七番目、ダフネの祝福
はじめまして。久しぶりに筆を執りました。
続く予定ですので、よろしければ読んでくださるとうれしいです。
毎晩、同じ夢を見る。
窓の外は夕暮れ時の町で、電車の座席に腰をかけて銀の薔薇の装飾の施された手鏡を持っている。鏡の中を覗き込むと、映るのは見知らぬ少女。黒い前髪は短く一直線に切り揃えられており、首の下に朱色の着物の衿が見える。着物の良し悪しなんて私には分からない、だけどその素材は高価な物に感じた。それにずっと昔の時代の印象を受ける。鏡に映った少女は驚いたように黒檀色の目を丸くして、薄っすらと紅を乗せた唇が開く。
「あなたが…ねえ、聞いて。私はもう役目を終えました、だけど決して、井戸には近づか――」
切羽詰まった様子でその少女は捲し立てる。ひどいノイズと共にその声は掻き消された。まるで誰かが電波を妨害しているようだ。鏡は白く反射したかと思うと、私の呆然とした顔を映し出す。鏡の少女の顔をは違ってなんて醜い顔、徐々に歪む表情を眺めていると軽やかな音楽が車内に響く。
「次は、 。」
降りなければ。駅の名前はいつも聞こえないけれど、不思議とそこが私の目的地のように思う。
手鏡を持ち席を立つと、進行方向に向かって足を進める。揺れる車内を歩き、連結部のドアを横に開けて一つ前の車両に行くとそこには古ぼけた井戸が一つある。側面には敷き詰められた石に、中からは植物のツタが方々に伸びている。乳白色の小振りな蕾が点在していて今にも花開きそうだ。一つくらい盗んでもきっと怒られないだろう、手に持っていた鏡を落として触れようとする。鏡は床に打ち付けられ、鋭い音を立てながら割れた。すると背後から声が聞こえる。ちょうど、右耳のあたりに吐息を感じる。その息遣いは白く跳ねる鞠となり肩から落ちる。そして決まってその声は私にこう囁きかける。
「次はあなたよ、七番目の少女、ダフネ。」
床から黒煙のツタが伸びて足元を絡め取り私を底に沈める。落ちるその瞬間、蕾は一斉に咲く。それをぼんやり綺麗だと眺めながら、深い闇に沈みゆく。徐々に瞼の裏が明るく照り、ゆっくり目を開くとそこは自分の部屋だった。下の階から聞こえる両親の諍いとスマホのアラーム。私にとっては不快な目覚めだけど、確かなものだった。早鐘を打つ心臓をどうにか落ち着かせようと深呼吸をする。
「まただ、変な夢。」
その時の私はまだ知らなかった。思えば何一つだって知らなかった。その手紙が届くまでは。
急速に動く針のように運命の濁流は、否応なく私を飲み込んでいく。
お読み頂きありがとうございます。
あなたの目に触れた、それだけで感無量です…!
あなたに井戸の祝福があらんことを。