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最近のブードゥーは

作者: 一飼 安美

「ゾンビというのは、化け物じゃないんだ」


 そんな聞きかじった知識を披露して、得意になっていた。ゾンビという言葉の語源はブードゥー教の儀式にあり、本来のゾンビは人を食ったりしない。輪廻転生の輪を追われ、土に還ることも許されずに永遠に這いまわる。哀れな罪人のようなもので、徒党を組んで行進し肉に群がったりしない。他人を襲ったりしないのだ。


 ゾンビと言えば、ボロボロのシャツで血だらけで、なーんにも考えずに歩いてきて噛みつく、もうそうなってるじゃないか。むしろ他のゾンビなんて見たことないし聞いたことない。走るヤツがいればもう珍しいくらいだ。友人がそう主張したので、言ってやった。それは映画のイメージ、今見てた最新作の源流をたどればゾンビを化け物にした映画監督がいる。みんなそれが、ゾンビだと思ってるんだ。思い込みってヤツ。バカだよな、と上機嫌に話していたら、友人は言うのだ。


「じゃあ、あれはどこから来たんだ?」


 ……今見ていた映画のゾンビは、ゾンビではない。ゾンビを知っているならゾンビの映画を撮ればいいのに、そいつは名前だけゾンビと言って全く違うものを作った。オレたちの知っている、「ゾンビじゃないゾンビ」はどこから来たんだ?……知るかよ、デタラメだろ?そう言って話を切り上げた。知っているだけのことを披露して得意になるバカは、どこにでもいる。そうとしか思わなかった。くだらない話だから、もうしなくていいと思っていた。


「名前なんて意味ないんだ」


 帰りの駅、ベンチに座っていると後ろから聞こえてきた。あの映画を見たヤツが、得意になっているのだろう。どこにでもいる。だから、気にはなったが興味はない、程度に耳を傾けていた。どうせ友人は、もう二、三分はトイレから帰らない。


「あれをなんて呼ぶか、どんな名前かなんて気にしているうちは三流だ。こういうものを見たヤツがこんな風に呼び始めた、それだけ。今名前をつけようと、大昔についた名前であろうと、同じもの。古代の秘法なんて誰が考えたって大して変わらないんだ。せいぜい極端にするだけ。極端にしたものを極端に広げれば、違うものに見えることがあるかもな」


 人を食う。頭がない。死にかけ。増える。どこかの勧誘みたいだ、まったく最近のは……。知らないうちに聞き入っていて、次は何を言うだろうと聞き耳を立てていた。すると、声の出もとは急にオレの耳元に近づいて、言った。


「ゾンビにならないようにな」


 はっとして振り向いたが、ベンチに足を引っかけてよろめき、誰も居ないホームをにらむしかなかった。トイレから帰ってきた友人は、どうかしたか?と聞いてきた。なんでもオレは、一人で慌てて立ち上がりこけそうになっていたそうだ。


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