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9話 ロビン

 私とロビンが出会ったのは、私が八歳、一つ年下のロビンが七歳の頃だった。



 私たちはロビンのお母様であるデリラ様と、私の母が親友だったことが縁となり出会った。



 しかし、その出会いはロビンにとって決して良いものとは言えない。ロビンの母、デリラ様の出生の問題がきっかけだったからだ。



 デリラ様は、アランミルム侯爵の庶子として生まれた、いわゆる不義の子だった。

 そのため、デリラ様は正妻とその子どもである兄姉たちから、それは毛嫌いされていた。



 だが、侯爵と血が繋がっている以上、デリラ様も一応アランミルムの娘であることには変わりない。



 よって、それを生かさない手はないということで、彼女は若くして政略結婚という形で、ウィンクラー家の長男アルフレッド様に嫁がされた。



 幸い、アルフレッド様はデリラ様に対して非常に優しいお方だったらしく、仲睦まじい二人の間には結婚の翌年にロビンが生まれた。



 しかし、それから七年後、アルフレッド様は伝染病にかかり亡くなってしまった。さらに不幸は続き、デリラ様も同じ伝染病にかかり、二人は同年に死亡した。



 二人がかかったこの伝染病は、緩やかに身体が衰弱していき、やがて死に至る病だった。



 そのため、死を悟ったデリラ様は元気なうちにと、アルフレッド様の弟君にロビンをよろしくと頼む手紙を綴ったそうだ。



 だが、弟君を含めたウィンクラー侯爵家の人間は、デリラ様の最後の願いを拒絶した。



 理由はただ一つ。

 身持ちの悪い女の子どもを、なぜウィンクラー家で育てなければならないのか。そう返されたというのだ。



 また、爵位を継ぐまではデリラ様の実家であるアランミルム侯爵家が面倒をみろ。

 というよりも、ウィンクラーはアルフレッド様の弟君が継ぐから、ロビンはこの家に要らないと言われたそうだ。



 デリラ様は、この血も涙もない返答に焦った。自身亡き後、ロビンが独りぼっちになってしまうと。



 そんな懸念が生じた彼女は、無理は承知ながらも、アランミルム家にもロビンの面倒をみてほしいと交渉したそうだ。



 だが、デリラ様を嫌う正妻と兄姉が、ロビンを預かるなんて言うはずもなかった。



 そこで、デリラ様はいよいよ追い詰められ、一縷の望みをかけて、私の母にロビンを頼みたいという手紙を送ったのだ。



 母は手紙を受けるなり、父に相談なく了承の手紙を返したという。

 また事後報告された父は、怒るどころか「よくやった」と母に賛辞の言葉を贈ったそうだ。



 その結果、私の両親がロビンを引き取ることになり、彼は私の弟的な立場として、私の生家せいかであるベルガー家で育てられることになった。



 ちなみに、引き取りの件を知ったウィンクラー侯爵家は図々しくも、ロビンをベルガー家の養子にしないようにと条件を提示してきた。



 ウィンクラー家の子どもは、ロビン以外すべて女の子だった。

 そのため、ロビンの叔父が亡くなった場合、ロビン以外に後継者がいないという問題があるかららしい。



 こうした経緯があり、ロビンは養子としてではなく、あくまで保護という形で、ベルガー家で暮らすことになった。



 ロビンはベルガー公爵家に来る前から、ほかの貴族の令息たちからよくいじめられていた。



 母親であるデリラ様の出生が良くないことを理由に、平民の血を引いていると揶揄されていたのだ。



 そのほかにも、ロビンのくせ毛を馬鹿にする言葉や、ベルガー家に拾われた捨て子と言って、罵詈雑言を吐かれていた。



 しかし、特にそうやってロビンをいじめるのは、皮肉なことにアランミルム家の令息やその腰巾着ばかりだった。



 私はその場面に遭遇するたびその行為を止めさせ、ロビンを徹底的に守った。



「どうしてロビンは何も仕返ししないの?」



 昔、何もやり返さないし挑発にも乗らないロビンが不思議でそう訊ねた。



 すると、彼はやり返すだけ無駄だ。その価値すらない相手に気力を割きたくない。そう返してきた。



 だが、私はその言葉に違和感を覚えた。



 やり返しても繰り返されるから、無駄だと思う気持ちは分かる。気力を割きたくない気持ちも分かる。



 だがそれとは別に、ロビンの心は一方的に傷付けられたままではないかと。



 だから私は、既に心が疲弊しきっている彼に宣言した。



「じゃあロビンが傷付かないように、私がロビンを守って可愛がってあげるわ! お姉さんだもの!」



 私がそう言って笑ってみせると、ロビンは未確認生物なものでも見るかのような目で私を見つめた。



「ロビン、次また絡まれたら私を絶対に呼んでね。そいつをボッコボコにしてあげるわ! 傷付くことに慣れないでちょうだい」



 ロビンは私のその言葉を聞くと、眩しそうにくしゃりと顔を歪ませた。



「そんなことしたらダメだよ……ふっ……」



 ロビンはそう言って涙を流すと、ベルガー家に来てから初めての笑顔を見せてくれた。



 この出来事があって以降、私はロビンの自己肯定感爆上げ作戦を毎日決行することにした。



 幼いながらに、傷付いた彼の心を少しでも癒してあげたかったのだ。



 それに何より、人生初のたった一人の友人のような弟を大切にしてあげたかった。



 だから、私はことあるごとにロビンに褒める言葉をかけた。あなたは大切な子、かわいい存在だと何度も繰り返し告げた。



 正直鬱陶しいと思われていたような気もする。



 だが、ロビンは嫌な顔一つせず、最初はそんなことないと言っていたが、気付けばありがとうと返すようになってくれていた。



 こうして月日が経つ中で、ロビンは目覚ましい成長を見せた。



 幼いころからくっきりした目鼻立ちだった彼は成人後、精悍さを増して凛々しく美しい青年へと変貌を遂げた。



 性格も品行方正で聡明なロビンは、どこに出しても恥ずかしくない好青年になったのだ。



 だが、私が結婚に特別な興味がなかったのと同じように、またロビンもそういったものに興味が無かった。



 そのため、気付けば十八歳の結婚適齢期になっても、私たちは互いに婚約者がいなかった。



 そのため、私が二十歳になっても婚約者がいなかった場合、いざとなったら結婚するかと言われたとき、私はロビンの話に乗ったのだ。



 ただそれだけで、本当に恋愛的な意味でロビンを見たことは無かった。



 私がロビンに抱く好意は、それこそまさに家族愛という言葉がぴったりだった。



 言い方は良くないだろうが、互いをよく知っている分、まあ貴族的義務を果たすためにはアリな相手だろう。そんな感覚だった。



 だからこそ、まさかリアスにずっとロビンとの関係性を誤解されていたとは、夢にも思わなかったのだ。

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