9.のどかな村と謎の老婆
秋風に当たって人型の案山子が揺れている。
畑では収穫の時期であるのか、老若男女問わず籠を持って忙しそうに
動き回る村民達の顔は活気に溢れていた。
ふざけ合いながら走る子供達がつまづいてこけると、手に持っていた籠を落とし、辺りに中身が散らばる。
足元に転がるそれらを拾うのを手伝い、頭を下げながらこちらに籠を差し出す少年達に渡してやると、彼らは快活な笑顔をこちらに向けた。
「ありがとうございます」
年長の少年が礼を言って受け取る。籠には農作物が山と積まれていた。
「……これは何ていう野菜なんだ?」
持ち上げた紡錘形のその野菜。
先が捩じれた形で、色は青紫と食欲を余り誘わない姿をしている。
「これは、青槍人参っていうんだよ」
「ここでは良くとれるんですよ。煮物やサラダにして食べる人が多いんです」
年少の少年が、得意そうに歯を見せて笑い、それを補足する形で、年長の少年はそう教えてくれた。
二人は兄弟なのか、とても仲が良さそうだ。
「加熱すると甘くなって美味しいんですよ。体にも良いとか」
(あれを喰うのか……)
とても食用には見えない配色の異様な農作物を、当たり前の様に食材として受け入れている兄弟とロナの言葉に食文化の壁を感じながら、拾い集めたそれを籠の上に置いて行った。
「平和そうな村だな。見張りの数もあまり見当たらないし」
「ええ、この辺りではあまり魔物も出ませんから。あなたは冒険者ですか?」
「ああ、配達の依頼があってな」
少年達と連れ立って畔道を歩いて行く。
「なるほど……村の人は全員顔見知りみたいなものですから、名前を聞かせてもらえれば場所をお教えしますよ」
「本当か?サウル・ドミナって人当てなんだが」
「ああ、良く知ってますよ。これを置いたらすぐにご案内しましょう」
「そうか、それは助かる」
彼を手伝って作物の蔵に野菜を持って行く。
蔵の前には歩哨が立っている。
「少し待っていてください」
挨拶をして蔵の中に少年たちが野菜を収めに入って行った後、丁度荷馬車が出ていくのを見かけたので、ロナと共に行き先を歩哨に聞いてみた。
「すみません、あの荷馬車は遠くまで行くんですか?」
「フェロンを経て南のオリガウラムまでは行きますが、せいぜいその辺りまでですね……その辺りで品を下ろしたら、色々仕入れてまた帰って来ますよ」
オリガウラムと言うのは確かフェロンより馬車で南に三日程行った所にある街だったはずだ。
「ロナが来たのはもっと南だったな?」
「ええ、もっともっと南ですよ。オリガウラムは通りましたけど……質のいい鉄が近くで取れるからか、鍛冶が盛んで熱気のある街でした」
「そうなんです、鍋やらクワやらの鉄製品の質はとても良い。皆好んで使っています」
話している内に手ぶらの少年達が戻って来たので、気のいい歩哨に手を振り別れを告げた。
「お待たせしました、では案内しますね」
「ああ、よろしく頼む」
少年は、軽い足取りで村の中心地に向かう。
木造の民家が立ち並ぶその通りを、出会った村民に挨拶しながらそのまま足を止めずに過ぎ去っていく。
どうやら、目当ての場所は、この辺りではないようだ。
しばらく歩き続け、周りの木々がいよいよ濃くなり始めたのを見て、不安になり始めたその時だった。
「あれだよ!」
元気良く年少の方の少年が指さした方向には、木々の間がくりぬかれたように広がる空間と一軒の小屋があった。
円形のそれは、尖った屋根の頂点から緑色の煙を吐き出しており何となく近寄りがたい雰囲気をしている。
「ここ……なんですか?」
警戒したように身を引くロナ。
それも無理は無い。
軒先には何やら怪しい植物やら動物の干物やらが回転木馬のように吊り下げられており、傍に寄ることも躊躇われる。
年長の少年は困ったように頭を掻きながら説明してくれた。
「ええ、ちょっと偏屈と言うか、怪しいというかそんな感じの人ですが、
別に悪い人では無いと思いますよ。村の人に薬とか作ってくれたりしますし」
「そうか、案内助かったよ。わざわざ済まなかった」
駄賃程度の礼金を手渡し、手を振って彼らと別れると、ロナは興味をひかれたのか、軒に吊り下げられた色々なものを間近から観察し始めた。
「どうした、ロナ」
「随分と珍しいものまでありますね、グニスオオトカゲの燻製なんて、この国ではなかなか手に入らないのに……」
ロナがそろりと手を伸ばそうとすると、出し抜けに扉が開いて中から一人の老婆が姿を見せた。
「それに触るんじゃないよ!」
「は、はいぃっ!? すみませぇん」
ロナは驚いたようにと身をすくめると、こちらの背に隠れる。
一喝した老婆は節くれだった指で持ち上げた杖をこちらに向けながら誰何した。
「あんたら、何の用かね」
鋭い目でこちらを見ながら尋ねる老婆に、手を上げて敵意の無いことを示しながら答える。
「冒険者ギルドの使いで来た者です、あなたがサウル・ドミナさんで間違いありませんか」
背中に背負った壺を指し示すと、老婆はしばらくして杖を下ろした。
「……入りな。妙な真似はするんじゃないよ」
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