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ワタシとロイの記録

作者: もりのうさぎ

かけがえのない家族との出会い。一人の主婦と子犬がどのような毎日を送っていたのか、主婦が選んだ道とは…。たかが犬、されど家族…。何が正解なのかはわかりません。

うちには17歳と10か月になるおじいワンがいる。

名前はロイ。

あの頃は小さいのがブームでティーカップードルが30万くらいしていた。ミニチュアダックスフンドも人気で、うちも飼うなら小型犬、チワワは小さすぎて怖いからミニチュアダックスを探した。

ミニチュアより小さめのカニンヘンダックスとして登録されていたロイ。確かにお父さんお母さんはカニンヘンだ、多分この子も小ぶりなんだろうと我が家に迎えた。

男の子のくせに臆病な子犬。生後3週間で我が家に来たが、ワタシもパート勤めをしていたから日中は留守番。今思えば、もう少し大きくなるまではあんな長時間の留守番はさせない方が良かったのだろうと思う。


夜寝かせる時間にはケージを布で覆って鳴いても相手にしない、と決めていたが TVの音や私らの話し声に反応し、まだ遊んでもらいたいロイはぴょんぴょん跳ねた。

その様子が可笑しくて 根負けしてケージから出して遊んでやった。


初めてのお友だちは、アイリッシュセッターのアスラン。体型は親子以上にかけ離れた大きさだったが、毛並み•色がそっくりだった。ロイはとてつもなく大きなアスランに全然怖がる様子もなく、アスランの尻尾の真後ろを置いていかれないように一生懸命に歩いた。アスランもそんなロイを疎ましがらずに優しく対応してくれた。

お互い、時間を約束してお散歩していたわけではないので 会えればロイは喜んでくっついて歩いた。

何ヶ月後、しばらく会えなかったアスランは顎に大きく垂れ下がった腫瘍ができていた。癌だった。

体力も衰え、あまり外には連れ出せていなかったようである。

アスランに会えたのはそれが最後だった。


なんの変哲もない毎日が続いた。

ロイも胸毛フサフサ、耳や項に黒の差し毛が入っている。凛々しいオスになった。胸囲もカニンヘンダックスの適正サイズより大きくなり、どこからどう見てもカニンヘンではなく、ミニチュアダックスになった。カニンヘンのお父さんお母さんの遺伝よりミニチュアダックスだったお婆さんの隔世遺伝が勝ったのだ。

外から聞こえるバイクの音、荷物を配達に来てくれたインターホンには、会話が聞き取れないくらいの大声で吠える。

ある日には、裏に住むイウォナさんからロイくん、ママ達が留守のとき遠吠えしてるわよ!と聞かされる。

遠吠え? うちの子が?

聞いたことがない!

早速、ロイを部屋に残し庭で静かに佇んでいると…

ワォーン、ワォーン

ロイの遠吠えだ!


実家で飼っていた今までの犬たちは遠吠えなんてした事がなかった、というより聞いたことがなかった。

遠吠えする犬は外飼いの、ちょっと大きめの、なんて勝手に決めつけていたので まさかうちの子が、あんな小型犬が、しかも室内飼いの…

犬って鳴く子は鳴くんだな〜なんて感心していると

ウォーン、ウォーン

今度はもっと低い声で地面に響くような声…

ロイ、こんな声も出せるの?驚いていたワタシに視線を送るお隣りのクマちゃん。吠えながらこちらを見ている。

そう! クマちゃんが師匠だったのだ!!


クマちゃんはお隣りに飼われていた雑種の大型犬。黒い毛で全身覆われて、胸元には白い毛の差し毛がある。この風貌はツキノワグマのようだった。

大きな体のわりに、小さな目。彼の考えている事は簡単には読ませてくれない、人懐っこさは全く無い!

クマちゃん!と声かけてもスルーされるのが普通だった。

たまたま散歩中に出合うと、ロイは喜んでクマちゃんに近寄る。クマちゃんは自分の足元に寄って来る尻尾フリフリのこの小さな生き物をどう対応すべきか分からない様子だった。

端から見ていたワタシは、急にガブっと噛まれるのではないか、という心配しかなかった。早くクマちゃんがロイを無視して立ち去ってくれと願っていた。

まぁ、そんな心配はよそに めちゃくちゃ仲良しにはなれなかったけれど、クマちゃんはロイの好意を素直に受け入れてくれたのか 会う度、ロイが近づくと匂いを嗅いだり、2〜3歩早足になったりして少し相手をしてくれた。友だちの少ないロイにとって家族とは別物の触れ合いをさせてもらった。

ありがとね、クマちゃん!


4歳くらいになったロイは、洗い終わりこれから干す寸前の洗濯物の中から ワタシの下着を取っては猛ダッシュで走り去る行動をするようになる。ショーツよりはブラがお好みだったようだか、こちらとしては折角洗った下着が一瞬にして 愛犬のヨダレまみれになってしまうのには閉口した。

犬トモダチにこの話をすると、その家では高校生の娘さんの下着がよく取られるそうで、またメス犬を飼っているお宅ではご主人のデカパンに体をクネクネ擦り付けているといった行動がある事がわかった。

どうやら犬たちも思春期か青年期あたりで性欲バンバンなのであろう、妙に惹かれる匂いに興味を持ったのだろうと思う。


7歳あたりのロイは雷や運動会のピストルの音、花火が大の苦手。あいにく、すぐ近くに幼稚園と小学校がある。毎年運動会の予行演習と本番、それぞれ2回計4回、ロイはその怖い音にビビらされヨダレを出しながらブルブル震えていたのだった。最も本番は大体土日になるので、ロイを連れて買い物に出かけたものである。

それ以外には怖いものはなし!

気に入らなければワンワン吠えるし、たまに噛む。

飼い主を噛むなんてしつけが全くなってなかったのは言うまでも無い。そこは多いに反省…。

きっと多少は彼なりの遠慮がある噛み方なのであろうが、噛まれる方は痛い! 


ワタシの仕事カバンの中から 職場でもらった饅頭やらお菓子をいち早く見つける。饅頭1個でも小型犬にしてはカロリーオーバー。ウーウー唸りながら逃げるロイからその饅頭を奪い返すことは至難の業である。

血だらけになるのを覚悟しなければならない。

ある日、ホームセンターで救世主を見つけた!


マジックハンドである。


どんなに噛まれても痛くない!

少し離れた所からでも応戦できる!

ロイの方も噛み方に遠慮が無くなってきた。

マジックハンドの先端は噛まれて少しバリが目立つ。

だが、救世主は強かった!

取られた饅頭をロイに完食されるまでに奪還できる。

ロイからすれば憎っくき相手だろう。

どんなに吠えようが噛もうが、カチカチと自分の美味しいものを奪いに来るのだから。

マジックハンドを出すときは、怖い(ヤツ)が来るよーと言って登場させていたので、饅頭を横取りしていない時でも怖いが来るよーと言えば臨戦態勢になるロイになってしまった。


この頃のワタシとロイにはお気に入りの遊びがあった。

追いかけっこかくれんぼだ!

もちろん鬼はロイ。ロイにまだよ〜、まだよ〜と言いながら距離を取り いいよ〜と声を掛けるとロイが追いかけてくる。リビング、廊下、キッチンをぐるぐる回り、追いつかれそうになる前にソファの後ろや和室、廊下とキッチンの間のドア裏などに隠れる。

和室とソファ裏はすぐに見つかったが、キッチンのドア裏は何度隠れても見つからない。必ずそこはスルーしてしまうロイ。キャ~と言いながらドタドタと走り回るワタシと ハッハッと息切らしながらフローリングの上をカシャカシャと爪を立てながら走り回るロイ。

楽しかったなぁ〜 今は寝たきりになってしまったけど、あんなに走り回れたんだもの。家の中をあんなに人間と犬が走り回るなど 戸建てだったからこそできた遊びだ。だがフローリングはロイの足腰に負担であった事など考えもしなかった…またもイタイ飼い主である。


変わりない毎日を過ごしていた我が家にも大きく変化が訪れてきた。

息子たちの旅立ちである。

長男は大学院卒業まで自宅で過ごし、二男は一浪して大学入学するまでを過ごした。

息子たちもそれぞれ就職や進学で家を出た。

家にはワタシと真夜中に帰宅して朝7時前に出ていくダンナしか居ない。ロイとダンナが触れ合うのは週末しかなかった。


ある日、仕事中のワタシにご近所さんから着信があった。すぐには出られず、仕事終わりに折り返すと留守を守っているロイがずっと吠え続けているというのだ。

ご近所さんは空き巣とかの心配をされていたので慌てて帰宅する。その頃にはロイも吠えてはいなかった。

鍵を開けて家の中へ入る。ロイがにっこり笑顔で出迎えてくれる。

良かった!ロイは無事!! 

貴重品は?

部屋は荒らされてない?

窓、割れてる?


いや、全て大丈夫だ。。

ロイは何に吠えていたんだろう?

誰かが来てインターホンを鳴らしたからか?

何か大きな、ロイにとって嫌な音がしたのか?

連絡をくれたご近所さんの話では、ロイは30分以上吠えていたらしい。吠えすぎだ…。そんなに長時間吠えてたなんて、一体何があったのか、分からずじまいだった。

次の日も仕事から帰宅するとロイが吠えている。

だが、家に入ると おかえり!と笑顔で迎えてくれるロイしか居ない。

その次の日は、吠えていなかった。

吠えない日が続いたかと思うと、あら、また大声で吠えてるといった具合で 不思議には思ったが大して大きくは考えなかった。


それから1年後、我が家の引っ越しが決まった。

同時にダンナは九州に単身赴任。一軒家の片付けを私一人でやらなければならなかった。仕事から戻って夕飯もほとんど食べずに荷造り…もちろんロイの相手をしている時間さえ取れなかった。息子たちは既に居なく、週末は相手してくれたダンナも居なくなり、昼前から夜まで留守番させられ やっと帰ってきたかと思ったらダンボール箱に荷物を詰めるママ…。ロイはどんなに寂しかっただろう…。不安だっただろう…。


新居は都会の賃貸マンション。もちろんペットOKだ。

両隣りのお宅にもそれぞれロイより年下のワンコがいた。片方のワンコは朝方からキャンキャンとよく吠える。カラスにほえているそうだ。もう片方のワンコは、夜遅くご主人の帰宅にあわせて大騒ぎする。


引っ越し後は、ダンナはまだ単身赴任中だったため、新居ではロイとの2人暮らし。失業保険を受給していたので今まで留守番ばかりさせていたロイとのんびり過ごした。本当なら老後に備えてすぐにでもパートに出なければいけないくらいなのだが。ロイがこの部屋に慣れるくらいまでは一緒に居てやろうと思った。

引っ越して8ヶ月を過ぎた頃、週3日×4時間のパートを始めた。この位の時間から慣らして それからフルの仕事を探すつもりだった。

朝からずっと一緒にいたのに慣れてしまったのか、パートに出掛ける前になるとロイもソワソワする。後ろ髪を引かれる思いで出掛けた。

以前に比べれば時間も短いし、毎日ではないのでその内慣れるはずだと思っていた。

パートを始めて4ヶ月後、正社員の話があり正社員となった。当然、勤務時間は増える、が収入も増えるし、なにせこの年齢で正社員として登用してもらえるのは有り難い話だったので飛びついてしまった。

正社員になって1ヶ月を過ぎたころ、ロイの散歩をしている最中、上階の住人とばったり会った。

その住人はワタシを見るなり、昨日その子すごく鳴いてたんだけど…と言った。

え? ロイが? 日中?

話によると 昨日午前中からワンワンとずっと鳴き続けていたそうだ。2時間鳴いて途中で水飲み休憩が入ったかのように数分止まり、また鳴き続ける。

社員として働いているので長時間留守番になっている事を伝えると、その子12歳だと聞いてたけど、元気よね〜、と吐き捨てるように言った。元気で何が悪い!

確かにずっと吠えられたのはたまらないだろうが、その言い草はなんだ!

そう言ってやりたかったが、悪いのはこちらの方だし、しかもすぐに改善できる方法はない。。。

引っ越し前にもあったよな。

分離不安症なのかもしれない…

そうだとしても明日も仕事がある。ロイは吠える。慌てて無駄吠え防止のグッズを購入するが、うまくはいかない。

上階の住人は、直接ワタシに苦情が言えて少しは気が収まったのか、すぐに治るはずかないと分かってくれているのか、2週間ほど何も言っては来なかった。

その間、色んなグッズを試してはみた。

どのくらい吠えているのかボイスレコーダーに録音すると、やはりずっと吠えている。

静かに見守ってくれていると思っていた上階の住人は、しびれを切らして大家さんにまで苦情を申し立てていた。やばい!退去させられてしまう…。


藁をもすがる思いで、12万もする防音犬小屋を購入した。

確かに90デシベルあった声量が小屋の中で吠えても60デシベルほどになった。が、どうにも虐待しているようにしか思えなかった。

ずいぶん前から、ケージを取り外し 部屋じゅうを自由に行ったり来たりさせていたのに、いきなりケージサイズの犬小屋の中に 9時間も…。

しかもロスナイという空気循環器がついているのだか、何かの拍子に止まってしまう事はないか、そうなれば窒息死させてしまう事になる。

ロイは吠えに吠え、腹圧をかけすぎて脱腸まで起こしてしまった。

12年も一緒に暮らしてきた家族に対してこんな対応でいいのか、悩んだ。

そして決めた。


ワタシは正社員の仕事を退職した。

小型犬の寿命は14〜15年といわれていたのであと2〜3年、しかもロイは僧帽弁閉鎖不全症を患っていたのでその寿命まで持つかどうか、それなら責任持って、その時まで彼を見なければ、と思ったのだ。


ロイにとって、またワタシとのラブラブ生活に戻った事が功を制したのか、18歳の誕生日をあと2か月に控えた今もワタシの隣りで寝ている。

以前より家計を圧迫している薬代、オムツ代、ご飯代を気にしながらロイとの残された時間をしっかり過ごそうと思う。

認知症なのかロイは昼夜逆転し、夜泣きもし、朝までぐっすり眠らせてくれる事はない。ついつい、もういい加減に寝てよ〜と怒鳴ることもある。

呼吸しているか何度も確かめる事もある。

ロイが居なくなった時、自由に出掛けられる生活を考える事もある。


ただ、ロイを失った時に後悔しないように今を一緒に生きよう。 かけがえのない家族であり、息子であり、親友であり、恋人であり、相棒の ロイと生きた時間を誇れるように。


一匹のペットが、息子やダンナより自分に寄り添ってくれるかけがえのない対象であった。忙しない毎日を愛犬に癒やされ、またその愛犬の最期を看取るための生活を選んだ主婦。愛犬と共に生きた年月を誇れるように 今日も何気ない日々を過ごしている。

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