第3話 勝負にならん
それから前回とは違うホテルでお食事。今度は夜景の見えるレストラン。街が一望できる。おーい、庶民ども頑張っとるかー?
いくつも皿が出て来て誰かの結婚式で見たことあるやつが出て来た。これってホワグラよね?
私は気取ってナイフとフォークでホワグラのソテーを切って口の中に。
うーん。おいしー。翔と前に行った、ちょっとお高い焼き鳥屋のレバ串思い出した。あれ美味しかったよな~。フワフワしててカリッとしてて。また行こうって言ってて、あれ以来行ってねぇじゃねーか。アイツ、マジムカつく。
鳥飼さんはフォークの先でホワグラをつつくと、ナプキンで口を拭いてフォークを置いてしまった。
「食べないんですか?」
「そう……ですね。少し焼きが甘いかな?」
な、なにそれー! それで食べない人、この世にいるのかよ~! もったいない。食べないなら私が食べるよ。
「鳥飼さん、じゃ頂いても?」
鳥飼さんは目を丸くして、赤い顔をしていた。
「え。あ、お好きなんですか?」
「好きです~。ホワグラ」
「では追加で頼みましょう。こちらのは冷めてるし」
え? 冷めて……ないよ? もったいないから食べたいだけで。
「彼女にフォアグラをもう一つ」
あ。勝手に頼んじゃったよ。えー。隼人が言ってたこと、ちょっと分かる気がする。お金持ち、ちょっと引く。
まぁ人のもの食べようとしてる私も大概だけど。
鳥飼さんはウェイターさんに命じて自分の前のホワグラを下げさせた。なんか少し悲しい。
「あのう……」
「どうしました?」
「あのホワグラ、調理場の人がみたらなんて思うでしょう」
「ああ。次は失敗しないように作ろうと思うでしょう。失敗は成功に繋がります。そのためにも大事なことです」
う。なんかカッコいいぞ。たしかに言われてみればそうなのかも。
私の目の前には新しいホワグラが置かれたのでそれを食べた。でもたくさん食べたかったわけじゃなくて、もったいないから食べようとしただけだったので、お腹はいっぱい。だけど無理して食べた。
「あの。鳥飼さんってどのくらい収入がおありなんですか?」
ド直球だけど、結婚を前提に付き合うんだから旦那の収入くらい聞いてもいいだろ?
「収入ですか? いくらだろ? 一億か……三億くらいかな?」
幅! なんで二億の開きがあるんだよ! 真ん中とって二億くらいでもいいよ。正直、もうわからねー領域だから。
なにぃ! 億だと? こりゃ不細工だって嫁に行きたいわ。
「す、スゴいですね。年収三億ですか……」
「え。年収の話でしたか。えっと役員報酬とか投資の配当とか混ぜると、百億近いかもしれません」
…………………………。
え!? さっきの月収!? どんな風にやればそんなに稼げるの? えーとこの人、私より一つ二つ上なだけだよね?
あかーん。マジあかーん。気絶しそう。
「詩織さん。来月……四月からサンフランシスコで新しい事業を立ち上げるんです。よかったら一緒に来て貰えませんか?」
サンフランシスコ。外国だー。アメリカだ。私英語しゃべれないよー? どうすりゃいいのー?
そしてテーブルの端に白いカードを置いた。なんだありゃ。
「最上階に部屋を取りました。明日朝、もう一度ここで食事をしましょう」
うぇー! ドラマとかでたまにあるヤツ! ドラマでは透明な棒付きのカギ置いたりするけど、そうだよね。今はカードキーなのか。
まさか二回目のデートで関係を結ばなくてはならないとは! 翔となんか、12で付き合って、初エッチは16だったぞ? しかも一回目は未遂で二回目も中断して三回目にようやくだったなぁ。懐かしい。
やっぱ、大人の付き合いとなるとそんなんだね~。そっかー。鳥飼さんとする、のかぁ~。
「では詩織さん行きましょう」
「え。ええ」
鳥飼さんが立ち上がったので、私も立ち上がろうとしたその時……。
……腹痛ぇ。
やべえ。ホワグラの油がキツすぎたか? 気持ち悪ぃし、吐きそう。
「詩織さん、どうしました?」
「あの。ちょっとトイレ」
レストランでトイレを借りて、上から下から盛大に出しまくり、フラフラ。時計を見ると、30分も籠もってる。さすがに鳥飼さんだって、私が“大”してることに気付いただろう。でも止まらない。
ああクソ。ホワグラかなぁ。それともワイン飲み過ぎちゃった? ウナギと梅干しみたいに食い合わせ悪いもん食べちゃったかな~。考えててもラチがあかない。こんな日にエッチは無理だ。断るしかない。
私はフラフラになりながらトイレから出ると、油汗をかいて青い顔をしてたからだろう。鳥飼さんも大層慌ててた。病院とか救急車とかいうから、それは止めて家まで送って貰った。
家に戻る頃には、ちょっと落ち着いてて、帰宅して速攻出したりないものを気張って出して一息。ヤバい。コレには鳥飼さん引いただろと、メッセージを送ると気遣う言葉とシスコ行きの件、次回聞かせて下さいとのことだった。
シスコ? あ、サンフランシスコのこと? そんなふうに略すの? 渡辺さんを“ナベちゃん”みたいに後ろとるんだ。へー。
部屋に帰って灯りを点けると、目の前には翔の部屋。アイツはこっちを見ていつものように歯を見せて笑う。思わず私も笑みを浮かべると、屋根づたいにこっちに向かってきた。
私は窓を閉めたまま。翔は窓越しに話す。
「良質のブツが入ったんだ。お前、食べたがってたろ?」
見ると北海道限定ポテトチップ。有名店のチョコレートがかけられてるヤツ。すでに腹の内容物がなくなっていた私の喉がなった。
「マジ!? すごーい」
「だろ? 窓開けて」
翔の笑顔に釣られて窓を開けようと思ったがやめた。
「いーらない」
「なんで。一緒に食べよう──」
翔の言葉が止まった。
「お前なに? スゲえ高そうなスーツ着てんな。誰かの結婚式だった?」
「何言ってんの? デートですよ。デート」
「デート!?」
「とある社長さんに見初められてね。なんと年収100億」
「100億!?」
「来月からアメリカ行こうって、プロポーズされたの」
「お、お前、それを受けたのか!?」
「受けようと思ってるよ」
翔はそのまま卒倒したのか、頭から屋根を滑り落ちて、翔の家の茂みの中に音を立てて消えていった。いい気味だ。ざまぁ。
私は屋根の上に落ちていた限定ポテチだけは拝借して窓を閉じた。そしてスマホを開いて、ホテルのホワグラとポテチの値段を調べる。
「まさに天と地の差じゃん。もう翔なんてお呼びじゃないつーの」
私はチョコのかかったポテチをつまみながらつぶやいた。




