迷宮を攻略しました→武器を購入しようと思います
皆さんおはようございます
昨日は久しぶりに晴れたと思ったら、突然の猛暑日となりました
電車で遠出していたのですが、下車後の暑さは地獄でした
さて、世間話は程々にして
『第5話』お楽しみください
「はぁ…まさか、バットが折れるとは…」
珱霞の使っていたバットであったが、帰ってきた後バットを洗っていたらバットにひびが入っていることに気付いたのだ。
そもそもバットは戦闘用に作られているわけでは無いので、バットで戦っていること自体がおかしかったのだが、一世代くらい前のヤンキーも喧嘩に使っていたのだ。
現代でも、初心者ではバットを使っている人も多い。雑魚を相手にするのに、わざわざ高い武器を使用する必要はないからだ。
「まさか、2日使っただけで折れるとはな‥‥」
バットは昔から家にあったものだが、ずっと使われていなかった。なので、珱霞が有効活用したのだが、2日で折れてしまった。正確にはひびが入っただけだが、いつ折れるかも分からない武器を使い続けることは出来ないので、買い替える必要がある。
「Eランクに潜ることだし、新しい武器買おうかな…」
珱霞の所持金は現在約4万。買える物など高が知れているが、今のバットよりは安心して使える。
お金が入るまでのつなぎとして、安物を買ってもいい。とは言え、命を預けるものなので、下手なものは買えないのだが‥‥
「まあ、明日見て考えればいいか」
武器や防具を打っている店は花城グループと言う会社がやっている。他にもやっているところは沢山あるが、最も有名な所はここだろう。
オークションでは迷宮産の武器が売られていることもある。まあ、最低でも100万は超えるので今は手を出すことは無いだろう。
「とすると、明日は迷宮には潜れそうもないか…まあ、一日くらい休んでも実力が下がる訳でもないしいいかな」
ステータスは下がることがある。ずっと運動していなければ体は動かなくなる。それはステータスが下がっているのと同じことで、それがステータスと言う結果として現れるだけだ。
とは言え、一日で下がるようなものでもない。半月以上サボっていればいざ知らず、一日休んだだけで能力が下がるのでは、世界中の人間全員に休みが無くなってしまうだろう。
「まあ、休暇も必要かな。昨日は押しつけにあって、今日はボス戦だったしな」
一日休暇を挟み武器を購入するころに決めた珱霞。
その後はいつも通り、夕食を食べお風呂に入り柔軟を終えた後、少し読書をして寝た。
翌朝、いつも通りの時間に起きた珱霞だったが、装備屋が始まるのが8時からだ。
いつも通りの時間に家を出ると、装備屋があるところ着いてもまだ7時半前になってしまう。
とは言え、家にいてもやることは無いので、途中のコンビニに入り時間を潰すことにした。
年中金欠であった夜冥家ではコンビニに入ることなどまずなかった。スーパーの特売の時間に買い物に珱霞が向かい、主婦たちに混ざって取り合いをやっていた。
コンビニに入るのは殆ど初めてのようなものだったので少し緊張したが、店員くらいしかいなかったこともあり緊張は和らいだ。
(これは…うん。漫画でも買って、早く出るとしよう)
珱霞は適当に①と書かれている漫画を手に取り、レジへ持っていった。
「お支払いはいかがなさいますか」
「探索者カードで」
「では税込みで515円となります。こちらにカードをタッチしてください」
珱霞はさされたところにカードを置いたが、何も反応しない。首をひねっていると、店員さんが教えてくれた。
「バーコードが付いていますよね。そこを当ててください」
「す、すいません。ありがとうございます」
珱霞は少し恥ずかしかったが、バーコードを当て買い物を終えた。
「ふぅ。探索者カードを使ったのは初めてだったが、ああやって使うのか」
珱霞は近くの公園のベンチに座り漫画を開いた。
最近ではごくありふれた、裏切られた探索者が見返すために強くなっていくという物語だったが、漫画を読むこと自体がなかった珱霞は目を爛々と輝かせてみていた。
読み終わる頃には8時はとうの昔に過ぎていて、9時手前となっていた。
「漫画は久しぶりに読んだけど、こんなに面白かったのか」
珱霞の言っている漫画は絵本のことで、小さいころに読み聞かせて貰ったものを言っている。
「もう開いている時間だし、装備屋に向かうかな」
珱霞は再び自転車に跨ると、装備屋に向かって走った。
装備屋に入ると、中には無数に防具や武器が存在していた。
ホームセンターのような形で置かれていて、簡単に手に取れるようになっている。
「いらっしゃいませ、お客様。本日はどのようなものをお探しでしょうか?」
「あ、初心者用の武器を探しているのですが。予算は3万程度でお願いします。武器の種類は何でもいいです。いくつか試してみたいので、見繕ってもらえますか」
「承知しました。では、こちらへどうぞ。まずは片手剣からお見せします。私は灰來時雨です。お好きにお呼びください」
「では灰來さんと呼ばせていただきます」
「では、こちらに」
灰來さんについていき、いくつかの武器を見て回った。
予算内で買えて、持ってみて手になじむと感じたのは、片手剣と短剣だ。槍なども悪くはないと思うが、一人で戦うには使いづらそうに感じた。
「片手剣と短剣を買う事にします」
「先程選んでいた二本ですね。今持ってきます。レジにて少々お待ちください」
一足先にレジへと向かい、数分ほど待っていると灰來さんが選んだ二つの剣を持って戻ってきた。
「では、片手剣が19,800円。短剣が12,500円です。税込みで33,269円になります。カードでのお支払いでよろしいでしょうか」
「はい」
「では、こちらへ」
今度は間違えずに使うことができた。
「では、こちらが商品となります。必要でしたら郵送しますが、いかがなさいますか」
「いいえ、収納のスキルを持っているので大丈夫です」
「そうでしたか。優秀な探索者になりそうですね。今後とも、花城グループのハーミッドを御贔屓にお願いします」
珱霞は灰來さんに見送られながらお店を出た。
「ここ、ハーミッドって名前だったのか‥‥」
珱霞はお店の名前を覚え、今日のこの後の予定を考えていた。
「今日の予定は終わったけど、何するかな‥‥取り敢えずお昼も近いし、ファミレスにでも行ってみようかな。あそこは安いって噂だし、今の所持金でもなんとかなるかな」
珱霞の今の所持金は9,000円と少ししかない。
武器に使い過ぎた感も否めないが、片方しか無くて探索の途中に折れてしまったら元も子もない。一本くらいは予備を持っていてもいいだろう。勿論ゴブリンナイフは除いてだが。
珱霞はファミレスで昼食を食べた後、近くの公園で散歩をしていた。
その時だった。珱霞のスマホがなったのは
「何だ?電話じゃないよな」
珱霞のスマホに電話をかけてくる人などいない。もっと言えば、平日の真昼間にかけてくる人間など皆無だろう。
そして、今なっている音は電話の着信音ではない。
「勝手にボーダーが開いている?何だ」
ゲームアプリなど入っていない珱霞のスマホ(ネットがつながっていないので入れられなかった)。
そのスマホの電源を入れると、勝手に【ボーダー】が開いていた。ボーダーは探索者協会が作ったアプリで、探索者のみ使用できるアプリだ。
「えっと‥‥旧加島スタジアムにて氾濫発生?何だ、これ」
旧鹿島スタジアムは元々鹿島にあったサッカースタジアムだが、スタジアムの内部に迷宮が出来たことでスタジアムとして使用できなくなってしまった。
現在ではDランク迷宮として、かなりの人数が出入りしているという。通称鹿島迷宮で、最も弱い敵でもFランクのボスのレベルはあるという。正直言って、今の珱霞では一階層が手一杯だろう。そうならないためにEランク迷宮に潜るのだが、今回はそうも言っていられないようだ。
「現在集合可能な探索者は協会に集まる様に、か」
氾濫がおこったとき、一定範囲内にGPSの反応の在る探索者に対して送られてくるこのメッセージだが、勿論珱霞はそんなことは知らない。そもそも、氾濫が何か分かっていないだろう。
氾濫とは魔物が迷宮の外に出てきてしまう現象だ。原因は今のところ不明だと言われている。
「取り敢えず行ってみれば分かるか」
珱霞は自転車に跨り、協会へ向かって漕ぎ始めた。
元々いた場所が北浦の近くだったこともあり、10分とかからずに協会へ到着することができた。
協会へ入ると、まだ人数は集まっていない様子だった。
(取り敢えず武神門さんに、氾濫について訊いておくとするか。もしかすると、武神門さんの伝え忘れかも知れないし)
珱霞さんは武神門の所へと向かい、話かけた。武神門も少し忙しそうにしていたが、声をかけるとすぐに気づいた。
「武神門さん。今大丈夫ですか」
「え?あ、夜冥さんでしたか。はい、どうかしましたか」
「氾濫について聞きたくて。氾濫って何なんですか?」
「あれ…伝えませんでしたか?」
「いいえ。何も伝えられていませんよ」
「それはすいませんでした!今から説明…している時間もありませんね。もう少ししたら支部長が来られるので、その話を訊いてください。それで少しは分かるはずです」
「そうですか。分かりました。では、仕事の邪魔をしてすみませんでした。頑張ってくださいね」
「はい。こちらこそすいませんでした」
珱霞は武神門と別れた後、協会の一角にある休憩スペースに座った。
「ごめん。ここ、大丈夫?」
「ん?ああ、大丈夫だよ」
「ありがとう‥‥‥‥私は皇伽耶。あなたは」
「え…ああ、僕は夜冥珱霞だ。よろしく」
「ん。よろしく」
珱霞の前に座ったのは身長140cm後半くらいの少女だ。とは言え、小学生や中学生では探索者にはなれないので、15歳以上なのは確かだが、どう見ても年齢詐称をしている様にしか見えない。まあ、実年齢を知っているわけでは無いのだが、それはそれだ。
「‥‥」
「‥‥」
名前だけ名乗った後、二人の間に気まずい雰囲気が流れ出した。
珱霞はそれに耐えきれなくなり、声をかけることにした。
「皇さんでいい?皇さんは氾濫が何かわかる?」
「ん。当然。珱霞は知らないの?」
「(いきなり名前呼びか。間を詰めるのが早い子だな)ああ。受付の人が伝え忘れていたみたいだ」
「じゃあ、教えてあげる。氾濫は別名スタンピードと呼ばれる。迷宮から魔物が出てくることを指す。魔物のレベルは出てくる迷宮と変わらない。今回はDランク相当の魔物が出てくる」
「じゃあ、こんなのんびりしている時間があるのか?」
「スタンピードが発覚してから、実際に出てくるまでには多少時間がかかる。大体1時間から2時間くらい。その間は魔物が迷宮の入り口で出てこようと足掻いているように見えるらしい」
うわ。それがゴブリンばかりでる迷宮で起こったら最悪だな。あの顔が大量に出てこようとするのか。
「その間は外から攻撃を一方的にできる。でも、やりすぎると魔物に魔石を与える事になって強くなり過ぎちゃうから、やめた方が良い」
魔物は魔石を食らうと強くなるのか。初めて訊いたな。
「それで、スタンピードは魔物が出てきてからが本番。自衛隊が、魔物が出ていかないように周辺地域を守るから、その間に魔物を倒すのが探索者の仕事。飛行系の魔物が出てくると厄介」
「ああ、飛行系が出ると飛んで行かれるからか。迷宮だと高さに制限があるものな」
「そう。そう言えば、珱霞はレベルいくつ?」
「僕のレベルは7だよ」
「7?じゃあ、何で来たの?」
「集まるように書いてあったから」
「ああ、そうだった‥‥じゃあ、今回は私とパーティを組む」
「それは助かるが‥‥いいのか?」
珱霞は助かるが、皇にとってはお荷物を自分から背負うようなものだ。正直迷惑ではないのだろうか。
「私はAランクの探索者。Dランク一人くらい守り切れる」
「そうか。ならよろしく頼む」
「使う武器は?」
「片手剣と短剣、時折投げナイフようにゴブリンナイフ。あとは水魔法」
「レベルが低い割には随分と多芸。何時探索者になったの?」
「三日前だけど」
「!?‥‥無茶した?」
「いや、押しつけにあっただけだよ。運が良かったというか悪かったというか‥‥まあ、そのおかげで新しい武器も買えたし」
押しつけの二人がいなければ、短剣は買うことができなかった。もしかすると、短剣を買うために片手剣のグレードをもう1段階下げることになっていたかもしれない。
そう考えると、あの2人に出会ったのは幸運だったとも取れる、気がする。
「絶対に悪かった。まあ、無事だったならいい。北浦はどこまで攻略したの?」
「昨日ボスまで倒したよ。武器は昨日のボス戦でバットがいかれそうだったから、新しいの買う事にして、今朝買って来た」
「‥‥まあ、いい。私の戦い方は、魔法主体。使うのは風と火。出来るだけ当てないようにするけど、射線にかぶさらないように気を付けて」
「分かった。じゃあ、今日はよろしくな」
「ん。こちらこそ。支部長が来た」
珱霞は後ろに振り向き、受付の方を見た。
そこにいたのは40代くらいのおじさんで、渋めのイケメンと言った感じだ。
「私が支部長の斑鳩紫門だ。今日は鹿島迷宮の氾濫対応に集まってくれて感謝する。今回のスタンピードは中型で。15階層までの魔物が確認されている。普段からDランク迷宮に潜っている諸君も、それより上のランクに潜っている諸君も、気を抜かず戦ってほしい。今回は、自衛隊の到着が遅れているため、探索者協会のみでの対応となる。迷宮での氾濫が確認されてから、今で大体50分ほどが過ぎた。猶予はそこまでないだろう。今から急いで鹿島迷宮に向かってほしい。では、それぞれ、鹿島まで向かってくれ。健闘を祈る」
支部長の挨拶が終わり、探索者たちは散っていった。それぞれの方法で鹿島まで向かうのだろう。
「僕は自転車ですけど、皇さんはどうやって鹿島まで行くんですか?」
「‥‥やばい。原付、給油するの忘れてた。鹿島まで持たない」
「……ええ!?」
どうやら、出鼻をくじかれてしまった様だ。
最後までお読みいただき有難うございました
作品をもっと読みたい、続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークならびに評価の方よろしくお願いします




