第2話 まるでシンデレラ
私はワインに酔って真っ赤になっていた。鳥飼さんは楽しそうに微笑んでいた。
「では夜も遅いしお送りしましょう」
遅い? まだ九時台ですけど?
つか、あなたワイン注いでおいて一口も飲んでない? 私のこと送るため?
いやいや、このワイン高いんでしょ?
ディスカウントショップの安ワインじゃないよね? どんだけ金持ち。
ウェイターさんが、鳥飼さんに伝票持ってきた。両目視力1.5を舐めるんじゃないわよ?
えーと、90,000円?
どゆこと? そんなに満腹頂いてませんけど? ボッタクリですか? 割り勘でも私、半分出せないよ鳥飼さん。逃げる合図をくれ!
「じゃカードで」
「かしこまりました」
さらりとカード出した。クーポン券も出してない。オラ、翔! ちっとは見習えよな? これが男ってもんだよ。
それからスマートに近所まで送ってくれて車の中。ちょっと間を置いて鳥飼さんは話し出した。
「詩織さんさえよかったら結婚を前提にお付き合いして欲しいです」
なんて迷いのない真っ直ぐな顔──!
そんな顔で、声で言われたら。
「あ、あの。私でよかったら」
「え。あ。はは。よかった」
照れてる。初々しい。何かしら。この新鮮な感じ。翔と中一の頃なんて……。
「二人ともいつも一緒だよね?」
「まーな」
「まーねぇ」
「付き合っちゃえば?」
友人の言葉に、私は思春期だったし何も言えなかったけど、翔が即座に
「いいよなぁ。シオ」
「え? ま、まぁ……ね」
って応えちゃって、それからずっとだもんね。別にギクシャクとかなかった。それが翔だったからな。
私は鳥飼さんの車から降りて帰りながらそんなことを考えていた。
自宅の隣の家の二階の灯りを見ると電気が点いてる。アイツ居やがるのか。
家の中に入って家族共通スペースの衣裳部屋に入り私は着替え、風呂の準備をした。髪を下ろして化粧を落とし自分の部屋へ。
電気を点けてベッドに腰を下ろすと、窓ガラスを長い棒のようなもので叩かれる。またいつもの調子だ。私は窓を開けた。
そこには翔の顔。なんの因果かお隣さんの幼馴染み。それとほぼ24年間一緒にいる。内12年間は恋人だったんだよな。
私は呆れた顔で翔の顔を見ると、歯を見せてニッと笑う。なぜか私も合わせて少し微笑んでしまった。
「仲直り。いいだろ? そっちいっていいか?」
「んー。まぁいいけど」
つい応えた。アイツは自分の家の屋根に足を下ろして、屋根づたいに私の部屋にくる。このままアイツはいつものように私をベッドに倒して──。
いかーん! いつものアイツのペース。私は翔が来る前に窓を閉めてカーテンを閉じた。
当然のように翔は窓を叩く。
「なにしてんだよ。窓開けろって」
「忘れてた。私怒ってるんだからね!」
「ああ、だから仲直りだろ? シオの好きなやつ」
「やめて。アンタに合わせてただけで別に好きじゃない」
「なんだよ。悪い冗談だな。開けろって」
「しつこい。帰れよ」
「なんなんだよ。歩道に転がされたのは俺だろ? なのに謝るのはいっつも俺のほうで。性格悪いぞ?」
は、はあ? 歩道に転ばしたのは理由があるからでしょうに! それを性格悪いとかってマジ無いんだけどコイツ。
私はムカついてベッドに横になり電気を消した。
「あ! オイ! なんだよコイツ」
こっちのセリフだよ。せっかく鳥飼さんとの思い出でいい気分だったのに台無し。翔ごときがしゃしゃり出る隙間なんて無いんですからね。
◇
鳥飼さんとの日常はとても楽しい。トークアプリもマメに送ってくれる。休憩中の映えるカフェアートとか、可愛いオブジェとか、センスも抜群。
私はもっと鳥飼さんのことが知りたくて、新婚旅行から帰ってきたであろう隼人にメッセージを送った。
「ねぇ。結婚式に来てた鳥飼さんってどんな人?」
「ああ先輩? 雲の上の人だな。親は資産家だし、先輩自身大学二年の頃からビジネス始めて、数社の役員やりながら自分でまた新しい会社をやってるみたい」
「隼人とどんな繋がり?」
「サークルの先輩だったんだよ。後輩の面倒見もいいしね。尊敬も憧れもあるよ」
「結婚式に来てくれたって、仲いいの?」
「んー。そんなにかな? 面倒見てくれたしお世話になったから義理で招待したけど、まさか来てくれるとは」
んー……、隼人は尊敬してるけど、あんまり話に盛り上がりがないな。
「嫌い?」
「嫌いではない。尊敬してるし。ただ余りにも雲の上の人過ぎて引くって感じかな?」
引く!? そんなのあるんだ。でも金持ち過ぎると、たしかに一般ピーポーはついて行けないよね。そんな感じかな。
◇
そしてまたもや金曜日、鳥飼さんからのお誘い! 会社終わったら食事に行きましょうって! やったぜ。うぇーい。
でも服がこれか。会社に着てくるスーツ。悪くはないけど、デートの格好じゃないよね。これは家に帰ってから着替えるべきだな。
鳥飼さんに着替える旨をメッセージで送るとすぐに返信だった。
「では食事の前に服を買いに行きましょう」
ってマジかオイ! 家に帰って着替えるより合理的だよね、たしかに。
調子に乗った私は、了解と返信をした。
待ち合わせの場所に行くと、前の車と違う黒い巨大なSUVだった。これも外車ね。デカすぎて、乗れるか不安だったけど鳥飼さんは車内で手を伸ばして私を車に引っ張り上げて乗せると、スイスイと高級ブティックへ──。
店員を呼んで、彼女に似合うものを着せてくれ~、かしこまりました~の流れで私にはいつの間にか高級スーツが着せられており、手にはロゴマーク入りの高級バッグ。足には高級靴の一目でセレブと分かる格好に早変わり。
嘘でしょ。まるでシンデレラ!




