしてきた諸悪の根源、魔王ザンギャークの根城に攻め込み、雑こ・・・手下達をけちょんけちょんのメッタメタのギッタギタにしてやりました。最後の魔王は勇者にボコボコにされ苦し紛れにドラゴン召喚しましたが、我がパーティー内では【魔王よりも魔王、無慈悲なる冷徹勇者】とほぼ悪口に近い異名のアッシュドルフ様に魔王共々聖剣で真っ二つにされておりました。直前にドラゴンが『我が名は』と言いかけた瞬間にはもう切り倒されていたので、大魔道士のイライザさんと一緒に、


「最後まで言わせてあげればいいのにー。モヤモヤするわー。」


って、小さな声で囁き合ってたのは内緒です。


勇者・聖女・魔道士・拳闘士・賢者・暗殺者からなる大所帯パーティーです。


勇者は子爵家の次男で、我が王国の王女が勇者と結婚したいがために無理やり勇者に選定されたそうです。討伐完了の暁には国王は勇者に公爵を叙爵からのかわいい我儘な娘を嫁がせる気満々なのですが、「あんな出戻りは嫌だ」と広間の扉の前でこぼし、皆を冷つかせたのです。嫁ぎ先で浮気してバレて慰謝料でなんとか示談して出戻ってきた王女ですが、それ言ったのバレたら斬首刑ですよ。センシティブです。


さて、今から全員揃って報告を兼ねたパーティー会議です。


まず、魔王討伐後、暗殺者ギルドで諜報も得意とするノイさんとエルフ族でちょっと変わり者の賢者オーゲン様が残党が残ってないか確認して来てくれました。問題なく殲滅完了出来ていて一安心です。


そもそも、この魔王城自体とても貴重な遺跡だそうで、1000年以上生きてきたオーゲン様ですら解読できない文字の文献を発見して興奮しています。

一旦、オーゲン様を落ち着かせ、今度は私が代表でさっき起こった事を話し始めます。


「このスイッチを押すと、ここから女の子の声が聞こえてきたんです。そして、扉が開き、とてもかわいらしいお嬢さんが出てきました。声の主のようでした。勇者様が代表でお話されたのですが、たしか、お名前はナカヤマと名乗られていました。どうやらここが魔王城の宝物庫だとは知らなかったようで、ちょっと混乱されているようでした。しかし、専門家が居るらしく、その方に相談するので、しばらくしたらもう一度このスイッチを押してくれと。」


私達4人は実際にナカヤマと名乗る少女に出会ったので、興味津々なオーゲン様の質問攻めにあいながらも、この後に備え、ノイさんが用意してくれた少し早めの昼食をいただくことにしました。


「本題だ。」


オーゲン様の質問が一通り終わり、何やら考え込みだしたところで勇者様が話だします。


「無地討伐は終わったが、ここはしばらく瘴気が蔓延したままだ。徐々に薄くなり、時間はかかるが常人でもここに住むことができると。」


賢者オーゲン様は相槌を打たれ肯定されます。


「しかし、ここは北側諸国との国境がすぐ目の前、この魔王城があったからこそ北側から攻め入られることも無かった。だが、魔王が討伐された今となっては、いつ攻め入られるかもわからない。」


皆、勇者の話を聞きながらウンウンと頷いています。


「そこで魔王討伐の報奨として、この不毛な地を領土としてもらおうと思う。もちろん、魔王城込みだ。もちろん最初の約束通り、宝物庫内の財宝は山分けだが、俺はいつ攻め入られても対処できるようにここに残ろう。皆には王都へ戻って報告してもらいたい。」


皆、ウンウンと頷いていた首がピタッと止まる。


旅立ってから早3年半、私達も馬鹿じゃありません。

冷徹勇者と(パーティ内でこっそり)言われてはいますが、今まで一緒に死線をくぐり抜けてきたからこそ彼が何を考え、何を思い、何を好むのか・・・


さっきからチラチラと懐中電灯と少女が出てきた扉を交互に盗み見てる時点で、コレ是が非でも帰りたくないんだわ。あわよくば、邪魔者を追っ払いたいと目が語っていますわ。


皆、勇者の提案を一先ず却下しました。


・・・・・・・・・・・・・・・


◆中山紗奈


ピンポーン


「・・・・・。」


「うわ、本当に鳴った。これがさっき言ってたやつ?」


「どうかしら?もしかしたら、普通に郵便屋さんかも?ほら、さっさと出てきなさいよ。あー、わかった、わかったからしがみつかないで。これ高かったんだから。」


恐る恐るインターホンモニターの前まで行くと、今度はカメラを覗き込んでいるであろう目のどアップだ。近すぎる。

後ろで平太と麗美はドン引きしていた。


「少々お待ち下さい。」


私は二人の手を握って玄関まで引っ張っていく。そして、鍵を開けて玄関ドアを開けると、さっきの人とは違う銀髪ロン毛の男の人が先頭に立っていた。

え、誰?となりつつ、もう少し開けると、激可愛女の子が笑顔で手を振ってくれてる。その後ろには先程の金髪のお兄さんが立っていた。


私は後ろの反応が気になってゆっくり振り返ると、そこには顔を真っ赤にして硬直している平太と、マ、マブシイと両手で輝くイケメンオーラから顔を守っている。


まだ金塊を見てもらっていないので、玄関を全開であければ、先程の大男と、魔女っ子、更にちょっと忍者っぽい人が立っていた。やっぱり増えてる。


玄関先で、銀髪ロン毛の人が自己紹介を始めた。それに続いて自称勇者パーティーの人達が名乗ってゆく。


エルフ族の賢者オーゲン あ、耳とんがってる!


ルードニア王国の聖女ユーリーン 平太が「声もかわいい」とさっきからうるさい。


魔道士イライザ 挨拶がてらに人指し指の先に小さな水球を出して私達はわー!!!って声に出して驚いた。


暗殺者ギルド所属ノイ あ、あ、あ、暗殺・・・先程とは打って変わって一気に空気が冷える。


亜人の拳闘士クライン 亜人?あ、ホントだ!尻尾がある!麗美がモフモフに手をワキワキさせていたので、必死にストップかける。


勇者アッシュドルフ あ、空気読んで自己紹介の名前が短くなっていた。すごいニコニコと笑顔を向けてくれるので、友好的ででホッとする。


勇者御一行の挨拶が終わったので、一応私達も挨拶した。


「えっと、中山紗奈です。えっと、こちらが専門家の、」

「ちょっと、専門家とか言うの止めてよ。白石麗美です。」

「僕は大倉平太です。」


僕?ちょっと前に、一人称が僕とかダサいって自分で言ってたのに、聖女様の前でいいカッコしようとしてるのが透けて見える。麗美もしょっぱい顔して平太を見てる。きっと私も同じような顔してると思う。


「ところで、専門家はわかるのだけれど、彼は誰だい?護衛かなにかかな?」


勇者さんが、さっきの自己紹介より声のトーンを下げて尋ねてくる。


「えっとー、道連、彼はお隣さんで、付き添いです!」


私は、もし危害を加えられそうな時は平太を盾にしようと打算があったのを急いでごまかし、紹介した。


ふーんと、勇者さんの表情から笑顔が消え、目奥が笑ってないきがする。恐ッ!て言葉を飲み込んだ自分を褒めたい。


それよりも、玄関前に人の壁が出来ているので後方が見えない。

宝物庫の中に玄関がある状況を実際に平太と麗美に見てもらおうと思う。

でも、うっかり玄関が閉まって元に戻れないのが怖いから、家の鍵をしっかり握り、ドアを全開にして、なにか重し代わりになる物がないか探してその辺にあった変な金色のオブジェをストッパーにする。


各々靴を履いて一歩外に出たら、それぞれのリアクションで驚いていた。


私も、最初驚きはしたが、現実離れしすぎて実感がわかない。改めて自分ちを見れば、それはまるでアニメのドコデ◯ドアの様で、玄関の隣にインターホン付宅配BOX一体型ポストがある。不在でも通販アイテムも安心して受け取れる優れ物!


部屋のど真ん中にポツンとドアとポストが立っている。ドアの後ろ側に回っても金銀財宝がどっさりあるだけで家の壁とかは無かった。


ちょっと不安な心持ちで宝物庫内を歩いてみる。どこもかしこも眩しい。玄関の正面にはどデカい扉があって、細かい細工が施されてきれいだけど、開けるのに苦労しそう。横に勇者様が付き添ってくれて、半開きのドアの向こう側を覗いてみた。


そこは、すっごい広い部屋だった。東京ドームすっぽり収まりそうなぐらい広い。そんな中に、ドーン!と真っ二つになったドラゴンの死体があった・・・。


「あとで解体して、新たな武具の素材にするのよ」と魔女っ子さんが教えてくれた。


その隣で倒れてるのが魔王だそうだ。ただ、血の池、いや湖だな。沈んでる。湯気のように黒いモヤが立ち上ってるのを見て、大丈夫なのか聞いてみれば、核は取り出して壊したから、もう少しすれば完全に消えるらしい。私達3人は自然と手を合わせる。なーむー。


勇者様たちは?って顔で見てきたが、さっさと元の宝物庫へと戻った。今夜、お肉は食べられそうも無い。


・・・・・・・・・・・・・・・


◆中山紗奈


玄関前に再集合し、みんなで円になるようにして座り込む。そして専門家の意見を聞いてみた。


「んー、なんか、異世界と繋がってるみたいな話、無くはないかなー。」


ここでは、空想のファンタジー小説の話であって、現実世界での実例ではない。しかし、エルフの賢者さんは、ほうほう、なるほど、とさっきから麗美の話に真剣に聞き入っていた。


「まぁ別に良いんじゃない?なんか、ここら辺にもう魔物居ないんでしょ?だったら実害無いんだし、このままでもさ。」


なんて無責任な!玄関壊されでもして変な人が来たらどうすんのよ!!私がギャーギャー専門家に苦言を呈していると、


「大丈夫だよ、ここは俺が守るから、侵入者がいたら即行殺すからね。」


横から物騒なことを勇者様が笑顔で答える。イケメン顔がやたら近い。


「いいじゃん、異世界に友達出来たと思って、交流してみたら。紗奈は元々友達少ないんだしさ!ほら、その時はさ、お、僕も一緒に・・・ゴニョゴニョ」


最後は微笑みを絶やさない聖女様を見ながらで、なんて言ってんのか全く聞き取れなかった。


魔女さんが肘で拳闘士さんを小突くと、麗美に向かって尻尾触るか?って聞いてる。「え!いいんですか!!」って相手から返事が返ってくる前に尻尾をワサワサし始め、それが合図だったかのように暗殺者さんがお菓子や飲み物を用意してくれた。


あ、これ、私流されるやつだ・・・


すっかり私の陣営は籠絡され、玄関に関してはしばらく様子を見ることとなった。


・・・・・・・・・・・・・・・


◆暗殺者ギルド所属ノイ


あれから暫く和気あいあいと雑談をした。しかし、家主であるサナはどこか釈然としない様子だったので、この地方特産の葉を乾燥させたお茶を淹れたカップを渡すと恐る恐る口につけ、少し和んだようだ。携帯食の焼き菓子も気に入ったようで口に放り込んではモグモグと咀嚼している。


御気に召していただけたようで、目尻が下がっている。


レミはクラインの尻尾を丁寧に撫でていたが、今では頬ずりしている。普段無口で勇者以上に感情が読み取りにくいのだが、耳はピクピクと動き、激しく尻尾は左右に動いている。


「尻尾を触られることが一番キライだ」


と以前本人から聞いたことがあるのだが、どうやら相手にもよるのだろう。レミは完全にロックオンされてしまったようだ。クラインは舌なめずりをして、獲物を狩るときの表情をしている。


ヘイタは聖女が気になるようで、さっきから鼻の下が伸び切っている。聖女がヘイタの腕に手を置けばガチガチに固まって、顔から火が吹きそうなぐらい真っ赤になっている。


一目瞭然で童・・・初心だ。


聖女もそれがわかっているからこそ、ヘイタで遊んでいるのだろう。聖女とは名ばかりの悪女である。

おそらく彼女が一番腹黒い。彼女は孤児院で育ったが、聖神力がずば抜けていた。聖教会は聖女と持ち上げ、政治にも参入しようとしていた。王妃の有力候補者で、聖教会は国王を丸め込み第一王子と結婚させようとしている。しかし、周りの妬み嫉みはものすごく、その渦中をくぐり抜けてきた彼女の根性はたくましく、笑顔の裏は恐ろしい。


あ、ヤバ、聖女が睨んでる。


相変わらずオーゲン様は、異世界の三人に質問を投げかけ、サナとレミが答えている。ヘイタはそれどころでは無いらしい。オーゲン様が扉の先に行ってみたいと言ってる。あ、それ、自分も行きたいです。


満場一致だった。


サナは困ったような顔をしていたが、


「あんた、暫く家に一人なんでしょ?だったら良くない?」


うげっと渋い顔をしていたが、ヘイタからの援護射撃もあり諦めたのか、


「わかったよー、でも、今日は無理!明日、明日なら・・・家の中片付けてからなら・・・」


こればかりは仕方がない。個人宅に大勢で押しかけるのだ。皆得心し、明日に備えて我々もやるべきことをさっさと済まそう。


全員立ち上がるとサナが申し訳無さそうに、


「えーっと、クラインさんはちょっと大きすぎて、家の中狭く感じるかも・・・」と言う。


つまり、クラインは拒否られたのか?


耳も尻尾も垂れ下がり、信じられないとという表情だ。一緒に旅を続けて早3年半、初めてクラインの絶望した顔を見た。しかし体格は同仕様もない、と諦めかけていた時、


「クライン、任せてよ!わたしは大魔道士イライザ様よ!あんたのデカい図体なんて、わたしにかかれば自由自在なんだから!」


クラインはイライザの手を握り、ブンブン上下に振りながら、「ありがとう、ありがとう」と感謝の言葉を繰り返していた。


皆、「良かったな」「一緒に行けるね」と目尻に溜まった涙がキラリと輝いていた。


・・・・・・・・・・・・


◆勇者アッシュドルフ・ターザニア・ガルシュ・スヴェルト


俺達はサナを見送り、早速残った仕事を終わらせることにした。やることは山積みだったが、腐っても勇者パーティー。役割分担は決まっている。


「さっさと終わらせよう。」


皆、真剣な目をして頷く。


「まず結界だ。この部屋には厳重に結界を掛ける必要がある。」


「そうね、私が最大出力を出せば永年結界を張ることができるわ。でも、一枚張るより多重結界の方が良いと思うの。オーゲンが以前見つけた錬金術と魔法陣、聖女の神聖力で更に強固にしましょ。アッシュドルフの聖剣を核に使えば可能なはずよ。」


当たり前のように、勇者の証の聖剣を使うと言うがそんな事はどうでもいい。イライザの指示で部屋の中心、異世界へ続く扉の開閉のじゃまにならない場所に聖剣を突き立てる。


ここからはイザベラたちの仕事だ。結界を張ったは良いが、自分たちが通り抜けなければ意味がない。宝物庫の中から通行証に適したアクセサリーを全員分用意する。


俺は、一対の指輪を見つけた。元々2つで1つのデザインになるのだろう。表面には世界樹の葉が彫り込まれ、内側には小さいが何種類もの魔石が埋め込まれている。ちょっと魔力が有れば世界を手に入れることも容易いマジックアイテムだった。


よし、片方をサナに渡そう!


イライザには「重い!重すぎる!」と言われたが、「だから何だ」と返したら何も言わなくなった。


クラインはどうやらレミを番にしたいようだ。レッドウルフ種の亜人であるクラインはガチガチの金の首輪にしたかったようだが、体系を自在に変えるのならばチョーカーの方が良いだろうとイライザにアドバイスを貰い、つい先程倒したドラゴンの筋繊維と長年の経験と勘で選び抜いた魔石が埋め込まれたペンダントトップを渡す。


ドラゴンの筋繊維は柔軟性が高かく軽い。更に耐久にも優れているので、俺の防具や衣類もすべてドラゴンの筋繊維が編み込まれている。しかし、希少なので加工されたものは国によっては家宝にされたり、王族への献上物もなっている。


あとは女性陣がいつになく協力的で、「レミにぴったりなデザインにしてあげるから」と言うと、クラインの尻尾が激しく揺れていた。相当嬉しいのだろうな。


オーゲンは、更に知識が深まるイヤーカフを見つけて喜んでいた。どうやらこの城のいたるところに刻まれている文字が読めるそうだ。いきいきとしてる姿を見ると、更に長生きしそうだと思う。


ノイは懐刀にするらしい。オーゲンに鑑定してもらうと、とても小さいく軽いが持ち主の思い一つでなんでも切れると言う。聖剣には及ばないが、そんじょそこらの魔剣なんて太刀打ちできないほどの一品だそうだ。これに、核となる魔石をオーゲンと一緒に探しに行った。


腹黒女の聖女はさっきから「えー、どうしよっかなー」と地面に散らばっている財宝を蹴っ飛ばしている。


こうなったら、長い。


何を勧めても粗を探して文句をつける。


「そろそろ付与始めるよー」とイライザが大きな声で叫んでいる。


イライザのもとに集合している間も「ちょっと待ってー」と言いながら足元を見るが納得したものが見つからないのだろう。さっきからずっと口を尖らせている。


「イライザさんは何になさるんですか?」

「わたし、このブレスレット!これすごいんだよ、魔力を増幅できるの!しかも貯めれるんだって!」


「え、まだこれ以上魔力増やしてどうするんですか!?世界滅ぼすんですか?」


「チッチッチ、ここで重要なのは貯めれるってところなのだよ!」


人差し指をメトロノームのように左右に振る。何が重要なのだろうか?


皆が頭をかしげて考える。ここで口を開いたのは賢者オーゲンだった。


「これは推測に過ぎないが、まさか異世界でも魔術を使おうとしているのか?」


「ピンポーン!!大正解!!


さっきサナ達から聞いた話によると、あっちの世界では魔法使えないって言ってたでしょ??てことは、向こうに行ったら大魔道士のわたしは役立たず。普通の人と変わらないわけよ。無くたって生活には困らないって言ってたけど」


ものすごく勿体ぶる。皆を見回し、鼻腔を膨らませ、


「・・・向こうに行ったら空間拡張魔法で部屋増やせるのよ!」



愕然とした。


俺はいかにしてサナと交流するか、この玄関扉を壊してしまえば常にサナと会えるのでは・・・と目先のことしか考えてなかった。そうか、向こうに拠点が有れば・・・


誰も喋らなくなっていた。


聖女はハッとして、「ちょっとまってて!すぐ戻るから!!」と、手当たり次第に財宝の中から良さそげなアイテムを探し始めた。


帰ってきたときには、似たような、太さが若干違う小さな魔石がいくつもついたアンクレットを2本握りしめていた。おそらく一つはヘイタの物だろう。守護に癒やしに防御…鉄壁のバフがついていた。ヘイタは安心して天寿を全うできるだろう。


・・・・・・・・・・・・


◆勇者アッシュドルフ・ターザニア・ガルシュ・スヴェルト


無事多重結界もかけ終わり、ドラゴンの解体は俺とノイ、クラインの三人で速やかに終わらせた。


再集合し全員で、宝回収だ。


宝物庫の中に落ちてあったマジックバッグを各々集め、細かく分けていく。

宝物庫のマジックバッグはかなり性能がいい。容量が無限では?と思うほど中に収まっていくし、バッグの中身は時間劣化もしない。これだけでも相当の価値がある。


人数分のバッグにそれぞれ金貨や延べ棒、ただの宝石を分配する。

それとは別にマジックアイテムは時間がないから一つのバッグに片付けてしまう。これはオーゲンの鑑定がないと用途すらわからないものまである。


もう一つのバッグには解体したドラゴンをそのまま収める。血液は万能で多岐にわたって活用方法があると魔道士と賢者は率先して集めていた。


宝物庫が空っぽになったところで、イライザとオーゲンは王都に帰還するべく転送魔法陣の準備に入る。トリガーは先程の通行証代わりのアクセサリーだ。


残り4人で手分けして城内の探索と回収に入る。倒した魔物の核である魔石もそのままだし、隠し部屋があるかもしれない。根こそぎ回収する。何の痕跡も残してはいけない。


この城に初めから財宝なんて無かったかのように・・・。


まだ冒険を始めて間もない頃、ダンジョン攻略し得た財宝を国に取り上げられたことがある。国王は献上するのが当たり前のことのように振る舞っていた。あの日があったからこそ、俺達は気持ちが一つになり、真のパーティーとなることが出来たのだ。


この城の内装はどうするべきか、彼女と一緒に考えたって良い。二人の寝室は赤がいいかもしれない。すべての部屋を回りつつ、彼女と共に暮す未来に思いを馳せていた。


・・・・・・・・・・・・・・・


◆大魔道士イライザ


「オーゲンありがとう。これでいつでも城に戻れるわ。」


「そうだな、だが座標はどうする?城の中にしてしまうと魔術師たちが解析してここを突き止めようとするかもしれないぞ?」


「抜かり無いわ!ポータルの先は私の家よ。そこからテレポートでひとっ飛び!あそこは簡単に突き止めたれたりしないもん。このブレスレットのお陰で思ったより早く終わったし、皆が戻ってきたら早速出発よ!」


魔王城周辺は未だ瘴気に満ち、上空は分厚い雲に覆われているが常に鳴り響いていた。雷鳴はもう聞こえない。


体感的にはそろそろ夕方かな?


「ねぇ、オーゲン。今回の魔王討伐したら、それぞれに望むものを与えるって言ってたじゃない?」


「言っていたな。だが、あまり信用していない。口約束だと反故にしかねん。」


「確かに~。でも何もらう?正直財宝とかいらないんだよねー。多分王家所有の国宝級マジックアイテムもここの宝物庫のアイテムに比べたらゴミみたいなもんだし~。」


「アッシュドルフはサナにご執心のようだから、ここを離れることは無いだろう。私もこの未知の遺跡を隅から隅まで調べ尽くしたい。なんだったら、異世界にも興味がある。勇者のサポート係に立候補でもしてみるか。」


「えー、じゃあ、わたしもなる!サポート係!だって、いつ隣国が攻めてくるかわかんないもんねー。カモフラージュで雷雲発生装置なんてどう?」


「黒い霧も常に発生しておけば尚良いだろう。」


お互い目があってニヤっと笑う。預かっていた魔石やマジックアイテムの入ったバッグの中から使えそうな物をオーゲンに探してもらう。


おおお!さすがオーゲンの鑑定眼!雷速のレイピアだー!


「えっとー、呪いの掛かった魔石無い?あ、それ良いじゃーん!」


① 自分の腰のマジックバッグからすり鉢とすりこぎ棒を取り出して、呪いの魔石を粉末にする。


② 元々持ってた最上級の水の魔石を呪文を唱えながら砕き、呪いの魔石と混ぜ合わせる。


③ 次にドラゴンの血を数滴たらし、妖精の粉末と火炎蝶の羽をよーく混ぜる。お団子にして愛情いっぱい込めて「石になーれ」って唱えたら、あら不思議!


 人工魔石の出来上がり♡


レイピアの柄頭に嵌め込めるよう、エルフの加工技術で固定してもらう。


みんなが帰ってくる前に急いで城の最上階のテラスへやってきた。オーゲンに魔法陣を描いてもらって、中心にレイピアを突き立てる。


おおおおおおお!!成功だわ!


空には雷鳴が轟き、魔法陣からは大量の黒い霧が溢れ出している。


・・・ちょっと多すぎるかもしれない。


アッという間に、城下は黒い雲海で覆われてしまった。


まぁ、ちょっとぐらいの失敗はご愛嬌だよね?


イエーイ!ってオーゲンとハイタッチして、大広間に戻るとみんな揃っていた。

二人でさっきのカモフラージュ大作戦を説明するとノイがすっごく褒めてくれる。ユーリーンは天才!って抱きついてきたので鼻高々です。


 えっへん!


我が家に帰る前に、王様になんて報告して、報奨で何を貰うか口裏合わせをしっかりしてから、皆で仲良く帰路についたよ♡


・・・・・・・・・・・・


◆亜人 拳闘士クライン


俺達は今王との謁見の為、謁見の間の横の控室で待たされている。


かれこれ1時間は経過しただろうか。未だ呼ばれないことにアッシュドルフはイライラしているようだった。


いつもより目つきが険しい。


大方、王女フランシアの支度に時間がかかっているのだろう。王女フランシアは簡単に言うと出戻り姫だ。


まだ幼いアッシュドルフに目をつけていたが、身分差を盾に求婚を躱していたらしい。


王も政略結婚させるつもりでいたから、これを良しとせず、早々に資源豊かな隣国の王子に嫁がせたはいいものの、王子不在の間に顔の良い護衛を脅すように寝所に引っ張り込み、女官長に敢え無く発見され、報告されたのだ。


国力はルードニア王国のほうが上回っていたので、圧力と金の力で示談させ、半年もせずに舞い戻ってきた。城内でこの話は禁句とされ、見つかろうものなら即刻斬首刑と言われている。


お、やっと呼ばれたか。


勇者を先頭にゾロゾロと連れ立って謁見の間に入って行った。


「おおお、勇者達よ、よくぞ無事に戻ってきたな!お前達が魔王を討ち取ってくれたおかげで、皆安心して過ごすことができる。感謝するぞ!」


大仰に出迎え、周りからも拍手が起こる。

王女は勇者にあらん限りの拍手を送り、素晴らしいと褒めちぎっている。


キャーキャー煩い。


正面には王が、サイドには第一王子と出戻り王女が豪華な椅子に座っていた。横に宰相、反対には聖教会の教皇が満面の笑みで拍手していた。

周りにはなんとなく見たことがあるような気がする貴族たち。

騎士団の団長連中がそれに続いている。


ここからは俺達の大芝居が始まる。と言っても、俺はこういった事は苦手なので、基本口は出さない。


「無地討伐は終わりましたが、しばらく瘴気が蔓延したままです。年月とともに霧は薄れ、魔物の被害もなくなるでしょう。」


おおおおお!っと貴族からも声が上がる。王はウムウムと勇者の報告に満足しているようだ。


「しかし、北側諸国との国境がすぐ目の前、魔王の脅威が去ったと分れば、ここぞとばかりに攻め入ってくるかもしれません。そして、瘴気が晴れるまでは魔物が生まれる可能性も捨てきれません。」


勇者の声はよく響き、周囲からはさっきまでの歓喜とは一変して、不安の声が上がる。


「私達は魔王討伐の報奨として、魔王亡き後、不毛な地を領地としていただきたいと思います。今後は魔王城を拠点とし、ルードニア王国の盾となりましょう。辺境伯としての地位と領土を賜りたい。」


ここからゴリ押しだ。


一層ざわめきが大きくなり、王と王女は固まってしまった。そして今まで一言も言葉を発していなかった第一王子のルードヴィッヒが、


「私達、と勇者は申しておるが、聖女ユーリーン、そなたも含まれるとゆうことか?」


もうすでに一国の王族としての貫禄が出ている。これには傍で控えていた教皇がギョッとしていた。


「はい、私はいくら時間がかかろうと、魔の地と化した北方領土を勇者と共に浄化し緑を取り戻したいと思っております。」


『勇者と共に』を添えるだけで意味深な発言となった。王女の聖女を見る目つきが険しくなる。


「この国には貴女を必要とするものが他にもたくさんいる。」


「ここには聖教会最高責任者の教皇様はじめ、優秀な聖職者がたくさんおります。今では魔王の脅威は去りました。

 しかし、魔の瘴気に耐え続けることが出来る物は他におりません。私が勇者様をお支えして・・・いえ、少しでもお薬に立てればと思います。」


「聖女」

「勇者様」


聖女は瞳を潤ませ勇者を見つめる。勇者も聖女の頬に手を添え見つめ返す。


知らぬものが見れば、お互い想い合っているかのように見えることだろう。きちんと会話を聞けば国のためのように聞こえても、愛した男と一緒に居たいと言っているだけだ。しかし、魔王を討伐した勇者と聖女が出来てると勘違いしてもおかしくは無い。


聖教会が政治に参入してくることを快く思ってない貴族も多い。実際、第一王子は反対派だ。二人の関係を後押しする者は多いだろう。


明日には王都内にこの噂が駆け巡り、吟遊詩人たちが愛の物語として各地まで届けてくれる。


流石に勇者一行を食い物にしてきた王とて、二人を引き裂こうとしたとあっては外聞が悪い。民衆からの支持率も下がってしまう。


それほどに国民は勇者と聖女に夢を見ているのだ。


さっきから王の額の汗が止まらない様子だった。今のところ思惑が全て覆されているのだから。口を固く結び険しい顔つきの王に代わり、王子は続けざま問うてくる。


「賢者オーゲン、そなたもか?」


「はい、勇者と共に未開の地へ赴こうと思います。」


「出来る事なら、そなたの賢者としての知識を授けてもらいたいのだが?」


「私はエルフですよ?そもそも、人間如きに私を縛る事が出来るとでもお思いか?」


王族に対して不敬罪を言い渡されても可笑しく無いが、元来エルフ族は人族を下に見る傾向が強い。オーゲンがかなりの変わり者なだけで、エルフは人とつるもう等と考えたりしない。しかし、オーゲンはエルフの里を単身で飛び出し、1000年以上かけて世界各地を渡り歩き知識欲を満たしていった。今まだ衰えを知らぬ欲求に素直なのだ。


立ち寄った魔法都市では大歓迎を受け【生きる歴史】だの、【世界の叡智】だの大仰な二つ名を聞いたイライザに笑われ、恥ずかしくなったオーゲンが怒っていた事を思い出した。奥歯を噛んで笑いを堪えた。


「大魔導師イライザ、そちもか?」


眉間にシワを寄せ、怒りをひと呼吸でおさめた王子に問われイライザ。


「私もお互いを想い合ってる二人を支えてあげたいと思います。」


イライザは、更に煽ってきた。


続けざまに問われ、


「俺も」とだけ答えた。


「暗殺者ギルドのノイよ。お前はどうするのだ。」


「ワタクシは暗殺、諜報は続けて行けないでしょう。勇者パーティーのメンバーとして、顔が知れ渡り過ぎました。このまま、ギルドを抜け、気心知れた仲間と共に、王国の盾となりましょう。」


全くその通りであった。


そもそもノイは影からのサポートと契約で定めていたにも関わらず、王国側は人気取りの為に、大々的に勇者パーティーの顔と名前を広めてしまった。ノイの顔が整っていたのも理由の一つらしいが、浅はかにも程がある。


そして極めつけはダンジョン報酬を取り上げられた事だ。パーティー内で一番金にシビアなノイは今すぐにでも王を暗殺しようとして、皆で必死に止めた事がついこないだのようだ。


こうして俺達の茶番劇も終了だ。


シーンと静まり変える広間で、王女が戦勝パーティーを大々的に執り行おうと提案した。その声には焦りが滲んでいた。

王も「そうだ!」と同意し、都合の悪い人間達が揃って盛り上がる。ただの時間稼ぎだ。しかし、これも聖女によって予見済みだ。


腹黒さはこちらの方が1枚も2枚も上手だな。


『あの女はきっと時間を稼ごうとします。少しでも長く城に足止めし、もしかしたら既成事実でも作ろうとするかもしれませんね。ハニートラップは常套手段ですよ。はぁ?私はそんな外道なこといたしません!!』

ヘイタで遊んでいたくせに、どの口が…と思ったのがバレたのか聖女様が物凄い形相でこちらを睨んでくる。


俺より小柄なノイの後ろにスッと隠れた。


「国王!魔の地では、今も魔物が生まれているかもしれないのです!私達には悠長にしている時間は無いのです!!準備を整え次第、魔王城に戻ります。報奨に関しては我が父、アールベンを通して頂ければ問題有りませんので。ではこれで。」


捨て台詞の様に言い残し、勇者を先頭に広間から出ていく。


・・・・・・・


◆勇者アッシュドルフ・ターザニア・ガルシュ・スヴェルト


全員揃って早歩きで廊下を進み、角を曲がり切ったところで顔お寄せ合い小声で話す。


「無事切り抜けれたわね!見た?あの王女様のユーリーンを見る顔!無意識なのか知らないけど鼻の穴膨らましすぎ!」


イライザは笑い声をできる限り我慢しているようだが、プッ!プププとしばらく空気漏れが続いた。


「そんな事より、魔王城へ戻る準備だ。暫く何処もかしこも魔王討伐でお祭り騒ぎだろう。特に王都は都合が悪い。俺達の顔が割れているからな。ノイはギルドを抜けるんだろ?先に済ませてこい。そうだな、オーゲンが付いていればイザイラの家で集合出来る。二手に別れよう。俺達は物資を揃えておく。」


ここまでま一気に話し終えた所で声をかけられた。

振り向けばそこには我が父アルーベンと兄アーガスが揃い立っていた。


「もう行くのか?」と兄が言えば、表情は一切変わらないのに物哀しそうな目で父が見てくる。家族だから解る。


隣でユーリーンが、


「まだ時間はありますよ!私は神殿には戻りません!クレインさんとオーゲン様は元々根無し草です。ノイさんは旅の前に身辺整理したんでしょ?だったら旅支度はスヴェルト領に行ってもできますよ。いかがですか?」


皆に確認して了承を得る。ノイとオーゲンにはギルドでの用事が終わり次第、スヴェルト領の屋敷までポータル移動してもらう事となった。


「では、大魔導師様、父と兄もご一緒しても構いませんか?」


初めて俺に様付されて、ニヤリ顔で「よろしくってよ!」とイザイラが答えれば、足元が光る。ポータルなんか経由せず、全員を一瞬で運んでしまった。


流石の父もよろけてしまい、兄に支えられていた。俺も手を貸し、スヴェルト領主の門扉をくぐる。


門番の二人は突如として目の前に現れた主に驚きを隠せなかったが、俺を見ると背筋を正し、「「おかえりなさいませ!」」と二人で声を揃えて叫んでいた。

「ただいま」と返し、門扉から暫く歩いて正面玄関へと向かう。もう日は沈みかけ、薄暗い中をイライザの光魔法で明るく照らす。


不審に思った庭師やメイド、敷地内を巡回している私兵が様子を見に続々と集まる。が、皆一様に驚いては慌てて「おかえりなさいませ」と出迎えてくれる。王都に居るはずの当主と息子、更には勇者パーティーが揃って歩いて帰宅しているのだ。馬車を用意しようとするものまでいたが、ゴールはもう目と鼻の先だ。


兄は近くのメイドに、母に帰宅した旨を伝えるようにと指示すれば、全速力で屋敷へ掛けていった。俺は見覚えがないので、新人メイドなのだろう。


イライザとユーリーンが「あ、躓いた!」「おお、踏ん張ったわ!!」「かわいい」と口々に喋る。兄に言えば、眉尻を下げて苦笑している。


軽い雑談をすればあっという間に屋敷に到着した。

母が出迎えてくれた。目には涙を溜めて、我が子を抱きしめる。


「おかえりなさい。」


「ただいま。」


2年ぶりの帰省だった。


「さっそくで悪いんだけど、色々と準備をしなきゃならないんだ。」


「こちらで用意しよう」と父が言う。


必要な物をリストアップしメモする。

もしかしたら身の回りの細々した世話はノイがしてくれていたので足り無いものがあるかもしれないが、一先ず用意してもらおう。


一晩ゆっくり休息をとって、日の出と共に出発する事になった。ノイとオーゲンには直接屋敷のポータルへと飛んでもらった。ノイに他に必要なものがあるか確認する。


「そう言えば…」、とノイから紗奈は紅茶が好きかもしれないと聞いたので、屋敷内にある全ての茶葉を少量ずつ分けてもらう。どんな反応をするのか楽しみで自然と広角が上がる。


なんだかんだでいい時間だ。すっかり日は沈み、少し遅い夕食をとる。皆で食卓を囲み、魔王討伐の報告を済ませた。


父は先程から俺と聖女をチラチラと見比べている。どうやら謁見の間での出来事をしっかり見ていてくれたようだ。そんな父に代わり、兄は人払いし、ハッキリ尋ねてくる。


「お前と聖女様は恋仲なのか?」と。


寝耳に水の母はスプーンを落とし、父はオブラートに包みもしない兄の発言に固まる。


「俺とユーリーンは恋仲なんかじゃないよ。」

「はい、勇者様と私が恋などあり得ません。」


二人とも笑顔で全力否定だ。


「謁見の間で聖女と手と手を取り合ったのは演技だよ。あーでもしないと俺は一生あの女に付きまとわれる。聖女も聖教会の都合のいい道具にされてただろう。案の定、足止めの時間稼ぎをしてきた。」


小さい頃から、ストーカーの如く王女に追い回されていたのは皆が知っている事だ。「貴族として、領主として手本で在るべき」と常々口にして、厳しかった父ですら、毎日泣きじゃくり、引きこもる俺を心配して、王女の手から守ってくれていた。やっと嫁いだと思ったのに即行で戻ってきやがった。出戻ったからと家格の低い俺と結婚してやっても良いと言い、あれやこれやでで断わり続けた結果、勇者に選ばれた。


任命式では国王に、「魔王討伐を見事成せば、王女フランシアとの婚姻を認め、公爵位を授爵しようぞ。」と言われた。


生き残れば王女と結婚、王女に開放されたければ死ね、と言われているに等しかった。


母は成人前の愛する息子を、生きるか死ぬかわからない戦地へ送り込まれたのだ。相当許せなかったのだろう。すっかり領地へ引きこもり、社交も止めた。


しかし、我が家で一番恐ろしいの母なのだ。母方の実家は他国の公爵家で王族の血を引いている。駆け落ち同然で嫁いできたが、兄が産まれたのを機に再び交流している。そんな孫バカの祖父を裏で動かし、王国に圧力をかけていると執事にコッソリ教えてもらった。順調に行けば、2年もしないうちにこの国のトップを変える算段がついているらしい。


自分は恵まれている。家族にこんなにも愛されているのだから。だから、母に安心してもらおう。


「でもね、母さん、俺にも心から愛する人ができたんだ!え、イライザじゃないよ。今度紹介するね!」


ニコニコ顔で食事を進める。


父も母も喜んでくれたようだ。


「アシュの結婚はもう諦めていた…」「早く孫の顔が見たいわ!」なんて言っている。兄に至っては、信じられない物でも見るかのようだ。「どんな方?」と聞かれ、サナの事を思い出しながら答える。俺は記憶力がいいので、些細な事ですら思い出せる。



勇者以外のパーティーメンバーは、

沈痛な表情で静かに食事を続けたのであった。


勇者の執着にゾッとしながら…


・・・・・・・・

◆中山紗奈


ピンポーン


昨日から掃除しても掃除しても終わらない、疲労困憊でインターホンの通話ボタンを押す。


「さーなーちゃーん、あーそーぼー」


今時、こんな呼び出ししてくる子なんか居ないわ、と思いながら「はーあーいー」と返事をして玄関に向かう。


麗美が大きな手提げ袋を2つ持ってきた。玄関で靴を脱ぎながら、


「それお菓子。ママに友達で集まってお菓子パーティーするって言ったら張り切っちゃって。あんたの好きなチョコレートケーキよ♡」


最後にウインク付きだ。


麗美ママは料理教室を開いてて、どれもこれも絶品!特にこの手作りチョコレートケーキは最高!慎重にケーキを冷蔵庫へ入れる。


「部屋片付いたの?」

「まだなの…。」


「あんた、ヨネさんに全部やってもらってたもんね。」

「ぐぬぬ、ルームツアーするとか言われると思ってなかったんだもん。お風呂とトイレは終わったよ。洗濯物もあと畳んで、床は自動掃除機君を導入していたのだ!!ドドーン!!」


自分で効果音を付けながら、自動充電中の掃除機を麗美にアピールした。


「じゃあ、何が終わってないの?」

「自分の部屋…」


そう、春休みの間に思い切って模様替えしようと思っていた。新学年に上がるにあたって、気持ち新たに。形から入る女なのだ。クローゼットの中も断捨離しちゃおっかなぁーんて思ってたから、中身全部引っ張りだしてたし。再び詰め込もうと思っても不思議なことに雪崩が起きる。


呆れながらも、部屋の片付けを手伝ってくれる麗美ちゃん好き♡


しかし、これは罠だった。


服を居るもの、もう着ないものに分けたまでは良かったが、クローゼットの空いていたスペースに何でも詰め込む習慣が合った。今までのアルバムや両親が出張先で買ってきた変なお土産。読まなくなった漫画や、過去の教科書。うげぇ、プリントもめっちゃ出てきた。この賞状は皆勤賞だ。


「あ、懐かしい。あ、これ4年生の時の担任の先生の落書きだ!麗美と撮った始めてのプリクラあるよ!わー修学旅行の時のキーホルダーだ!そうそう、麗美とオソロで買ったやつ!え?もうとっくに捨てたの!!ショック・・・」


幼馴染と一緒に過ごした時間が長すぎて、出てくる出てくる思い出の数々。

すごく自信があったから、高得点取れたかも!って自慢げに話したけど、名前書き忘れて0点になったテスト用紙を見て、麗美が大爆笑してる。見られるの恥ずかしくてクローゼットにしまい込んでたの忘れてた・・・。


ピンポーン


ん?げっ!!もう一時間経ってる。全然片付けは進んでいない。

平太が玄関先で立っていた。招き入れると、これまた差し入れが!ヨネさんがお休みの日はよくこうして2人から色々と差し入れをもらっていた。わー、唐揚げ大好き♡


それにしても、なんだか今日の平太にはちょっと違和感があった。ソワソワして、やたら前髪を触っている。んー、ちょっと香水臭い気もするし、なんとゆうか、小綺麗?普段はガキ大将をそのまま高校生にしたようなファッションセンスなのだが、どことなく大学生の平太のお兄さんみたいな。


2階から降りてきた麗美が、「あら、まるで弘太みたい」と苦笑しながら降りてきた。


平太はむくれつつ、「兄ちゃんに服借りてきた」と素直に認めた。


私の勘は的中していたようだ。ただ、香水がキツすぎて不評だったので、洗面所で洗ってこい!と平太に指示を飛ばし、残りの時間でゴミ袋に詰めれるものは詰めまくる。部屋がゴミ袋でいっぱいになったが、可燃ごみの日は3日後なので、立入禁止予定の両親の寝室にポポーイと放り込んでいく。


最後のゴミ袋を放り込んで、暫く置かせてくださいと、そこに居ない2人に頭を下げておいた。


クローゼットも無事に閉めることが出来、もう疲れたー。リビングのソファーにダイブしたところに、


ピンポーン


ついに奴らがやってきた!!



・・・・・・・・・・・・


◆エルフ 賢者オーゲン

 

我々は、言葉通り、ついに【未知の世界】に足を踏み入れる!!


アッシュドルフがインターホンを押すと、暫くしてサナの声が聞こえた。


ガッチャっと扉が開かれる。さっきからずーっと、みんなウキウキしている。まるで子供だなと呆れたが、何を隠そう、私も浮き立っていた。


「あ、いっらしゃいませ。あれ?一人足りないような?え?子供?子供さんなんかお連れ様にいました?」


サナに聞かれて、イライザは一歩前に出る。


「この子はクラインよ!私の変身魔法で子供サイズにしておけば邪魔にはならないでしょ?」


「ふぁー、すごい・・・」


サナは驚きつつ、クラインの頭をなでた。「あ、フワフワだぁ」さっきまでのオドオドしていたのに、今では微笑んでいる。


クラインに向けるアッシュドルフの射殺さんばかりの視線が怖くて、顔を背ける。


サナは満足したのか、「あ、どうぞ」と私達を出迎えてくれた。


「あ、ここから靴脱いでもらっていいですか?その代わり、これスリッパ履いてもらえると。」


ほう、部屋履きに履き替えるのか!流石に全員で入るには狭いので、一人ずつブーツの紐を緩め、スリッパを履けば、リビンへと誘導される。


足を一歩踏み入れるとレミとヘイタが「「いらっしゃい」」と歓迎してくれた。


ローテーブルとソファーがあり、部屋は大きめのガラス戸から温かい光が差し込んできて明るい。


壁一面に木製の棚があり、その真中に黒い四角い額が置かれている。


いくつも区分けされた棚の中には、小さな木の額に収められた肖像画があった。


「これは、小さな頃のサナか?ふむ、この人間は出張中と言う親か?」


横の額には年配の女性が、小さいサナの頭をなでながら微笑んでいる。とても精巧な絵に驚きを隠せない。イライザも「これすごーい!」と、食い入るように見ている。


遅れて入ってきたアッシュドルフは目をカッと開いて、「これほしいな、どうやったらもらえるんだろう」と独り言が怖い。


最後尾のノイと一緒にサナが入ってきて、これで全員揃った。


クラインはレミに直行し、耳をピクピクさせ、尻尾を振りながら抱きついている。「えーかわいい!わーふわふわ~、ほっぺぷにぷに~」とレミは幼子をかわいがっているつもりだろうが、中身はれっきとした25歳の成人男性だ。

あのスケベ犬め、後で説教だ。


イライザもユーリーンもせわしなくあたりをキョロキョロ見渡し、目新しいものを見つけてはデレデレしているヘイタにどんどん質問している。


ノイは公爵家でもらった茶葉で紅茶を淹れるので台所を貸してほしいと、キッチンへ案内された。


「何だこれは!!」


皆初めて聞くノイの悲鳴に近い怒号を聞き、駆けつける。

「どうしたの、ノイ!」

「イライザみてくれ、ここで調理をするらしいんだ。」


震える声で指をさす。


紗奈曰く、


「え、えっと家IHで、オール電化なんですよね。あ、電気です。火じゃなくて電気で調理するんです。」


え、電気って雷?雷にそんな使い方が?初めて聞いた。魔導コンロはあるけどそれは火を使う、旅を続ける間に持ち運びができるように試しに軽量化したものはノイのマジックバッグの中だ。


電気・・・奥深い。イライザと目が合った。わかってる、これは研究しがいがあるな!二人でフフフと笑う。


そして、順番に部屋を見せてもらう。玄関の横にはトイレ、こっちは洗面所、この箱で服洗って乾かせるか?すごい!その奥に風呂場。ほー、お湯に浸かるのか。基本シャワーで、洗浄魔法を使用するから今まで必要性を感じなかった。


これは何だ?いい香りがするな。え?しゃんぷー?体洗うのにこんなに洗剤の種類があるのか??用途によって細かく分けられているのか、美容成分も入ってると。


「「入りたい!!」」


隣でサナの話を熱心にきいていたユーリーンとイライザの声が被った。


サナは苦笑しながら、「じゃぁ、後でお風呂淹れますね」と約束して、二人は大喜びした。んー、私も少しばかり入ってみたい気もする。


リビングの奥は両親の寝室で入ってはダメと言われた。少々残念だがこればっかりは仕方ない。


2階の階段を登ると、紗奈の寝室に、めったに使わない客室と物置きスペースになってしまった部屋がある。2階にもトイレがあった。一つの建物にトイレが2つも。紗奈は良いところのお嬢様なのかもしれんな。


紗奈の寝室前で、今か今かと待ち構えていたアッシュドルフを押しのけ、中を見せてもらう。

本棚と勉強机、ベッドの上には可愛い人形がいくつか並んである。シンプルだけど、女の子らしくて可愛い部屋だった。壁一面が大きなクローゼットのようだったが、「絶対ここは駄目です!!プライバシー!覗き見ダメ!絶対!!」必死に背中で抑え、アッシュドルフがあざとく食い下がっているが、「ダメダメ!」と首を左右に振っている。


「しつこいと嫌われるわよ。」


イライザがアッシュドルフの耳元でささやくと、アッシュドルフはスッと元のよそ行きの微笑み顔に戻った。


下から、ノイが「お茶の準備が出来た」と声をかけてきたので、ゾロゾロと下の階へ移動する。


ソファーの上には、レミにブラッシングされて気持ちよさそうにお腹を見せている犬がいた。


クラインのチョーカーには変身魔法を起動出来るような仕掛けを施してある。変身するのも解くのも自在なのだが、この犬は、本来レッドウルフの亜人であるクラインの元々の姿だった。これが気高き孤高のレッドウルフ・・・そう思って生温かい目を向けているのは私だけでは無かった。


・・・・・・・・・・・・


◆中山紗奈


ノイさんがお茶の準備ができたからって、下に降りてったら大型犬が我が家のソファーで仰向けになって伸びていた。「麗美は毛ざわりたまらん!」ヨシヨシしながら熱心にブラッシングしていた。


お家でお料理教室開いてるから、動物は飼っちゃダメって麗美ママに禁止されている反動だと思う。平太の家で飼っていた元野良で雑種のポチが死んじゃった時は1ヶ月抜け殻のようだった。しかし、本来の人間の姿の印象が強いので、大の大人があんな姿で良いのか疑問に思ったが、麗美も嬉しそうにしているし、ま、いっか、で済ませることにした。


お客様用のカップが足りないって伝えると、自分たちの分は問題ないと言うので、冷蔵庫から麗美ママ特製のチョコレートケーキを振る舞うことにした。ノイさんは冷蔵庫にも興味津々で、見たこともない食材をみると目が光った気がした。お料理好きなのかな?


ホールケーキを切り分けると、人数多いからペラッペラになっちゃったけど、終始ノイさんはケーキが素晴らしいと褒めてくれる。私までちょっと嬉しくなった。麗美ママがお料理教室開いてるのと教えてあげると、ぜひ一度行ってみたいと言われた。どうしよう、聞いてみようかな?


一瞬ゾクッとして、振り向くと、笑顔のアッシュドルフさんが配膳の手伝いをしてくれる。


麗美が持ってきたお菓子もパーティー開けして、カンパーイ!と皆でお茶に口をつけた。


なんか、ほわほわして、お花の香がすごかった。なんのお茶か聞いたが聞いたこともない花の葉っぱだった。わざわざアッシュドルフさんが用意してくれたみたいで、お礼を言う。至近距離の笑顔が眩しい。まだ「アッシュ、ドル、フさん」と、スラスラ言えない私に「アッシュと呼んでくれ」と言ってもらえたので、遠慮なく短縮させてもらう。


そこからは賑やかに色々話した。皆の職業とか、魔王討伐までの経緯とか、リビングのテレビとは一体なんぞやとか、まだ日も高いのにお風呂淹れて、風呂上がりのイライザさんとユーリーンさんが大興奮とか、二人のバスタオル一枚姿を見た平太がぶっ倒れるとか、ちょっと大変だったけど、異世界のお話は面白い!楽しい時間はあっと言う間で、そろそろお開きの時間かな?


麗美も平太も時間を気にし始めた。晩御飯の時間だしそろそろと重い腰を上げると、みんな片付けを手伝ってくれる。


流しでお皿を洗っていると、イライザさんが、


「明日も来て良い??」


と聞いてきたので、「え、別にいいですけど・・・」


勇者ってそんなに暇なのか?


「でも、いいんですか?魔王討伐とかってビックニュースなんですよね?さっきも言ってましたが、どこもお祭り騒ぎだろうって。主役なのに?」


「良いんだよ。王への報告はもう終わらせたし、今日から俺達はここに住むんだ。」


え!?ここってどこだ!?


「フフフ、魔王城よ。」


会話に混ざってきたアッシュさんの発言にドキドキしたけど、あ、なんだ、魔王城かーびっくりしたー。ん?


「魔王城に住むんですか?危なくないですか?なんだか聞いた感じ不便そうでしたけど?」


世界の救世主たちが、そんな辺鄙な所で住んで良いんだろうか?こう華々しく皆に囲まれてる感じをイメージしていたのでなんだか肩透かしを食ってしまった。


「心配してくれてありがとー!でも、ぜーんぜん問題ないのよ!」


イライザさんにハグされて、危うく大きなお胸で溺れるかと思った。


「サナ」とアッシュさんに名前を呼ばれ、手を軽く引っ張ってもらい助けてもらう。


今度は魔王城にも遊びに来て欲しいと言われ、玄関まわりには多重結界が掛かっているので、関係者以外立ち入れないらしい。最初の約束を守ってくれてるみたい。アッシュさんは片膝をつき、通行証として、指輪を渡してくれる。


ってか、左手の薬指にはめられた。


ヒーーーーーッ!!こっちの世界で左手の薬指は結婚指輪はめるんです!!


抜こうとすると、なかなか抜けない。めっちゃぴったりハマってる!!


「ソウダッタノカ、スマナイ、シラナカッタンダ。ツギクルトキマデニ、ハズセルカ、シラベテオクヨ。」


と、私の左手の手を握ったままのアッシュドルフさん。その左手に、同じデザインの指輪を見つけてしまった。


これじゃまるで・・・


「お揃いの指輪で、なんだか、夫婦みたいだね?」


首を少し傾けて、覗き込むようにして言われた。


イケメンの顔圧が辛い。


きっと私は今顔が真っ赤で、片手で口を塞ぎ、目を逸らしながら、


「…そうですね…」


と小声で応えるのが精一杯だった。NOと言えない日本人の悪い癖が出てしまったようだ。



そのまま手を引かれてリビングに戻ると、麗美はチョーカーを、平太は足首に付ける、そうそう、アンクレットをもらって、さっそく着けているところだった。

麗美に「あんたは何もらったの?」って聞かれたから、左手の手の甲を見せる。


「結婚したの?」って言われたから、全力否定した!!


「結婚してナイ!ナイ!その目止めてよ!!まだ結婚なんてしてないんだから!!」




【 焦った時、人は大きな間違いを犯します。ちょっとした言葉のアヤだったのでしょうが、彼女はそれに気づかず、「まだ」の一言を聞いた勇者の目には仄暗い光が灯っておりました。(抜粋:聖女の日記)】


・・・・・・・・・・・・


◆中山紗奈


今日から進級して2年生!


春休み中は毎日のように勇者様御一行様がやってきて賑やかな日々を過ごした。


2回ほど魔王城に遊びに行って、なぜかアッシュさんのご家族とご挨拶させてもらった。向こうの人達もすっごく驚いてたけど、アッシュさんのお母さんは大歓迎してくれた。やたら彼氏は居るのかとか、両親のこととか、質問してきたけど、それだけ異世界人が珍しいのだろうと思う。


本日の予定は、新しいクラス分けと始業式のみ!午前で終わって、帰宅できる。帰ったら、ちょうど出張中の両親も戻ってる頃だと思うし、久しぶりにのんびりできる!!久しぶりの制服を着て、ローファーを履く。玄関を開けると、幼馴染二人が待っていてくれた。


指輪は結局取れなかったけど、イライザさんが『そこに存在してることを知っている者にしか見て、触れることが出来ない』と、なんとも難しそうな目眩ましの魔法をかけてくれた。


この指輪を見ると、ちょっとソワソワしちゃうけど、新生活の方がもっとワクワクしちゃうので、気にしないことにする。



「おはよー!」


「「おはよー」」


今日も元気に三人揃って登校だー!!





この時の私は、知る由もなかった。


私の目を盗んで、イライザさんとオーゲンさんが、客室と物置部屋を魔改造していたとは…


帰宅したら、両親と勇者一行が一緒に出迎えるとは…


燃える日のゴミ出し忘れて、夫婦の寝室にゴミ袋そのままにしてめっちゃ怒られるとは…


そして、一緒に暮らすことになるとは…








ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


創作意欲を消化したくて書き始めました。ササーッて2日ぐらいで短編でもかけたら良いなって思ってたんです。そう、誤字脱字、変な文法とかあっても・・・・自己満足で。


もうすでに5日経ちました。


本当は、もっといろんな人が出てきて、バタバタ賑やかなお話が脳内で繰り広げられているのですが、書ききらん!!終わらん!!一旦完結させることが大事!!結果、最後の方は駆け足となりました。


『オレ達の話はまだまだ続く!みちぇ子先生の次回作に乞うご期待!!』



PS. 誤字脱字とか、書き方に統一無かったりとご不便おかけしますが、よろしくお願いします。

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