やわらか悪魔の心は1つ、死にたくない。
マルちゃん回
マルちゃんと呼ばれる事に魔王マルコキアスは特に抵抗もなく受け入れた。
話に聞いていた勇者パーティーの悪辣プリースト、トゲトゲモヒカンの悪魔に対する容赦のなさは噂以上なので、当然である。
言葉の端々に悪魔の人権の無さが滲み出ているのだ、この世界の聖職者はちょーっと悪魔に厳しすぎる。
ただ、対面した当初から想像していた程の覇気が感じられず、それが余計に恐ろしく感じられた。
恐怖伝説の当事者が自分でも倒せそうな様子で、そのまま噂通りの態度なのだ。罠としか思えないだろう。
魔王達を統べる大魔王でさえ、為す術もなくボコられ恐怖を植え付けられたのは記憶に新しいし、例の魔王召喚フェスティバルでは多く(71)の魔王達がトラウマを植え付けられ、マルコキアスはかつて自分よりも強者だった魔王達が震えながら、あるいは自棄酒をかっくらいながら語るのを大体正座で聞かされた。
あの事件の前までは悪魔達の世界では、殺されても再生するので死はただの敗北であった。
まぁ弱者だったと謗られるのは仕方ないとしてそこまで大きな負担ではなかったが。
だがしかし、勇者パーティー達が最終決戦で戦っていた高次元神とのバトルは文字通り次元が違った。
分類的に精神生命体である悪魔族が魂ごと消滅される威力の魔法が飛び交い、物理攻撃の筈なのに、威力がでかすぎてほぼ範囲攻撃が霊子レベルで粉砕しにくる。
そして邪神竜の破滅の光イレーザーブレス……完全消滅待ったなしである。
名のある魔王たちが一瞬で絶望を体感できる地獄がそこにはあった。
ましてや重要器官にダメージが蓄積し(要するに急所攻撃)して死んでから再生するのと違い、持ってた存在力の全てを抹消されてから復活するのには多大な力が必要になる。
用心深く、再生用の素体を用意していた心得のある者はともかく、ほとんどの魔王はなんの用意もなく再生を余儀なくされた。
序列の低い者など未だ再生を果たすこともできないがそれもいつか復活の時を迎えるだろう。
今魔界は空前のベビーラッシュ()の為に、誰もがエネルギーを欲し魔界の大気から悪魔の栄養たる負のエネルギー、つまり瘴気が枯渇していた。
「………濃い、な………」
マルコキアスは目の前にある、人間界で長年かけて凝縮され集積された瘴気だまりに宝の山を見た。
ナイのような、チンケな小悪魔がやたらと力を持っていたのはここの溢れた瘴気を浴びていたせいだと合点がいった。
この魔方陣………召喚陣を方向転換させ瘴気を魔界に転移出来たら、トラウマ持ちの魔王達のやっかみを減らせるかもしれない!
我ながら名案!とウキウキ献策しかけて、突然チンピラーノがコートを脱いで半裸になった瞬間全てが瓦解した。
「「ひっ」」
冷たい殺意の塊に押し潰された。
そんな感覚だった。
全身にのし掛かる酷い重圧と精神的な圧迫。
自分が魔王なのも忘れ、木っ端悪魔と同じように喉から悲鳴じみた息が漏れ、必死に押し殺す。
しかも重圧は、チンピラーノが一呼吸する度に倍加していった。
自分が潰れないのが不思議な程の重圧に首を捻る………だがそれ以上に隣の手のひらサイズになった木っ端悪魔が形を保ってるのがもっとおかしい。
マルコキアスは混乱した。
そして気がつく。
名付けだ。
チンピラーノに名前をつけられたから、僅かに加護がついたおかげで辛うじて存在していられるのだ。
マルコキアスも『マルちゃん』と名をもらったからこその気づきだった。
ただし、完全にあの聖なるオーラを無効化出来てる訳ではないところがチンピラーノクオリティー(悪魔に厳しい)。
むしろ、生かさず殺さずの拷問に近い。
あのコートで聖オーラ隠蔽していたのか、あの時調子に乗らなくて本当に良かった!と、散々愚痴を聞かされ辟易していた己を反省し、教訓を与えてくれた先人達に心から感謝をしたマルコキアスであった。
無駄で無意味な魔方陣でも貯まった瘴気を浪費させ、無かったことにしようと、あーでもないこーでもないと頭を捻っているチンピラーノにもはや私利私欲に満ちた提案をする勇気はもう無かった。
チンピラーノさん、タイミング悪かったね………




