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ヤンデレモノ作品集  作者: 小野間トペ
1/1

アイドル監禁モノヤンデレ

兎にも角にも長い18年間だった。


僕の住んでいた街は所謂郊外といった感じの都市で、隣接する政令指定都市の所謂ベッドタウンとして昭和末期から平成初期にかけて整備されたほぼ計画都市だ。

兎に角多くの人が生活できるようにと造られた街のため、何処もかしこも団地だらけ。

ベッドタウンとしての機能を果たすために、利便性を求めてショッピングモールやコンビニエンスストアはどこに行ったってあるが、この街には欠陥と言っていいほど無いものがあった。


娯楽だ。

何をするにも隣の大都市に行けば楽しめるだろと言わんばかりに娯楽施設はゼロ。

20万人を数える大都市にも関わらず、この都市規模で駅前にカラオケすらない。


娯楽がないのはいただけない。

特に、やたらと厳しく、街の外に出るのは必ず親が付き添う、スマホを買うなんて以ての外、インターネットなんて健全な青少年の育成に毒、なんて家の子はどうやってフラストレーションを発散してゆけばいいのだろうか。


地獄のような日々だった。

周りがゲームやらアイドルやらに凝りだす小学生の頃は勉強ばかりさせられてろくに友達やらと遊んだ記憶もないし、中学になれば進学校とやらであっても多少遊ぶだろうに、それも駄目だったし、隣町の学校に進学したものだから通学中手持ち無沙汰になるから何かしたいのに、今思えば中学生には早いんじゃないの?って本ばかり読まされた。


高校になるといよいよヤバくなってくる。

部活の付き合いでカラオケに行くのは駄目、学校帰りに寄り道も駄目、休日に友人と遊ぶのも駄目、なら一人で外に、となると親同伴、と明らかに毒親な対応を強いてくる。

何故かと親に聞いてもお前のためだ将来のためだ健全な青少年の育成に毒だと聞く耳を持たない。


そんなことされるとやることとなれば勉強ぐらいなもので、結果として、高校3年間は勉強に娯楽を求める狂気的な生活を送る羽目になったのだった。

お陰で我が国の最高学府に進学することが叶ったわけだが、ここは関東から遠く離れているため、当然家からは通えない。


僕はこれに懸けていた。

遠くの大学に進学することが出来れば、余りにもやばすぎる親から離れて、悠々自適、遊び放題の日々が待っていると。

東京に住むなんてことができれば文字通りの酒池肉林が達成できるだろうと。


こいつを成功させるために作戦を立てよう。

できるだけ遠く、具体的に言えば東京の大学に進学したい。

県内の大学に進学させたがっていたのでそれを越えるインパクトと説得力のある大学にしなければ首を縦に振らないだろう。

生まれてこの方勉強ばかりしてきたから大抵の大学はなんとかなるだろう。


となれば、答えは一つ。

最高学府だ。

最高学府に進学したいといえば流石に止めはしないだろう。


そういうわけで高校に進学してすぐに親に志望校のことを伝えた。

めちゃくちゃ渋っていたが知名度とか箔がつくとかなんとかあることないこと言って納得させた。

合格してからは寮ではなくアパートに住むことを認めさせた。


これで遂に薔薇色の大学生活が始まるんだ!

たくさん友達を作って、沢山遊んで、大学4年間で喪われた青春を取り戻そう!

そう思って大都会東京にやってきた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



まさに夢のような日々だった。


だって何しても良いんだぜ!

カップラーメン食べて良いし、ファストフードを毎日食べても良い!

何人部屋に人を連れ込んでも、一日中遊び呆けても良い!


なんて素晴らしいんでしょう!


大学で知り合った奴らは俺程ではないにしろ青春を犠牲にしてきたやつが多かった。

そんなので集まればやることは一つ。


楽しむ事だ。


夢のテーマパークだって男だけじゃつまらないなんて言われてたがそんなことない!

開門ダッシュして閉門までしっかり楽しめた。

あのチュロスがまた食べたい。


カラオケでオールしたって良い!

カラオケの勝手は分からなかったが、有識者を知り合いの伝で召喚してイロハを学んだ。

成る程、これは高校生が嵌るわけである。

今じゃ週一でオールしている。


大学生活も素晴らしい!

なんてったって生徒のレベルが高い!

何の話したってついてこられる。

変な間みたいなのも無い。

ストレスフリーで会話ができるわけだ。


先生方が素晴らしい!

授業内容の濃さもさることながら、専門分野に関することでは打てば響く返答!

専門分野でなければその分野に明るい先生を紹介してくれる。

知識を得て自分をより高めたいという欲求を満たしてくれるわけだ。


さて。

今僕はとても青春していると思うし、それを疑うものも居ないだろう。

しかしながら、青春には切っても切れない要素があるのだ。


恋愛だ。


恋しなければ、何と言うかその青春感が無い。

所謂恋に恋している状態ではあるのだが、恋愛という行為自体に興味を持っている状態でもある。

さて、この場合はどういった事をすれば良いだろうか?


女性と関わることはある。

高校時代は勉強を教えることもあった。

今アイドルとして活動をしている女子(その時初めて知ったが小中高一緒だったらしい)に勉強を教えたのが密かな俺ツエーポイントである。

大学ではそんなことがあるわけがない。

接点を作るというのがとても難しいのだ。


しかし、私の狭いながら多岐にわたる人脈を使うことによって、合コンなるものをすることによって女子ともいい感じになれるらしいということが明らかとなった。

知り合いに頼み込むこと数回、遂に合コンに参加出来ることが確定した。

前回は抽選漏れの憂き目にあったため大いに落胆したが、今回のための肥しとして考えれば全て赦す。

さて、合コンもまた有識者を呼んで友人数名と共に手ほどきを受けたため、粗相をすることは無いと思う。


準備は万端、というわけだ。


いまか今かと待ち続けて遂に明日、決戦の日を迎える。

早めに寝て、明日に備えよう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



夢を見ていた。


寝ている僕が家を飛び出し、猛スピードで首都高を飛ばし、訳が分からない程の豪邸に吸い込まれてゆく、という顛末の夢だ。

微妙に現実味があるというか何と言うか。

突拍子もない様で実際未来を暗示していたり、現実味があったりするのに全くもって出鱈目だったり、夢というものは当てになら無い。


夢を見るのは嫌いだ。

得にならない癖に悪夢を見ればその日のパフォーマンスに影響する。

さて、朝早くに起きてしまっただろうか?

どうにも外が暗――


「えっ」


思わず声が漏れる。

何処だここ?

真っ暗だが、家でない事だけは分かる。

床にそのまま放り出されてるんだが。


体が痛くなってきた。


辛うじて見える壁は打ちっ放しのコンクリートみたいで、見るからに重そうな扉が一つ。

ヤバイくらい堅牢そうだ。

なんというかSCPを収容する部屋の扉はこんな感じなんじゃないか?


Q.僕って超能力が使えたのか?


A.いや、そんなわけ無い。


さて、部屋を探索してみよう。

手探りで周りを散策してみるが何も無い。


そこそこ広いな。

何かしら有りそうなくらい広いのに何も無い。


――監視カメラがあった。


やっぱり僕ってSCPだったのか?


判らない事だらけだが分かることはある。

どうやら誘拐?されたらしいということだ。

家の鍵を閉め忘れたのだろうか?

閉めた気がするんだけどなぁ。

財団だったら強行手段に打って出るか。


扉が有った方の反対側の壁に着いた。

液晶?的なものがある。

デカいな。

金持ちの家でもこんなにデカいテレビは無いだろう。


おや?

端の方に扉がある。

さっきあったやつよりかは見たこと有りそうな見た目の扉だ。

他の部屋に通じてそうな――


ガチャリと、音が鳴った。

多分、ドアの鍵が開いた音だ。


明かりが一斉に灯る。

眩しくてたまらない。


視界が奪われているうちにドアの開いた音がした。

誘拐犯とのご対面という訳か。

さて、どんな奴がやってくれたわけだ?

白衣のやつかツナギを着たやつが来たらいよいよSCP財団だぞ。


目が慣れてきた。

ぼんやりだが相手の輪郭が分かる。


細い。


明らかに女だな。

来てる服の色は紺色らしい。

ツナギじゃないだろうな。


視界が戻る。

どうやらスーツみたいなのを着ているらしい。

さて、おはようございます。


――お久しぶりです。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



黛可憐は大人気アイドルだ。

小学生の頃に子役活動から始まり、中学生の頃からアイドル活動を始めた。

その頃は一地方アイドルの域を出なかったが、中学2年生位にブームが始まった動画投稿サイトを活用したプロデュースが新鮮だったのか人気が爆発し、高校生になるくらいには全国的に有名になっていた。


もちろんネットが使えない僕は風のうわさで人気アイドルだと教わる程度。

小中高と一緒なのを知って破茶滅茶にびっくりしたのを覚えている。


さて、彼女との接点が生まれたのは高校時代の終わり、受験期に入ってから。

僕は人生の殆どを勉学に費やしてきたことから勉強などほぼしなくとも大学に受かることを確信していた。

なので暇だったわけだが、先生たちにお願いされて学力の伸び悩んでいる生徒の手助けをすることにした。

進学校なので自頭は良いので一人大体数日でなんとかなる。


その中で約一ヶ月かかったのが件の黛氏である。

なんでここに在学できているのかわからない程に、壊滅的、破滅的に勉強が出来ていなかった。

周りの話を聞く限り全然勉強関係で問題があるなんて感じではなかったが、実態は全然違った。


兎にも角にも手がかかる。

志望校の対策をまるでしていなかったのである。

センター試験はそこそこ取れていて、センターと二次の比が6対4だったから余裕こいていたのか全然対策していなかった。

直前期も直前期、丁度二次試験一ヶ月前である。


それはもう馬車馬のように働かせた。

アイドル活動などしている場合ではない。

死ぬ気で勉強させて(俺も多少自学しつつ)、辛くも合格に持っていった形になる。


そもそもの話。

アイドル活動の実績があるんだから推薦でどうにかならなかったのだろうか?


全国展開を見込んでいたのだろうか、東京の大学に進学していった。

一応こっちの地方にもそこそこ良い大学があるのだが。


活動の幅を広げるのには色々な意味でパワーが要るのだが、実家がとても太く、経済的に余裕があるという話を聞いた。

聞くと親は全国で不動産業をしているらしい。

お金があるのはいいなあなんて思っていたのを思い出す。

全国的に有名で、きっとこれからもっと有名になってゆくであろうアイドルの手助けを出来た、というのは素直に嬉しかった。


当時は死ぬ程きつかったが。


ネットやテレビが解禁となった一人暮らしで、多少なりとも彼女の活躍は目に入っていた。

どうやらバラエティ番組のレギュラーの座を勝ち取ったらしい。


すげぇなぁーと素直に思った。

人生でこれ以上に世間的に有名な人と関わることはないだろうなあなんて思いながらテレビを見ていた。


そんな彼女が、今。


「久しぶりですね、先生」


「ああ」


目の前に立っている。

そして、目の前に立っているということは。


「びっくりしました。全然動じないんですね」


「そうだな、自分でもびっくりするよ」


彼女が、()()()ということになる。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



どういうことだ?

意味がわからない。

色々と状況が飲み込めない。


「いつもの余裕、というやつですか?」


「今回ばかりは余裕があるように見せてるだけだよ。今にもパニック状態になりそうだ」


なぜ彼女が?


情報量が多いが、有用な情報は驚くほど少ない。

聞き出そう。

多少なりとも応じてくれるはず――


「言っておきますが」


「質問にはお答えしません」


「私は今非常に怒っています」


なんで?

どうして?


怒ってるってどゆこと?

全く持って理解出来ない。


確かに。

にこやかな営業スマイルをしているがよく見ると目元が笑ってない。

雰囲気が殺気立っているというか何と言うか。


これは困ったな……


「逆に」


「私が鈴里君に質問したいことがあります」


「宜しいですね?」


は?

何故?


「まず、今まで、どうして私と接点を持とうとしなかったんですか?」


滅茶苦茶になってきたぞ。


答えたくないんだが。

答えるべき、なのだろう。

今僕は生殺与奪の権利を奪われている。

何が起こっても可笑しくない。

穏便に行こう。


――回答は穏便に行かなそうなんだけれどね!


「ぶっちゃけあんまり興味がなかったからです、はい」


我ながらすっげーしおらしく回答する。


態度は変わらない。

厳しいな。

なかなかに雑な理由で色々とやってきたので、相手の気を逆撫でることにならなけりゃ良いのだけれど。


「次に」


「受験期にあれだけ手をかけておきながら、なんの見返りも要求しなかったのは、何故ですか?」


これまた回答しにくい所をつついて来るな。


「そう言われましても……」


「そう言われましても?」


圧が凄い。


そんなに気になる?

――気になるから連れてきたとか?


やべーやつじゃん。


「アイドルとか興味無かったし、東京に行って親元を離れられるってので浮足立ってて……その……はい、眼中に無かったというか」


「そうですか……」


妙だな。

質問したくせに納得した表情を浮かべている。

()()()()()()()()()()()()()()()()かのような……


ならこんな大仰なことしなくたって、ねぇ?


「次に」


「大学に入ってから、私と接点を持とうとしなかったのは何故ですか?あれだけ機会があったのに……」


「???」


機会?

はてさてどうゆうことやら?


「機会、と申しますと?」


「知らなかったんですか?」


「私、何かと鈴里君の近くに居たんですよ」


「入学式の直後に近くでライブをしていたり」


実家を出られた喜びと家で待っているカップラーメンのことで頭がいっぱいだった筈。


「家の近くでトークショーをしたりもしました」


全く存じ上げておりません。

そんなことできる場所がウチの近くに有ったわけ?


「大学祭に来たのは流石に分かりましたよね?」


知っていましたが友人とのサークル活動で手一杯でした、はい。

いや、その、お会いしたいなぁとは思ってたんですよ?

タダソノキカイガナカッタトイウカ……


「知らなかったんですか?」


「お恥ずかしながら……」


こりゃまずい。

相手の神経を逆撫でる回答しかしてない気がするぞう。


「そうですか」


「では次の質問です」


「幼少期に、女の子を助けた記憶は?」


「……朧げながら……ございます」


この質問をするということは、あれが黛さんだったということか?


――マヂで?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



朧げながら憶えている、昔の記憶。

小学校の頃、何時もからかわれている女の子が居た。

どんな顔だったかは思い出せないし、どうしていじめに近いからかわれ方をしていたかの理由も憶えていない。


その頃の僕は純朴で、今程ひねくれてはいなかったが、勉強ばかりさせられてろくに遊ぶこともできなかったことでストレスが溜まっていた。

受験期においては追い込みの期間(5年生なのに)だったこともあってボルテージは最高潮。


その鬱憤を晴らすべくいじめの主犯格を()()


彼女に同情したとか、いじめは良くないと思ったからではない。

単純にストレス発散のためにやった。

大事になるかなと思ったが、そいつにはプライドとメンツというものがあったらしく、勉強ばかりしてるヒョロガリにボコボコにされたなんて口が裂けても言えなかったのだろう。


お気の毒に。


そんなことをしたあとは特にイベントもなく、あれよあれよとしているうちに小学校生活は終わりを告げた。

なので、特に思うことはない。

やったな、とは思う。

ありふれた思い出の一つ、なのだが……


彼女が黛氏であるとなると話が違う。


本能がやべーと告げている。

何かヤバイことになっている気がしてならない。


その証拠にほら、なんか雰囲気が変わった。

獲物を狙うやつの雰囲気というか何と言うか。

殺気といえば殺気の分類ではあるが、タイプが変わった。


何故?


「では、最後の質問です」


「合コン」


「行こうとしましたよね?」


そうですね、はい。

とても楽しみにしていました。

女の子とあわよくばカラオケとか行けるかなーなんて思ってました。

別にやましい思いがあって合コンに行こうと思っていたわけではありませんよ!は流石に通らないか……


「そうです、行く予定でした」


「私という存在がありながら、合コンに行こうとしていたのですね?」


は?


なんとおっしゃいました?

私という存在がありながら?

なんのことやら、その、一体どうゆう――


「回答は?」


「いや……その、黛さんは関係ないというか……」


「関係あります」


途端に殺気が元通り。


怖い。

とても怖い。

得体のしれない恐怖を感じる。


こいつは何を言っているんだ?


「私、ずっと待ってたんです」


「小学校の頃、いじめられてて、とても怖い思いをしました」


「あのままだったら私、とても歪んだ人格になっていたと思うんです」


今は?

君基準では普通なわけ?


「でも、ある時からぱったりと止んだんです」


「みんなに話を聞いてみたら、鈴里君がアイツをやっつけてくれたんだって、聞きました」


「とても嬉しくて、満ち足りた気持ちになって、胸の奥が熱くなって」


「恋をしたんだと、思います」


「……はぁ」


「でも、鈴里君もそうなんですよね?」


はい?


「釣った魚に餌をやらない、という言葉があります。つまりは、そういうことなんですよね?」


「……ええと、つまりはどういう――」


「私に気があって、私の気を引くために私を助けたのに、その後は何もしないで、無関心を貫いて」


「とっても辛い日々でした。猛勉強したんですよ?同じ学校に入るために」


「なんとか気を引こうと思って始めたアイドル活動も全く効かないし」


あれ、そんな理由で始めたの?

あんなに一生懸命にやってるもんだから、すげー郷土愛だなあって思ってたのに。


なんじゃそりゃ。

気味が悪くなってきた。


「だから高校生になってから作戦を立てたんです」


「恥ずかしくて私と関わろうとしない鈴里君と接点を持つために、()()()してもらいました」


「同じクラスにしてもらったり」


確かに。

いっつも同じクラスだった。


「学校行事で贔屓したもらったら、それこそあからさまですから、わからないようにそれとなく、色々やってもらいました」


今思うと何かと黛さんと距離感が縮まるようなイベントが多かったような……

悪寒がしてきた。


「でも、それでも勇気を出してくれないから」


「先生と()()して、鈴里君に補習してもらえるようにしました」


「難しかったんですよ、勉強できない子のマネをするの」


あれも黛さんの手引でやったのか!?

恐ろしくなってきた。


「そこでも色々と策を施したんですけれど、なんのお返しもないし……」


「私のことが好きじゃないのかな、って思ったんです」


そのとおりです。

なんとも思っておりません。


「でも、真摯に私と向き合ってくれて……何をするにも文句ばかりの私に喝を入れてくれましたよね」


「学校にいる時間の殆どを私のために使ってくれて……」


「他の娘にはそんなことしてないから、やっぱり私のことが好きなんだなって、再確認できたんです」


「それでも終わったあとに見返りを求めないし、なんのアクションも見せないから、変化が見られないから」


「だから、最後の機会を与えたんです」


最後?


「私のことをどれだけ思っているのか、一人暮らししている鈴里君を監視して、見定めよう、って」


「期間は丁度一年で見積もっていました。良心的でしょう?」


「それまでに私に対して何か行動に移さなかったら、背信行為をしたら……」


「連れてくることに、していたんです」


連れてくるって……此処のことか。

見るからに何かを閉じ込めておく事に特化していそうだ。


「やっぱり、私のことはなんとも思ってなかったんですね、鈴里君」


「……」


「合コンに行くだなんて、駄目じゃないですか。立派な背信行為ですよ」


「それは確かにそうなんだけれど――」


「でも、いいんです」


「え?」


「此処に連れてきましたから。此処に連れてくる理由になりましたから、赦します」


「……何をするつもりだ」


「私のことを好きになってもらいます」


そう来たか。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



この部屋の全体像を見てみると、どうやら人一人、あるいは二人は生活できるように環境が整えられているらしい。

見えなかったが、布団やらテーブル、椅子の類はある。


しかし他には何も無い。

モデルルームでももっと物があるだろうに。


――此処で生活させられる訳だ。


「私と一緒に暮らして、私と向き合って、私と()()()()()


「私を好きになってもらいます。私無しじゃ生きられない体に、頭になってもらいます」


「絶対に思い通りにはならない、と言いたいところなんだが」


「此処、娯楽が無いな」


「聡いですね、その通りです」


生活はできそうな空間ではある。

しかし、娯楽に相当するものはない。

本とかペンとか紙とかもない。

本当に生活するために必要最低限のものしか用意されていない。


「できるだけ長く鈴里君と一緒に生活できるようにします」


「仲睦まじく過ごしましょう」


「ですが、私には大学生活と、アイドルとしての活動があります」


「その間は、一人で生活してもらいます」


まずいな。

ここだときっと時間間隔が狂ってしまう。

こういった耐久実験のたぐいは一週間程度しか保たないのに、それがどれだけ続くかもわからない等、耐えられるわけがない。


――普通の人間なら、の話だが。


私は高校までの18年間を禁欲的に過ごしてきた。

一般人よりは耐えられるだろう。

黛氏も多少は顔を出してくれるだろうから、頭がおかしくなることもないだろう。

完全に術中に嵌る事にはなるが、心までは屈しない。


悪いが、負けるわけには――


「鈴里君」


「はい?」


「貴方は絶対に耐えきれないでしょう」


「へ?」


「だって、知ってしまったのでしょう?」


「自由というものの甘露を」


「窮屈な生活が如何に恐ろしいものなのかを」


「今のあなたなら、落とせると思ったから、行動に移したんです」


「だって――」


――高校時代のあなたなら、きっと耐えきってしまうから。


あぁ。

そうだ。

確かにその通り。

自由を知らない僕だったら、きっと耐えきってみせたろうに。

今の、今のだらけ切った僕となれば、答は見えている。


そうか。

それを見越して泳がせたのか。

欲望のままに生活させて、堕ちる所まで貶して、その上で。


端から僕に期待などしていなかったのだ。

総てはこの日、此の時の為に。


「さあ、鈴里君」


「いっぱいお話しましょうね」


「好きなこと、嫌いなこと。愛せるもの、愛せないもの。何が良くて何が駄目で。何をしてもらったら嬉しくて、何をされたら悲しいのか」


「いっぱいお話してお互いを知り合ったら、お食事をしましょう」


「たっくさん、好きなお料理を用意させます。好きなだけ召し上がって下さいね」


「数え切れない程色んなことをしたら、きっと眠くなってしまうでしょうから、その時は一緒に眠りましょうね」


 


()()()()()()だって、してもいいですよ」


力が抜ける。

ガクッと膝をついた。


「大丈夫ですよ、鈴里君」


彼女に抱きかかえられてしまった。


()()()()()なら、外のお屋敷で生活させますから。広いお屋敷で、悠々自適に生活しましょうね」


まずい。

とてもまずい。


「でも、ひと度私の意に反することをしたら、解りますね?」


目の焦点が合わない。


「言い忘れていましたけれど」


「鈴里君は火事で亡くなったことになっています」


「外に出ようとしても、無駄ですからね」


何を言っているのか、理解できない。


「皆、鈴里君を上に連れて行ってあげて」


「一緒に朝食を摂りましょう」


何をされているのかわからない。


「今日は何が朝食なのでしょうね、鈴里君」


でも、わかることはひとつだけ、ある。


「大好きですよ、鈴里君」


もう、()()()()()()、ということだ。

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